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『前䞖に戻っお埳を積む』SF小説 第䞀話 前提を、倉える 

    あらすじ

    珟䞖で就職掻動に倱敗し続ける男が、ある倜、路地裏で「前䞖、リトラむしたせんか」ずいう看板に出䌚う。案内人から枡されたのは、埳の量を枬る奇倩烈な代物「埳々メヌタヌ」。前䞖の埳は二十——人間の䞭でも䞋の方。最䜎癟埳積めば珟䞖が倚少良くなるず聞かされ、圌は江戞の薬皮問屋「䌊勢屋」の奉公人・枅吉ずしお転生する。

    ずころが善行を重ねおも数字は䌞びない。䞀方、同じ屋敷の䞋女・結は、トラブルに巻き蟌たれおばかりの厄介者なのに、メヌタヌを向けるず四千を超える埳を叩き出しおいた。なぜ自分には積めず、結には積たれおいるのか。

    埳ずは䜕か。前䞖で䜕が足りなかったのか。埳ポむントを皌ぐためだけに動いおきた男が、芋返りを求めない䞀人の女を通しお、少しず぀気づいおいく。

    第䞀話 前提を、倉える

    よく人生が䞊手くいっおいる人を前䞖でどんだけ埳を積んだんだずいう話がある。 それでいうず、僕の前䞖はよっぜど酷いこずをしおいたんだず思う。

    䞭途採甚の面接で䞉次たで進んだのは久しぶりで、今回はさすがに通るんじゃないかず、期埅しおいた。これは根拠もなく期埅しおいたわけではない。これたで萜ち続けおきた分、準備はかなり詰めたし、想定問答も朰しおきたし、実際の受け答えも自分の䞭では厩れおいかった。少なくずも、「やれるこずはやった」ず蚀える皋床には。

    それでも結果は、い぀もず同じ文面のメヌル䞀通で終わった。 『厳正なる遞考の結果、誠に残念ではございたすが、今回はご垌望に沿いかねる結果ずなりたした。』 もうこのメヌルは芋飜きおいる。

    最初の頃は、萜ちる理由があるず思っおいた。 準備が足りない、経隓が足りない、受ける䌚瀟が合っおいない。そう蚀われるたびに修正しお、次は倖さないように調敎しおきた。履歎曞も䜕床も曞き盎したし、話し方も矯正したし、業界も倉えた。 それでも、党郚萜ちた。

    さらに、運もなかった。 䞉ヶ月前、倧手IT䌁業の最終面接のずきだ。僕は䞀時間前に最寄り駅に着き、カフェで最終チェックをしお、十五分前に圹員宀に通された。完璧だった。瀟長の質問にも、甚意しおいた以䞊の粟床で答えられた。手応えはあった。 颚向きが倉わったのは、面接の終了間際、瀟長が「最埌に䜕か質問は」ず口を開いた瞬間だった。

    ガシャヌン、ず倧きな音がしお、圹員宀の窓ガラスが割れた。 迷い蟌んできたのは、䞀矜の巚倧なカラスだった。パニックになったカラスは宀内を激しく飛び回り、瀟長の顔をかすめ、デスクの䞊の重芁曞類を撒き散らした。 面接官たちが悲鳎を䞊げおうろたえる䞭、僕は盎感した。 ——チャンスだ。 ここで僕がカラスを鮮やかに捕たえお倖ぞ逃がせば、瀟長ぞの絶倧なアピヌルになる。ピンチをチャンスに倉える有胜な人材ずしお、䞀発で合栌が決たるはずだ。 僕はずっさに立ち䞊がり、自分の高玚なゞャケットを躊躇なく脱いでカラスに被せ、窓の倖ぞ抌し出した。瀟長も面接官も無傷だった。 「君、ありがずう。助かったよ」 瀟長は確かにそう蚀っお、僕の肩を叩いた。僕の頭の䞭では、勝利のファンファヌレが鳎っおいた。

    翌日届いたのは、い぀もず同じ䞍採甚通知だった。 理由の欄には『面接䞭の挙動に、やや萜ち着きを欠く郚分が芋受けられたした』ずあった。 意味がわからなかった。萜ち着きを欠いおいたのはカラスのほうだ。僕は被害を最小限に抑え、䌚瀟のために動いおやったはずだ。なのに、萜ずされた。

    先月もそうだった。 䞭堅メヌカヌの二次面接に向かう満員電車の䞭、僕の前の垭に座っおいた男がいきなり青い顔をしお口元を抌さえた。嫌な予感がした。 ここで立ち䞊がっお垭を移動すれば、確実に呚囲から癜い目で芋られる。面接の前に悪目立ちしお、もし同じ車䞡に䌚瀟の人間でもいたら終わりだ。僕は「こっちに吐き出すなよ」ず冷酷に念じながら、自分の面接の成功だけを考えお、あえおその堎を動かなかった。

    その数秒埌、男が掟手に嘔吐した。 避ける空間はなかった。僕のスヌツの前面に、それがかかった。 次の駅で男は泣きながら去っおいき、僕は駅のトむレで必死にハンカチを濡らしお拭いたが、酞っぱい臭いは消えなかった。 受付に事情を話し、別日皋ぞの倉曎を願い出た。窓口の女性は同情的な目を向けたが、奥から出おきた人事担圓者は、僕のスヌツの汚れず臭いを䞀瞬だけ芋お、冷たく蚀った。 「本日の遞考は蟞退ずいうこずで凊理しおおきたすね。䜓調管理にはお気を぀けください」

    吐いたのは僕じゃない。僕は被害者だ。あの状況で静かに耐えた僕のどこに萜ち床があるずいうんだ。 でも、向こうから芋れば『面接の日に汚物たみれでやっおきた男』でしかないのだ。

    こういうこずが、䜕幎も続いおいた。 普通の人はこんな頻床で窓ガラスが割れないし、前の垭で人は吐かない。自分はたぶん、そういう理䞍尜なトラブルに巻き蟌たれる確率だけが、生たれ぀き䜕倍か高いのだず思う。 だからずいっお、それをどうするこずもできない。

    歩きながら、舌打ちが挏れた。 こんなの、どう考えおも自分のせいじゃない。僕は䌚瀟のためを思っおカラスを捕たえたし、電車のマナヌを守っお垭を立たなかった。それなのに結果がこれなのは、単に運がないからだ。運がないのは、自分の努力の範囲倖だ。

    ——前䞖で、よっぜど酷いこずをしおいたんだ。

    そう思うしかなかった。自分の珟䞖の行いが悪いわけではない。自分の前䞖が悪かった。だから今、どれだけやっおも報われない。 そう思うず、少しだけ気が楜になっお、同時に、どうしようもなく虚しくなった。

    気づけば、知らない道を歩いおいた。 駅から離れお、人通りが枛っお、店の灯りも途切れおいる。どこに向かっおいるのかもわからない。ただ、止たった瞬間に䜕かが完党に終わる気がしお、足だけが動いおいた。

    路地に入ったのは、ほずんど無意識だった。 狭くお暗くお、行き止たりにしか芋えない堎所で、ようやく足が止たる。ここたで来るず、さすがに少しだけ笑えた。遞んできた道が党郚倖れお、最埌に行き着くのがこんな堎所なのかず思うず、劙に玍埗感があった。

    その奥に、小さな明かりが芋えた。 近づいおみるず、それは叀びた看板で、呚囲の空気ずは劙に切り離されたみたいに、文字だけがやけにはっきりしおいる。

    「前䞖、リトラむしたせんか」

    普通なら無芖するはずだった。 こんなものに意味があるずは思えないし、関わる理由もない。 ただ—— ここたでの党郚が、珟䞖の䞭で起きおいる限り、どうにもならなかったのだずしたら。 原因がもっず手前にあるのだずしたら。

    「  前提を、倉えられるなら」 それしか、残っおいない気がした。

    看板の䞋に、小さな戞があった。 取っ手はなく、板の継ぎ目に指をかけお匕くず、思ったより軜く開いた。䞭は、倖から芋おいたよりも広かった。畳敷きの埅合宀のような空間に、䜎い机が䞀぀だけ眮かれおいる。その向こうに、男が䞀人座っおいた。 歳は芋圓が぀かなかった。若いようにも、䞭幎のようにも芋える。顔立ちは敎っおいるのに、どこか印象に残らない。そういう顔だった。

    「いらっしゃい」 男は埮笑んだ。

    こちらが䜕か蚀う前に、続けた。

    「よく芋぀けおくださいたしたね。最近、案内がうたくいかなくお困っおいたんですよ」

    䜕の話かわからなかった。

    「座っおください。すぐ枈みたす」

    勧められるたた、机の前に座った。 男は匕き出しから玙を䞀枚取り出した。契玄曞のような䜓裁だが、曞かれおいる文字は叀く、今颚の曞匏ではない。

    「簡単にご説明したすね。前䞖に䞀床、戻っおいただきたす。その間に、埳を積んでください。戻っおきたら、珟䞖に反映されたす」

    「反映ずは 」

    「運気が䞊向きたす。人生が楜になりたす。ざっくり蚀うず」

    ざっくりすぎる。 ただ、ざっくりしおいるからずいっお嘘だずは限らない。むしろ、詳しく説明されすぎる方が怪しい気もした。

    「戻る前䞖ずいうのは、遞べるんですか」

    「こちらで指定させおいただきたす。あなたの堎合は、えヌ、お、出たした。お、江戞の町ですね。日本橋の薬皮問屋で奉公しおいる若者の䜓に入っおいただきたす」

    「江戞」

    「ええ、江戞です。いい時代ですよ」

    男は、その時代に実際に行ったこずがあるような口ぶりで蚀った。

    「埳の積み方は、どうすれば」

    「人のために、いいこずをしおください。それだけです」

    「それだけ」

    「はい、それだけです」

    疑問はいく぀も浮かんだが、うたく蚀葉にならなかった。結局、自分が聞きたいのは、これをやれば本圓に人生が倉わるのか、ずいう䞀点だった。そしおそれは、この男に聞いおも答えが出る類の問いではなかった。

    「やりたす」

    男は頷いた。

    「ありがずうございたす。では——これを、お貞ししたすね」

    そう蚀っお、懐から䞀枚の黒い板を取り出した。 掌より少し倧きいくらいの、薄くお平たい板だった。衚面が぀る぀るしおいお、觊るず指王が぀く。角が䞞い。芋た瞬間、それが䜕かはわかった。

    スマヌトフォンだった。 ただし、芋たこずのない圢をしおいる。黒いだけで、メヌカヌのロゎもない。画面も぀いおいるのかいないのかわからない。

    「これは」

    「埳々メヌタヌずいいたす」
    男は真顔で蚀った。

    「ずくずくメヌタヌ」

    「はい。前䞖で埳を積むず、ここに数字が出たす。自分の埳が、今どれくらい貯たっおいるか、リアルタむムでわかるんです」

    詊しに觊っおみるず、画面がふっず光った。ポップな曞䜓で「埳々メヌタヌ」ず衚瀺され、䞋に数字が出る。

    0埳

    「今はれロですね。圓たり前ですけど」
    男は笑った。

    「他人にかざすず、その人の埳もわかりたす。どなたにも芋えたせん。あなただけの道具です」

    「  䟿利ですね」

    「でしょう励みになりたすから」

    励みになる、ずいう蚀葉に、少しだけ匕っかかった。埳を積むずいうのは、そもそも励みになるずかならないずかの話だったか。 ただ、その違和感は、すぐに流れおいった。画面の「0埳」ずいう数字が、これから増えおいくのだず思うず、悪くない気がした。増えおいけば、珟䞖が倉わるのだ。少なくずも、そういう契玄のはずだった。

    「ちなみにですが」
    男が、思い出したように蚀った。

    「ご自身の、前䞖の埳がいくらだったか知りたいですか」

    「はい」

    「二十埳です」 男は, さらりず蚀った。

    「二十」

    「ええ、二十です」

    数字の倧小がわからなかった。倚いのか少ないのかもわからない。

    「それは——」

    「䜎いですね。かなり」

    向こうから、はっきり蚀われた。

    「お䌝えしおおきたすず、埳がマむナスの方は人間に生たれるこずもできたせん。犯眪者ずか、たあ、そういった方々ですね。プラスであれば人間ずしお生たれおきたすが、あなたはその䞭でも、䞋の䞋の方です」

    䞋の䞋の方。 面接で萜ずされる床に突き぀けられおきた蚀葉の、もっず根本的なバヌゞョンを聞いた気がした。人間ずしおぎりぎり䞋の方。それが、自分の前䞖の評䟡だった。

    どうりで。 圹員宀にカラスが飛び蟌んでくるわけだ。前の垭で男が吐くわけだ。党郚、この二十ずいう数字のせいだった。自分のせいではなかったのだ。僕は䌚瀟のためを思っおカラスを捕たえおやったし、マナヌを守っおゲロの前に居座っおやった。それでも評䟡されないのは、前䞖の残高が足りないからだ。ほら芋ろ、ず思った。誰に察しおずも蚀えない「ほら芋ろ」だったが、確かに思った。

    「どれくらい積めば、珟䞖に反映されるんですか」

    「最䜎、癟埳は欲しいずころですね」

    「癟」

    「それで倚少、良くなる皋床です。もちろん、積めば積むほど良くなりたす」
    男は、少し楜しそうに蚀った。

    「䟋えばですけど、宝くじに圓たるような方ずいうのは、前䞖で五千埳くらいは皌いでらっしゃいたすね」

    「五千」

    「ええ、五千です」

    二十ず、五千。 桁が違いすぎお、比范にならなかった。今の自分の䜍眮から、人生が倚少良くなる䜍眮たでが癟。そしおその遥か䞊に、五千ずいう数字がある。

    「じゃあ、普通に幞せに生きおる人は」

    「さあ、どうでしょうねえ」
    男は、笑っおはぐらかした。

    「そこははっきりずはお答えできないんですよ。目安ずしお芚えおおいおいただければ」

    はっきりしないのは、そこだけではない気がした。ただ、䞋の方ずいう評䟡ず、最䜎癟埳ずいう目暙だけは、劙に具䜓的に頭に残った。

    「では、始めたしょうか」
    男は玙を閉じた。

    「え心の準備が」

    「いっおらっしゃヌい」

    芖界が、ゆっくり暗くなっおいく。眠くなるのずは違う、ただ茪郭が溶けおいくような感芚だった。畳も、机も、男の顔も、順番に芋えなくなっおいく。

    最埌に残ったのは、手の䞭の黒い板の重さだけだった。

    それも、やがお消えた。


     
     
    小説を曞く人向けに、 「ちゃんず読たれる䜜品」の䜜り方を発信しおいたす。 プロット蚭蚈肉付けAIの䜿い分けなど、 AIを䜿う際に“AIっぜい文章”から抜けるための実践的なノりハりを䞭心に発信。 小説を読たれる小説に

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