
【労働衛生小説】クサいモノにはフタをシロ シリーズ①「においの原因」 第二十二話 臭い物には蓋をしろ!
第二十二話
臭い物には蓋をしろ!
香島は第一製造棟をゆっくりと見回した。
中村も顔を上げる。
香島はゆっくりと話し始めた。
「おそらく、においはどれか一つが原因、という話ではないでしょう」
「少しずつ積み重なって、今の状態になっています」
中村は静かにうなずく。
今日見てきたことが、一つの線でつながった気がした。
香島は続ける。
「まずは、今すぐできることから始めてみましょう。」
「それだけでも、きっと変わります。」
「変わってくると、また違うものが見えてきます」
「次に見えてくるのは、作業のやり方かもしれません。」
「設備の状況かもしれません。」
「教育や、健康管理かもしれません。」
ほんの少し間を置く。
「いつかは、会社全体で改善していく仕組みを考える時が来るかもしれません」
中村は黙って聞いていた。
今はまだ、そこまでは想像できない。
それでも、今できる事だけでは終わらない、ということだけは分かった。
香島は穏やかに続ける。
「一歩ずつ進めていくので、時間はかかります。」
「だから、まずは──」
少し笑って言った。
「臭い物には蓋をしましょう!」
中村は思わず口元を緩めた。
「たしかに。」
香島はうなずいた。
「これで、ようやくスタートラインです」
「三か月後に、また伺います」
「その頃には、少し景色が変わっているのを楽しみにしています。」
中村は小さくうなずいた。
工場は朝と何も変わっていない。
それでも、自分の見方は変わった。
今まで当たり前だった景色の中に、小さな改善の種がいくつも残っていることに気付いた。
それは、これまで見えていなかったものだった。
香島は穏やかな表情のまま口を開いた。
「これで、石田さんが気にされていたことの、とっかかりはひとまずおさえられましたかね」
「ほかに気になるところはありますか」
中村は言葉をのんだ。
頭に浮かんだ場所は、一つあった。
前から、何となく気になっていた。
それなのに、自分では何一つ言葉にできなかった。
今日一日、香島と歩いてきた。
同じ場所を歩いていたはずなのに、見えているものが違っていた。
そんな自分に少し恥ずかしさもあった。
それでも――。
今なら、何か気づけるかもしれない。
そんな気がした。
「あの……。」
「研究棟なんですが。」
香島は小さくうなずく。
「行ってみましょうか。」
二人は第一製造棟を後にした。
シリーズ① 「においの原因」
完
シリーズ② 「なんともないですよ」
第二十三話 違うにおい
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