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幜霊第4話 村䞊史哉

    あらすじ

    静かに日々を送る絵画講垫・倧野円。ある日を境に、補助ずしお働く矎倧院生・小島有が、圌女のもずに䞍自然なほど頻繁に珟れるようになる。䜕気ない䌚話ず制䜜の時間の䞭で、その振る舞いにわずかな違和感を抱き始める。 やがお、二人の距離や時間の流れにも、説明の぀かない歪みが混じりはじめる。有は、円の知らない“もう䞀぀の芖点”を抱えたたた、圌女のそばに立ち続けおいた。 觊れられないものず、觊れないたたでいるもの。 重なりきらない䞉぀の想いが、過去ず珟圚の境界を静かに揺らしおいく。




    『村䞊 史哉』

    「今日ずかどうですか」
    自分より10歳近くは幎䞋であろう青幎が、円に察しおあからさたな奜意を瀺す堎面を目撃しおしたうずは 。そしおほんの少し口角を䞊げたたた軜快にかわす、円の明らかにそれを認識しおいるような萜ち着き払った声色にも時の流れを感じる。そうか、圌女はもう自分ず同じ幎か。なかなか鈍いずころがあり、自分が興味を持぀もの以倖には極端に疎い、そんな圌女らしさも愛おしく感じおいた。しかしこの5幎の間に、円も圓たり前のように倉化しおいるのを感じ、目が芚めるような気がする。もっずも、自分の堎合は寝るも起きるもないのだが。

    ずにかく淡々ず進む圌女の日垞は、それでいおどこか穏やかな揺らぎがあり、芋おいお飜きるこずはない。やけに起床が早い朝は、芋るからに薄いお茶から始たる。お湯を泚ぐなりそそくさずティヌバッグの糞を䞊䞋させ、あっずいう間に取り出しおしたう。個包装の説明に蚘茉されおいる芏定の時間よりも極端に早いこずは、わざわざ確認しなくおもわかるほどに。湯気がもくもくず立぀マグカップをろくに冷たしもせず啜りだし、「あちっ」ず小さく呟くたでを、日々埋儀に厩さない。消しお急ぐ様子のない瞬きや少ない蚀葉数からのんびりずした印象を持たれやすい圌女だが、時折芋せるせっかちな郚分が盞たるず、その぀かみどころのなさにも拍車がかかる。この5幎ほどですっかり日課ずなった朝のりォヌキングは、決しお運動ず蚀えるほどアグレッシブなものではなく、い぀もがんやりず圌女の䜏む街を眺めるような時間が流れおいる。
    「にしおもい぀の間に党郚刈り取っちゃったんだろ 」
    独り蚀を぀ぶやいお静かに笑う。この川蟺に到着する前に通っおきた公園のこずだろう。ここがバラで埋め尜くされる季節、二人で暪を通るずきは必ずず蚀っおいい皋立ち寄った堎所だ。円は、特に代わり映えのない日垞の小さな倉化を、少し遅れお、そしお少し遠巻きに眺めおいる。察岞のビルの隙間からは朝日がのぞき、倚くの人が通るこの川沿いがほのかに茜色をたずう時間ずちょうど重なるこの時期は、僕の䜓が重く苊しくなる。

    最初にあの青幎の円に察する態床の倉化に気付いたのは、円ず圌が二人でデッサンをするようになっおしばらく経っおからのこずだった。円が「小島君」ず呌ぶその青幎は、ただ孊生ずいう割にはどこかあっさりずした雰囲気があり、自分が孊生だった頃より幟分も萜ち着いおいるように芋える。そんな圌だからこそ、幎盞応かそれよりもさらに若々しい瞳で円を芋぀めた時には、その違いが䞀目で分かっおしたった。䜕床か円を迎えに行ったこのアトリ゚。自分がただ生きおいた頃、所定の䜍眮ずしおいた怅子に腰かけるようにかがむ。ごく皀に、圌女が最埌の退出者ずなり他の職員が皆垰った埌には、こっそり入れおもらい圌女がデッサンする様子をこうしお眺めるこずがあった。今ずなっおは黙々ずデッサンを続ける円だが、ただ新米の講垫だったあの頃、よくレッスンの生埒圹にされおいたのを思い出す。

    「このように、茪郭で切り取らずにいろんな圢の箱で構成しおいくような意識で え、難しい蚀っおるこずの意味わかる」
    「ごめん、ちょっずわからないかも でも倚分円のせいじゃないよ」
    「 あはははっ」

    円が貞しおくれたスケッチブックの巊䞊に申し蚳なさそうにたたずむ、楓の葉のような劙に小さくおいび぀な絵。円先生の声を聞きながら必死で描いたデッサンは、圌女ず自分の間にある人の手を暡った癜い石膏像ずはたるで䌌おも䌌぀かない。
    「倧䞈倫だよ、かわいいかわいい」
    そう蚀いながら涙を流しお笑う円。あいにく、叞曞の仕事に絵心は今のずころ必芁ない。そう心の䞭で呟いお、自分の惚めな萜曞きを眺める。恥ずかしいような、笑い出したいけどなんずなく矞恥心がそうさせないような。そんな居心地の悪さを隠そうずしない僕を芋お、円はさらに笑いがこみ䞊げおいるようだ。たじめに描いたのだから、笑っちゃダメダメ。たしおや自分の緎習に付き合わせおいるずいうのに。きっずそんなこずを考えおは、理性に反しお肩が震えるのだろう。
    「 ちょっず」
    すっかり手が止たっおしたった円をずがめる぀もりで声を掛けたのだが、途䞭で自分が描いたスケッチブックが目に入り、思わず史哉も笑いだしおしたった。
    「ごめん だっおっ」
    こんな絵心のない生埒で本圓に緎習になっおるのなどず僕は䞍満を挏らしながらも、なおも二人の笑い声は止たらず、静かな教宀に響いおいた。
    普段あたり感情の抑揚を倧きく芋せない圌女が、時折こうしお顔をくしゃくしゃにしお笑う時、きっず円のこんな姿を知っおいるのは自分だけだずいう優越感が、静かに胞の内を満たした。䞋手な絵を笑いあっお、䌚話もできない皋に。ただそれだけのありふれた時間。圓たり前の少しも掟手じゃないこの時間は、円ず過ごすだけでこんなにも特別になる。人はこんな颚に満たされた時、その先に思い描く人生が、この時間の延長線䞊にあるこずを望むのではないか。それが目に芋えるように、誓いずいう圢にするのかもしれない。胞の内でこの時が氞遠に続くこずを願っおいたあの頃の感情が、はっきりず再珟される。しかし、心なしか胞が苊しく感じられるのはそのせいではない。間もなく、自分の5床目の呜日を迎えるのだろう。

    「苊孊生にご銳走になんおなれたせん」
    軜やかな円の声が聞こえお我に返る。察照的に、円の斜め埌ろに座る青幎は眉間にしわを寄せお䜕やらご䞍満の様子。食事の誘いを軜快にかわされたようだ。
    青幎の前には手の石膏像なんかよりもよほど難しそうな人物画のデッサン。笑う芁玠などどれだけ探しおも少しもない。
    勘匁しおくれよ、頌むから君はデッサンに集䞭しお 
    思わず圌が描いおいるデッサンを軜く睚み぀けおしたう。
    〈カチャン〉

    青幎はこちらを振り返った。䞀瞬目が合ったような気がしたが、すぐにその芖線は別の堎所に向けられる。
    「こわいっす」
    がそっず呟いお郚屋を䞀通り芋枡しおから、たた黙々ずデッサンに取り掛かったようだった。
    気のせいか
    こうしお圷埚っおいるずそう少なくない頻床で遭遇する「芋える人」。
    圌はそうではなかったようだ。



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    文章を曞くこずが奜きです。 思い぀いたこずを思い぀いたたたに曞いおいたす。 読んでくださる方がいたら、 心や䜓の䞭に、小さな䜙癜や、なんずもいえない感觊ずか そういうものが残ったら嬉しいです。

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