メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo bychickii

幜霊第2話 倧野円

    あらすじ

    静かに日々を送る絵画講垫・倧野円。ある日を境に、補助ずしお働く矎倧院生・小島有が、圌女のもずに䞍自然なほど頻繁に珟れるようになる。䜕気ない䌚話ず制䜜の時間の䞭で、その振る舞いにわずかな違和感を抱き始める。 やがお、二人の距離や時間の流れにも、説明の぀かない歪みが混じりはじめる。有は、円の知らない“もう䞀぀の芖点”を抱えたたた、圌女のそばに立ち続けおいた。 觊れられないものず、觊れないたたでいるもの。 重なりきらない䞉぀の想いが、過去ず珟圚の境界を静かに揺らしおいく。




    『倧野円』

    長い倏が終わるず、朝晩は急に冷え蟌むようになった。秋がなくなった、ずこの頃よく聞くけど、い぀からそんなこずになっおいるのか。぀いこのあいだニュヌスで耳にするたで党く関心を寄せおいなかった。
    ティヌバッグをマグカップに入れお、ケトルで沞かしたお湯を泚ぐ。茶葉が開いお味が染みだしおくるのを埅おずに、お茶の銙りのする味の薄いお湯を啜った。
    「あちっ」
    昚晩甚意しおいたゞャヌゞに着替える途䞭、思い出したようにクロヌれットから腹巻を匕っ匵り出す。きっず昚日よりも寒いだろうな、マフラヌは さすがにただ早いか。頭の䞭で぀ぶやく。画材や本に囲たれたこの郚屋に䞍釣り合いなデゞタル時蚈が、ただ薄暗いこの空間でがんやりず光っおいる。5:13 am。
    およそい぀もず同じ時刻であるこずを流し芋お玄関を出た。近所の䞭孊校の前を通り、貚物甚線路の䞋をくぐる。しばらく進むず、倏にはバラで埋め尜くされる公園がある。぀いこの間たで色ずりどりに花を咲かせ、暪の道を通るだけでもその匷い銙りがわかる皋だったのに、い぀のたにか花壇には茎しか残されおいない。がんやりず日々を過ごしおいる間に、花盛りを越えお剪定が枈んだのだろう。日垞の倉化に気が付くのは、い぀もそのしばらく埌だ。盞倉わらず、芖野が狭いのかな。声に出さず独り蚀ちお歩みを進める。緩やかな坂道を䞊った先に芋える川沿いは、散歩やランニングコヌスずしお倚くの人が利甚しおおり、円たどかもたたその䞀人。もう5幎ほどの日課になっおいる朝の散歩は、よほどの悪倩候の時以倖は欠かしたこずがない。特に䜕を考えるわけでもなく、遠くずっず先たで続く道を歩く。最初は䜕も考えなくお枈むようにず始めた習慣だった。ただ眠気の残る䜓を無理やり起こそうず、冷たい空気を匷匕に深く吞い蟌む。ヒダッず、肩甲骚のあたりに䞀瞬寒気を感じお肩をすくめる。マフラヌも必芁だったかもしれない。少しでも早く䜓枩が䞊がるように、歩く速床をあげた。芖線を䞊げるず察岞にあるマンションの隙間から、空が明るんでいるのが芋える。
    「秋もあけがの 」
    思わず声に出しおしたった。
    ようよう癜くなりゆくビルぎは
    笑い亀じりの声が頭の䞭で聞こえる。この道で矎しい景色を眺めおは、うろ芚えの枕草子になぞらえお感嘆しおいたのをよく笑われたっけ。のどの奥がキュッず詰たるような気がしお、少し慌おお息を吐いた。今日はもう早めに切り䞊げよう。


    「あれ、早いっすね」
    講垫宀の扉を開けるず、キャンバス垃を数本抱えた青幎の姿があった。
    「それを蚀うなら小島君こそだよ、おはようございたす」
    「うっす」
    「それ、私の倜間のや぀だよね。ごめん、䞀緒に運ぶよ」
    「倧䞈倫っす。い぀もご指導頂おいるお瀌っおこずで」
    矎術予備校のアトリ゚で講垫ずしお働く円は、絵画を専門分野ずしお、䞻にデッサンなどをの講矩を受け持っおいる。円が倜間講習で䜿うキャンバス垃を運ぶ青幎は、同じアトリ゚でアルバむトずしお働く小島有ゆうずいう珟圹の矎倧院生。円ずは違いデゞタルのグラフィックデザむンを専攻しお孊んでいる。
    「小島君の絵は正確できれいだから、きっずすぐに䞊達するよ」
    「筆はワンクリックで戻らないのが怖いんですよ。珟に説埗力が足りないっお蚀われちゃっおるわけだし」
    円がい぀も死に物狂いで2本ず぀運ぶキャンバス垃を、その倍も抱えながら、重さをものずもしない皋には圌を悩たせおいる〈説埗力〉ずやら。䞡手に抱える荷物などたるで存圚しないかのように、䞊の空で顔をしかめおいる。同じ矎術の分野に身を眮きながら、たったくわからない䞖界もあるものだず、円は少し可笑しくなる。
    「なんかおもしろいっすか」
    「ううん」
    荷物を運び終え、円はキャンバスの前に怅子を動かした。
    「講垫宀戻らないんですか」
    「うん、せっかく早く来たからちょっず䜜業しようかなっお。ず蚀っおもただの暇぀ぶしだけど」
    「じゃあ、お暇ならご指導いただけたりしたせん」
    い぀もは終業埌や倜間ぞの切替時などに時間を取っおいたが、今日は画材運びのお瀌ず悩める圌のしかめっ面に免じお、䟝頌に応じるこずにした。

    「先生のデモずか䜜䟋っお、い぀も同じ人ですよね。実圚の人物ですか」
    円が眮いた描きかけのキャンバスを芋お、有が呟いた。
    「特に誰っおこずはないんだよね。教えるずきに同じモデルの方が芋る偎も倉化が分かりやすいかず思っおさ。すっかり手もなじんじゃっお今曎あれやこれや描くのが億劫なだけ」
    「ふうん」
    取り留めのない䌚話をしながら、円は鉛筆を手に取る。静かな空間に響く摩擊音を聞きながら、有は円の描く線を眺めた。どうやら今回描いおいるのはどこかを歩いおいる人物の姿。人や動物が動いおいる姿をスケッチするモヌションデッサンは、実際にモデルを描いたり、動画や連続写真を甚いるこずが倚いが、円はい぀も䜕も芋ずに玠描する。孊生でも同じように想像でモヌションデッサンを行うこずはあるが、それはあくたでモデルを芳察しお散々習緎を積んだ動きの衚珟を蚘憶し、頭の䞭だけで再構成するための緎習が目的だ。しかし円の行うそれは、たるで緎習ずは皋遠い。矎術講垫を生業ずするほどならば圓たり前のこずなのか、圌女のデッサンは動くものも止たるものも、確かに意味ず蚘憶を芋るこずができる。たずえば今たさにその姿がはっきりず浮かび぀぀ある歩行䞭の青幎。察象の構造は既に掎んでいるはずだが、名残惜しい様に圌にすがっおいる探り線は消さずにそのたた残しおある。もっずも正しい茪郭線ず䞻芁な軞線のみ残すず、いうセオリヌからは倧きく倖れおいるせいか、自然ず芖線が誘われる。しかしきっずこれも、数分埌には必然的な意味を持った線になるはずだ。円にデッサンを孊ぶようになっおから、有は䜕床も同じ経隓をしおきた。
    「動きの名残みたいなのが ここの郚分。わかるかな」
    「わかりたす。わざず沈めおないずころ」
    「あ、うん、そうそう」
    食い気味の返答に、円は少し驚いた。有にデッサンを指導するようになっお間もなく半幎ほど経぀。初倏のころにはデッサンに察しお分析的な芖点の匷かった有だが、い぀のたにか芳察の県が育っおいるように感じられる。
    「きりがいいから䞀旊ここたでにしよっか。いいね、䌝わっおるなぁず嬉しくなりたす。さすが院生」
    「茶化さないでくださいよ」
    時刻は間もなく自修生たちが登校しおくる頃。円は受け持぀講矩のある郚屋ぞ、有は講垫宀ぞ。廊䞋に出お、互いに軜く䌚釈しおからそれぞれ逆方向にある目的地に向かった。




    ▌前回のおはなし


    ▌たずめ読みはこちら


     
     
    文章を曞くこずが奜きです。 思い぀いたこずを思い぀いたたたに曞いおいたす。 読んでくださる方がいたら、 心や䜓の䞭に、小さな䜙癜や、なんずもいえない感觊ずか そういうものが残ったら嬉しいです。

    あなたぞのおすすめ