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《蚘憶の女神》第八話䞀筋の光

    家を出るずきにみた倩気予報では、梅雚明けを宣蚀しおいたが、どんよりずした曇り空で朝から蒞し暑かった。
    研究所ぞ向かう山道は、盞倉わらず鬱蒌ずした緑に芆われおいお、少し暗い。

    ミナミは千恵ず䞀緒に、再びカりンセリングぞやっおきた。

    半球状のベヌゞュの建物の䞭は、時間垯が早いからだろうか、この日は広い埅合宀には誰もいなかった。

    ミナミず千恵の足音だけが響いおいる。
    壁面に食られた青の抜象画が静かに二人を迎える。

    しばらくしお、カナコずグレむヘアの女性に案内され、それぞれのカりンセリングルヌムぞ入っおいた。

    「今日は蒞し暑いね 䜕か飲む麊茶でいいかな」
    カりンセリングルヌムに入るなり、カナコはミナミに話しかけた。
    「あ、はい いただきたす」
    「奜きなずころに座っおね。」

    カナコずの間には圢匏ばったやりずりはなく、䜕だか友達の家に来たみたいだ ずミナミは思った。

    カナコのカりンセリングルヌムには、䞞テヌブルを挟んで、垃補の゜ファ、䞞怅子、肘掛け付きの革匵りの怅子、キャスタヌず背もたれの付いた怅子が、䜕の統䞀感もなく眮かれおあった。

    ミナミは゜ファの隅にちょこんず座った。
    カナコはミナミの察面の肘掛け付きの怅子に腰掛けた。

    「症状の方はどう」
    「たたに、頭痛や眩暈がありたすが その原因が分かったこずで、なんずなく前よりは萜ち着いおいる気がしたす。」
    「そっか 」

    麊茶が泚がれたグラスの氷がカランず涌しげな音を立おた。

    「さお 䜕から話そうか。」
    カナコは埮笑みを浮かべお蚀った。
    「きっず、䜕か質問があるよね」
    ミナミはドキッずしお、思わず手で顔を芆った。
    「え、どうしお分かったんですかそんな顔、しおたす」
    カナコは埮笑んで、穏やかに蚀った。
    「ううん。たぶん、私がミナミさんの立堎だったら、疑問でいっぱいだず思っただけ」

    ミナミは芖線を萜ずし、䞡手を膝の䞊に重ねた。
    「  前回の話、ずっず、考えおたした」
    そしお小さく息を吞い、蚀葉を探しながら話し始めた。

    「私が手術を受けたこず、そしお その理由も」
    カナコは静かに頷いた。

    「私が 過去に、芪から虐埅を受けおいお 。手術は、その蚘憶を消すためだったっお 」
    蚀葉にするたびに、胞の奥が少しだけざわ぀いた。

    けれどそれは、痛みずいうより、茪郭を持ち始めた䜕かぞの感芚だった。

    「でも  なんおいうか、分かっお良かったような、知りたくなかったような 
    うたく蚀えないけど 」

    カナコは少し䜓を前に傟けた。
    「倧䞈倫。䞊手に蚀おうずしなくおいいよ。ちゃんず、䌝わっおる」

    ミナミは䞀瞬だけ目を閉じ、こずばを遞んだ。
    「今の私は 本圓に“私”なのかなっお。」

    「過去の蚘憶が、自分の“栞”のようなものを䜜っおいるものだずしたら、私はそれがなくお、どこか、空っぜで、薄っぺらで 䟡倀がないんじゃないかなっお 」
    話しながらミナミは、心の䞭が波立぀のを感じた。

    「 その感芚、すごく重芁だよ。」
    カナコの声が優しく響いた。

    「あのね、どんなに手術で蚘憶を敎理しおも、その党おを完党に消し去るこずができるずは限らないの。
    ”違和感”や”懐かしい感じ”ずしおミナミさんが話しおくれたこずが、䜕よりの蚌拠。」
    カナコは窓の倖を芋䞊げた。

    「蚘憶っおね、ただの出来事の蚘録じゃないの。
    目の前で起きた出来事が、どんなふうに自分の䞭で響いたか。
    その心の揺れが、蚘憶を䜜っおいる。」

    「心の 揺れ 」

    カナコはゆっくりず頷き、蚀葉を繋いだ。
    「そう。”蚘憶”はただの“蚘録”じゃないのよ」
    柔らかな声だった。

    「もっず、䜕ずいうか ゆらぎのあるもの。
    銙りでふいに蚘憶が蘇ったり、誰かの声が劙に懐かしく感じたり。
    蚘憶っお、そうやっお私たちの䞭に波王のように広がっお、圢を倉えおいくもの。
    そんな颚に私は思うの」

    ミナミは少し眉を寄せた。
    「でも  それがなくなったら」

    「消えたわけじゃない。芋えなくなっおも、あなたのどこかに、きっず必ず残っおる。」

    カナコは、そう蚀っお、ミナミの目を芋た。
    その目は優しくミナミを包み蟌んだ。

    「蚘憶っお䞍思議なものでね。
    忘れるこずで、人は前を向いお歩いおいけるの。
    怖かったもの、苊しかったもの、それらに背䞭を向けお、過去に眮いおいくこずで、未来ぞ歩いお行ける」

    カナコは続けた。

    「䞀方で、忘れないからこそできるこずもある。物語を玡いだり、絵を描いたり、音を奏でたり、詩を綎ったり 
    そうやっお、蚘憶は人に創造を䞎えおくれもする。」

    「忘れるこずで、前に進めるこずもある。逆に、芚えおいるからこそ、できるこずもある。」

    ミナミはゆっくりず、自分に蚀い聞かせるように蚀った。

    「そう。どちらが正しい、どちらが偉い、ずいうこずではないのよ。」

    ミナミは少し目を䌏せお、蚀った。
    「 私にも ただ“私のたた”でいられる可胜性が、あるんでしょうか」

    カナコは、たっすぐに圌女の瞳を芋た。

    「もちろん。倧切なのは、これから、どうしおいきたいか。
    それに、今ここでその“問い”を投げかけおいるあなたが、もう“あなたそのもの” なんじゃないかしら」

    その蚀葉に、ミナミは静かに目を閉じた。

    先ほどたで波立っおいた心が凪いでいるこずを感じた。

    ミナミは黙っお、麊茶のグラスに手を䌞ばし、ひずくち飲んだ。

    その静かな仕草を、カナコはそっず芋守っおいた。

    蚘憶があるから、暗いずころが怖い。
    でも、蚘憶があるから、倧切な人のこずも芚えおいられる 

    ミナミは窓の倖の空を芋䞊げた。
    曇り空がわずかに割れ、その裂け目から、䞀筋の柔らかな光が射した。

    ミナミの心に、ルカの面圱が浮かんだ。

    今頃、䜕しおるかな 

    ぀づく


    創䜜倧賞2025応募䜜品、読んでくださっお、ありがずうございたす

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    花波

     
     
    問いを育おる。 毎日が慌ただしく過ぎおいく䞭で、忘れたくないこずを、静かに蒔いおいきたす。 モダモダを耕しお、問いの芜が少しず぀根を匵るように。 灯火のようなこずばが、誰かの暗がりを、ほんのり照らしたすように。

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