メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【可燃ゴミ】


    俺には生まれてこの方、会ったことも話した
    こともない父親がいる。

    母からもその存在の詳細は、ほとんど知らされてはいない。

    死因は酔って風呂で倒れたらしい。

    警察から連絡を受けた母は、
    「関わりたくない」
    の一言だった。

    数日後、俺の元に役所から遺品引き取りの通知が届いた。

    特に感情の変化はなかったが、父を亡くしたという事実だけが、妙に引っかかった。

    役所から届いた通知を手に、ある駅前の古びた不動産屋へ向かった。

    無表情の店員が錆びついた古い鍵を差し出した。
    俺が訪れたのは父が住んでいた、町の外れにある、西日の差す古いアパートの二階。

    扉を開けると、この部屋に漂う空気の湿りが、俺の体を通り抜ける。

    部屋へ入ると、古い畳が敷かれていた。
    歩くたび、沈み込む足の裏に気持ち悪さが染み込んだ。

    あまり生活臭がない部屋の真ん中にちゃぶ台がある。
    その上に一通の茶封筒だけが、綺麗に置かれていた。

    表面には、俺の名前が見苦しい字で書いてある。
    持ち上げると、異様な重さが手のひらにのしかかった。
    糊付けされたそれを指でちぎり取った。

    中には、写真二枚と、便箋一枚が入っていた。
    一枚目の写真には、顔の写ってない、誰かの腕に抱かれた、生まれたばかりの俺が写っていた。

    もう一枚は、ようやく歩いた頃の、後ろ姿の俺だった。

    便箋は色褪せており、広げると、茶封筒と同じ見苦しい文字の羅列が目に入った。



    『生まれたのは男なのか。なんだこの砕けそうな体は。
    こんな奴のために働く気は一ミリも無い』



    『俺はコイツをこの手で、生涯、抱くことも触ることもない。この先の母親役もご苦労だな、俺には関係のない話だがな。』



    (ここから筆致が変わり、さらに乱れた文字で)


    『この手紙を読んでどんな気分だ。少しは期待したか、今でも踏み潰してやりたいぜ、お前の絶望に歪む顔が見れないのが悔しいがな。』



    俺は少し間を置き、写真と便箋を茶封筒に丁寧に仕舞い込み、薄っすら息を吐く。




    「……そうだよね……父さん。」




    ゆっくり天井を見上げる。




    「思った通りだったよ。あんたが一番の理解者だ。」



    俺はポケットの中から、自治体指定の可燃用ゴミ袋を広げた。


    服を脱ぎ、靴下を脱ぎ、生まれたままの姿になると、片足、もう片足と、ゴミ袋の中に入り、内側からゴミ袋を結び、膝を抱え、小さく身体を閉じた。





    『明日は、可燃ゴミの日だな』



    ーーーーーーーーーー



    右、左シリーズ 世の中ってそうなんだ!👇

    あなたへのおすすめ