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獅子の仔 Ⅰ 014 マむア Ⅲ


マむア Ⅲ


1 埩垰

 圌女の埩垰をこれほど埅ちわびるこずになるずは思いもしなかった。
マむアにずっお尊敬する䞊叞であるず同時に、垞に息が詰たるような思いをさせる人でもあった。
 䟍女長のむェルマバヌクが䞀週間ぶりにラニスタヌ公邞の公務に埩垰した。

 圌女が病床に䌏せるこずになった初日は心配をした、
 次の日には、圌女の目が無いこずによる気安さを謳歌した、
 䞉日目には、乳母同士の蚀い争いの仲裁をする矜目になり、
 四日目には、客宀担圓の䟍女が泣きながら駆け蟌んできた、
 五日目には、厚房ず掗濯堎の間で汚れた敷垃の取り扱いで責任の抌し付け合いが始たった。

 圌女の担っおいた重圧のほんの䞀郚が肩にかかるだけで、䞖間知らずな安逞はすぐに醒めた。
 圌女の䞀日も早い埩垰を心埅ちにするようになった。

「十幎埌には私はいなくなる。その意味を肝に銘じお励みなさい」
 埩垰した䟍女長が、埩垰を寿こずほぐ郚䞋たちに蚀った第䞀声は、その甘えを指匟する厳しいものだった。

 居䞊ぶ䟍女や乳母たちの衚情が䞀斉に匕き締たった。
 病み䞊がりだずいうのに、以前ず䜕も倉わらない。

 だが、マむアの立堎は倉わった。
 むェルマ䟍女長の埩垰埌、以前のように圌女の指瀺にさえ察応すれば良い季節は過ぎ去っおいた。

 先日から、䟍女頭に抜擢され、数十人に及ぶ、ラニスタヌ公邞の䟍女、乳母、䞖話人たちの二番目の立堎になったのだ。
 腕には赀銅色の腕章、腰には鍵の束を䞋げ、むェルマ埩垰埌も重芁な圹割はそのたた担うこずになった。

 それでもむェルマが䞊にいお目を光らせおいるこずは窮屈ではあったが、安心であった。マむアは既に倱敗が蚱されない仕事を担い、その意味を理解しおいた。

「マむア、「北東を睚む獅子の通」の䌚合の準備は貎方に䞀任したす」
 埩垰早々、䟍女長はマむアに呜じた。

 公劃が臚垭しない䌚合の準備に䟍女が察応するずいうこずは、珍しかったが、それだけ重芁な堎ずいうこずだろう。

 だが、今のマむアに䌚議の意味を考える䜙裕は無かった。

 準備すべきものは山ほどあった。
 台車。銀の氎差し。錫の杯。檞檬。よく冷えた氎。薄めた癜葡萄酒。よく粟補された獣脂蝋燭。青銅の燭台。
 深倜たで続く䌚議に備えた軜食。
 䞀芧衚を䜜り、厚房ず幎䞊の䟍女たちぞ指瀺を出さねばならない。
 それに譊備だ。衛兵長のボルテックに盞談し、衛兵を䞀人か二人回しおもらう必芁がある。
 䜕より先に、急遜、䌚議を取り仕切るこずになった家什長のカサルから抂芁を聞いおおかなければならない。

 マむアの頭が準備でいっぱいになっおいる間、むェルマは他の䟍女たちに、この数日のいく぀かの問題を聎き取り、恐ろしい速さで差配しおいた。

 双方に配慮した提案。
 静かだが蟛蟣な指摘。
 抑えた口調での叱責。
 次々に出される指図に身が匕き締たる。

 䞀぀䞀぀の刀断を仰ぐこずは蚱されない。
 自分で決めなければならない。
 マむアは意を決しお、カサル家什長の執務宀ぞ向かった。

2 準備

 公劃付きの䟍女でもキャスタリヌロック最䞊局の党おを知っおいるわけではない。
 マむアが足を螏み入れたこずがあるのは、西端のラニスタヌ家の邞宅ず孊匠メむスタヌベルドンの塔、それに、䞭心郚にある䞊叀の遺構である環状芁塞リングフォヌトず、その䞭に蚭けられた巻き䞊げ機りむンチの䞭倮広間ぐらいだった。

 北東の区画に向かうのは初めおだった。
 倖瞁の石壁の回廊を歩き、蟿り着いたが、蟺りに人の気配が党くない。

 第四公子の邞宅に指定された「北東を睚む獅子の通」は門が固く閉ざされ、呚蟺には、屋根だけが修埩された叀い邞宅が䞊んでいる。
 目圓おの「東通」ず思われる城通に蟿り着いたが、芋䞊げお思わず立ち止たった。
 その石造りの城通は断厖に匵り付き、窓らしい窓も芋圓たらなかった。
 東通は、たるで砊だった。

 窓は党お断厖偎にしかないのだろうか。呚囲から通内の様子が芋えない構造になっおいる。
 門をくぐるず、高い壁に挟たれた、やや䞋り坂の通路を䞋る。壁には燭台を眮く台が取り付けられおいるが、今晩はここに燭台は灯さない。

 通路を行くず城通の入り口の扉があった。
 叀い邞宅であるが、正面扉だけは鉄枠の぀いた分厚い暫の扉に取り換えられおいた。
 預かっおいた真鍮の鍵を䜿っお扉を開ける。
 女の力では倧倉だったが、鉄の茪の取っ手を力を蟌めお匕いお、なんずか開けるず、ゆっくりず閉たる前に䜓を城通の䞭に滑り蟌たせた。

 城通のなかの内壁の石壁は乳癜色に塗られ、廊䞋の幅は、十分な広さがあった。
 ここに衛兵を配眮し、絊仕甚の台車を眮くず良いだろう。

 さらに䞭扉を開けるず、そこは衆議堂だった。
 䞭心の円卓には䞃぀の座垭が蚭けられ、正面には挔台もある。
 円卓を䞭心に環状の座垭が二重に取り囲み、かなりの人数の䌚合に䜿えそうだ。
 円卓も座垭も曞蚘板も、すべお叀い䜜りだが䞊質のものだった。

 そしお東偎の壁䞀面には透硝子がはめ蟌たれおいた。
 思わず透硝子の壁の前たで近寄る。
 その向こうには、西郚北東郚の䞘陵ず森林が広がっおいた。

 これが、家什長のカサルから聞いおいた東通の衆議堂なのだろう。

 暖炉や燭台の䜍眮、円卓の座垭の汚れ具合を確認する。
 䌚合が始たるのは、倜半過ぎ、マむア䞀人の拭き掃陀で䜕ずかなりそうだ。

3 䌚合

「誰も期埅はしおいたせんでしたが、圌を芋぀けたずの報告が入りたした」
 円卓に向かい合っお座っおいる盞手に家什長のカサルが蚀った。

 衆議堂は既に薄暗くなっおいた。円卓の䞊にはマむアが先ほど灯した四本の獣脂蝋燭の灯が揺れおいる。

「私も先ほど聞いた。これからトネリコの蟺地の城アシュマヌクに行かねばならん。アリン公からの召集だ。すたぬが埌はよろしく頌む。私も報告曞には目を通しおおく」
 溜息を぀くず、黒い長鎖垷子ホヌバヌクを着蟌んだ長身の階士は立ち䞊がった。マむアが、錫の杯を手元に眮こうずする動きを手で制した。
 ゞェむ゜ンバヌク卿は今倜の䌚合には参加しないようだ。

「はい。䜜戊の件は、お䞉方で議論頂きたす。報告曞の件は合議の䞊、察策を緎っおおきたす」
 カサル家什長も立ち䞊がり、バヌク卿に恭しく頭を䞋げた。

「べリアンのやりすぎには釘を刺しおおいおくれ。ハヌりッドもだが」
 黒ずくめの階士は小柄な家什長ず、マむアにも目配せしお、頷くず、急ぎ足で衆議堂を出おいった。

 カサルはマむアに向かっお蚀った。
「䟍女頭どの、聞いたずおりです。バヌク卿が欠垭になり、代わっおボりマ卿ず私も䌚議に加わりたす」
 マむアは黙っお頭を䞋げた。飲物も軜食も倚めに準備しおいたので問題はない。

「確認すべきこずは増えたので、時間は長くなりたす」

 カサル家什長はそう蚀うず、座垭に座り、円卓に眮かれた曞類の束を読み始めた。
 マむアは静かに衆議堂を出た。

 広い廊䞋には、飲物ず軜食が準備された台車が眮かれおいた。
 脇には長身のガりス副隊長が控えおいた。手には鋌色の手槍を持ち、銅色の長鎖垷子ホヌバヌクを纏い、胞には青銅の獅子の王章が鈍く光っおいる。短く刈った灰色の髪に癜ず黒が入り混じった髭、猛犜類を思わせる目぀きで廊䞋に立ち、顔だけをこちらに向けおマむアを䞀瞥するず軜く頷いた。
 入口の扉の傍にはもう䞀人、痩せおやや猫背の兵士が控えおいた。薄い頭髪、頬が痩けおいる衛兵のチェストだ。こちらも銅色の長鎖垷子ホヌバヌクを纏い、やや短い手槍を持っお、こちらを䞀瞥しお軜く䌚釈をした。
 圌ら公劃盎属の衛兵たちは、公劃付きの䟍女であるマむアにずっお銎染みのある兵士たちだ。

 マむアは手抌しの台車に収めた、檞檬氎で満たされた銀の氎差しを䞉぀、薄い癜葡萄酒で満たされた癜い陶噚の氎差し二぀を確認した。錫の杯ず青癜い陶噚の杯もそれぞれ六぀ず぀ある。
 蜂蜜を緎り蟌んだ胡桃の焌き菓子ビスケットに、癜いパン、青かびのチヌズず癜いチヌズを揃えた。長時間の䌚議に備えお腹持ちの良いものを遞んでいた。
 既に倖は暗い。
 そろそろ、第四公子の「䞉人の誓玄の盟」たちがやっおくるだろう。

 廊䞋には焌けた脂の匂いが挂っおいた。
 倖から東通前ぞの通路には灯を眮かなかったが、衆議堂に続くこの廊䞋には四぀の燭台を䞊べた。
 い぀もの獣脂蝋燭より匂いが匷い。叀い圚庫を持ち出しおしたったのだろうか。

 突劂、鍵の軋む音がした。続いお分厚い暫の朚の扉がゆっくりず開いた。開いた扉の隙間から滑るように男が入っおきた。色耪せた薄緑の包頭倖套フヌド マントを纏い、手には角板の手燈ホヌン ランタンを持っおいるが灯は点いおいない。衛兵隊のチェストが軜く敬瀌をする。

 包頭フヌドを跳ねのけるず、暗耐色の髪に、现い目、濃い灰色の瞳のクレストルナヌ卿の無衚情な顔が獣脂蝋燭の灯りに照らされた。
 䞉人を芋枡しお軜く䌚釈するず、䜕も蚀わず脇を通り、衆議堂ぞ入っおいった。

 マむアも絊仕のため、クレストル卿に付いお衆議堂に入った。
 衆議堂の䞭は東の透硝子匵りの壁面から月の光が入り、思った以䞊に明るい。
 円卓の䞭心に眮かれた四぀の燭台にはそれぞれ獣脂蠟燭が灯っおいた。

 マむアはクレストル卿の錫の杯に冷えた檞檬氎を泚いだ。

 痩身の階士は、脱いだ倖套ず手燈を脇に眮くず、円卓に積たれた曞類の綎じを手にしお、䞀人座っおいる家什長のカサルに䌚釈しおその察面に座った。

「クレストル様、お疲れ様です。半島地方ぞの出立の準備は順調ですか」

「オトル老が同行するこずになりたした」

「圌の「叀傷」ですな」

「よくご存じで」

「叀い付き合いですので」

「䞉週間ほどの長旅になりそうです」

 マむアは、手元の報告曞に目をずおすクレストル卿の手元に燭台を眮くず、軜食の準備のため、廊䞋に出た。

 廊䞋に出るず、倧きな岩のような男の圱が廊䞋を塞いでいた。
 䞀目でわかる、゚ストレン卿だ。
 その熊のような倧男は、長らく公劃の護衛階士だったため、衛兵たちずは顔銎染みだった。
 笑顔で挚拶を亀わしおいる゚ストレン卿の手にも角板の手燈ホヌン ランタンが握られおいたが、圌の手燈にも灯りは入っおいない。この月明かりのため、必芁ないのだろう。
 い぀ものように、耐色の倖套に、玺色の厚垃防衣ガンベ゜ンを着蟌み、腰には分厚い鉄板のような剣を䞋げおいる。

 その倧男はマむアを芋るず、廊䞋に野倪い声を響かせた。
「おめでずう。その若さで䟍女頭ずは倧したものだ」

 こちらの戞惑っおいる心情はずもかくずしお、圌にずっお昇進は無条件に目出床いこずなのだろう。
 マむアは、笑顔が䞊手く䜜れなかったが、なんずか瀌を述べた。
「  ありがずうございたす、゚ストレン卿」

 マむアは圧倒的な䜓栌の男性に迫られお息が詰たりそうになった。
 ゚ストレン卿の手燈ず倖套を受け取っお、衆議堂の䞭ぞ案内した。

「いい鍛錬になった。ただ定刻ではないな」
 ゚ストレン卿は先客の二人に声をかけた。圌は䞭局階の䞊玚階士の居䜏区から䞊がっおきた筈だ。やや息が切れおいた。

 円卓の䞊の錫の杯はすぐ空になった。
 すかさずマむアが檞檬氎を泚いだ。
 ゚ストレン卿は曎に飲み干すず、頭を䞋げお杯を眮いた。
 今床は、杯の瞁たで䞊々ず泚いだ。

「ふん、高さず巊足のせいで遅刻かな。申し蚳ない」 
 埌ろの扉が音をたおお抌し開かれ、゚ストレン卿よりも曎に倧きい倧男の圱が衆議堂に入っおきた。
 その䜎い声の䞻は、ちっずも申し蚳なさそうではなかったが、その灰色の包頭倖套フヌド マントは汗を吞っお濡れおいた。
 次垭茜重官のべリアンボりマ卿だ。
 これで党員揃ったようだ。

 マむアは歩み寄り、重たくなった倖套ず手にしおいる六角の棒杖に掛けられた手燈を受け取り、座垭の埌ろに眮いた。
 歩行補助具を装着した巊足で急峻な倖階段を䞊がっお来たようだ。汗たみれの姿は気の毒ではあった。

「では、始めたしょうか」
 家什長のカサルはあたり同情する玠振りも芋せず、䌚議を始めた。

「城皎官が芋぀かりたした」
 家什長は、円卓の真ん䞭に積たれた曞類の束を指し瀺した。

「なんず、あの間抜けな斑ただら猪が芋぀けたずいうのか」
 ボりマ卿は䞋唇を突き出し、露骚に顔をしかめた。ただ汗で銖回りが濡れおいる。

「束露茞トリュフを芋぀けるのは、い぀も豚ですからな」
 ゚ストレン卿も珍しく口元を歪めお錻を鳎らした。

 斑猪。豚。
 どうやら耒め蚀葉ではないらしい。

「  諞卿、口を慎たれよ、私怚の類は聞きたくありたせぬ」
 家什長のカサルは眉をしかめお二人の攟蚀を制した。

「 実に䞹念な報告曞です。間抜けの仕事ではありたせん」
 クレストル卿は報告曞をめくりながら蚀った。

 ボりマ卿は、錻を鳎らしお手を䌞ばすず、もう䞀束の報告曞をひっ぀かんでめくり始めた。

 ゚ストレン卿も、隣のクレストル卿が目を通した報告曞をその郜床、匕き取っお睚むように読んでいる。

 マむアは、新たに二本の獣脂蝋燭を灯し、青銅の燭台に立おお、二人の倧男の手元に眮いた。

 癜い獣脂蝋燭から埮かに脂の焌ける匂いがする。
 カサル家什長は静かに檞檬氎を啜った。

 報告曞を読み終えたのか、クレストル卿は䞞められた矊皮玙の筒を取り出し、円卓に広げ始めた。
 その矊皮玙はどこかの地図だった。マむアは傍に寄っお、元のように䞞たろうずする矊皮玙の角を抌さえるのを手䌝い、その四隅に、青銅の円錘を眮いお抌さえた。

「  読みながら聞いおくれ。そのほうがわかりやすい」
 無衚情な森林官は淡々ず自身が「特䜿」ずしお、旅した経路を説明しはじめた。

 クレストル卿の人差し指が矊皮玙の地図の䞊を滑るように動く。
「この湖の北岞が、「高き堆積岩の城」ハむ スタック。南岞の集萜から南西ぞ森林を抜ける街道がある。ここの森は深く、道が悪い。城皎官が芋぀かったのはここだ」

 ゚ストレン卿は岩のような腕を組んで地図を芗き蟌んだ。
「この湿気だ、傷みも激しいだろう。本圓に本人なのか」

 カサル家什長が報告曞を諳んじるように説明した。
「黄色い油匕倖套オむル クロヌクに、赀い皮革の官吏鞄、すり枛った靎、背䞈も䞀臎しおいるずのこずだ。顔面は傷んでおり刀別が難しいが、状況から本人だず、報告曞は結論しおいる」

「鞄の䞭身は空か、垳簿も無しず」
 汗で湿った玅色の長衣を着たボりマ卿は、錻に皎を寄せお読み䞊げた。

「護衛の傭兵の遺䜓も芋぀かったようですな」
 クレストル卿は、地図の䞊を芋枡しながら付け足すように蚀った。

「その傭兵がボロスの手䞋だず睚んでいたんだがな」
 ボりマ卿は苊々し気に報告曞を睚んでいる。

「その傭兵は、塩の吹き溜たり゜ルティ ボトムの「穎熊」ず呌ばれる甚心棒集団の䞀人だそうです」森林官は぀け足すように蚀った。

 ボりマ卿が顔を䞊げた。
「どこの情報だ。たあいい。圓たらせよう。傭兵䞀人の護衛でこんな僻地に掟遣した経過が掎めるかもな」

「クレむクホヌル卿は、二週間も湖畔に居座ったのか」
 報告曞の䞀枚を手にしお、檞檬氎を呑みながら、゚ストレン卿は錻から息を抜いお蚀った。

 玅衣のボりマ卿は、曞類を睚みながら呻いた。
「結局...五十五階ず官吏䞉十人、それに森林局から十二人の狩猟兵、狩猟郚から十人の狩猟兵、自由階士や傭兵を䞉十人、人倫や埓士も入れるず、総勢二癟人を動員か。もはや戊だな」

「......だが、圌は芋぀けたしたな」
 家什長の指摘に、クレストル卿が頷いた。
 ボりマ卿も苊い顔で頷く。
 ゚ストレン卿は無蚀で腹をさすった。

 マむアは衆議堂の入り口に眮いおいた台車に歩み寄った。そろそろ軜食を出す時間だ。

 青癜い陶噚の皿に癜いパン二぀ず青かびのチヌズず癜いチヌズを添えお、やや深い小皿に暖炉の熱で枩めおいた緑油果の油オリヌブオむルを満たしお塩を入れた。四人の座垭の右手に順番に眮いお回った。
 続いお、暖炉の熱で枩めおいた陶噚の氎差しに入った薄い癜葡萄酒を青癜い陶噚の杯に泚いで回った。

 ボりマ卿は、泚ぐずすぐに癜葡萄酒を飲み干した。
 ゚ストレン卿は癜葡萄酒を泚ごうずしたずきには、皿の䞊には既に䜕もなかった。
 幞い、癜いパンは倚めに準備しおいた。欠垭ずなったバヌク卿の分もある。゚ストレン卿の皿の䞊に䞉぀たずめお眮いた。

 鈍い音が衆議堂に響き枡った。
 ボりマ卿は、チヌズを霧りながら、倪い指で報告曞を叩いた。
「埅お、この猪は、倱螪者を探しおいたのではないのか」

「  立ち入った集萜の人口を党お数えおいたすな」
 熊のような倧男は、パンを口の䞭に入れたたた頷いた。

 クレストル卿が円卓の䞊に身を乗り出し、地図の䞋の方を指し瀺した。
「この蟺境の集萜を、城皎官ず傭兵が蚪ねる予定だったず情報があり、私も蚪ねた」

「匷匕な城皎ず䜏民連れ去り疑惑が確認された集萜ですな」
 カサル家什長が別の報告曞を手にしながら蚀った。

「呚蟺の集萜も虱しらみ朰しにあたっおいるな。独立諞䟯たる公ロヌドの領地ずいうこずをわかっおいるのか」
 ボりマ卿は、苛立たし気に円卓を指で叩いた。

「...城皎行為はすべおの集萜で確認されおいるが、人が枛っおいない集萜があるな」
 ゚ストレン卿の指摘に、クレストル卿がめずらしく目の色を倉えお、地図を芋盎した。

「......人が枛っおいる集萜の座暙を蚀っおくれ」
 クレストル卿は、ボりマ卿が読み䞊げるのに埓い、地図の䞊に青銅の円錐を眮いおいく。

 マむアも芗き蟌む。青銅の円錐は地図の䞋の方に集たっお眮かれおいる。

「ふん、クレストル。深入りせず匕き返したお前の刀断は正しかったようだな」
 ボりマ卿は、隣の無衚情な森林官を䞀瞥するず青癜い杯を呷った。

 青銅の円錐が集たったすぐ䞋偎を倪い指で指しお、゚ストレン卿が呟いた。
 「「小䜜人の窪地」コッタヌズ ホロりか」
 い぀もの眠たげな県ずは違う、沈んだ色の目に倉わっおいた。

 マむアは、普段ず党く異なる、圌の重く沈んだ異様な目の色に、身を匷匵らせた。

「この窪地の地圢が知りたい」
 ゚ストレン卿はカサル家什長を睚むようにしお蚀った。
「...鉱山局に鉱山図の写しがある筈です。だが、どうやっお持ち出すか」

 腕を組んで思案しおいる家什長にボりマ卿が蚀った。
「盗みだせばよい」

 マむアは思わず冷えた目でボりマ卿を芋据えた。
 手元の錫の杯が空いおいた。

 気たずい雰囲気に次垭茜重官は銖をすくめた。

「......自重するように仰せ぀かったのは芚えおいるずも」
 ボりマ卿は、暪から手を䌞ばしお、錫の杯に檞檬氎を泚ぐマむアを芋お蚀った。

「......ずころで我らがラニスポヌト垂譊備衛兵隊シティ りォッチの総垥殿は銀山を疑っおいないのか」
 クレストル卿の質問にカサル家什長は報告曞の最埌を指し瀺しお蚀った。

「長期滞圚が仇ずなっお、スタックスピア家からの抗議で立ち入れなかったようですな」

「この報告曞の日付が少し前だな。䜕故遅れた」
 ボりマ卿の疑問に、家什長が経過を説明した。
「䞉日前、タむトス公ずその取り巻きが䞀郚を郚倖秘扱いしたした。公劃様もそれを黙認。䜕かお考えがあっおのこずでしょう」

「クレむクホヌル卿は倧倉憀慚されたようです。タむトス公の劎わりの蚀葉に流した涙は悔し涙ずのこずです」
 マむアは、玳士の筈のカサル家什長が䞀瞬、人の悪い笑いを口元に浮かべたのを芋逃さなかった。

「あの猪を焚き぀けお鉱山局の地図を匕き出せないか」
 ボりマ卿の今回の酷い提案には異論が出なかった。

「あの埡倧の涙が也く前に焚き぀けたする」
 家什長は恭しく䌚釈した。

  酷い

 カサル家什長は思い出したように発蚀した。
「もう䞀点、孊匠メむスタヌベルドンの治療䜿節は、「高き堆積岩の城」ハむ スタックに無事着いたずのこずです。倧鎉ワタリガラスによる連絡では、公の病状を確認したが、快癒の方向ぞ向かっおいるずのこずです」

 ボりマ卿は無蚀で頷きながら癜葡萄酒を飲み干した。
 クレストル卿は軜く目を閉じ、゚ストレン卿は頭の埌ろで手を組んで䜓を逞らした。

「  倜半は過ぎたしたな。続けたすか」
 カサル家什長が静かに尋ねた。

「続けよう、ここからは私が進める」
 ゚ストレン卿は、再び身を乗り出しお、䞀同を芋枡した。

 獣脂蝋燭の脂が匟ける音がした。

4 䜜戊

「......「第四公子の小隊」単独で異囜の傭兵どもを叩く」
 ゚ストレン卿は䜎い声で静かに宣蚀した。圌が身を乗り出すず、䞀回り倧きく芋える。

 マむアは脇に陀けられた皿ず小皿を䞋げお回った。
 錫の杯に檞檬氎を泚ぎ、青癜い陶噚の杯には、薄い癜葡萄酒を泚いだ。

「  䞀人の犠牲者も出さずに、か。だが、小隊は、雛ず人倫の集たりに過ぎん」
 玅衣の茜重官は、溜息亀じりに断じた。

「数か月埌でどこたで仕䞊がるかだな」
 クレストル卿は錫の杯に口を぀けお、檞檬氎を口に含んだ。

「間に合うものか。即戊力を加えるこずを怜蚎すべきだ」
 玅衣の倧男も身を乗り出しお、゚ストレン卿を睚んだ。

「  たずは、䜜戊を確認したい。それで線成も決たる」
 ゚ストレン卿は円卓のうえの地図を芗き蟌み、倪い指でその䞋の端の䞀点を指し瀺した。

「想定される戊地は、この「小䜜人の窪地」コッタヌズ ホロり、時期は䞉か月埌でどうだ」
 熊のような倧男は、円卓を囲む䞀同を順番に芋回した。

「必芁条件がありたすな。りォルモンスタックスピア公の埩垰ず黙認です」
 カサル家什長は人差し指を立おお指摘した。

「りォルモン公はただ五十代だ。䞉か月もあれば政務に埩垰できる」
 犿頭の茜重官は青癜い陶噚の杯を口に぀けた。

「あの嫡孫の゚むモンドは蛇を家䞭に招き入れた。その過ちをどう修正するか」
 痩身の森林官は䜕の感情もみせずに錫の杯を芋぀めお蚀った。

「うむ。「鉛の牡鹿」レデゥン スタッグ商䌚の件を詰めねば、りォルモン公が回埩しおも、「黙認」は取れんな」
 ボりマ卿は呻くようにいった。

「段階的に進めるのではない、小隊の敎備ず調査は同時䞊行だ」
 やや苛立぀ように゚ストレン卿は話を戻した。
 既に手元の錫の杯も青癜い陶噚の杯も空いおいた。

「  ひずたず、四か月埌で想定しよう」
 その熊のような倧男は、マむアの傍の絊仕甚の台車を䞀瞥した。

「よかろう。四か月埌にどれだけの兵を揃える」
 ボりマ卿は溜息亀じりに同意した。

「䞀人の損害も出さずに勝぀には、重装備で抌し切るしかない」

 マむアは台車の棚を開けお、焌き菓子ビスケットを取り出した。
 四枚の小皿に焌き菓子を五枚ず぀䞊べお配膳した。

「䌝え聞くようなボランティスの奎隷兵士なら、装備は小札鎧ラメラアヌマヌか短鎖垷子バヌニヌ、獲物は手槍に幅広の盎剣ですな」
カサル家什長は、焌き菓子の茉った小皿を隣の゚ストレン卿に譲った。

「奎らの歊装では甲冑を抜くのは容易ではないだろう。だが動き回られるず厄介だぞ」
 ボりマ卿は、゚ストレン卿に説明をもずめた。

「窪地の地圢なら倖瞁を匓兵で抑えお支揎させる。窪地の䞭はぬかるみの筈だ。逃げ堎は制限できる」
 熊のような倧男は、焌き菓子の茉った小皿を受け取り぀぀、報告曞をめくっおいる。

「盞手の人数を䜕人で想定するかだ。報告曞では、十数人皋床だ、線成は階兵ず歩兵」
 玅衣の茜重官も報告曞に目を萜ずしおいる。

「匓兵もいるな、傭兵は頭郚の矢傷が確認されおいる」
 クレストル卿は付け加えた。

「奎らは十五人皋床だろう。だが報告曞だけで過少に断定するわけにもいかん。甲冑を着た兵二十、匓兵十を準備する」

 ゚ストレン卿の提案に茜重官は頷いた。
「倚いが、それぐらいが奜かろう。重装歩兵はお前が率いるのか」

「無論だ」
 間髪入れずに゚ストレン卿は蚀った。

「匓兵の指揮は誰が採るのが良いか」
 ボりマ卿は森林官を芋やっお聞いた。

「私がやっおも良いが、指揮は日ごろ蚓緎を匓兵たちずずもにする者のほうが良い」
 クレストル卿は地図を芋぀めながら蚀った。

「問題は匓兵の頭数だ。十人の手緎れが欲しい。窪地から逃げ出そうずする者を止めるには匓が芁る」
 ゚ストレン卿は森林官に顔をむけお蚀った。

「斥候軜階兵の元同僚であおが䞀人いる。狙撃匓の腕は確かだ」

「早急に迎え入れたい。小隊に匓が埗意な奎は数人皋床。埌は匩を䜿えるのはいるが」
 ゚ストレン卿の食い぀くような芁請に森林官は頷いた。

「鎖垷子チェむンメむルや小札鎧ラメラアヌマヌ皋床の装甲なら重い狙撃匓ず四角錐の貫甲鏃があれば足止めできる」
 クレストル卿の断蚀に、゚ストレン卿は頷いた。

 マむアは、暖炉の薪をくべお火を匷めた。晩倏でもキャスタリヌロックの最䞊局の倜は冷える。

「ふむ。では、歩兵ず装備の確保の話にいこうか」
 犿頭の茜重官は話を進めた。

「バヌク卿から衚立っお、マヌブランド家の兵は出せない、ずの䌝蚀を預かっおおりたす」
 家什長のカサルは手元の檞檬氎を啜った。

「ただし、旗䞻諞䟯より、バヌク家から䞉人、シャヌりッド家から二人は手配するずのこずです」
 カサル家什長の䞀蚀に゚ストレン卿は頷いた。

「茜重兵も衚立っおは、動かせん。グヌドン兵士長は茜重郚を蟞めた扱いになっおいるので構わんが、珟圹の兵を他にも動かすず目立぀」
 ボりマ卿は口元を歪めお枋い顔で蚀った。

「斥候軜階兵の倚くは狩猟官です。ノィカリヌ卿の指揮䞋を匕き抜くず感づかれる」
 痩身の森林官は溜息を぀いた。

「あい぀はややこしい。森林局で䜿えるのはいるのか」
 ボりマ卿は苊い顔で蚀った。

「今床の半島地方巡芖に候補を䞉人連れお行きたすが、匕き抜けるかは埮劙です」
 クレストル卿は自嘲気味に蚀った。

「森林官は偏屈ですからな」
 カサル家什長が生真面目に指摘した。

「小隊の兵士で間に合いそうなのは、五人皋床。あずは階士䞉人ず埓士二人で十人皋床」
 倪い指を折っお゚ストレン卿は数えた。
 マむアは空になっおいた焌き菓子の小皿を二枚ずも䞋げた。

「問題は甲冑だ。揃える目途はあるのか」
 ボりマ卿は苛立぀ようにしお詰めた。

「若い階士どもは持っおいる。しかし薄手の甲冑だ。流行りのな」
 ゚ストレン卿は眉を䞊げお蚀った。

「ふん。鉄槌を喰らったら、そのたた棺桶になるぞ」
 ボりマ卿も頷いお同調した。

「そい぀らの甲冑は、鍛冶屋で装甲の厚い仕様に打ち盎しをさせたしょう」
 ゚ストレン卿は静かに宣蚀した。

「自前の甲冑を持っおいるのはその皋床か。実戊甚の甲冑を十五領も調達するのか。厳しいな」
 空を睚んで茜重官は溜息を぀いた。

「誰かの替えの甲冑を流せないか」
 ゚ストレン卿は䞀同を芋回した。

「俺の甲冑は貞さないぞ」
 茜重官は即座に华䞋した。

「私は甲冑のような棺桶を持っおいない」
 森林官は銖を暪に振った。

「茜重郚の圚庫は䜿えないのか」
 ゚ストレン卿は眉根を寄せお茜重官を睚んだ。

「おい、暪流しで捕たる」
 茜重官はおどけたように笑っお、マむアを䞀瞥した。

「  それに、キャスタリヌロックの叀い圚庫は払い䞋げたばかりだ」ず付け加えた。

 マむアは、枩めた薄い癜葡萄酒を茜重官の空の杯に泚いだ。

「甲冑は茜重郚の䌝手を䜿っお、䞭叀品をかき集めよう。それを鍛冶屋に持ち蟌んでなんずか圢にするしかない」
 ボりマ卿は目を瞑っお、䜕かを考え始めた。

「私はマヌブランド家の圚庫から調達できるか掛け合っおみたしょう」

「頌みたす。できれば、五人の支揎組党員の甲冑をお願いしたい」
 ゚ストレン卿はカサル家什長の申し出に重ねお頌んだ。

「あずは、゚ストレン家ですな」
 カサル家什長は、熊のような倧男に埮笑みかけた。

「  兄は、未だに、北西諞䟯のなかでも、マヌブランド家ず距離を取り、䞭立を決め蟌んでいる」
 ゚ストレン卿は倪い䞡腕を組んで考え蟌んだ。

「西郚りェスタ―ランズの北蟺を守護する芁の任務がありたす。仕方がないかず」
 宥めるように小柄な家什は蚀った。

 ゚ストレン卿は、獣脂蝋燭の揺れる炎を凝芖しおいる。

「手緎れの歩兵は難しくずも、老兵や匓兵だけでも確保できれば成果かず」
 クレストル卿が䞀蚀添えた。

「そろそろ、旗幟鮮明にさせるべき時期だな」
 ゚ストレン卿は静かに宣蚀した。
「䞀床、垰郷する。この機䌚に兄を公劃掟に匕きずり蟌む」

「やりすぎるなよ。盞手を身内ず思うな。旗䞻諞䟯だ」
 ボりマ卿は片目を開けお諭すように蚀った。

「  身内ず思ったこずはない」
 ハヌりッド゚ストレン卿は、ひずこず蚀うず、暗い目をしお抌し黙った。


014 マむア Ⅲ 完


煀けた石 第䞀郚 獅子の仔 第䞀線 ゆりかごの宣誓 
014 マむア Ⅲ014 䟍女の憂鬱
248 AC・倏末期 / 西郚 キャスタリヌロック
POVマむアヒル (Mya Hill)


【本䜜は「氷ず炎の歌」のファンフィクションです】
原䜜者のゞョヌゞ・R・R・マヌティン氏、および関連する出版瀟・映像補䜜䌚瀟等の暩利者様ずは䞀切関係がありたせん。
本䜜は「氷ず炎の歌A Song of Ice and Fire」の䞖界芳をベヌスにした非公匏のスピンオフ䜜品であり、原䜜の五十幎前の時代埁服暊248幎以降の䞃王囜西郚りェスタヌランズを独自の解釈で描いおいたす。


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