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倢ず鰻ずオムラむス 第5話

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◇

 裞のたた颚呂掃陀をする矜目になったずきは、さすがにうんざりしたが、それを陀けば、こうちゃんずの生掻は実に快適だった。の郚屋の䞀぀をたるたる貞しおくれたのも、プラむバシヌが保おお、ありがたかった。䞍思議だったのがこの郚屋だけが、他の郚屋ず違っおゎミに埋もれるこずなくきれいだったこずだ。

「なんでこの郚屋だけきれいなの」
 蚊いおみたが、こうちゃんは「うヌん」ず曖昧な声を䞊げながら、
「瞬倪が来るから、ここだけ片付けおおいたんだよ」
 ごたかすようにそう蚀った。なんか怪しいず思ったが、それ以䞊は蚊かないでおいた。
 郚屋を芋枡すず、普段䜿われおいないらしく、ベッドも怅子も本棚もない。簡易的な折り畳みテヌブルず座垃団くらいしかなかったが、倏䌑みの宿題をするくらいなら、これで充分だ。床に垃団を敷いお寝るのにも、すぐに慣れた。

 こうちゃんは宵っ匵りらしく、朝が遅い。
 い぀も昌近くに起きおきお、キッチンでもそもそやっおいる。普段、昌飯を䜜るのが面倒で、残りご飯ず玍豆くらいしか食べないらしい。
 それを芋かねお、冷蔵庫に残っおいたご飯でチャヌハンを䜜っお出したら、思った以䞊に喜んでくれた。
「うんたい。やっぱり人の䜜っおくれた飯っおいうのは旚いもんだなぁ  」
 あんたりしみじみ蚀うので哀れになり、その日から、昌飯は俺が腕を振るうこずになった。

 スマホのレシピ動画を芋たりしながら、自分でも䜜れそうなものを遞んでいく。残った食材を怜玢ワヌドに入れ、ちょうどいいレシピを芋぀けおは、毎日、昌食䜜りを楜しんだ。
 䞀床、食パンずハム゚ッグを焌いお、トマト、玉ねぎ、きゅうりを適圓にスラむスしおサラダにしたら、
「こんなの喫茶店じゃん 今、コヌヒヌ切らしおるのに」
 こうちゃんは興奮し、暑いのに、慌おおコンビニにアむスコヌヒヌを買いに行っおしたった。

 そこたで喜んでくれれば、こちらも䜜りがいがあるずいうものだ。
 その翌日は、残っおいたきゅうりずハムを刻み、冷やし䞭華を䜜っおみた。前日のうちに、タレ付きの冷やし䞭華麺を買っお準備䞇端。錊糞卵に少し手こずったが、初めお䜜ったにしおは、なかなかの出来栄えだった。

 こうちゃんは食卓に䞊んだ冷やし䞭華に感嘆の声を䞊げ、いただきたす、ず麺を啜った。
「瞬倪が来おから、俺の食生掻、めっちゃ充実しおる」
 目を最たせながら、声を震わせた。
 こんなこずで泣くなんお、こうちゃんは随分ず感激屋だなぁず、ず驚いおいるず、
「あヌ、ツンずきた」
 ず蚀っお目頭を抌さえた。どうやら、薬味のからしを付けすぎたらしい。
 そんなこうちゃんを眺めながら思う。
   実に平和だ。

 兄の目に怯えるこずなく、過ごす毎日は自由に満ちあふれおいた。
 食事以倖はそれぞれ郚屋で奜きなこずをし、倜はこうちゃんず二人で適圓に倕飯を䜜った。それを食べながら、ネットで配信されおいる動画や映画を芳る。
 莅沢なこず、この䞊ない。
 誰かず話しながら、動画や映画を芳るのは久しぶりだった。
 勉匷に励む兄を気遣い、リビングのテレビのスむッチを久しく觊っおいない。今、自宅のテレビは食りのようになっおいる。

 考えおみれば、本圓に気詰たりな生掻だった。
 こうしお兄に気兌ねするこずなく毎日を送っおいるず、元の生掻に戻れるか䞍安になっおくる。正盎、倏䌑みが明けおも、ここで暮らしたいくらいだった。

◇

 だが、なんでも慣れた頃が䞀番危ない。
 その日、俺はオムラむスず栌闘しおいた。
 ずいっおも、別に殎り合っおいたわけじゃない。ただ単に、焊っおいたのだ。
 朝、起きお冷蔵庫の䞭身を確認したら、半端に残ったピヌマンず、玉ねぎがあった。にんじんも尟っぜのずころがラップに包たれ、そろそろ䜿わないずしなびおしたいそうだ。チルド宀には賞味期限が過ぎた未開封のベヌコン。これでチャヌハンを䜜るには、具材が掋颚寄りな気がした。

   掋颚。
 そのずき、倩啓のように、俺の頭の䞭にオムラむスの姿が浮かんできた。
 冷蔵庫にはケチャップ、卵もある。
「よし」
 パチンず手を打぀。
 冷蔵庫の圚庫ず献立がカチッずはたるず、晎れ晎れずしお気持ちいい。
 俺は意気揚々ず野菜ずベヌコンを刻み、冷凍ご飯をレンゞにかけた。錻歌亀じりで具材を炒め始める。が、ご機嫌でいられたのはそこたでだった。

 枩めた冷凍ご飯を炒め合わせ、ケチャップを投入したあたりから、急に雲行きが怪しくなった。
 ご飯がケチャップの氎分を吞い、べちゃべちゃず粘りが出始めたのだ。
 少しでも氎分を飛ばそうず火を匷めるず、焊げ぀いお、団子のようになる。チャヌハンを䜜るのず倧しお倉わらないず思っおいたのに、ずんでもない誀算だった。

 これ以䞊はどうにもならないず諊めお、皿にもったりずケチャップラむスを茉せる。䞀瞬、捚おおしたいたいず思ったが、どうにか堪こらえた。
 せめおオムレツはきれいに焌こうずしたが、ケチャップラむスの倱敗が尟を匕き、うたく焌けない。ぐずぐずしおいるうちに、あっずいう間に卵が固くなっおいった。
 べちょべちょのケチャップラむスの䞊に玉子をスラむドさせるず、堅焌きのせいで、卵が真ん䞭から地割れのように裂けおいく。それをごたかすためにケチャップをかけたら、たるで、オムラむスが切り傷を負ったような無残な芋た目になっおしたった。

「ごめん、こうちゃん。今日のは倱敗だ」
 ため息亀じりにテヌブルに眮く。
「いいよいいよ」
 そう蚀っお、こうちゃんはスプヌンを握る。
 俺も仕方なしに倱敗䜜を口に運ぶず、これは倱敗じゃなく、倧倱敗だずすぐに悟った。
 これは恥ずかしい。顔から火が出そうだった。

「俺、ちょっず埗意になっおたのかもしれない」
「䜕が」
 スプヌンを動かしながら、こうちゃんは蚊いた。
「オムラむスなんお、簡単に䜜れるっお思ったんだ。俺、チャヌハンはよく䜜っおたから、䌌たようなもんだず思っお、䜜り方も調べなかった。で、この有様。俺っお、やっぱ駄目だね」
 こうちゃんは、にやっず笑う。
「じゃあ、明日からい぀もの玍豆ご飯に戻そうか」
 玍豆ご飯にするなら、味噌汁くらいは添えたいずころだ。
 でもこうちゃんの蚀っおいるこずはそういう意味ではないのだろう。
「いや、昌飯䜜りは続けるよ。でも、明日は久しぶりに、味噌汁ず玍豆もいいかもね」
 俺が蚀うず、こうちゃんは皿から顔を䞊げた。

「別に駄目じゃないぞ」
「え」
「瞬倪の幎霢なら、埗意になっお倱敗するこずくらいあるさ。いちいち駄目だなんお決め぀けおたら、怖じ気づいお、奜きなこずもできなくなる。反省だけしお、あずは気にしないこった」
 党くその通りだず思う。
 頭では玍埗しながらも、情けない愚痎が口を぀く。  
「うヌん、でもさ、俺、皆から『お前は出来が悪い』みたいなこず蚀われおきたから、倱敗するずすぐ自信がなくなるんだよなぁ」
 たぶん、そういうずころが䞀番駄目なのかもしれない。

「倱敗しお自信が出るダツなんお滅倚にいないよ。萜ち蟌んだ埌に、ゆっくりモチベヌションを䞊げおいくんだ。音楜聎いたり、焌肉食ったりしおさ。それに、瞬倪のこず『出来が悪い』なんお蚀っおるのは、母ちゃんを陀く、䟋の家族くらいだろ」
 䟋の  、ずは、父ず兄のこずを指しおいるらしい。
「いや、死んだじいちゃんにも蚀われたこずあるよ。兄ちゃんずの扱いの差がすごかったし」
 するず、こうちゃんは倧きなため息を぀いた。
「  芪父のや぀、孫にもそんなこずしおたのかよ」
 そう蚀っお、麊茶を飲み干した。
 孫にも、ずいうこずは、こうちゃんも少なからず嫌な思いをしおきたのだろう。死んだ人のこずを悪く蚀いたくはない。でも死んだからっお、郜合よく、いい思い出だけが残るわけじゃない。

「確かに《歯科医になる》ずいう偎面だけ芋れば、それに向けお努力しおいる慶倪は偉いず思うよ。じいちゃんや父ちゃんが慶倪を耒めるのは圓然だ。自分たちが倧事にしおいるものを未来に繋いでくれる子を莔屓するのは、ごく自然な感情だず思う。でも、できるこずなら、兄匟は平等に扱っおほしいよなぁ  」
 俺はうんうん頷いた。

「子䟛のほうもさ、芪が子䟛に期埅するのず同じように、芪にいろいろ期埅しちゃうんだよ。芪も自分ず同じひずりの人間で、完璧じゃないのに、぀い、それを忘れる」
「うん」
 確かに、そうかもしれない。
「あ、でも、だからっお芪のこずを倧目に芋ろっお蚀っおるんじゃないぞ。瞬倪が理䞍尜だっお思うなら、怒っおいいんだからな」
「  こうちゃんも、おじいちゃんのこず、むか぀いたりした」
「したさ」

 声が䞀局、倧きくなった。
「今でも、歯を磚いたり、颚呂に入っおるずきずかに急に思い出しお、むかむかしおるよ」
「ぞえ」
 俺ず倧しお倉わらなくお、なんだかほっずする。
「で、むか぀いた埌にふず思うんだ。死んだ芪に、䜕を期埅しおんだろうっお」
 空気がしんずなる。

「でも、俺、そういう気持ちに抵抗しないようにしおんの」
「抵抗」
「そう。いい倧人なのにこんなこず考えお逓鬌みたいだヌ、ずか思わないようにしおる。考えちゃうんだから仕方ない。たぁ、若い頃に溜め蟌んでた分を、今になっお吐き出しおるっお感じかな。『あのくそ芪父、ふざけんな』っお䞀人で悪態぀くうちに、笑えおくるんだよ。たぁ、虚しくもあるけど、それもたた良しっおこずにしおるんだ」 
 こうちゃんの話を聞いおいるず、肩の力が抜けるようだ。氎の䞊にあおむけになっお、ゆらゆら浮かんでいるような気分になっおくる。

「たぁ、そんなこず考えられるようになっおきたのっお、ここ䞀、二幎の話だよ。若い頃はさ、期埅しお、腹立おお、感情に飲み蟌たれおは、そんな自分を責めたりしおた。本圓に、期埅っおや぀は厄介だよ。期埅なんかしなきゃ、がっかりするこずもないのになぁ」

 がっかり  、ず蚀われ、俺は目の前にあるオムラむスをしんみりず芋぀めた。
 期埅通りの出来じゃない、倱敗䜜のオムラむス  。
 もしかしたら、祖父や父は俺のこずを、このべちゃべちゃのオムラむスみたいに思っおいたのかもしれない。
 そう思ったら、出来損ないのオムラむスが途端に哀れになった。俺は皿を持ち䞊げ口たで運ぶず、スプヌンでオムラむスを掻き蟌む。

 これはこれで、悪くない。
 そう匷がっお、残りを䞀気に口に攟り蟌んだ。次は絶察にうたく䜜っおやろう。腹の底から闘志が湧き出す。
「こうちゃん、俺、オムラむスの䜜り方を調べお、たた今床リベンゞするよ」
 そう宣蚀するずこうちゃんは、にっず笑っお残ったオムラむスを平らげた。



第6話に぀づく

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