クラシック音楽と私の物語|遠き山に日は落ちて|風まかせ文芸部《秋の空》
いつものロードのコース上。
秋の夕焼け空に、町中に広がるドボ9(※)のチャイムが、帰りの時刻を告げる。
世界がずっと広かった時代、新世界は希望の場所でもあり不安な場所でもあっただろう。技巧を前面に押し出して圧倒する曲ではないけれど、そんな心情が思い浮かぶ名曲である。
管好きには第四楽章冒頭の粗野なメロディがたまらない。もしわたしが舞台に乗ったら、ここぞとばかりに頑張っちゃう。が、万人により受けるのは、むしろ第二楽章冒頭の主題であろう。
オーボエではなくて、コール・アングレを充てているのがまた秀逸。より深く温かみのある音色に、密やかに郷愁を誘われずにはおれない。旋律を作ったドヴォルザークも、後にぴったりの歌詞を付けた後の人も、よい仕事をした。
自分の足が作り出す一定で単調なリズムは、思想を深化させる。
遠い秋の日。
焦げた白飯。
変な味のカレーライス。
湯上がりの匂い。
揺らめく炎。友愛の誓い。キャンドルサービス。
その輪の中にいたあの子。
あの頃のわたしたちには、特別で一度きりの世界。
家路を歌った宿泊研修の夜を思い出した。
濡れ羽色の髪の毛。汗ばんだ掌。桃色のカーディガン。柔らかな声と石鹸の匂い。
ひとつまみの塩分は、あんこを甘くする。されば、額から拭き出す汗が調味する人生もまた同様。哀愁を誘う音色と共に、この時期になると思い出す記憶が、甘酸っぱくないはずがない。もう帰れない新世界。
──隣にいたみっちゃんは、今どこで何をしているだろうか。
秋らしくなって、ダブルリードの音が痛いほど沁みた。
※ ドヴォルザークの交響曲9番「新世界より」の第二楽章
交響曲第9番『新世界より』カラヤン×WPO(1985年盤)
弦楽四重奏曲『アメリカ』スメタナSQ(1966年盤)
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