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Photo byburningrabbit

小田原にて〜術前説明〜

    小田原に来るのは2度目。1度目は娘の引っ越しでアパートの鍵を貰うために娘の車で夜の小田原にほんのちょっと立ち寄った。駅前はまだ賑わっていて通勤帰りの人が行き交う街だった。

    2回目の今日は新幹線から降り立った。熱海と新幹線のホームは変わらないなあなんて思いながら、先に着いている娘を思い、にっこり笑顔の練習をする。周りから見たら多分、ヤバい人だ。

    改札を抜けてキョロキョロ娘を探す。
    人混みの向こうでぶんぶん振られる手が見えた。 娘だ。

    にっこり笑顔を作って近づいた。

    近づきながら娘の笑顔がくしゃっとなり泣き出してしまった。

    ずるい。

    私まで涙ぐんでしまうが、こらえながら
    「朝ごはんは食べたの?」

    おかんはいつだって子どものご飯が気になるのだ。

    ハンカチで目頭を押さえながら食べていないと言う娘に
    「じゃあさ、お昼には早いけどもう少しでお店も開くから早めに行こうか」と駅横のラスカという商業施設に向かう。

    雑貨のお店を流し見しながら、今回の病気の受診までの流れを聞く。

    沈みそうな気持ちに鞭打って携帯の画面を見せながら
    「ここさ〜、ランチもお値打ちで凄く美味しいらしいよ。いつも混むらしいからもう並びに行こうか」とお店に向かう。

    11時開店だがもうすでにウェイティングリストは7組ほど記入されている。

    私は事前に決めていた通り席に通されてお茶を置いて貰うと同時に

    「天丼お願いします!」

    お店の人もびっくりだ。
    天丼は評判通りの美味しさで私達のお腹は満たされた。お腹が満たされると不思議と人は落ち着きを取り戻すのだ。

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    魚國さんの天丼


    小田原市立総合医療センターは駅からバスで約10分。
    建て替えられたばかりの綺麗な病院だ。

    受付を機械で済ませると長いレシートのような紙に今日これからの予定が印刷されている。
    その順番に従い次々と検査を受けて行く。

    そしてようやく婦人科の医師からの説明になった。
    「お願いします。」と二人で部屋に入る。
    「はじめまして。よろしくお願いします。」と私は身体を二つに折るように頭を下げた。
    医師は女性。柔らかい雰囲気ですっぴんの飾らない感じ。人の病と向き合う人ってこんな感じだよなあと勝手に医師への信頼感を持ってしまう。

    前回の検査の結果をレポートで見せてもらう。

    やはり卵巣は20センチにもなっていた。そしてその一部に黒い影がある。しかし、周りの臓器に癌が転移している疑いはない。なのでその卵巣を摘出して片方の卵巣と子宮は残す方針である。

    ただ開腹して臓器の触診で癌が見つかる可能性はある。術中に検査をしてがん細胞が見つかれば腹膜まで取る可能性があること。などが優しく噛み砕かれて話された。

    MRIの画像を見る。お腹いっぱいにぷるんと広がっているもの。これが卵巣。通常、ウズラの卵大だと例えられる卵巣が野放図に広がっている。

    「大きいですね。」

    思わず声がでた。

    「そうです。この大きい卵巣をキレイに割らずに取り出したいんです。割れてしまうと中の液体が他の臓器にもかかってしまうので癌だった場合のステージが上がってしまいます。頑張ります。でももし割れてしまったらごめんなさい。ちゃんと割っちゃいましたってお伝えしますから。」深刻な話なのに娘も私も笑ってしまう。

    「はい。お願いします。」

    とまた深々と頭を下げた。その後、多分ストレスから来てるであろう不整脈があり、再検査。また引っかかる。2日後に再検査と受診となる。

    ようやく最後に入院の説明を聞く部屋に入る。娘はテーブルの下で指を互い違いに上下に動かしていた。

    もう疲れきって不機嫌になっているのがわかる。でもそれを必死で抑えて話を聞いていた。

    もっと前なら唇がとんがっていたのにね。 

    頑張ったね。

    帰りのバスでは二人とも無口になる程疲れていた。

    私の新幹線の切符を買うのを見届けて「ありがとうね。」とぶっきらぼうに言う娘に
    「お疲れ様だったね。またね。」
    と別れた。

    次に会うのは手術の日だ。

    新幹線、在来線を乗り継ぎ駐車場まで歩いて車で家までたどり着く。

    57歳の母は、もうクタクタだ。

    一瞬、強いお酒をぐっと煽って寝てしまいたい欲求を感じる。しかしそれが何も解決しない事はもう分かっている。

    いつもの外猫クロちゃんがご飯をねだる。

    「はい、お待たせ。」

    ご飯を食べ終わってもクロちゃんはまだ裏口にいる。かまって欲しいのだ。

    でもごめん。今日はもうエネルギー残量が足らないの。

    「クロちゃん。また明日ね。」



     
     
    58歳、はじめました。 仕事をしながら3匹の猫たちと暮らしています。 日々の出来事や思ったことを書いています。 なお、禁酒は継続中。

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