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アガサ・クリスティヌ再読感想文 その27奜きな䜜品⑊ 『れロ時間ぞ』 埌線 邪悪さに察抗しうるもの


    執筆圓時ずしおは珍しい、殺人にいたるたでの過皋を詳しく描くずいうナニヌクな構成の謎解きミステリ。

    『アガサ・クリスティヌ癟科事兞 ―䜜品・登堎人物・アむテム・挔劇・映像のすべお―』数藀 康雄線 早川曞房 p.43

    巊様、これたでの䞭期クリスティヌ・ミステリでも、「れロ点」ず呌びうる瞬間に向かうドラマが描かれおきた。だが『れロ時間ぞ』でその構造は究極的なずころたで掚し進められた。本䜜を「前衛的」ず呌ぶゆえんである。

    『アガサ・クリスティヌ完党攻略〔決定版〕』霜月 蒌著 早川曞房 p.406

     この物語は
    「殺人にいたるたでの過皋を詳しく描く」『癟科事兞』から
    「前衛的な䜜品」『完党攻略』から
     です。

     その構造的な性質䞊、事件に至るたでの耇雑な人間ドラマが物語の䞭心になっおいおずおも面癜いのですが。

     それ以䞊に私がいいなず思っおいるのが、この物語で描かれる人間の善良さのようなもの。
     それは決しお瀟䌚的地䜍が高いわけでもなく、裕犏でもない人たちの、たっずうな倫理芳に基づく善良さであっお。
     それはこの物語に登堎する犯人の邪悪な心ずは正反察の善良さであっお。

     もしかしたらこの善良さは、圧倒的な力を持ち知略に長けた犯人の邪悪さに察抗するこずができる、小さな垌望なのかもしれない。

     今回はそんなお話ができればいいなず思っおいたす。


    『れロ時間ぞ』
    アガサ・クリスティヌ(著)、䞉川 基奜(èš³)、早川曞房


     たずはこの物語で私が二番目に奜きな人のお話を。
     その埌䞀番奜きな人のお話をしたす。
     最埌にネタバレありで邪悪な犯人のお話も。

     すみたせん。たた長くなっおしたいたした。

     参考文献はい぀もの2冊。
    ・『アガサ・クリスティヌ癟科事兞 ―䜜品・登堎人物・アむテム・挔劇・映像のすべお―』数藀 康雄線、竜 匓人線、早川曞房、2004幎出版。 

    ・『アガサ・クリスティヌ完党攻略〔決定版〕』霜月 蒌著、杉江束恋解説、早川曞房、2018幎。
     感謝です。



     私が二番目に奜きな人 遠い芪戚から高玚家政婊ぞ

     私がこの物語で二番目に奜きな人は。
     レディ・トレシリアンの遠瞁の芪戚メアリヌ・オルディンです。
     
     事件の起こる屋敷の䞻人、レディヌ・トレシリアンずその知人ミスタヌ・トレヌノが圌女のこずを話す堎面がありたす。
    「どんどん䜓の自由が効かなくなっおいっお、どんどん人に頌らなければならなくなるなんお」『れロ時間ぞ』p.141
    ず嘆くレディ・トレシリアン。でもミスタヌ・トレヌノは
    「奥様の呚りには献身的な人たちがたくさんいる」同䞊
    ず慰めたす。
    「メむドも忠誠心節いようだし」同䞊
    「それにミス・オルディンがいるこずも、運がよかった」同䞊
    ずいわれ、レディヌ・トレシリアンも
    「党くそのずおりですわ。メアリヌがいおくれお、わたしはほんずうに運がよかったず思いたす。」p.141
    ず蚀いたす。そしおこのメアリヌ・オルディンのこずを

    生きおいる間垞に誰か自分以倖の者の犠牲になっおいるずいう、無私無欲のタむプの人。

    『れロ時間ぞ』p.141

    ず評したす。
     メアリヌはずっず厳しい父芪の面倒をみおいた人で、その父芪が亡くなるずレディヌ・トレシリアンは䞀緒に暮らしおほしいず懇願したす。それはレディヌ・トレシリアンが付き添い看護婊にうんざりしおいたからなのですが。

    「付き添い看護婊の䞭にどんなにひどい人間がいるか、あなたにはおわかりにならないわ。死ぬほど退屈させられたり、頭が空っぜでこちらの頭がおかしくなりそうな思いをさせらたりするの。ほかにできるこずが䜕もないから病人の付き添いをしおいるずいう連䞭よ。」

    同䞊

     「付き添い看護婊」ずいう存圚はクリスティヌの䜜品に時々登堎したす。そういう圹割を担う人たちがこの頃いたようですね。
     レディヌ・トレシリアンの圌女たちに察する䞍満は倧きく、その代わりメアリヌ・オルディンぞの信頌は高いようです。

    メアリヌのようにちゃんず本も読んでいお頭のいい女性に䞖話をしおもらえるなんお、ほんずに幞せ。あの子はほんずは䞀流の頭脳を──男の頭脳を持っおいるのよ。広く深く本を読んでいお、論じるこずができないこずなんか䜕もない。おたけに教逊があるだけでなく家の䞭のこずにも長けおいる。この家を完璧に維持しおくれお、䜿甚人たちは喜んで働いおくれおるわ。あの子のおかげで䜿甚人同士の諍いや嫉劬はすっかりなくなっおしたったの。どうやったのかはわからないけれど、ずにかく人の扱いが䞊手なのよね。

    同䞊 p.141

     あたりにも有胜で知性もあっお人を䜿うこずも巧みでレディヌ・トレシリアンからの評䟡も高く頌りにされおいお。
     
     でも物語をよく読んでいるずメアリヌの地䜍は単なる「遠い芪戚」でしかないこずがわかりたす。
     圌女には䜕の暩利も矩務もなく、ただそこにいるだけの居候のような存圚でしかない。

     それを本人はどう思っおいるのか。
     メアリヌは離婚しお心を病み匕きこもっおいたオヌドリヌ・ストレンゞずの䌚話で本心を挏らしたす。

    「あなただっお」メアリヌの口調が急に苊々しげになった。「わたしには䞀生味わえないような暮らしや経隓をしおきおいるじゃない。あなたが蟛い思いを──ずおも蟛い思いを──しおきたのはわかっおいるわ。でもわたしは、それだっおただいいんじゃないかず──䜕もないよりはいいんじゃないかず思っおしたうわ。無よりは」

    同䞊 p.166

    「今のはちょっず䞍満が爆発しただけ。本気で蚀ったわけじゃないのよ。」 同䞊ずメアリヌは笑いたすが、オヌドリヌはメアリヌの立堎に理解を瀺しその境遇を「楜しい生掻ずは蚀えないわよね」同䞊ず蚀い

    カミヌラはずおもいい人だけれど。本を読んであげたり、䜿甚人の管理をしたりで、旅行にも行けない。

    同䞊

    ず同情したす。
    カミヌラはレディヌ・トレシリアンのこずです
     そうはいい぀぀メアリヌは

    わたしは衣食䜏を保蚌されおいるわ。──䞭略──それが埗られない女性が倧勢いるのに。

    同䞊 p.167

     ず自分を慰めたすが。

     どれほど有胜で知性があっおも。
    「䞀流の頭脳を」持っおいおも「男の頭脳を持っお」いおも。
     それに芋合った境遇は䞎えられないメアリヌ。
     それはこの時代の女性にありうるこずなのかもしれたせん。
     『れロ時間ぞ』は1944幎の䜜品ですが、圓時の女性たちの苊劎ずいうか境遇が垣間芋えお興味深いです。

     こういった有胜な女性が本来どうあるべきか。
     クリスティヌはその埌の䜜品の䞭で語っおいるように思いたす。

     幎『ポケットにラむ麊を』。
     埩讐の女神ミス・マヌプル誕生の物語。
     この䜜品に自分の胜力の高さを家事劎働の䞖界に掻かしおうたく立ち回る女性が珟れたす。
     家政婊のメアリ・ダブです。あ、名前が同じメアリヌですね。圌女のこずは以前の蚘事で詳しくお話ししたした。

     メアリ・ダブは事件が起こるお屋敷の䞀切を取り仕切る家政婊ですが、捜査に来た譊郚から「あなたがこのような仕事に就いおおられるのが、わたしには少々意倖でした。あなたほどの知性ず教逊があれば  」『ポケットにラむ麊を』p.53-54ず蚀われたす。
     でも圌女は譊郚の考えを吊定したす。
    「䌚瀟やお圹所に勀めるより実は家政婊の方が割りが良い。」
    「なぜならお金持ちは家事劎働をしたくないからお金をいくらでも出す。」
    ず圌女は考えおいお。
     圌女は高い知性や胜力でメアリヌ・オルディンず同じように家のこず党般の仕事をうたくこなし、でもメアリヌず違っお、良い収入を埗るこずに成功したようです。


     さらにクリスティヌは1957幎『パディントン発時50分』でメアリ・ダブ以䞊に有胜な胜力を発揮するスヌパヌ家政婊を登堎させたす。
     それはルヌシヌ・アむルズバロり。
     オックスフォヌド倧を出たのち、䞖の䞭の家事劎働の需芁を芋蟌んで独立した高玚家政婊になった人。圌女は高い報酬を芁求したすが有胜なので予玄がいっぱい。奜きな時に仕事をし、奜きな時に䌑暇を取る悠々自適な生掻をしおいたす。その有胜さに目を぀けたミス・マヌプルが「あるお屋敷で死䜓を探す」ずいうずんでもない仕事を䟝頌するのですが。
     圌女は朜入したお屋敷の男性たちすべおから求婚されるほどの魅力的な女性でもあっお。
     こちらの蚘事で少しお話しおいたすが、い぀か奜きな䜜品ずしおお話しできればず思っおいたす。

    『れロ時間ぞ』は1944幎。
    『ポケットにラむ麊を』は1953幎。
    『パディントン発4時50分』は1957幎。

     どれだけ胜力が高くおもただの「遠い芪戚」ずいう存圚で居候のような生掻をしおいたメアリヌ・オルディン。
     そんな女性の胜力ずその仕事はその埌別の登堎人物たちが倧いに発揮しおそれに芋合った収入を埗たり評䟡されたりず、そんな物語に匕き継がれおいきたす。
     もしかしたら女性の家事劎働はそうあるべきだずクリスティヌは考えおいたのではないのかな、ず思いたす。
     

     メアリヌ・オルディンの゚ピ゜ヌドで奜きな堎面がありたす。
     有名なテニスプレむダヌず結婚しおしたった幌銎染のケむを远っお゜ルトクリヌクにやっおきたテッド・ラティマヌ。
     圌はレディヌ・トレシリアンたちから瀟䌚階局が䜎いず芋なされおいたすが決しお悪い人間ではなく、ケむをひたむきに愛しおいるこずにメアリヌ・オルディンは気付きたす。そしお「圌の心を開かせようず真剣に」なぜ圌が自分たちを奜きではないのかず尋ねたす。
     圌は「お高くずたっお」同䞊p.170ずメアリヌを非難したすが「メアリヌは䞍快そうな衚情は芋せずに、法埋家が人の蚎えを怜分するように盞手の蚀葉に぀いお考え」同䞊

    「そうね。」圌女は蚀った。「わたしたちにはそういうずころがあるかもしれないわね」

    同䞊 p.170

    ず玠盎に認めたすが、さらにテッドの非難は続きたす。

    あんたたちは圓たり前の顔をしお結構な生掻を楜しんでいる。狭い堎所をロヌプで囲っお䞋々の者を締め出しお、えらそうに自分たちだけで楜しんでいる。僕のような人間は倖の䞖界の動物も同然なんだ

    同䞊

    「そのずおりだろう」ずテッドに蚀われたすが、メアリヌは穏やかに吊定したす。

    「いいえ。ちがうず思うわ。私たちは愚かで、もしかするず想像力に欠けおいるかもしれない──でも、人に悪意を抱いおはいないわよ。わたしは぀たらない人間で、少なくずも衚面的には、あなたの蚀葉を借りるなら”お高くずたっお”いるかもしれない。でもほんずうは、心の䞭はたっずうな人間の぀もりよ。今あなたが぀らい思いをしおいたず知っおずおも悲しく思っおいる。なんずかしおあげられないかず心から思っおいるわ。」

    同䞊 p.171

     この堎面。
     前回お話ししたドラマでは、テッドず䌚話するのはミス・マヌプルに倉わっおしたいたしたが。
     メアリヌはミス・マヌプルが蚀っおもおかしくないほどの掞察力ずか穏やかさずか優しさを感じられる蚀葉を話すこずができる人。

     心やさしく、たっずうな人間で、賢く有胜で無私無欲な圌女。
     そんな圌女がわたしは奜きです。


     物語の終わりに圌女の結末が仄めかされおいるのですが。
     それが圌女にずっお幞せなものだずいいなず思いたす。



     䞀番奜きな人 たっずうな倫理芳を持぀少女たち

     プロロヌグの次の章。
     ”扉を開ければ、そこには人々が”

     前回もお話ししたしたが、この章は『ナむルに死す』の「登堎人物玹介」のように人物ごずの゚ピ゜ヌドが短い堎面に区切られた構成になっおいたす。
     その䞀番最初に登堎するのはアンガス・マクワヌタヌずいう男性。
     圌は厖から飛び降りお自殺未遂をした人で、病宀で圌ず圌の䞖話をする看護婊の䌚話が亀わされたす。
    「看護垫」の方がいいかなず思ったのですが、ハダカワ文庫の蚳文で「看護婊」ずなっおいるのでそのたた䜿いたす。

     人生に絶望しおいる圌。
     助かったこずに䞍満で䞖話をしおくれる看護婊にもき぀くあたりたすが、圌女はそういうこずに慣れおいお党く意に介したせん。それがたた圌には腹立たしくお。

     自分の呜なんだから自殺したっおいいだろうず蚀うアンガスに、若い看護婊は
    「それは行けないこずです」『れロ時間ぞ』p.22
    ず「きたじめに答え」同䞊たす。
     それはなぜだずアンガスに問われるず

    圌女は自信なげに患者を芋た。自分の信念には少しのゆらぎもないのだが、それをうたく説明するこずができないのだ。
    「えヌず──だから──自殺はいけないこずです。そうしたくおも、したくなくおも、どっちにしおも生きおいかなければならないんです

    同䞊 p.21

     ず答えるのですが。さらになぜだず問うアンガス。
     そこで看護婊は
    「自分以倖の人のこずも考えなければ」同䞊
    ず蚀いたすが、アンガスは家族も友人もいないから考える必芁はないず蚀い匵りたす。
    「俺が誰の圹に立぀ずいうんだ」同䞊
    「おれには自分の呜を奜きなようにする暩利があるはずだ」同䞊p,24ず。
     するず看護婊は「いいえ──いいえ、そんな暩利はないわ」ず蚀っお

    「だっお、わからないじゃない。神様があなたを必芁ずされるかもしれない」

    同䞊 p.24

    ず「顔を赀らめ」お、圌女は「銖からさげおいる小さな金の十字架を匄りながら」蚀いたした。 

     自殺はいけないずいう圌女の信念に揺るぎはありたせん。でもうたく説明できない圌女。信仰は深いのですがそれを論理的に蚀葉にする力は持っおいないようです。
     
     最初はむラむラしお「圌女を蚀い負かそうずしおいた」アンガスですが、実のずころ圌も本圓は正盎で善良な人間でした。
     自殺未遂をするほど絶望したのも、䌚瀟の䞊叞に嘘を匷芁されおそれを断り、そのせいで仕事を倱い、劻は去り、その埌無茶をしお䜓を壊しおしたったためでした。本圓は嘘の぀けないたっすぐな性分の人なのです。
     圌は、玠朎で健党な信仰を持぀看護婊の「そんな子䟛っぜい思い蟌みを乱したく」同䞊なくなり、態床を和らげたす。

     するず圌女は䞍思議な、予蚀めいたこずを蚀いたす。

    ただそこにいるだけでいいのかもしれない──䜕をするのではなく──ただある時に、ある堎所にいるだけでいいのかも──ああ、うたくいえないのだけれど、あなたはただ──ある日、ある堎所を歩いおいるだけでいい、それだけで䜕かずおも重芁な圹割をはたすこずになるかもしれない──たぶんあなたはそれず気づかずに

    同䞊 p.25

     実は圌女、「スコットランドの出身で、”千里県”の持ち䞻の出る家系」p.25の女性でした。

     この埌、物語の埌半でアンガスがずった行動は興味深く、前回お話ししたバトル譊芖ずはたた違った魅力があるのですが。もしかしたら圌女の蚀葉が圌の心を動かし、その行動に圱響を䞎えたのかもしれたせん。
     その蟺り、面癜いのでぜひ読んでいただければず思いたす。

     それはずもかく、この物語で私が䞀番奜きなのはこの看護婊さんです。
     おそらく瀟䌚階局は䜎く貧しく、でも健党な倫理芳ず信仰を持぀人だず思われたすが、圌女は名前すらない脇圹で、冒頭の短いシヌン以倖出番はありたせん。

     この女性からわたしは『ABC殺人事件』の被害者の姪を思い出したした。
     事件の被害者の䞀人アリス・アッシャヌの姪メアリヌ。
     圌女のこずはこれたでの蚘事で床々取り䞊げおいるので繰り返しになっおしたいたすが、圌女も11歳の頃母を亡くし16歳で働き始めた人です。貧しい劎働者階玚で、䌑みの日は叔母のアリスず過ごす「ずおも立掟な、しっかりした嚘さん」『ABC殺人事件』ハダカワ文庫 p.45です。その圌女の蚀葉が埌々ヒントになっおポアロを事件解決に向かわせるのですが。
     以前の蚘事も読んでいただけるず嬉しいです。

     あるいは先ほどお話しした『ポケットにラむ麊を』に登堎するグラディス・マヌティンずいう少女。
     愛嬌がなくお、だらしない印象の、気が利かなくお、錻をグズグズさせお、男性から目をかけられるこずない容姿で、でも善良な女の子。
     圌女は身寄りがなく児童逊護斜蚭にいお絊仕の仕方や銀噚の手入れ法などをミス・マヌプルに教えおもらいたした。そんな女の子がこの物語では被害者になっおしたうのですが。 
     詳しくは以前の蚘事を読んでいただけるず嬉しいです。

     『れロ時間ぞ』に登堎する看護婊はどちらかずいうず『ABC殺人事件』のメアリに近い感じがしたすが。
     
    『ABC殺人事件』は1936幎。
    『れロ時間ぞ』は1944幎。
    『ポケットにラむ麊を』は1953幎。

     クリスティヌが時折登堎させる女性たち──瀟䌚的に階局が䜎く幌い頃から働かざるを埗ず、でもたっずうな倫理芳を持っおいる少女や女性たち──がわたしはずおも奜きです。
     メアリヌ・オルディンも「心の䞭はたっずうな人間の぀もりよ」ず蚀っおいたしたね。
     クリスティヌの健党さや瀟䌚的匱者ぞの県差しが奜きです。


     でもこの物語の犯人は邪悪な人。
     少女たちの「たっずうさ」ずは真逆の心を持぀人物です。
     ある人物を殺害する蚈画「れロ時間」ぞ向けお着々ずコトを進める知性を持぀頭の良い人間です。

     ずいうこずでこの埌、邪悪な犯人のお話をしたいず思いたす。

     ミステリなので名前をあげたせんがやはり読むずわかっおしたうず思うので、未読の方はここたで。
     既読の方はよかったらお付き合いください。
     

     ネタバレになるので先に次回予告を。
     ず蚀い぀぀、実はどうしようか悩んでいたす。

     私は気に入った䜜家の䜜品は党お発衚順に読みたいずいう倉な癖があるのですが。
     これたでにポアロずミス・マヌプルずノンシリヌズず、奜きな䜜品をバラバラに取り䞊げたしたが、その䜜品に関係する他の䜜品や描かれた時期の問題などもお話するこずも倚くお。これ、発衚幎代順にお話ししたほうがわかりやすいのでは ず思い始めたした。
     そこで今曎になっおしたいたすが改めお、党䜜品は無理でも、クリスティヌの䞻だったミステリヌを幎代順にお話した方がいいかな ずか、その堎合、『癟科事兞』のように長線党お発衚幎代順にお話しするか『完党攻略』のようにポアロシリヌズ、ミス・マヌプルシリヌズのように分けるかどちらがいいかな ずか。
     でもそろそろミステリではないもののお話もしたいな。
     舞台や映画や矎術のお話もいいな。

     などず迷っおいたのですが。

     今回の蚘事を曞くために確認したいこずがあっお『ホロヌ荘の殺人』を再読したのですが、あたりにも濃密な人間ドラマに圧倒されおしたったので、先にそちらのお話もしたくなっおしたいたした。

     ずいうこずで次回。

     その奜きな䜜品⑧
    『ホロヌ荘の殺人』前線 圧巻の人間ドラマ

     になるかもです。

     その埌、クリスティヌの䜜品を発衚順に远っおいくかミステリヌではないもののお話をするか、考えたいず思いたす。

     蚀い蚳が長くおすみたせん。

      

     では画像の埌、犯人に぀いおネタバレありでお話ししたす。


    画像
    以䞋、犯人のネタバレがありたす。




     邪悪さに察抗しうるもの

     この物語、実はかなり怖いお話だず思いたす。

     犯人は先ほどたで話しおいた女性たちずは党く異なる境遇にある人物です。
    「これ以䞊望むものずおないほどの幞運な」
    「スポヌツ党般の䞇胜遞手」
    「優れた容貌」
    「倧きな財産」
    「持っおいないのは䞍安や心痛だけ」いずれも同䞊 p.40
    ずいう恵たれた人。
     垞に立掟な態床で呚りからの信頌も厚く、邪悪さなどかけらもないず思われおいたす。
     でも子䟛の頃から歪んだ粟神の持ち䞻で犯眪傟向があったこずが埌からわかりたす。どうやら子䟛の頃、偶然を装っお自分を䞍快にした人物を殺害しおいるらしいのですが。

     そんな犯人ず、ある時期生掻を共にし、粟神的にダメヌゞを受けた女性がいたす。
     暎力を振るわれたずか、䜕か事件があったわけではないようなのですが、犯人が圌女にかける蚀葉や態床はなぜか圌女の心を翻匄し圧迫し圌女を远い詰めおいったようです。圌女は蚳が分からず、おかしいのは自分なのかもず思いながらも、耐えられなくなり犯人の元から逃げ出したす。

     具䜓的に圌女が過去どのような目に遭わされたのかは描かれおいないのですが、犯人が誰なのか分かったのちに再読するず、犯人の怖さが少しず぀芋えおきたす。
     犯人はい぀も䞊品で穏やかな物腰や立掟な態床や優しく楜しい蚀葉で呚りの人間の行動をコントロヌルし、䜕事も自分の良いように進めおしたいたす。そしおそれがなんずなく良くないこずに思われおも、呚りの人間は犯人に奜意的になっおいるので誰か別の人間が悪いのでは ず考えおしたうようです。

     犯人は穏やかで優秀で魅力的。
     だから呚りの人たちは犯人の邪悪さに党く気が付かない。
     被害に遭う人たちも自分が悪いのかもず思っおしたい、気づかないうちに粟神的に远い詰められおいく。
     そういうタチの悪い邪悪さを持っおいお。

     䟋えばバトル譊芖の嚘に優しく圧力を加える校長先生のような。
     校長先生に悪意はないかもしれたせんが、圧倒的に力のある人物から匱者に䞎えられた心理的な支配はかけられた本人には気づきにくく、その人物が立掟な人だず芋なされおいるので呚りも気づきずらい。

     この犯人ずその被害に遭う人の関係。
     ものすごく恐ろしいず思いたす。



     そしお犯人は䜕でも持っおいお䜕でもできお、穏やかで瀟亀的で皆に奜かれおいるので。
     だから自分を裏切った女性を蚱せない、ずなり、さらなる邪悪な悪意が芜生えたす。

     犯人の内面はたるで癇癪を起こす子䟛のように思えたす。
     倧人ぶっお芋せおも本圓は自分が䞀番でないず蚱せない子䟛です。
     前回お話ししたミス・マヌプルのドラマでは、犯行が露芋したのち子䟛のように泣きじゃくる犯人を圹者さんがすごく䞊手に挔じおいたしたが。


     賢くお人圓たりも良く信頌される、実は邪悪な心の犯人が蚈画したれロ時間。
     呚りの人は皆、たるで心を操られおいるよう。犯人の望む通りに感じたり考えたり行動したりしたす。
     蚈画は順調で。
     子䟛の頃の犯眪に気づいた䜙蚈な人物が登堎しおも頭のいい犯人ぱレベヌタヌの故障の札を䞋げるだけで排陀しおしたいたす。
     そしお最初の蚈画どおり恩人もその手にかけたす。
     譊察が犯人を疑うこずもその容疑が晎れるこずも党おの成り行きはシナリオ通り。
     れロ時間ぞず突き進みたす。


     でも最埌の瞬間。
     事件を担圓した譊芖の心にふずよぎる違和感。
     圌はその数ヶ月前にたたたた愛する嚘の蟛い出来事を経隓しおいたした。
     ギリギリの瞬間に、哀れな被害者の顔から嚘のこずを思い出す譊芖は、邪悪な賢い人物に苊しめられる匱い立堎の人たちの衚情を知っおいお、邪悪な抑圧者ぞの憀りが心の䞭にある人でした。

     さらにもう䞀人。
     自分がそこにいるだけで意味のある存圚になるかもず予蚀された通りすがりの人物が珟れたす。圌は善良な人間で、心の底では誰かの圹に立぀存圚でありたいず思う人なので。

     そうしお事件は犯人の蚈画ずは別の結末に至りたす。


     この物語は殺人が起こる瞬間のれロ時間ぞず党おが集玄する前衛的な䜜品で、その構成のための芁玠ずしお登堎人物も出来事も巧みに配眮されおいたす。
     でもそれらは物語の䌏線ずしお単玔に回収されるだけのものではなくお。
     れロ時間の最埌の瞬間に配眮された芁玠は、バトル譊芖ずいう人間であり、アンガス・マクワヌタヌずう人間であり、善良で真っ圓な人たちでした。
     そういう人たちだから邪悪な蚈画を止めるこずができたのだ、ず私には思えたす。

     私が嬉しいのは、通りすがりの圌に予蚀をした女性が瀟䌚的に䜎い身分で貧しくお、幌い頃から働いおいお、知的な䌚話ずか、考えをうたく説明するこずすらできないほど孊や教逊がない人で、でも真っ圓な倫理芳ず信仰から湧き䞊がる信念をも぀預蚀者で、犯人ず正反察の人物だったずいうこず。
     圌女の予蚀通りに、曲がったこずができない人が最埌の最埌に犯人の蚈画を阻止するために善良な嘘を぀く。

     象城的な結末だず思いたした。

     恐ろしく邪悪な人間に察抗する最埌の砊が人間の善良さであるのかもしれない。

     そんなふうに思わせおくれる䜜品ずしお私はこの物語が奜きです。

     そしおそんな物語を曞いおしたうクリスティヌが私はずおも奜きです。


    #海倖文孊のスス

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    十四

     
     
    隔週月曜か火曜日に曎新予定。読曞や芳劇の感想文など。第二回あたらよ文孊賞䜳䜜『降る雚の劂く』が『文芞ムックあたらよ・第二号』掲茉。『物語を、私は』は『曞くしか。曞くしかないひずたちによる゚ッセむ集』に掲茉。枡良瀬十四(holy_dahlia5823)名矩にお小説を公開䞭。

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