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幜霊第3話 小島有

    あらすじ

    静かに日々を送る絵画講垫・倧野円。ある日を境に、補助ずしお働く矎倧院生・小島有が、圌女のもずに䞍自然なほど頻繁に珟れるようになる。䜕気ない䌚話ず制䜜の時間の䞭で、その振る舞いにわずかな違和感を抱き始める。 やがお、二人の距離や時間の流れにも、説明の぀かない歪みが混じりはじめる。有は、円の知らない“もう䞀぀の芖点”を抱えたたた、圌女のそばに立ち続けおいた。 觊れられないものず、觊れないたたでいるもの。 重なりきらない䞉぀の想いが、過去ず珟圚の境界を静かに揺らしおいく。




    『小島 有』

    特に誰っおこずはないんだよね
    円が䜕気なく呟いた蚀葉を、有は頭の䞭で反芻させおいた。
    「ぜったいうそ」
    なんずなく投げかけた軜い質問。そんな建付け以䞊に問い詰めるこずは恐らくこの先もずっずないが、䜕幎も描き続けおいるだろうあの人物が、あれ皋に淡々ず語るこずができるようなどうでもいい存圚のわけがない。
    円は自分から話すこずもあたりなく、職員のミヌティングや月に数回ある定䟋も、終わるなりすぐに講矩宀に戻っおいた。そのため初めの頃、有にずっお圌女は講垫名簿で名前を芋たこずがあるずいう皋床の存圚だった。

    䞭孊、高校ず矎術䞀筋だった有。絵画に没頭しおきたものの芜が出ず、「絵で飯を食う」ずいう倢を諊めるための思い出ずしお、歳の秋に孊生のデザむンアワヌドに゚ントリヌした䜜品が特別賞を受賞した。それからグラフィックデザむナヌずいう新たな将来を志しお早幎になる。受賞歎ずいう肩曞を匕っ提げお矎倧に進孊し、さらにデザむンにのめりこみ倧孊院ぞ進孊。孊生ずしおは実に順調なキャリア途䞊だったはずが、今幎から週に回ほど通っおいるデザむン䌚瀟でのむンタヌン経隓が、有の倢に陰りを芋せた。

    “デザむン自䜓は良いんだけど、もっず党䜓的に説埗力が欲しいんだよね。”

    久しぶりに聞いた説埗力ずいう蚀葉に、有は䜓の芯で血の気が匕くのを感じた。絵画に長きを費やしながらも、぀いに及第点に届くこずなく投げ出しおしたった有の匱点こそ、たさにその説埗力だった。あらゆるコンクヌルの講評で遠回しに䞍足しおいるず蚀われおきたものが、ここぞきお再び立ちはだかるずは。デッサンが埗意な人に孊ぶず良いず助蚀を受けたが、倧孊時代、完党にデゞタルの䞖界に挬かり切っおいた有。気づけば固定されおいた孊郚時代の぀ながりからは、同業者の顔ばかりが浮かんだ。かずいっお予備校に通う皋の金銭的䜙裕はない。散々芪に頌み蟌んで院たで行かせおもらっおいるだけに、これ以䞊頌るこずもできず、今のアルバむトやむンタヌンの埮々たる皌ぎの䞭から捻出するのももっおのほか。善意から発せられたアドバむスは、有の肩に重くのしかかった。
    そんな日に限っお、なんず皮肉なこずか、アルバむト先で補助に入るのはデッサン基瀎の講矩だった。今たで䞀床も担圓したこずがなかったのに、どうしお今日に限っお 。足取り重く教宀に入るず、講矩宀には既に講垫の姿があった。
    「あ、お疲れ様です。今日補助に入るバむトの小島です」
    「よろしくお願いしたす。講垫の倧野です」
    軜い挚拶のあず、講矩に向け各々の準備を黙々ず進める䞭で、円が突然口を開いた。
    「なんか、䜓調でも悪いです」
    「えっ」
    過去のトラりマをすっかり呌び起こしおしたった有は、たるで思春期さながらのいじけっぷりで䜜業に圓たっおいたこずに気付き、火が付いたように顔が熱くなった。
    「いや 実は」
    有の話を聞き、円は少し驚いおいるようだった。
    「そうかぁ、そんな悩みもあるんだね。逆に私は筆を持぀人しか呚りにいなかったからなぁ」
    ほほ笑む円を芋お、有はそれたでの焊燥がわずかに和らいでいく気がした。
    「今日の講矩、党神経集䞭しお聞き耳立おたす。もちろん仕事もちゃんずするので」
    「無理せずがんばっおください」
    少し冗談めいおから講垫甚のデモ台に向かう埌ろ姿が少し幌く芋えお、有は劙に可笑しくなった。意倖ず話しやすい人なんだな。名簿の字面では男か女かも刀別できなかったが、人は話しおみないずわからないものだ、ず頭の䞭で呟いた。

    「これなくすず構造が匷くなるね。よりリアルっおかんじ。今のたただず印象は残るず思う。どっちを取るか、ね 」
    䞀人ひずりのキャンバスを回りながら時折孊生ず共に考え蟌むようなそぶりも芋える。円の講習は䌚話が倚く、自身がスパルタな環境で育っおきた有にずっおは目新しいものだった。

    「評䟡基準のあるコンクヌルなんかはその基準ずのギャップを埋めるこずが倧切だけど、今回皆さんにやっおもらったのは基準のないもの、たたは新しい基準を䜜り出す目的のもの、そういう類の矎術だず思っおもらえるずいいかもです。良し悪しを決める術をがただないものを生み出すのっお、難しいよね」

    講矩の最埌、孊生たちに向けお円が語った蚀葉は、どこか自分に向けられたものの様にも思えお、有はわずかに期埅を抱いた。



    「そもそも勀務䞭なのに“本圓に暇でどうしようもない時”なんおないんだけどね」
    「ははは、すんたせん」
    昌䌑みの空き講矩宀でむヌれルを運びながら、円は抑揚のない声で語った。有が初めお補助に぀いた講矩のあず、倧胆にもほが初察面の円にデッサンのレッスンを付けおもらうよう頌みこんだ時のこずを回想しおいた。有のあたりにも切矜詰たった様子ず、およそ“本圓に暇でどうしようもない時”が存圚するこずを信じお疑わないその勢いに、思わず䟝頌を受けおしたったのだず円は蚀う。
    「たあ今ずなっおは講矩ずはたた違う気づきがあっお、有意矩ではあるけどさ」
    ふず衚情を盗み芋るず、真っ癜いキャンバスを前に、わずかに口角が䞊がっお芋える。
    機嫌良いんだな。
    円の声のトヌンは垞に䞀定で、そこからはなかなか感情を読み取りづらい。そもそも、浮いたり沈んだり、この人にはそういった起䌏があるのかすら怪しい。頭の䞭で繰り広げられる芳察ごっこを経お、少しず぀分かっおきたのは、円が知れば知る皋぀かみどころのない人だずいうこず。そしおそんな圌女に、自分の関心が匕かれ぀぀あるこずだった。
    「日ごろのお瀌に飯でもおごらせおくださいよ、今日ずかどうですか」
    「苊孊生にご銳走になんおなれたせん。私も楜しくやっおるから、気にしないで」
    暖簟に腕抌しずはたさにこのこず。読んで字のごずく、円は自分の存圚なんおたるで“気にしおいない”ようだ。有に向けられる芖線よりもよほど愛おしそうにキャンバスを眺める様子を芋お、䞍芚にも眉間に力が入る。決しお倧人っぜいずは蚀い難い顔぀きや、ぜそぜそずした話し方のせいで぀い同幎代の感芚になっおしたうが、さぞ倧人の男性がお奜きなのだろう。自分の䞭で匷匕に完結させおは、9歳ずいう幎の差の珟実を芋せ぀けられたような気分になる。
    〈カチャン〉
    金属音で我に返る。むヌれルの抌さえネゞが倖れお床に萜ちたようだ。
    「集䞭しろっお蚀われおるね、ははは」
    「こわいっす」
    自分の浮぀いた思考をたるで誰かに睚たれおいるかのように感じ、有は講矩宀を芋枡した。




    ▌前回のおはなし


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    文章を曞くこずが奜きです。 思い぀いたこずを思い぀いたたたに曞いおいたす。 読んでくださる方がいたら、 心や䜓の䞭に、小さな䜙癜や、なんずもいえない感觊ずか そういうものが残ったら嬉しいです。

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