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『来たれ!青藍高校マン研部!!』第二話:いつもの、ランチ

    百字八重(ももじやえ)

    「――おい、おいってば、光。聞いてんのかよ。」
    「あ?…ああ…。」
     気づくと潮うしおが、カニクリームコロッケらしきものを箸で持ち上げながら、こちらに視線を投げていた。
    「そーゆーとこなんだよな、光。」
    「何が。」
     三階建ての校舎の階段下の空間で、膝を突き合わせながら弁当をかっこむのは、四月の中旬に潮と知り合ってからの日課になっている。
    「ぼーっと宙を眺めたりしてるところが、たまんねーんだとよ。」
    「誰が言ってんだよ。」
    「クラスの女子が。」
    どう答えろと言うのか。
    「えっ、マジで?」
    「ばっか。真に受けんなっつーの。」
     真に受けるも何も、実際クラスの女子がそう噂しているのは知っているし、それどころか先日、隣のクラスの女子に告白もされた。余計な嫉妬を買うのは嫌なので潮には黙っているが、大体、そもそも、入学して知り合いもしてないのに一ヶ月で告白に踏み切る頭を疑いソッコーで禍根を残さぬよう丁重に断ったのだっけ。
     勿論、宙を眺めるのは誘っているからでも、ミステリアスな男を演じているからでもなく、日々の平穏を噛み締めているだけなのだが、おそらく同年代でこの感覚に共感を覚える奴の方が珍しく、まぁそいつは十中八九、想像力がたくましい類の奴なので俺の方からは共感の対象にはならず、ましてや目の前でカニクリームコロッケらしきものを美味そうに頬ばっている柔道馬鹿の潮のような奴には無縁の感情なので、一々説明する気もなく、よって毎度のように通り一遍の返答をしてお茶を濁すのだが。
    「うっせーわ。」
    と、このように。
     しかし、目の前にいる奴が、気づけば宙に目をやり上の空というのは、それを目にする奴からすれば、大体が無視されたように受け取り不快感を感じる動作には違いない。
     気をつけなければ――。
     潮は数少ない、他でもない俺の友人だ。
     二度と大事な人を目の前で失うような事態には陥りたくないーー。
     潮は、こんなに臆病な俺の実態を、おそらく知らずに一生を終えるが。
     それでいい――。
    「光!」
     ――しまった。
     またやってしまった。
    「ごめ、ぼーっとしてた。何々、マジごめん。ちょっと今、家で色々あってさ。」
     嘘は言っていない。
     長期的にみれば真実だ。
     しかし、度重なる実態を演じてからの言い訳というのは、いかにも見苦しい。
     俺は今度こそ、目の前の潮の一挙手一投足に注意を向ける。
    「お前さ、部活どーすんのって聞いたの。聞いとけよ、マジで。」
     ああ、そうだった。
    「マジ、ごめん。」
     そうだった。俺等、新入生は、五月の大型連休が始まる前までに、今後三年間、世話になる部活を決めなければならないのだった。
     潮は迷うことなく柔道部を選んだが、果たして俺はーー。
    「もう決まってる。マン研。今日、入部手続きしやうかなーと思って。」
     これも真実。
    「マン研?マジかよ!マン研て、いわゆる『マンガ研究会』ってやつ?え?マジで?マジで言ってんの?えっ?えーっ?」
     なんとも潮らしい反応だ。
    「うっせえよお前。言ってなかったっけ?俺の伯母がそこの顧問やっててさ。どーせどこにも入る気無いだろうから私の部に入りなってうるさくて。」
     これは事実だ。
    「へーえ。大変だな、光も。」
     まるで同情のかけらも感じられない潮のセリフに「うっざ!」と一言返し、それ以上興味も湧かなかったのか、二の句を流した潮に任せ、俺たちの話題は今流行りの音楽へと移っていった。


    『『来たれ!青藍高校マン研部!!』第一話:はじまりの、朝|くさかはる@五十音 (note.com)


    『来たれ!青藍高校マン研部!!』第三話:いざ、マン研部へ!|くさかはる@五十音 (note.com)

    『来たれ!青藍高校マン研部!!』第四話:自己紹介|くさかはる@五十音 (note.com)

    『来たれ!青藍高校マン研部!!』第五話:俺の、自己紹介|くさかはる@五十音 (note.com)

    『来たれ!青藍高校マン研部!!』第六話:俺の入部|くさかはる@五十音 (note.com)

     
     
     
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