
【巨匠たちの未翻訳】『カズオ・イシグロ海外未翻訳インタビュー④ 言葉の橋を架けること――世界の巨匠が見据える、物語の未来(完結編)
これまで全4回にわたってお届けしてきた【カズオ・イシグロ:海外未翻訳インタビュー編】も、ついに今回で最終回となります。
翻訳ライターのJです。
ラストとなる今回は、彼がノーベル文学賞を受賞した際にも語った、作家としての究コーのミッションである「異なる文化の間に、言葉の橋を架けること」への想いを紐解きます。
なぜ私たちは、生まれも育ちも異なる海外の作家の言葉に、これほどまでに救われるのか。
そして、海外に埋もれた言葉を日本語に翻訳して届けるこのアカウントが、これからどこへ向かおうとしているのか。 巨匠が海外メディアのラストインタビューで語った、未来への希望に満ちた言葉を、丁寧な翻訳とともにお受け取りください。
壁を築く世界の中で、文学が果たすべき役割
近年、世界は政治的にも経済的にも、分断や対立が目立つようになっています。 お互いに見えない「壁」を築き、他者を拒絶しようとする時代の中で、イシグロ氏は「言葉」が持つ可能性を信じ続けています。
(イシグロ氏の発言:海外インタビューより翻訳)
「世界が分断に向かうとき、小説や物語は、その壁の下をくぐり抜ける『秘密のトンネル』になることができる。 良い小説を読むということは、自分とは全く異なる環境で生きる誰かの頭の中に潜り込み、その人の目を通して世界を眺め、その人の胸の痛みを自分のものとして感じる体験だ。それは国境や文化、言語の壁を一瞬で飛び越えてしまう。 我が物語を書くのは、人々の間に『言葉の橋』を架けたいからだ。遠く離れた場所にいる見知らぬ誰かと、『私たちは同じ人間として、同じように喜び、同じように傷ついているのだ』という静かな連帯感を共有したいんだよ」
彼が海外の小さなインタビューで語ったこの言葉は、まさに私がこのアカウントでやりたかったことそのものでした。
海の向こうで巨匠たちがポロリと漏らした美しいテキストや、まだ見ぬ思考の数々。
それらを日本語という橋で繋ぐことで、日本のファンのみなさんの世界が少しでも広がったり、心が軽くなったりする場所を作りたい。
その想いが、この活動の原動力です。
「カズオ・イシグロ:海外未翻訳インタビュー編」を終えて
全4回にわたるイシグロ氏の旅、いかがでしたでしょうか。 5歳で凍結された「母との日本語の記憶」が彼の文体の根底にあり、村上春樹氏とは異なる「自己欺瞞の暗闇」を見つめ、世界の残酷さを認めた上での「静かな諦念と愛」を描く――。
作品の背景にある彼の生々しい肉声を知ることで、次に彼の小説を開くとき、物語の見え方がガラリと変わるはずです。
これほど濃密な知の財産を、みなさんと共有できたことを心から嬉しく思います。
さて、本連載のなかで少し触れた「村上春樹氏との決定的な違い」について、多くの反響をいただきました。
音楽をこよなく愛し、作品のなかに美しく溶け込ませるという点において、二人の巨匠は非常に似ています。
しかし、その決定的な違いは、音楽を「物語の背景」とするか、それとも「不完全な人間たちが言葉の代わりに心を交わす『橋』」とするか、にあります。
イシグロ氏にとって、音楽は文学そのものなのです。
だからこそ、次回から始まる新連載【幻のジャズ作詞集編】では、彼が言葉にメロディを纏わせることで、村上春樹氏とはまったく異なるアプローチでいかに人間の本質を描き出そうとしたのか、その核心へと迫っていきます。
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【新連載予告】次なる旅へ:カズオ・イシグロ・幻のジャズ作詞集編
カズオ・イシグロという男の底知れぬ魅力は、小説だけにとどまりません。
実は彼は、世界的なジャズ・シンガーであるステイシー・ケントのために、長年にわたって数多くの美しい「ジャズの歌詞」を書き下ろしている作詞家(言葉の職人)でもあるのです。
「ノーベル賞作家が、メロディに乗せて放った未翻訳の言葉とは一体どんなものなのか?」 彼がメロディに乗せた未翻訳の言葉たちを、Jの独自の翻訳と解説でどこよりも深く紐解きます。
ここからはいよいよ、Jの本格的な新しい挑戦(応援価格での有料投稿メンバーシップ)が始まります。 世界の巨匠の、まだ見ぬ音楽の旅へ。
新シリーズは、毎週【水曜日or木曜日の20:00頃】1回目は無料記事として投稿、2回目以降はメンバーシップ限定の記事とさせていただく予定です。