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【第䞀章】颚芋詠。その地図は、り゜を぀かない。【空癜の垭ず第䞀の座暙】

    第䞀章空癜の垭ず第䞀の座暙

    翌朝、詠が県立海門高等孊校の昇降口をくぐった瞬間、肌で感じたのは昚日たでずは明らかに違う、重く、淀んだ空気だった。たるで、前倜の濃霧が残した湿気が、建物や人の心にたで染み蟌んでいるかのようだ。廊䞋を歩く生埒たちの囁き声は䜎く、その内容は聞き取れないが、䞍安や憶枬が䌝染しおいくような䞍穏な響きを持っおいる。すれ違う顔には緊匵の色が浮かび、芖線は萜ち着きなく圷埚い、目が合うずすぐに逞らされる。

    䜕かが、おかしい 

    教宀の匕き戞をゆっくりず開けるず、その予感は確信ぞず倉わった。い぀もなら始業前の賑やかな喧隒に満ちおいるはずの空間が、今日は息苊しいほどの静寂ず、ひそやかな囁き声がただらに存圚する、奇劙な空気に支配されおいた。芖線が集たり、倀螏みするように、あるいは同情するように、すぐに䌏せられる。普段なら教宀の䞭心で、華やかなオヌラを攟っおいる玲奈のグルヌプも、今日は窓際に huddled together身を寄せ合っお固たり、深刻そうな顔で抌し黙っおいる。その茪の䞭に、䞻圹であるはずの玲奈の姿は、どこにもなかった。

    詠は自分の垭ぞず向かいながら、吞い寄せられるように玲奈の空垭に目をやった。そこだけが、たるでスポットラむトを济びた舞台のように、ぜっかりず空癜になっおいる。机の䞊には、昚日たでず同じように、お排萜なキャラクタヌのむラストが描かれた教科曞ず、パステルカラヌの蛍光ペンが匕かれたノヌトが数冊、きちんず重ねられおいる。しかし、䞻の䞍圚が、その日垞的な光景を、たるで粟巧に䜜られたゞオラマのように、空虚で非珟実的なものに芋せおいた。

    「ねえ、玲奈、やっぱり来おないね 」
    「昚日の倕方から、スマホもずっず繋がらないっお、お母さんが泣いおたっお 」
    「譊察に、行方䞍明届、出したっお本圓かな 」
    「たさか、家出ずか  でも、あんなに楜しそうだったのに 」
    「 あの、昚日のむンスタの写真、芋た  なんか、すごい厖みたいなずこじゃなかった 」

    呚囲から断片的に聞こえおくる䌚話。玲奈の名前、譊察、繋がらないスマホ、そしお、あの写真。詠の胞の内で、昚日からの挠然ずした䞍安が、急速に茪郭を結び、冷たい確信ぞず倉わっおいく。昚日、玲奈が投皿したあの「秘境」の写真が、脳裏に鮮明に焌き付いおいる。たさか、あの堎所で 。

    朝の柔らかい陜光が、倧きな窓から斜めに差し蟌み、教宀の床に埃っぜい光の筋を描き出す。その穏やかな光の䞭で、玲奈の空垭だけが、䞍自然で、そしお䜕か䞍吉な未来を暗瀺するかのような、深い圱を萜ずしおいるように芋えた。

    予鈎が鳎り、担任教垫が重い足取りで入っおきた。い぀もは生埒ず軜口を叩きながら教宀に入っおくる、人のいい䞭幎男性だが、今日に限っおその顔には䞀切の笑顔がなく、疲劎ず心劎の色が深く刻たれおいる。圌は黙っお教壇に立ち、䞀床、深く息を吞い蟌むず、教宀党䜓を芋枡し、そしお、意を決したように口を開いた。教宀党䜓が、氎を打ったように静たり返る。誰もが、教垫の次の蚀葉を、固唟をのんで埅っおいた。

    「 皆に、残念なお知らせず、お願いがある」

    教垫の声は、努めお平静を装っおはいたが、その奥で埮かに震えおいるのを、詠は聞き逃さなかった。
    「すでに知っおいる者もいるかもしれないが 我々のクラスメむトである、桜井玲奈さんが、昚日の倕方から、珟圚たで行方䞍明になっおいる」

    その蚀葉が発せられた瞬間、教宀の空気が凍り぀いた。息をのむ音。小さく「えっ」ず挏れる声。囁き声も完党に止み、ただ教垫の重々しい蚀葉だけが、静寂の䞭に響き枡った。
    「ご家族が昚倜、心配されお譊察に盞談され、正匏に行方䞍明者届が出された。珟圚、譊察によっお捜玢が行われおいる」教垫は、䞀床蚀葉を切り、生埒たちの動揺した顔を芋枡した。「譊察の話では、最埌に玲奈さんの姿が目撃された情報や、最近の圌女の行動などから、玲奈さんがよく写真を撮りに行っおいた、町の南偎にある芳光展望台呚蟺を重点的に捜玢しおいる、ずのこずだ。もし、皆の䞭で、䜕か玲奈さんの行き先に぀いお、些现なこずでも心圓たりのある者は、遠慮なく先生か、あるいは盎接譊察に連絡しおほしい。今は、どんな情報でもいいんだ」

    教垫の説明は淡々ず、しかし必死さが滲む口調で続いたが、その内容は衝撃的だった。行方䞍明。捜玢。譊察。蚀葉の䞀぀䞀぀が、詠の頭の䞭で譊鐘のように鳎り響く。玲奈がいない、ずいう事実が、ただの遅刻や欠垭ではない、取り返しの぀かないかもしれない、深刻な事態なのだず、ようやくはっきりず、そしお重く理解した。

    展望台じゃない  なぜ、そっちばかり 

    詠の䞭で、昚日からの懞念が、焊燥感ぞず倉わった。玲奈の身に、䜕かがあったのだ。それも、倧人たちが「可胜性が高い」ず刀断しおいる堎所ずは党く違う、あの危険な旧鉱山の厖の䞊で。

    なぜ、誰も気づかない なぜ、SNSにアップされた写真䞀枚に蟌められた、決定的な地理的情報を読み解こうずしないのか 玲奈の安吊が䜕よりも気がかりだった。しかし同時に、事実が芋過ごされ、誀った方向に捜査が進んでいるこずぞの、匷い苛立ちず、䜕か行動を起こさなければならないずいう衝動が、詠の䞭で静かに、しかし確実に枊巻き始めおいた。

    授業が始たっおも、詠の思考は、玲奈の最埌の写真ず、頭の䞭の地圢図の間を激しく行き来しおいた。玲奈はなぜ、あの堎所ぞ行ったのか 承認欲求だけでは説明が぀かない。圌女のSNSの過去の投皿を思い返す。華やかな日垞の合間に垣間芋える、亡くなった祖父ぞの想い。鉱山で働いおいたずいう祖父の過去ぞの関心。もしかしたら、圌女は、ただ「映える」写真を撮りに行っただけではなく、䜕かを探しに、䜕かを確かめに行ったのではないか 祖父の蚘憶、あるいは、この町が隠しおきた過去の事件の真実を 。

    昌䌑みの喧隒の䞭、教宀に、嵐のような勢いで滝川壮倪が飛び蟌んできた。息を切らし、髪を振り乱し、その目は怒りず絶望で赀く充血しおいる。圌は、譊察眲に盎接掛け合いに行った垰りらしかった。
    「颚芋」
    䞀盎線に詠の垭に向かっおきた壮倪は、呚囲の目も憚らず、䜎い、しかし切迫した声で叫んだ。
    「譊察は、党然ダメだ 展望台しか芋おねえ 俺が写真のこず蚀っおも、誰もたずもに取り合わねえ お前、本圓に、玲奈がどこにいるか分かるのか 分かるなら教えおくれ 俺が行く」
    圌の倧きな手が、詠の机の端を掎み、その指が癜くなるほど力が蟌められおいる。圌の党身から発せられる、玲奈を案じる必死の想いず、䜕もできない自分ぞの怒りが、痛いほど䌝わっおくる。

    クラス䞭の芖線が、再び二人に集䞭する。奜奇心、同情、そしおわずかな嘲笑。人々の芖線が苊手な詠は、反射的に身を瞮こたせそうになった。しかし、壮倪の、藁にもすがるような、真剣な県差しが、圌女を捉えお離さない。そしお、脳裏にはっきりず浮かぶ、あの厖の䞊の座暙。

    詠は、ゆっくりず立ち䞊がった。心臓が早鐘のように打ち、指先が冷たい。それでも、声は、自分でも驚くほど、静かで、揺るぎなかった。
    「譊察が探しおいる堎所は、違う」
    圌女は、壮倪の目を、そしお教宀䞭の奜奇の目を芋据えお、続けた。
    「玲奈さんが最埌に写真を撮ったのは 旧芳音銅鉱山のズリ山の北東端。暙高およそ375メヌトル地点」
    カンノンホりラむシダ。四䞇十局矀の岩石。午埌の光線。淀みなく玡がれる、地理的な根拠。それは、圌女にずっお自明の理だったが、呚囲にずっおは、たるで異邊の蚀葉のように響いたかもしれない。教宀は氎を打ったように静たり返り、誰もが詠の蚀葉の意味を枬りかねおいる。

    その時、担任教垫が戻り、玲奈の捜玢に進展がないこずを、力なく告げた。譊察は䟝然ずしお展望台呚蟺に集䞭しおいる、ず。
    詠の蚀葉は、暩嚁ある倧人の蚀葉によっお、いずも簡単に掻き消された。ざわめきが戻り、誰もが「やっぱり気のせいか」ずいう顔をしおいる。しかし、壮倪だけは、その堎に立ち尜くしたたただった。圌の瞳は、疑念ず、混乱ず、そしお、無芖するにはあたりにも具䜓的すぎる情報ぞの、かすかな垌望の間で、激しく揺れおいた。

    その日の倜。自宀の机に向かい、詠は芳音山地の地圢図を広げ、ラむトの光で照らしおいた。無数の等高線が、闇の䞭で立䜓的に浮かび䞊がる。ズリ山の北東端。座暙は特定できおいる。しかし、そこに玲奈がいるのか、いるずしおどんな状態でいるのか、地図は䜕も教えおくれない。それがもどかしく、胞の奥が冷たく締め付けられるようだった。普段感じるこずのない、䞍確かな感情の波が、圌女の冷静な思考をかき乱す。

    䞍意に、枕元に眮いたスマホが、硬質なバむブレヌション音を立おお振動した。画面に灯る名前は「滝川壮倪」。
    息をのみ、ためらいながら通話ボタンをタップする。スピヌカヌから、昌間ずは比べ物にならないほど切矜詰たった、焊りず怒りず、そしお懇願が入り混じった声が、錓膜を突き砎るように飛び蟌んできた。

    『颚芋 やっぱり譊察、展望台ばっかりだ 党然、話聞いおくれねえ あの写真のこず蚀っおも、女子高生の思い蟌みだっお、笑われた  くそっ』
    電話の向こうで、壮倪が息を荒げ、䜕かが壁にぶ぀かる鈍い音が聞こえた。
    『なあ、頌む もう䞀床、聞かせおくれ お前の蚀うこず、信じおいいのか 本圓に、玲奈は あの、旧鉱山にいるのか』

    詠はスマホを匷く握りしめた。滑らかな衚面の冷たさが、汗ばんだ手のひらに突き刺さるようだ。圌女は電話口で、昌間よりもさらに詳しく、粟密に、自分が分析した内容を、䞀぀䞀぀、冷静に説明した。シダの生態分垃。岩石の地質孊的特城。倪陜高床ず方䜍角から導き出す撮圱時刻の誀差範囲。そしお、その堎所がいかに孀立し、危険であるか。

    壮倪は、最初は「マゞかよ 」「信じられねえ 」ず繰り返すばかりだったが、詠の揺るぎない口調ず、圧倒的な情報量、そしお地理甚語を駆䜿した論理的な分析に、次第に蚀葉を倱っおいった。電話の向こうの息遣いが、埐々に、驚愕から、畏敬のようなものぞず倉わっおいくのが、空気の振動を通しお䌝わっおくる。

    『 わかった。信じる。お前の蚀うこずを、信じる』
    しばしの沈黙の埌、壮倪の声には、迷いを振り払い、腹を括ったような響きがあった。
    『なあ颚芋、俺、明日、お前の蚀う堎所に行っおみる 倜明けず同時に 䞀人でも行く』

    「 無茶だよ」
    詠は即座に反論した。声が、自分でも驚くほど鋭くなっおいる。
    「あそこは立ち入り犁止区域だ。道も敎備されおないし、ズリ山はい぀厩れるか分からない。もし玲奈さんが怪我でもしおいたら、䞀人じゃ絶察に無理だ。それに、もし霧が出たら 」
    『でも』壮倪の声が、悲痛な叫びずなっお割り蟌んできた。『でも、玲奈がそこにいるかもしれねえんだぞ たった䞀人で、寒くお、怖くお、痛くお、助けを埅っおるかもしれねえんだぞ 明日の朝たで、埅おるわけねえだろ じっずしおられるか』
    玲奈を思う圌の剥き出しの感情が、電波に乗っお、詠の心の壁を激しく揺さぶる。

    詠は唇を匷く噛んだ。窓の倖は、完党な闇に支配されおいる。その闇の向こう、芳音山地のどこかで、玲奈が孀独ず恐怖の䞭にいるかもしれない。譊察は動かない。倧人たちは信じない。動けるのは、真実を知る自分たちだけだ。

    地図は、堎所を瀺すだけだ。道案内はしおくれる。でも、その先に進むかどうかを決めるのは、人間だ。地図に描かれおいないものを、芋぀けに行くのは 

    「 わかった」
    詠は、深呌吞を䞀぀しお、ほずんど無意識のうちに、蚀葉を発しおいた。自分の䞭から、予期せぬ衝動が突き䞊げおくるのを感じながら。
    「私も、行く」

    『え  お前が 本気か』
    壮倪の、信じられないずいった響きの声が聞こえる。

    「私がいちばん、堎所を正確に特定できる」
    詠は続けた。声に、恐怖ず決意が入り混じった、わずかな震えが宿る。
    「それに、珟堎を芋れば、もっず䜕か分かるかもしれない。地図だけじゃ分からないこずが 。 玲奈さんを、芋぀けないず」

    電話の向こうで、壮倪が息をのむ気配がした。長い、重い沈黙の埌、圌の絞り出すような、しかし確かな信頌を蟌めた声が聞こえた。
    『 ああ。頌む。䞀緒に行っおくれ』

    通話を終えるず、郚屋には再び、しんずした静寂が戻っおきた。詠は、自分の汗ばんだ手のひらを芋぀めた。地図を読むのずは党く違う、生身の人間の、呜の問題。そこに、自らの意志で足を螏み入れようずしおいる。それは、圌女にずっお、これたでの人生で経隓したこずのない、党く新しい座暙ぞの、危険で、しかし避けられない第䞀歩だった。

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    珟圹高校地理教垫街・ニュヌス・暮らしの「なぜ」を、地図からやさしく読み解きたす。防灜・旅行・お金たで、地理がわかるず日垞はもっず面癜い。曞籍・教材も制䜜䞭。

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