
読むコント「とあるBARにて」
「私は悪くない」
と田中の怒号がバーに響き渡る。
「ってあいつ言ったんだぜ。許せるかよ!」
「お前飲み過ぎだって。他のお客さんに迷惑だから。すみません、お水もらえますか?」
と吉田が宥める。
続けて周りに
「ほんとすみません。」と謝る。
バーテンダーの沢村が「どうぞ」と水を渡す。
勢いよく水を飲む田中に吉田が聞く。
「落ち着いたか?」
「おう、もう大丈夫。」
「で、なんで彼女の浮気に気づいたんだよ。」
「最初はなんか変だな思ったところからだった。気になったらさ、なんでも気になるだろ?」
と田中が話し始める。
「スマホ触ることが増えたなぁとか、なんかコソコソしてるなぁとかさ、ちょっとしたことが段々怪しく見えてきちゃって色々探ったんだよ。」
「探ったってなにを?」
「彼女の家とかスマホだよ。」
「マジで言ってるの!引くわー。」
「何引いてんだよ!こっちはな真剣なんだよ!」
とまた怒りだす田中。
「ごめんって、ちょっとだけちょっとだけ引いただけだから。」
「ちょっとだけだな!本当にちょっとだけ引いたんだな!」
「そこはいいだろ。さっさと続ききかせろよ。」
「わかったよ。でだ、家の中を探ったら出てきたんだよ。俺も彼女も吸わないタバコが。」
「タバコぐらいじゃ弱いんじゃないの?誰かの忘れ物とかあるじゃん。」
「見えるところに置いてあったなら俺も疑わねえよ。それがクローゼットの奥に隠されてたから怪しんだんだよ。」
「あー、それは怪しいわ。」
「だろ!そんで聞いたのよ。「あのー、すみません。これはなんですかね?クローゼットの奥で見つけたんですよ」って。」
「なんで下手に出てんだよ。堂々と聞けよ。」
「堂々と聞けるわけないだろ!浮気してるなんて信じたくないもん!」
「そうだけどさぁ。で、彼女はなんて言ったんだよ。」
「彼女は友達の忘れ物って言うんだよ。」
「まあ、相手もそう言うしかないわなぁ。でも、問い詰めたんだろ?」
「いや、そん時はまだ。タバコだけじゃ弱いなって。」
「やっぱり弱いと思ってたんじゃねえか。」
「そりゃ弱いに決まってるだろ、タバコだけじゃ!だから聞いた後日にスマホの中を見たんだよ。そしたらロックかかってやんの。」
と笑いだす田中。
「何笑ってんだよ。」
「笑うしかないだろ。いつもロックかかってないのに聞いた後にロックかかってるんだから。」
「まあまだグレーだな。てか、聞く前に見なかったのかよ。」
「見たに決まってるだろ隅々まで。でもそれらしいのがなかったから、家を調べたんだよ。」
「うわーやっぱ引く。」
「引いてんじゃねえよ!こっちは必死なんだから。」
「ごめん悪かったって。でも他に証拠はないのにどうやって浮気って確信したんだ?」
「スマホの通知。LINEが来たら画面に表示されるだろ?そこに男の名前と来週の土曜会える?ってメッセージ。」
沢村の手からグラスが滑り落ちる。
ガシャン。
店内の視線が一斉に集まった。
「……失礼いたしました。」
と謝り割れたグラスを片付ける。
店全体が静かになるが、元の賑わいに戻る。
沢村を一瞬見たあと、話に戻る田中。
「それが決め手だったのよ。その日デートだったのにドタキャンされたんだよ。」
「マジ?!うーわ、完璧にやられてんじゃん!浮気確定じゃん!すみません、ハイボールのおかわりください!濃いめで!」
「なに俺の浮気されたことを肴に飲もうとしてんだよ!しかも濃いめにしやがって!」
「いいだろそれくらい。ここは俺の奢りなんだからよ!」
「くそ!言い返せねえ。」
沢村がハイボールを持ってくる。
「お待たせしました。あともう少し声のボリュームを抑えてください。他のお客様のご迷惑になりますので。」
「すみません。」と平謝りする吉田。
「で、どうしたんだよ。早く続き聞かせろって。」
「通知画面を自分のスマホで撮って、会う日に尾行したんだよ。そして、お前浮気してんだろって問い詰めたのよ。そしたら、さっきの「私は悪くない」だよ。」
「なるほどねぇ。で、どうすんの?別れるの?」
「まだわかんない・・・俺もどうしたらいいかわかんなくてさ。」
「まあなぁ・・・。でもさっき許せねえって言ってたじゃん。別れるって決めたんじゃないの?」
「さっきは勢いで言ったけど!まだ迷ってんの。」
「そりゃ簡単に決められないよなぁ。浮気相手がどんなやつか知ってるの?」
「知ってるよ。尾行したんだから。」
「そっかぁ。俺から一つ言っとくと尾行は引く。」
「何ちゃんと引いてんだよ!」
「この話さ、俺だけで聞いててもきついし、答えらんない。あっそうだ、バーテンダーの人にも聞いてもらったら?お前ここの常連なんだろ?すみません。」
「ちょっとお前・・・」と引き留めようとするが
「はい、なんでしょうか?」
と沢村が気まずそうにやってくる。
「話聞こえてましたよね?どう思います?こいつの彼女。」
「聞こえてはいたんですが、いや・・・まあその・・・私からはなんとも。」
「言ってくださいよ。何言われても口コミに書いたりしませんから、な!」と田中を見る吉田。
「いやこの人は答えらんないんだよ。・・・この人が彼女の浮気相手。」と暗い顔の田中。
「えっ嘘でしょ?」
「すみません。」
「・・・怖えよ!」
「何が怖いんだよ!」
「お前が怖いんだよ!なんでお前の浮気された話を、浮気相手の店で聞かなきゃなんねえんだよ。」
「さっきまで楽しそうに聞いてたじゃねえか!」
「さっきは知らなかったからだろ!」
揉み合いになる田中と吉田。
「ちょっとやめてください。」と仲裁に入る沢村。
「全くなんなんだよ!人の不幸で美味しい酒飲めると思ったのによぉ。」
「お前最低だな!」
「うるせえ!こんな状況を作ったお前に言われたくねえよ!てか、なんであんたはこいつの彼女と浮気したんだよ!客の女に手出していいのかよ!」
「ちょっ、やめろって。」
「いいだろ、それぐらい聞いたって!」
吉田は暴れる田中の口を抑える。
「なんで手を出したんだよ。」
沢村が口をゆっくりと開く。
「田中さんと彼女さんの萌さんはうちの常連でした。
・・・ある晩、萌さんが一人で泣きながら入ってきて、いつもは注文しない強いお酒を頼まれました。その日以降何度か同じことがあり、ある時思い切って聞いてみたんです。
すると、それからというもの私と萌さんとの距離が近くなり、だんだんとそういう関係になっていきました。」
力尽きた田中を放って、吉田は聞く。
「なるほどな。だけど、だからって手を出していい理由にはなんないよな。」
「ごもっともです。」
「てかさ、なんで泣いてたんだ?喧嘩でもしたの?」
「もういいだろ!」と甦る田中。
「良くねえよ!」とまたもや田中の口を抑え込む吉田。
「あんたは聞いたんだろ?泣いている理由。教えろよ。」
「・・・田中さんに浮気されたそうです。証拠の写真も見せてもらいました。田中さんと萌さんではない女性がホテルに入っていく写真です。」
「えっえっえっ嘘でしょ?!」
と田中を見る吉田。
無言の田中。
「おいマジかよ!お前が先に浮気してたのかよ!先に浮気しといて彼女の浮気に文句言ってたのかよ!引くわー、今年一番引いたわ!お前の方が最低じゃねえか!」
「俺は悪くない!」