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OSTER project feat. 重音テト『フランスかぶれ』 - モチーフ選びでこんなに歌詞の構造がきれい

    わたしはすべてのレコメンドサービスの中でYouTubeのことを一番信頼しているんですけど、先日そんな彼が急にトップに出してきたのがこの曲。

    OSTER project……? Xのネタツイアカウントじゃないの……?

    と思っていた(うそです)んですけどぜんぜん大衝撃の名曲でした。

    コード進行の美しさは他のひとがYouTubeでコメントで入れているのでわたしは歌詞の話をするね!!

    OSTER project feat. 重音テト『フランスかぶれ』歌詞

    最初から聴かれる曲では歌詞をどう書くか

    この曲は最初「無色透名祭」というイベントで発表された楽曲でした。

    たくさんのボカロ楽曲が匿名で投稿され、視聴者はだれが投稿したかを知らない状態でタグをたどって楽曲の良さを味わう、という趣旨のイベントです。

    期間が終わるとネタバレシートが公開になり、だれがどの曲を投稿したかがあとになってわかるようになっています。

    ということはこの曲を、視聴者は冒頭から集中して耳を傾けるはず。

    この曲の歌詞はそんな歌詞を聞かれる環境にすごく最適化されています。

    1行目はこれ。

    フランスかぶれ

    曲名をまず入れて、リスナーに印象付ける作戦です。

    イントロなしの曲名から始めるのって、曲を最初から聴いてもらえる前提の環境だからこその作戦って感じがします。

    いきものがかりがストリートで活動していく中で、この手法を磨いていったって話を聞いたことがあるぞ。

    『フランスかぶれ』はこのあとイントロに入ります。Aメロの歌詞はこれ。

    朝食に硬いパンをかじったら
    怪我しちゃった
    フランスの人って大変なんだな

    こーのAメロがめっちゃいいんだわ。

    歌詞の最初の3行はパンに関するエピソード。直接的には書いてないけどフランスパンに関する話だとはすぐにわかります。

    これを踏まえて、続く3行がめっっちゃいいです。

    だけど君がハイカラなもの好きなことは
    リサーチ済みさ
    そんな君に似合う僕になりたいんだ

    最初の3行はエピソード。だけど続く3行にはこの歌詞の核心が詰まっています。

    それは、「君に似合う僕になりたい」ということです。

    歌詞が最初から聞かれるなら、Aメロでは基本的に歌詞の舞台を早めに示すほうがよいです。歌詞の行き先を聴き手がわかった状態で聴き進めることができるからです。

    TikTokでバズる曲は一部だけ切り出されて聴かれることも多いけど、いまでもAメロは舞台設定を示すのが定番。

    舞台を示すのによくあるのは時間や場所を描写するといった方針です。端的に書けるからスピード感が出ます。端的であることは歌詞にとって正義です。

    だけどこの歌詞はちょっとだけ違います。エピソードとそこから見えてくる主人公の心情がセットです。そしてその心情こそがこの歌詞の舞台です。

    こういうルートを通ることによって、わたしたちはたった15秒で、主人公がどんなひとで、「君」に対してどういう風に思っているかがすぐにわかります。

    しかもこの中にはさらにいろんな手がかりが隠れています。

    • パンを食べて怪我をしている(=おっちょこちょいなのでは?)

    • 君がハイカラなもの好き(=「ハイカラ」はちょっと古い言葉だと思うし主人公はわりとやぼったい寄りでは?)

    • リサーチ済み(=メンヘラ気質なところあるでは?)

    こういうわずかなパーツの描写で、主人公がどんなひとなのかも描かれてることになります。この手際の良さよ!!

    「君」と「僕」の間柄

    Aメロを見たらそのあとこの曲で描かれるエピソードがどんな感じになるか、割と検討つくと思うんです。

    Bメロで登場するエピソードははまさにその延長線上にあります。

    綺麗に並んだ フォークやナイフは
    どれから使えばいいの?
    君にまで恥をかかせたくなくて
    ちょっぴり背伸びしてるそんな毎日

    ここではかなりストレートに「君にまで恥をかかせたくなくて/ちょっぴり背伸びしてる」と書かれています。

    主人公が「君」への想いを強めるばかり、変に失敗しながら進んでいくのをみんなで見守るタイプの曲だと捉えることができそうです。

    続きはサビ。

    サビっていうのはふつうは感情を入れると収まりがいいと言われていて、この曲はセオリー通り。

    君が好きなもの全部
    僕も好きになれたなら
    僕の全部も好きになってくれるかな

    ここで「君」と「僕」の相互の関係が歌詞の中で立ち上がってきます。

    「僕」は「君」が好きなもの全部を好きになることを通じて、「君」が「僕」のことを好きになってくれる、というルートを夢想しています。

    まず自分が相手に近づいて、そっから相手の方からも引かれてくれる、というルートです。健気だ。

    重音テトというキャラクターはわりと年齢が上という設定になっていることも踏まえてか、落ち着いてるけどきちんとかわいさのある恋愛がここでは描かれています。

    サビには続きがあります。

    真鯛のポワレよりも本当は
    お刺身が好きだけど
    まだ教えてあげないよ

    ここで「真鯛のポワレ」「お刺身」という具体的なモチーフが再登場します。いやでもこれめっちゃいいんですよ。

    サビってさっきも書いた通り感情を描くのがセオリーです。一般的にはそこにモチーフ混ぜたらAメロと見分けのつかないパンチのないサビになっちゃうでしょう。

    なんですけど、フランスかぶれだったらフランスっぽいモチーフはいくらでも出せます。

    この歌詞では惜しみなくモチーフを連打しつつも、それを絡めながら「まだ教えてあげないよ」っていう感情に戻しているんです。めちゃくちゃ手際のよさを感じます。

    あと「まだ教えてあげないよ」も1番の終わりとしてとんでもなくいいですよね。

    「僕」が「君」に教えてないことがあるってことは、「僕」は「君」のことまだぜんぜん知らない、ってことがあらわになるってことだから!

    ところでこのモチーフの対比で見えるように、「君」がフランス料理が好きなことと対になる概念は、「僕」は日本の料理が好き、ということです。

    ラスサビではこの対比が新しい世界を描写することになります。

    白ワインも美味しいけれど
    緑茶ハイもイケるって
    笑い合える日は来るかな

    ここでは「白ワイン」が「君」の側、「緑茶ハイ」が「僕」の側に立っています。

    「笑い合える」ってことは、「君」と「僕」のお互いの味覚の好みをお互いに理解し合う、ってことです。

    それはつまり「君」と「僕」がお互いを理解し合う、と言い換えることができるでしょう。

    こんな感じでモチーフを描写することによって、二人の関係性の進展を描いてもいるのです。なんて巧み……!

    食べ物の対はこの曲の中にあと一つ出てくるけど、それも新しい関係を示すのに使われていて、どれも本当に美しいです。

    たった3分だけどパーツも全体も大満足でだーいすきな曲になりました!


    OSTER project feat. 重音テト『フランスかぶれ』でした。

    ちょっと前に中国語のポップスを見ながらモチーフ多すぎでは……?って思っていたんですけど、OSTER project feat. 重音テト『フランスかぶれ』のモチーフの一貫性はJ-POPの系譜でほーんとに大好きです。一生肌に合うと思っているんだけど、でもぜんぜん知らないフランスのポップスやシャンソンも聴いてみたいな〜〜〜🇫🇷


     
     
    J-POPの歌詞がすきです 言語学やNLPに興味があるけど実際にポストしてるのは国語辞典と虹コン

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