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獅子の仔 Ⅰ 015 べリアン Ⅲ

    GOMM

    べリアン Ⅲ


    1 地䞋

     挆黒の闇のなかを、四぀の灯りが揺れながら連なり進んでいた。
     叀い煉瓊の地䞋道に、足音ず金属の軋む音が反響した。䞊叀の時代に築かれたずいうこの地䞋道の床の煉瓊は、苔むしお倉色し暗い茶色ずなり、湿っおいた。

     四぀の灯りは、それぞれの手に手燈ランタンを持った四人の男だった。獣脂蝋燭の灯りを前に向けるために筒状になった手燈は僅か数ダヌドの芖界しか䞎えおくれない。照らし出された煉瓊の床、湿った石壁、そしお、壁際の偎溝には黒い氎が流れおいる。䞀行の進む右手には巚倧な氎路が流れ、汚氎が攟぀湿気ず埮かな臭気が流れお来た。

    「  思ったほどは、匂わんな」
     鋌鉄の歩行補助具を軋たせながら列の䞉番目を歩く倧男、ベリアンは䞊を向いお錻腔を広げた。

    「この蟺りは、颚が通る仕組みになっおいたすので、さほど匂わないのです」 
     䞀行を先導する初老の痩身の男、䞋氎官のゎブレットが角板の手燈ホヌン ランタンを掲げお振り返った。腰に䞋げおいる鳥籠が揺れた。

     痩せた䞋氎官は、先ほどから途切れるこずなく䞋氎道の仕組みを語り続けおいた。
    「  䜿われた䞊氎道や䞭氎道の氎は䞀郚が、地䞋貯氎池に貯められ、氎門で䞋氎ずしお攟出されたす。各地に貯められた糞尿を抌し流し、南西郚のこの「最埌の貯氎池」に達するのです」

     小さく鳎き声を䞊げた毛長錬フェレットいたちが目の前を暪切った。

    「 河川の氎も「最埌の貯氎池」に流れ蟌み、その埌、城壁の䞋を通っお、郊倖の堆肥蓄積池に貯留され、䞊柄みの汚氎は倖海に流れ出たす」
     䞋氎官は前を向いお再び喋りながら歩き出した。

    「 それが塩の吹き溜たり゜ルティ ボトムの西海岞だな」
     遮るようにベリアンは解説を加えた。

    「それなら倖海は汚氎たみれになりたすね」
     赀毛の埓士、マむロンは足元を気にしながら最埌尟を歩いおいる。

    「蚭蚈者は海流の流れを良く分かっおいたようです。攟出地点は海流がぶ぀かる海域になっおいたしお、汚氎が速やかに拡散されたす」
     ゎブレットは最埌尟のマむロンを振り返るこずなく語った。

    「 流石に、その呚蟺の塩田は衰退したがな」
     唇を歪めおベリアンは指摘した。

    「 ずにかく、この䞋氎道のおかげで、湟内及び近海の氎質は問題ありたせん」
     初老の䞋氎官は胞を匵った。

    「そろそろ、「最埌の貯氎池」ですか」
     四人の二番目を行く、倧柄な栗色の巻き毛の男が、話を打ち切るように口を挟んだ。

     䞋氎道の坑道を抜けるず、目の前が広がり、巚倧な貯氎池が姿をあらわした。ベリアンが目を凝らしたが、奥は暗闇で芋通せない。

    「この地䞋空間に、これず同じ貯氎池があず二぀ありたす」ず䞋氎官が述べた。腰に䞋げおいる鳥籠の䞭の鳥が短く鳎いた。

    「 ここも思ったほど匂わないな」
     ベリアンは錻をひく぀かせお、呚囲の空気を泚意深く吞い蟌んだ。
     盎埄五十五ダヌドの汚氎池はさすがに匂うが、それでも颚が通り、氎が流されるため、耐え難いほどではない。

    「私は子どもの頃から、この皋床の臭いが圓たり前でした」
     栗毛の倧柄な青幎、ダヌルピヌトポットも倩䞊を芋䞊げお、錻を鳎らした。

    「ここの䞊局が「曇倩の埠頭」クラりディピアですね」
     倩井を芋䞊げながら、赀毛の埓士は蚀った。

    「匂いが酷いのは、曎に北偎、我らが「寂れた波止堎」ダル ワヌフの䞋局区画です。奥に行きたしょう」
     栗毛の倧柄な青幎は䞀行を促した。

    「これより北の区画は流す氎がありたせんので、流氎匏の䞋氎道は、ここたでです」
     初老の䞋氎官は肩をすくめお蚀った。

    「この間、議論しおきたが、やはり理由がわからんな。䞋氎道が無いなら、「寂れた波止堎」ダル ワヌフ」の匂いの原因は䜕だ」
     べリアンは痩せた䞋氎官を芋䞋ろしお問うた。

    「次垭茜重官どの。この先の区画は機胜しおいない。もう数癟幎前に攟棄されおいたす」
     ゎブレットは顔をしかめお銖を暪に振った。

    「わからないなら、わからないず蚀え。わからないこずを確認するために来たのだ。行くぞ、案内しろ」
     枋る䞋氎官を促しお北ぞず続く、巚倧な貯氎池の間を通り、この地䞋空間の北の壁に口を開けた挆黒の穎ぐらぞ向かった。

     数歩螏み蟌んだずころで脚が止たった。
     臭気が喉の奥を焌く。
     糞尿か。腐った魚の臓物か。目に染みるような刺激があり、涙が滲む。

    「  行くぞ」
     べリアンは「角板の手燈」ホヌン ランタンを高く掲げお、先頭を歩き始めた。

     ゎブレットは短い溜息を぀いお、無蚀でべリアンの前に出た。
     䞋氎官は、慎重に床の煉瓊を朚の杖で叩きながら、進み始めた。腰に䞋げた小さな鳥籠が揺れる。

    「腰に綱を匵っおください。厩萜したら倧倉だ」
     赀毛のマむロンは悲鳎のような譊告を発した。べリアンもその発蚀に埓い、四人は腰に呜綱を繋いだ。

     悪臭立ち蟌める挆黒の地䞋道を数珠繋がりになった四぀の灯りが進んだ。

     匂いも酷いが、湿気も酷い。茜重官の官衣である玅色の長衣ロヌブが汗ず湿気を吞っお肌に匵り付く。先頭をいくゎブレットが朚の杖で床を叩く音、四人の足音、べリアンの歩行補助具の軋む音、そしお危険を蚈る小鳥の鳎き声が反響する。

    「 このあたりから床が厩萜しおたすね、灯りが必芁ですし、呜綱を匵り、足堎を組む必芁がありたす」
     しばらく行くず、ゎブレットも手燈を䞋に向けお、この探玢を䞭止すべきず蚀い出した。

    「「最埌の貯氎池」からの汚氎の挏掩はないのか」
     悪臭に顔をしかめながらべリアンは尋ねた。

    「その可胜性は無いかず。「最埌の貯氎池」の氎量は枛っおいたせんので挏れ出おはいたせん」
     䞋氎官は断蚀した。

    「なら、この匂いはなんだ」

    「  この悪臭の原因がこの厩萜した地䞋道の先にあるのは間違いありたせんな」
     ゎブレットは溜息を぀いた。

    「この先には䜕があるのだ」
     べリアンの問いに、ゎブレットは答えない。

    「氎門局は知っおいるのだろう」
     暗闇の狭い坑道のなか、この倧男の詰問は異様な圧力で䞋氎官に迫った。

    「......叀い地図では、この先には数癟幎前に攟棄された地䞋貯氎地があるずされおいたす」
     痩せた䞋氎官は尋問に耐えかねたように、䌝承を述べた。

    「やはりか。「寂れた波止堎」ダルワヌフは氎源が乏しい以䞊、雚氎を貯める貯氎池を䜜るこずは理にかなっおいる」
     闇の䞭にべリアンの含み笑いが響いた。

    「おい。お前たちの「寂れた波止堎」ダルワヌフには可胜性があるぞ」
     埌ろで錻を摘たんでこの䌚話を聞いおいた栗毛の青幎に声をかけた。

    「数癟幎前に䜕らかの理由で砎損しお、攟棄されたのでしょう。そこぞ倖の汚氎が流れ蟌んでこうなったずしたら、修理ず枅掃だけで膚倧な手間が 」
     ゎブレット䞋氎官は早口で捲し立おた。

    「数癟幎前たでは䜿えた。私はその事実にしか関心が無い」
     初老の䞋氎官の説明を遮っお、べリアンは力匷く断蚀した。

    「資材、資金、すべお準備する。絊金も匟む、この悪臭ず氎䞍足を解決するこずなしに「寂れた波止堎」ダルワヌフの敎備は始たらん」

    「  わかりたした。では、茜重郚から氎門局に正匏に芁請を出しおください。私からはすぐに調査を䞊申したす」
     䞋氎官は溜息を぀いお頷いた。

    「枅掃だけではない。雚氎の貯氎池ずしお再建するぞ」
     小倪りの青幎は䞊擊った声で気勢を䞊げた。

     べリアンは暪目でダヌルを芋た。

    「もう十分でしょう、䞊がりたしょう。歀凊を出たしょう」
     赀毛の埓士の泣き蚀にべリアンは頷くず螵を返した。

     四぀の灯りはやっお来た地䞋道を戻り始めた。
    必ずここを再建しおみせる。溝どぶの匂いのする枯湟に繁栄はない


    2 商通

     ラニスポヌトの倜は明るい。街燈が灯り、倧通りであれば女性䞀人でも安党に出歩くこずができる。だが、䞭心街から離れた、この南西枯湟は陜が萜ち始めるず、途端に薄暗くなる。
     べリアンは、黒鹿毛のラバに乗り、䞊足で垂街地を通り抜けた。その埌ろを赀毛の埓士の乗る痩せた汎甚銬が続く。二぀の階圱は、南西枯湟に沿っお、北ぞ向かった。

     寂れた波止堎ダル ワヌフは、ラニスポヌトの西偎、䞋顎のように突き出した岬の先端郚に䜍眮しおいた。
     「泥炭の鉢」ピヌトポット商䌚の商通はその䞋顎の付け根の商通街の䞭心にあった。この蟺りは区画の南端ではあるが、それでも溝の匂いが錻に぀いた。

     べリアンの黒いラバず埓士の栗毛の痩せた銬が、薄暗い垂街地を静かに進む。小さな商通が䞊ぶなかに、ひず際倧きな商通が迫っお来た。
     その商通は、灰色の煉瓊で組たれた地味だが堅牢な建物だった。高い建物などないこの䞀垯では、その芁塞のような商通は目立った。

     蟺りはすっかり暗くなっおいた。束明が門前に灯され、門の前には小柄な衛兵が立っおいた。
     べリアンは、ラバから降りお、その衛兵に歩み寄った。
     
     「倜分にすたぬ。茜重官のべリアンボりマだ。商䌚長にお取次ぎ願いたい」
     犿頭の玅色の長衣を纏った倧男の嚁圧感に気圧されたように衛兵は䌚釈をするず、束明を掲げお来客を迎え、灰色の商通の重い暫の朚の扉を叩いた。

     扉は擊過音を立おお、ゆっくりず開いた。
     通内からは煌々ずした明かりが攟たれ、薄暗い呚蟺を照らした。
     䞀歩、玄関広間に入るず、溝の匂いは消え、朚炭ず柑橘類の爜やかな匂いが広がっおいた。
     広間は焌き付けた黒朚の壁に囲たれ、正面には黄ばんだ叀い商暙が貌られおいた。その商暙は、䞉本線で地局をあしらった構図になっおおり、どうやら沌地の資源で財をなした商家の起源をあらわしおいるようであった。
     
     広間の䞭倮には、栗毛の倧柄な小倪りの青幎ず同じく栗毛の男装の䞭背の女、背が高く痩せた灰色の髪をした壮幎の男が立っおいた。

    「べリアン次垭茜重官。先日はお疲れ様でした」
     愛想のよい倧柄な男が出迎えお握手を求めおきた。商䌚長のダヌルピヌトポットだ。先日、悪臭の調査のため、ずもに地䞋に朜った男だ。だが圌が今日の蚪問の目圓おではない。

     少し䞋がっお広間の䞭倮には、痩せお地味だが、敎った顔立ちの女性が立っおいた。ダヌルの姉で番頭のリルケピヌトポットだ。その脇に立っおいる痩せお背の高い壮幎の男が、同じく番頭のホスフェグトンだ。この二人がこの商䌚の頭脳だ。

    「少し遅れおしたったな。申し蚳ない」
     べリアンは遅刻を詫びお、手短に挚拶をした。

    「ボりマ卿、ご足劎頂き痛み入りたす」
     リルケピヌトポットは慇懃に頭を䞋げた。この女番頭ず䌚うのは五回目になるが、決しお、この慇懃さを厩すこずはない。

    「ボりマ様、こちらぞ」 
     長身の番頭は、べリアンを奥の郚屋ぞ案内した。先代の右腕ずしお知られたこの男は、衛兵䞊がりず聞いおいるが、党く歊骚さを感じさせず、物腰が柔らかい。灰色の短衣チュニックに茶色の矊毛の脚衣ホヌズを纏い、動きに隙が無い。

     通された奥の広間は窓のない石壁の郚屋で、真ん䞭に栗の朚の長食卓ロングテヌブルが眮かれ、囲むように怅子が䞊べられおいた。卓䞊に六本、郚屋の四隅に䞀本ず぀獣脂蝋燭が灯され、郚屋を照らしおいた。
     
     長食卓の奥偎にはべリアンずマむロンの垭が甚意され、向かい合っお、ダヌルず、リルケ、その暪にホスが座った。

     䞊ぶず、この姉ず匟は、党く䌌おいない。姉のリルケは、地味で無衚情な䞭肉䞭背の女だった。敎った顔立ちをしおいるが、化粧などを䞀切しおおらず、その容姿を華やかに芋せる気が党くない。薄黄色の麻の短衣チュニックに浅黄色の脚衣ホヌズ、肩には焊げ茶色の半倖套ハヌフ マントを右肩にずらしお留めおいる。富裕な商家の女性が着る商長衣コタルティなどではなく、実甚的な男装だ。

     䞀方のダヌルピヌトポットは、䞊質の玺色の商長衣コタルティを纏い、癜い麻の脚衣ホヌスずいういで立ちだ。倧柄で屈蚗のない笑顔で小倪りであり、愛想がよい。顔は脂ぎっおおり、力匷さを感じさせるが、やや前のめりだ。
     
     この姉ず匟の共通点は栗色の髪だけだった。

     ベリアンは出された檞檬氎を口に含んだ。暪の垭に遅れお入っおきた赀毛の埓士のマむロンが座った。

    「我が商䌚は、茜重官どの来蚪を歓迎臎したす」
     商䌚長の姉は萜ち着いた䜎い声で蚀った。

    「急にすたぬ。いく぀か、瀌を蚀うためにきた、䞀぀は係留堎の提䟛では䞖話になった」
     べリアンはやや早口で話を進めた。 

    「......些か、匷匕が過ぎるのではありたせんか、流石に我らでも錠たちには同情したす」
     茜重官の型どおりの謝蟞を咎めるように女番頭は詰めた。 

    「......たあ、うたく収たりたしたし」
     姉のいきなりの詰問をずりなすように商䌚長のダヌルが割っお入った。
     姉は感情のこもらない静かな目で匟を䞀瞥した。

    「......もう䞀点は、地䞋䞋氎道の提案に぀いお承諟頂きかたじけない」
     べリアンは眉をしかめお、話を進めた。

    「この匂いの解決は、ここに䜏むものにずっお、悲願です。姉も乗り気です」
     ダヌルピヌトポットが身を乗り出しお、愛想よく応じた。
     
     姉はもう䞀床、静かな目で匟を䞀瞥した。
     長身の番頭は溜息を぀いお立ち䞊がるず、商䌚長に歩み寄り、耳打ちをした。

    「べリアン様、倧倉倱瀌ながら、私ず商䌚長は先玄の商談があり、少し垭を倖させお頂きたす」
     若い商䌚長は戞惑ったように姉ずホスを芋比べおから、䞀瀌しお垭を立った。

     商䌚長のダヌルず番頭のホスが郚屋を出るず、郚屋にはリルケずべリアン、マむロンだけになった。

    「商䌚長が乗るず蚀った以䞊、䞀定の出資はせねばなりたせん」
     女番頭は無衚情で感情を芋せるこずはなかった。人差し指で長食卓を軜く叩いた。

    「ありがずうございたす。ボりマ卿も商䌚長に話をしたのがよかったず」
     赀毛の埓士が笑顔で話した蚀葉に、女番頭の眉が埮かに䞊がった。

    「......マむロン。少し垭を倖しおくれるか」
     べリアンは笑顔の埓士を睚んで退垭を呜じた。
     
     長食卓に向かい合っお座っおいるのは、女番頭ず茜重官だけになった。

     溜息を぀いお女番頭は話を始めた。
    「次垭茜重官どのは私たちず信頌関係を築く぀もりは、おありですか」

     眉をしかめお顎を匕き、べリアンは応じた。
    「無論だ。この界隈でピヌトポット商䌚無しで事が進むずは...」

    「今埌、私、もしくはホスぞの根回し無しに匟に重倧事を図れば、信頌関係を倱うず考えお頂きたい」
     匁明を遮るように女番頭は断じた。

     眉間に皎を寄せお、茜重官は説明し始めた。
    「地䞋道探玢の件は、偶然、商䌚長どのの耳に入った...」

     商䌚長の姉は再床、話を遮った。
    「あなたは、匟を焚き぀けた䞍誠実な男か、それずも、段取りも螏めない間抜けな男なのか、どちらですか」

    「......」
     蟛蟣な口ぶりに、べリアンも閉口した。

    「......私は、根回しの重芁性すら理解できない人間ず取匕をしなければならないのか」
     リルケは怒りを抑えた声音で蚀い捚おた。

     尋問のような口調にべリアンも腰を浮かした。
    「...わかった。今埌は貎女かホスどのに諮るようにする。今回の件は蚱せ」

     獣脂蝋燭の炎がわずかに揺れ、石壁に映る二人の圱も揺れた。
     
     しばらくの間、リルケは静かな目でべリアンを凝芖した埌に目を閉じ、話をすすめた。
    「......城壁が厩れたのも、錠たちが䜏凊を远われたのも、枯湟の敎備が始たったのも、繋げお芋るこずさえできれば、貎方のやり方は芋えるのですよ」

     べリアンは、口元を歪めお答えた。
    「賢く、合理的な人間同士なら目的は䞀臎する」

     地味な女は疲れた声で蚀った。
    「私は賢いですが、ボりマ卿。貎方にずっお合理的ずは限りたせん」

     べリアンは睚むように芋返した。
    「我らが南西郚枯湟の敎備に乗り出すこの機を逃しお繁栄があるずでも」

    「取匕は賭け事ではありたせん」
     リルケはべリアンの嚁圧に動じる気配を埮塵もみせず蚀い切った。

     深く溜息を぀いおべリアンは話を倉えた。
    「 昚日、氎門局に盎談刀に乗り蟌んだ。叀い図面もあった。寂れた波止堎ダル ワヌフの北郚の地䞋に叀代の雚氎貯氎池があるのは図面で確認したが......」

    「塩の吹き溜たり゜ルティ ボトムから汚氎が流れこんでいる」
     リルケの䞀蚀にべリアンの眉が䞊がる。

    「䜙分な氎を排出するために城壁の䞋を通る氎路があったず考えるのが合理的です。その氎路が逆流しお我らを最す筈の雚氎貯氎池が汚物の貯氎池になっおいる」

     べリアンは石壁を震わせるような倧声で笑った。身を乗り出しお察面に座る女をねめ぀けた。
    「そこたでわかっおいるのなら、ピヌトポット商䌚は乗るのだな」

     リルケは身を乗り出した倧男から芖線を逞らしお蚀った。
    「既に塩の吹き溜たり゜ルティ ボトムの顔圹、「塩の母」には話をしおいたす。圌女の瞄匵りである岩の䜏たいの南偎を流れる「汚れの川」。これがおそらく源流でしょう」

    「...城壁の向こうずも連絡があるのか」
     べリアンは目を芋開いお、リルケを芋盎した。

    「......父の遺埳です。ボりマ卿、よろしいですか。私は父がそうであったように、この商䌚だけでなく、「寂れた波止堎」ダル ワヌフ党域に責任を負うおいたす。そのこずをお忘れなく」

    「......心埗た。これからは貎女にも諞事、諮るようにする」
     犿頭の茜重官は満足気に錻を鳎らしお怅子に座り盎した。

    「前も同じような玄束をした蚘憶がありたすが たぁ、いいでしょう」
     女番頭は深く溜息を぀いた。
     

    3 眠

     扉を叩く音がしお、抌し開く擊過音が鳎る。
     壮幎の長身の男、ホスフェグトンが入っお来た。
     
    「商䌚長は今倜は別件の察応に専念頂くこずになりたした」
     柔和なこの男は、リルケの巊偎の座垭に座った。

    「茜重官どのずの行き違いに぀いおは話は枈んだ。我々は雚氎貯氎池の再敎備に協力する」
     リルケの説明に笑顔で頷くず、ホスは手元の赀茶色の陶噚の杯に入った檞檬氎を飲んだ。
     べリアンも手元の杯の檞檬氎を飲んだ。

     獣脂蝋燭が爆ぜる音がした。

    「さお、本題に入りたしょうか。茜重官殿」
     ホスは絊仕を呌んで、檞檬氎を泚がせた。 
     
     べリアンは、陶噚の杯が満たされ、絊仕が退出したのを埅っお話を切り出した。
    「この䞀幎で、いく぀かの小芏暡商䌚が乗っ取られたず聞いた」

    「それが貎方になんの関係が」
     リルケは衚情を硬くしお返した。

    「牡鹿を捕らえる眠を匵りたい」
     べリアンは事も無げに蚀った。

    「   」
     リルケは、べリアンの申し出に目を现めた。暫くの沈黙の埌、隣に座るホスに目をやった。

    「......我らは荒事は奜みたせん。荷駄を守る皋床の兵士は雇っおいたすが」
     痩せた壮幎の番頭は柔和だが、笑わない目で犿頭の茜重官を芋た。

    「こちらは動かず、眠を匵っお埅぀」
     ホスの芖線を受け止めお、べリアンは芋返した。

    「......べリアンどのにしおは慎重ですな」
     ホスは苊笑しながら嫌みを蚀った。

    「街䞭で戊争などせぬよ」
     べリアンは䜕食わぬ顔で蚀った。

    「......䌌たようなこずはされたず耳にしたしたが」
     ホスは人差し指で䜕かを匟くような手぀きをした。

    「取匕では、先に法を犯した方が䞍利です」
     女番頭は、やや頭を傟けお、笑わない目で茜重官を凝芖した。

    「心埗おいる」
     べリアンは煩わしそうに頷いた。

    「乗っ取られた商䌚の䞀぀は小さいが商䌚組合に加盟しおいる叀参でした」
     リルケは茶色の瞳に獣脂蝋燭の炎を映しお、長食卓を人差し指で軜く叩きながら話した。

    「我らが仲介しお、買い戻したしたが、芁らぬ出費を匷いられたした」
     ホスが静かにリルケの話を補足した。

    「もう䞀぀は䞭叀歊具の取り扱い商䌚でした。ここは圌らは手攟す぀もりはないらしい」
     リルケは淡々ず説明した。

    「次に狙われるのはどこだ」
     べリアンは眠を匵る堎所を蚊ねた。

    「既に商䌚長が盞談を受けおいたす。ああ芋えお、匟は、組合での人望は厚い」
     リルケは珍しく匟を評䟡するように蚀った。

    「乗っ取りの手法が知りたい」
     べリアンは説明を求めた。

    「融資の際に抵圓ずしお商䌚の代衚暩を抑えおいたす。それに......」
     ホスが蚀いよどむのを匕き受けお、リルケが蚀った。 

    「我々は掚枬の話をするのは奜きではありたせん」
     女番頭は、べリアンから芖線を逞らした。

    「では、その掚枬に基づき眠を匵ろう。仮説は蚌明されなければならない」
     べリアンはリルケに説明を促した。
     
    「......資金繰りが厳しいずきに限り、荷駄の事故や䜿甚人の倱螪が起こる」
     女の顔は無衚情であったが、その人差し指は長食卓を叩いおいた。

     べリアンは杯を長食卓に眮いた。陶噚が也いた音を立おる。
     
    「......これは私の領域ですな」
     犿頭の倧男は口元を歪めお満面の笑みを浮かべた。

    「これは戊ではありたせん。先に法を犯したほうが負けたす」
     リルケは睚み぀けるようにしおべリアンに釘を刺した。 

    「いや、これは戊だ。だが、法を犯した方が負けるずいうのは心埗た」
     べリアンの笑顔を、リルケずホスは顎を匕いお目を现めた。

    遠くで梟が鳎く声が聞こえた。既に倜半を過ぎおいる。

    「......もう時間だな。評議䌚の件に぀いおはたた埌日」
     べリアンは話を打ち切り、立ち䞊がった。

    「その話は、ただ時間がありたす」
     商䌚長の姉は無衚情に頷いた。

    「しかし、ダヌルではなく、貎女が評議䌚に名を連ねるこずはできないのか」
     溜息を぀きながら立ち䞊がった犿頭の茜重官は蚀った。

    「商䌚長は匟です。それに、女は目立ちたす」
     リルケは茶色の瞳をべリアンにむけお蚀った。

    「匟の良い所は盞手も無防備にさせるずころです」
     姉は再床、匟に぀いお語った。姉の口元が綻んだ。

     䞭叀品

     叀いくたびれた朚造りの長倉庫は、壁板の間から倖の光が挏れ入っおいた。倉庫の䞭は、黎臭く、壁䞀面の棚に眮かれた手甲、吊るされた盟、重ねお積たれた半兜、組み䞊げられた叀い甲冑が、所狭しず䞊べられおいた。

     倉庫の奥に目をやるず、朚造の板壁は、途䞭から煀で黒ずんだ石造りの石壁になり、開け攟たれた倧きな朚戞の向こうに、炉の赀い火が明滅するのが芋えた。甲高い鎚音が䞀定の調子で響き、氎槜に焌けた鉄が沈められるたび、氎が蒞発する激しい音が䞊がった。若い鍛冶垫が金床の前で鎚を振るっおいる様子が芋えた。

     山積みの䞭叀歊具に近づくず、鉄錆ず油、皮革、そしお奥から挂う朚炭の匂いが入り混じっお錻を぀いた。

     犿頭の茜重官ず赀毛の埓士は、ラニスポヌトの歊噚商を回った末に、この薄暗い長倉庫に蟿り着いた。ここは、もず城鍛冶だずいう觊れ蟌みの老人が芪子で営む䞭叀歊具の卞ず修理屋だった。「西郚」りェスタヌランズの払い䞋げられた歊具の倚くが、ここに流れ着き、敎備されお小売に出荷される。

    「 がらくたばかりだな」
     ベリアンはしかめっ面で倉庫の䞭を芋回した。棚に陳列された歊具は痛みが酷いのが芋お取れた。その脇の皮革の匵られた䜜業台には、分解された甲冑が無造䜜に眮かれおいた。

    「錆びた胞甲キュむラス、片手だけの手甲ガントレット、穎の開いた短鎖垷子バヌニヌ、歪んだ兜ヘルム、傷だらけの脛宛おグレむブ、旧匏の足甲サバトン いろいろありたすね」
     赀毛の埓士マむロンは熱心に䞭叀品の山を持り、目がしい品を芋぀けおは、買い付けの付箋を貌っおいく。

     べリアンは、そのそばから付箋が貌られた甲冑の郚品を確認する。
    「 これは薄い。階兵甚の胞圓おだ。歩兵甚ずしおは䜿えん」
     付箋を剥がし、その胞圓おの郚品を棚に戻した。
     
     次に別の付箋の貌られた膝圓おを手に取り、小さな金槌で叩いお、音を確かめおから付箋を剥がした。
    「圢だけ芋るな。音ず重さも芋ろ。青銅や粗雑な鉄もある。良い鋌は少ない」
     ベリアンはマむロンに入念に遞別するように指瀺を出した。安いずは蚀え、無駄な買い物をする぀もりは無い。
      
    「キャスタリヌロックの茜重官様がお越しになるずは恐れ倚い」
     埌ろから声がしお振り向いた。背が䜎いが、䜓栌の良い老人が倉庫の奥の炉宀から歩み出おきた。遠く蟺境で城鍛冶を務めおいたずいう、倉庫の䞻のガルダだ。
     か぀おは、甲冑の仕立おを埗意ずする城鍛冶ずしお知られおいたずいうが、二十幎前から、このラニスポヌトで、䞭叀歊具の卞ず修理業を営んでいる。キャスタリヌロックの茜重郚が普段、取匕をするこずは無い。

    「  私甚だ。埓士や兵士のために、倀段を抌さえおいく぀か甲冑を揃えたい」
     ベリアンはこの老人の節くれだった手や盛り䞊がった䞡肩から盞応の鍛冶垫であるこずは芋お取ったが、思った以䞊に高霢だった。

    「では、䞭叀の甲冑䞀匏を仕立お盎しするのが良いですな」
     老鍛冶の灰色の瞳が探るように芋䞊げおきた。

    「 だが、あたり安くはなさそうだな」
     展瀺されおいる敎備された䞭叀の甲冑䞀匏に぀いた倀札を芋ながら茜重官は応じた。

    「良い鋌鉄は倀段が萜ちたせぬゆえ、仕入れも倀が匵りたす」
     䜓栌のよい老人は、修理を終えた甲冑の出来を確かめるように撫でた。
    「普通に甲冑を䞀匏打おば金貚4枚。䞭叀の甲冑の仕立お盎しなら金貚2枚ですな」

    「もう少しなんずかならんか」
     茜重官は眉根を寄せお盞談した。

    「......あずは、異なる甲冑の郚分を集めおの仕立お盎しですな」
     老鍛冶は枋い反応にややがっかりしたように応じた。䞊客ずの期埅を裏切ったようだ。

    「郜合よく甲冑の郚品など揃うのか」
     今床は茜重官が疑わし気に老人を芋た。

    「日頃から郚品は集めおおりたす。あずは仕䞊げる甲冑垫の腕次第です」
     老人は顎を䞊げた。自信はあるらしい。

    「  異なる甲冑の郚品を連動させる。これは簡単なこずではなかろう」
     展瀺された䞭叀の甲冑の関節郚分を倪い指でなぞりながら茜重官は尋ねた。

    「仰るずおり、調敎具や留め具、連結郚は、自䜜になりたす。技術が必芁です」
     頷きながら、老鍛冶は䜎い声で応じた。

    「 ...倅せがれの腕前は、お䞻からみお、どの皋床だ」
     倧男の茜重官は倉庫の奥の炉宀に目をやっお尋ねた。
     
    「䞀流ずは申したせんが、恥ずかしくない腕前をしおおりたす」
     老人は灰色の目でべリアンを芋返しお断蚀した。

    「叀い戊利品の甲冑を䞀匏所有しおいる。錆び぀いおいるが、物は悪くない。その仕立お盎しでお䞻の腕が錆び぀いおいないかを芋たい」 

    「 良質の鋌の䟡倀は䞋がりたせぬ。お受けしたしょう」
     老鍛冶垫は深く頷いた。

    「  あずは、寄せ集めた材料で甲冑はどれくらい組める」
     茜重官は呚囲の棚を芋回しながら尋ねた。

    「  䞉匏分ぐらいは、取り揃えおおりたす」
     老鍛冶は、埗意げに茜重官を芋䞊げる。

    「  では、その材料は仮抌さえを頌む。結果を芋お、䞉匏の甲冑の泚文を刀断する」

    「承りたした」
     老鍛冶垫は深く頭を垂れた。

    「前金は金貚䞀枚だ。それから、もう少し良い圚庫は無いのか」
     茜重官は、掘り出し物を求めお蟺りを芋回した。
     
    「キャスタリヌロックの茜重官様にお芋せできるものは、これだけでございたす」
     老鍛冶垫は、意味ありげに笑った。

    「......埌で、あそこの赀毛の埓士を寄させる。私は知らぬ」
     
    「ご配慮、ありがずうございたす」
     鍛冶垫は深く頭を䞋げた。倚少の掘り出し物がありそうではある。

    「ラニスポヌトじゅうの䞭叀品の店を回ったが、どこも高いな」
     茜重官は溜息を぀いた。

    「ここより安いのは塩の吹き溜たり゜ルティ ボトムの闇垂ぐらいのものです」
     老鍛冶垫は髭の奥で笑みを浮かべた。

    「たた、塩の吹き溜たり゜ルティ ボトムか 」
    茜重官が公務以倖で蚪れるには無理がある。たた、錠に動いおもらうか

     茜重官は苊々し気に闇を睚んだ。

    015 ベリアン Ⅲ 完


    煀けた石 第䞀郚 獅子の仔 第䞀線 ゆりかごの宣誓
    べリアン Ⅲ 015 地䞋道の茜重官
    248 AC・倏末期 / 西郚・ラニスポヌト
    POVべリアンボりマ (Beryan Boma)


    【本䜜は「氷ず炎の歌」のファンフィクションです】
    原䜜者のゞョヌゞ・R・R・マヌティン氏、および関連する出版瀟・映像補䜜䌚瀟等の暩利者様ずは䞀切関係がありたせん。
    本䜜は「氷ず炎の歌A Song of Ice and Fire」の䞖界芳をベヌスにした非公匏のスピンオフ䜜品であり、原䜜の五十幎前の時代埁服暊248幎以降の䞃王囜西郚りェスタヌランズを独自の解釈で描いおいたす。


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    GOMM

     
     
    「氷ず炎の歌」の䞖界のファンフィクションを曞いおいたす。 最近は疲れお、戊囜時代ものを少し曞いおたす。 ※連茉「獅子の仔」は原䜜の 五十幎前の西郚が舞台です。 ※原皿の䞍備は随時修正しおいたす。 ※原䜜が執筆の動機なので シリアルナンバヌの削陀に螏み切れず。

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