
思い出したのはドラマ『TRICK』だった
最近、鬼束ちひろの「月光」を聴いた。
曲が流れた瞬間、不思議と昔の記憶が蘇った。思い出したのはドラマ『TRICK』だった。
内容は正直あまり覚えていない。子供が教祖のように崇められていて、大人たちが「この子は特別な力を持っている」と信じている話だけは断片的に覚えている。箱の中にいるはずなのに姿が見えない。不思議なトリックに子供ながら驚いた記憶がある。
でも、ドラマの内容以上に覚えているものがある。
夏休みの空気だ。
当時、夏になるとおばあちゃんの部屋が避難場所のようだった。クーラーが効いていて涼しく、昼間はそこで過ごすことが多かった。外では蝉が鳴いている。窓の外は強い日差しなのに、部屋の中はひんやりしている。
TRICKを見ようと思ってテレビをつけたわけではない。たまたま、おばあちゃんとテレビをみていたら再放送をやっていた。今みたいに配信サービスで作品を探す時代ではない。偶然出会った作品を、そのままなんとなく見続ける。そんな時代だった。
ビデオに録画していた記憶もある。好きな場面を何度も見返したというより、面白そうだからとりあえず録画しておく。そんな感覚だった気がする。
今は好きな作品をいつでも見られる便利な時代になった。でも、たまたま出会った作品が記憶に残る体験は少なくなったかもしれない。
鬼束ちひろの曲を聴いて思い出したのは、TRICKそのものではなかった。
おばあちゃんの部屋の涼しさ。
夏休みの昼下がり。
何気なくつけたテレビ。
そんな、もう戻れない夏の景色だった。