お昼ご飯の匂いに釣られてトコトコ登場。短足ミヌエットがキッチンをパトロールする愛おしい日常
木曜日の在宅勤務中、時計の針が12時を指したところでパソコンをスリープにして、キッチンに立ちました。今日は冷蔵庫の野菜室に半分残っていたキャベツと豚バラ肉を使って、簡単に焼きうどんでも作ろうかとフライパンを取り出したんです。
フライパンに油を引いて、豚肉を放り込んだ瞬間、「ジュワッ」という威勢のいい音と、豚の脂の香ばしい匂いが立ち上りました。
すると、3秒もしないうちに、廊下の奥の寝室からあの音が聞こえてくるんですよね。
「タカカカ、タカカカ……」
フローリングの上を、短い足の爪がリズミカルに叩く音。うちのミヌエット「ぎん」です。さっきまで私のベッドの真ん中で、掛け布団を独占して丸くなって爆睡していたはずなのに、肉が焼ける音と匂いに対する反応速度だけは、薬局のどんな調剤ロボットよりも正確で速い。
キッチンの入口にトボトボと現れたぎんは、まだ寝起きで目が細くなっているくせに、鼻の穴だけをヒクヒクと全開にして上を向いています。
ミヌエットって、ペルシャ系の血が入っているから毛がものすごく長くてフサフサなんですが、足だけがマンチカン譲りの極端な短足なんですよね。
だから歩く姿が「トコトコ」というか、下半身がほとんど見えずに、毛玉が床の上をスライド移動しているように見えるんです。その毛玉が、キッチンの狭い通路に侵入してきて、私の足元でパトロールを開始するわけです。
これがですね、可愛いんですが本当に危険なんですよね。
まず、短足すぎてカウンターの上に手が届かないから、真下から見上げてくるんです。私のふくらはぎの裏側に、ふわふわのクリーム色の胸毛を全力でスリスリと擦り付けてくる。「何かうまいものを焼いているな」「寄越せ、ひと口でいいから寄越せ」という無言の圧力が、足首越しにグイグイ伝わってくる。
でも、こっちは熱したフライパンに醤油とみりんを回し入れている最中です。油が跳ねたら大火傷だし、ネギや玉ねぎの破片を床に落としたら猫には猛毒になる。だから料理中のキッチンは、完全に「厳戒態勢」なんですよね。
「ぎん、危ないから!あっち行ってて!」と小声で叫びながら、すり足で慎重にコンロとシンクを行き来するんですが、足元に毛玉がまとわりついているから、まるで障害物競走です。踏みつけないように変な内股になって、腰を痛めそうになる。
前に一度、床に落ちたキャベツの千切りをぎんが光の速さで口にくわえてダッシュしたことがあって、大慌てで追いかけて口から引っこ抜いたという情けない失敗談があります。それ以来、キッチンにぎんが入ってきたときは、絶対に食材の破片を床に落とさないよう、床に目を光らせながらフライパンを振るという高等技術を身につけました。
調剤薬局の仕事って、毎日が0.1ミリグラム単位の計量や、処方箋の文字の細かい相互作用チェックの連続なんですよね。少しの油断も許されない神経を削る仕事だからこそ、自宅で適当にキャベツを刻んでフライパンで炒める時間って、私にとっては最高の気分転換なんです。多少キャベツの太さがバラバラだろうが、誰からも文句は言われませんから。
でも、ぎんが足元にいるときだけは、職場並みの緊張感が蘇ります。
特にネギ類には本当に気を使っていて、長ネギを使う料理のときは、ぎんが近づけないように事前にキッチンのスライドドアを閉めて完全隔離します。でも今日みたいな焼きうどんだと油断してドアを開けっ放しにしていたから、あの食いしん坊の毛玉が音もなく忍び寄ってきたわけです。
ベランダで洗濯物を取り込んでいた妻がリビングに戻ってきて、足元でぎんを必死に避けながら炒め物をしている私の異様な姿を見て、「またぎんのパトロールに捕まってるの?早く火止めなよ」と大笑いしていました。妻の声に気づいたぎんは、今度はターゲットを妻に切り替えて、トボトボとベランダ側へ移動していきました。あの変わり身の早さも、猫らしくて憎めないところです。
結局、焼きうどんを皿に盛り付けた後、ぎんのあまりの熱意に負けて、猫用のフリーズドライのササミをほんのひとかけらだけ小さくちぎって、リビングのぎん専用の小皿に置いてやりました。
ササミを見た瞬間に「ニャッ」と普段出さないような甲高い声をあげて、あっという間に平らげて、満足そうにペロペロと口の周りを舐めているぎん。さっきまでの猛烈なキッチンパトロールの気迫はどこへやら、食べ終わった途端にスタスタと窓際のラグへ戻り、再び丸くなって二度寝の準備に入っていました。「用が済んだらこれかよ」と苦笑いせざるを得ません。
でも、一人で静まり返った部屋で食べる素朴な焼きうどんも、足元にあのドタバタしたパトロール隊がいてくれたおかげで、なんだかすごく温かい昼食になるんですよね。
薬局の店舗管理や人事のことで頭がいっぱいになりがちな平日ですが、足元を必死に短い足でウロウロする小さな命を見ていると、「まあ、美味い飯食って、午後もぼちぼちやりますか」と、肩の荷がふっと軽くなります。午後からのオンライン会議も、ぎんの抜け毛がズボンについたまま、穏やかな気持ちで乗り切れそうです。
そして、「どんな人が書いているんだろう?」と少しでも気になってくださった方へ。
これまでのことや、noteで発信している理由などを自己紹介ページにまとめています。
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