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【長編小説】獣戦記(アポカリプス)第五十八話 命の結晶

——ゴワァァァァァァァァ!ガァン!ガァン!

(こいつ、大きさの割に速いわね……)

——ガキィンッ!

ミラは双剣を交差させ、迫る爪を受け止めた。

衝撃が腕を痺れさせる。氷獣の力は、彼女が知るどの個体よりも強い。

「ふんっ!」

ミラは氷獣の体勢が崩れた瞬間、横へ跳び、距離を取った。雪煙が舞い、視界が白く霞む。

——パチパチパチパチッ……

その向こうで、チュウザンが楽しげに手を叩いていた。

「いいねぇ、反応が素晴らしい。初手2撃を完璧に躱す俊敏性と読み。これは、狼族フェンリルとしての性質によるものかな?3撃目を受け止め、流すのパワーと柔軟性。こっちは、君の生まれ持った才能だね……」

(あいつ、私の戦いを分析してる?いや、それより……)

「チュウザン!この氷獣は何?ただの氷に何をしたの!」

ミラが問いかけると、チュウザンは肩をすくめた。

「気になるかい?そうだよね……氷が意思を持って動くなんて、信じられないだろうね。秘密は、これさ」

——フワァン……

「青い結晶……」

「そう。この直径5cm程の結晶が、氷獣の命なんだよ、クックックッ……」

(何を言ってるの?青い結晶が命?)

——キュゥゥゥゥゥ……

「ほら、僕との会話もいいけど、集中しないと死んでしまうよ?」

(まずい!形が変わってる!)

「君の速さは、見せてもらった……こんな形はどうだい?」

——キュゥゥゥ……シュゥゥゥ……

(腕が紐ひも?に……)

「そんな紐ひもでどうしようってのよ?」

「ん?あ~そうか……君たちの住む北の大陸では、使われていないんだったね。これは、鞭むちと言ってね。こういう風に振ると……」

——ヒュン……パッン!

「きゃぁぁぁぁぁ!」

(何今の速度!?動きや匂い以前に、まったく反応できない!速すぎる!)

「クックックッ、凄いだろう?手元の力が先に伝わり、その最高速度は1225km/hに達する……これは、ほぼ音と同じ速度だね」

「音と同じって……」

(音が聞こえた時には、もう攻撃が当たる……そんなの躱しようがないじゃない!)

「これら、すべてを可能にしているのが、さっきの青い結晶、その名も生命の源核ライフ・コア・ジェネシス!」

「生命の源核ライフ・コア・ジェネシス?」

「そう、僕が作った“疑似生命の心臓”だよ。あらゆる無機物に命を与え、設計次第で形を変えることもできる。史上最高の発明品だよっ!」

(無機物に命を与える?そんなことが出来たら、それはもう神と同じなんじゃ……)

「さて、さっきの攻撃で君の身体能力は大体わかった。次の実験に進めよう……」

「実験って……」

「君は、その嗅覚で相手の動きを感じ取っているね。おそらく、何となくといった感覚だろうけど」

「……」

「それを、仮に生物が動く時に発せられるフェロモンを感じ取っているからだと、仮定する。そのフェロモンを発さない氷獣の攻撃をどう攻略するか」

——ヒュン……パッン!

「くっ!」

(あ、脚が……)

「ほらほら、どうする、ミラ?このままじゃ、死んでしまうよ?」

(確かに、あいつの言う通り氷獣には、匂いがない……攻撃のタイミングも次の動きも予測できない……どうしたら……)

——スゥ……フゥ……

(目を閉じて、動きを止めた?諦めた……いやそれは無いな。なら、クックックッ……面白いものが見れそうだ……)

——ヒュン……パッン!パッン!パッン!

「うっ!くっ!はぁ……はぁ……」

(?ただ、攻撃を受けてるだけ……僕の読み違いか?まぁいい……それなら、ミラを殺して、別の2人のところへ……)

——ヒュン……パッン!

「氷蓮ひょうれんの双壁そうへき!」

——パリンッ!

「ミラ!?」

氷獣の鞭むちをミラが氷壁で防ぐ。

「チュウザン……あなたは、言った。氷獣には、匂いが無いと。確かに攻撃が来る前のいつもの匂い、それはしなかった」

「それは?」

「えぇ、いつもの匂いは感じない。でも、いつもと違う匂いを感じた。匂いを嗅ぐことだけに集中して気づいたわ……」

(そうか、ただ攻撃を受けているだけだと思ってたけど、そんな事をしていたのか……クックックッ、最高じゃないか……ミラ)

「それで、いつもはしない匂いとは、何だったのかな?」

「その青い結晶の匂いよ。攻撃する直前にだけ、強まる匂い。不規則な攻撃にもリズムがある。それに合わせれば、こんな攻撃防ぐことも、避けることも簡単よ!」

(なるほど。フェロモン以外にも感じ取れる匂いは、複数あるみたいだね)

「たった一度防いだだけで、随分強気じゃないか?その言葉が本当か、確かめさせてもらうよ……」

——ヒュン……パッン!パッン!パッン!

——スゥ……

「何ッ!?」

ミラは、少し足をずらすだけで、鞭むちによる3連撃を躱す。

「言ったでしょう。もう躱すことも簡単だって……こっちの番よ!はぁぁぁぁ!月牙双閃げつがそうせんッ!」

——ガキィンッ!!パァァァン……

双剣が交差し、核ごと氷獣を斬り裂いた。

「はぁ……はぁ……」

ミラは息を荒げながらも、双剣を構え直した。

「素晴らしい!期待外れなんじゃないかと思っていたが、やっぱり君は本物だ!」

(神々を喰らう異質な種族の力……僕の研究のために、もっと協力してもらうよ。クックックッ……)

生命を作り出す異端、チュウザンによる実験が激化していく。


👈第五十七話 研究者との出会い

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