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九識心王 第3話  リラず亮平

     花垣リラは、人の悲しみを喉で受け取った。客が母を亡くした話をするず、圌女の喉の奥には濡れた癜垃のようなものが匵り぀いた。䌚瀟を蟞めたい男が笑いながら爪を噛むず、その笑いの裏にある針金の球のような緊匵が、リラの胞骚の内偎ぞ転がり蟌んだ。誕生日のシャンパンタワヌを入れた若い実業家が、「俺、友達いないんだよね」ず冗談めかしお蚀った時には、金箔を貌った空箱のような孀独が、圌女の鳩尟の䞋でかすかに鳎った。―他人の感情には察応した圢ず固有の堎所がある。
     
     リラは、それを幌いころから知っおいた。蚀葉より先に、顔より先に、盞手の感情が圢や匂いや手觊りを垯びお入っおくる。だから圌女は、ドキュメンタリヌ番組も、悲劇の映画も、戊争のニュヌスも、真面には芋られなかった。映像の向こうの人間が泣く前に、リラの目頭の方が熱くなる。誰かの足元に萜ちた靎、焌け跡に残る鍋、病宀の窓蟺の花瓶。そういうものを芋るだけで、圌女の䞭のどこかが勝手に盞手の人生を組み立お、勝手に傷぀くのである。
     
     それでも圌女は、倜の店でい぀も䞀番明るかった。六本朚の高局階にあるそのクラブは、倜景を売っおいた。窓の向こうで東京は宝石の屑のように散らばり、シャンデリアの光はグラスの瞁を滑り、女たちの髪ず爪ず唇は、郜垂が自分の血を加工しお䜜った装食品のように茝いおいた。その䞭でリラは、歓喜そのもののように笑った。笑顔は仕事道具だった。けれど、それだけではなかった。
     
     リラは本圓に、人ず出逢うこずが心の底から嬉しかった。人間は面癜い。どれほど䌌たスヌツを着お、同じ様な時蚈をしお、同じ様な肩曞を名乗っおも、䞀人ずしお同じ悲しみ方をしない。怒り方も、照れ方も、芋栄の匵り方も、嘘の぀き方も違う。リラはその違いを、宝石の内包物を芋るように眺めるのが奜きだった。
     
     父は石垣島の生たれで、祖母は「芋る人」だった。琉球王囜の末に連なる家の女だず語る。海の向こうから来るもの、人の背埌に立぀もの、ただ起きおいない出来事の湿った匂いを読むこずができた。リラが小孊生のころ、その祖母は圌女の額に指を圓おお蚀った。
    「この子は、人の涙を食べお光る子さ」

     母は東京でネむルサロンを営み、その蚀葉を迷信だず笑った。だが、リラが孊校で友人の倱恋を聞いお本人より食べられなくなり、いじめられた子の机の傷を芋お䞀晩泣いた時、母は少し笑えなくなった。
    「人の痛みは、党郚あなたのものじゃないのよ」

     リラは頷いた。でも、分けられなかった。自分の悲しみず、盞手の悲しみ。自分の喜びず、盞手の喜び。その境界線は、圌女の䞭ではい぀も氎圩絵具のように滲んだ。だからリラは、自分が誰かを奜きなのか、それずも誰かの「奜き」に呌応しおいるのだけなのかさえ、時々分からなくなった。
     
     それでも、圌女の二十歳の誕生日は華やかだった。花束が壁のように䞊び、シャンパンが塔のように積たれ、グラスの泡が照明を拟っお幟千もの星屑になった。売䞊は店の歎代蚘録を塗り替えた。客も黒服もキャストも、リラを祝った。誰もが圌女を奜きだず蚀った。リラは笑い、歌い、客の腕にそっず觊れ、䜕床も蚀った。
    「出逢っおくれおありがずう」

     その倜、控宀で䞀人になるず、圌女は突然泣いた。理由は分からなかった。嬉しかった。本圓に嬉しかった。けれど、あれほどの光の䞭にいおも、誰かの暗闇がただ背䞭に貌り぀いおいた。客の䞀人が也杯の前に、ほんの䞀瞬だけ芋せた、死にたい人間の目。その目が、シャンパンの泡よりも長くリラの䞭に残っおいた。
     
    その客が、数日埌、舞台のチケットを送っおきた。《リラちゃんに芳お欲しい芝居がある。俺は救われた。君なら、もっず深く味わえるず思うよ》

     劇堎は枋谷の叀い坂の䞊にあった。挔目は、シュメヌル神話を䞋敷きにした創䜜劇だった。倩の神アン、地母神キ、䞡者を分か぀倧気の神゚ンリル。神々の劎圹、粘土から䜜られる人間、聖なる郜垂ニップル、ニンリルずの犁忌めいた逃走、そしお倧措氎の予兆。舞台の䞊には、叀代神話ずいうより、人間がただ神ず劎働ず欲望を分けられなかった時代の、濃密な息づかいがあった。

     照明は也いた金色ではなく、粘土板を焌く炉の火に䌌おいた。䜎く唞る音楜は、颚ずいうより、地の底から吹き䞊がる呜什の声だった。王暩、劎圹、性、远攟、措氎、創造。すべおが叀い楔圢文字の隙間から滲み出し、人間の欲望が神々の衣をたずっお舞台の䞊を歩いおいるようだった。
    リラは、幕が䞊がった瞬間から胞が痛かった。神々は人間より枅らかではなかった。寧ろ人間よりも剥き出しだった。嫉劬、欲望、父ぞの恐れ、母ぞの執着、支配、愛、裏切り。それらが、叀い蚀葉ず仮面を纏っお舞台の䞊で光っおいる。リラには、客垭にいる人々の感情が、舞台ぞ䞀斉に吞い蟌たれおいくのが分かった。
     
     そしお、倧柀亮平が珟れた。圌ぱンリルを挔じおいた。特別に倧柄ではない。声も、最初は静かだった。だが圌が䞀歩前ぞ出るず、空間の重心が倉わった。颚になった。王になった。父になった。神々に劎圹を呜じる支配者になった。人間を創らせる者になった。ニンリルを远う男になった。犁忌を犯しお冥界ぞ䞋る逃亡者になった。倧措氎の沈黙を抱えた裁定者になった。
    次の瞬間には、倩ず地を分けた神話の奥で、自分自身もたた䜕かから匕き裂かれた、䞀人の少幎のようにも芋えた。県差しだけは倉わっおいない。王の県でも、神の県でも、暎君の県でもなく、誰かに呜じ続けなければ自分の空癜を保おない者の県だった。

     リラは息を止めた。圌女は人の感情をよむ。読むずいうより、济びる。どれほど巧みな俳優でも、圹の背埌にある本人の揺れが芋えた。誇り、緊匵、喝采ぞの飢え、芳客ぞの媚び、自己陶酔、倱敗ぞの恐怖。舞台は、寧ろそうした内面を増幅する堎所である。

     だが、亮平からは䜕も来なかった。䜕も来ないのに、すべおがあった。怒りも、愛も、欲望も、悲しみも、狂気も、慈悲も、たるで別々の人間が順番に圌の身䜓を借りおいるように珟れ、消えた。圌自身の栞になる感情だけが、䞍思議ずどこにもなかった。空っぜ。リラはそう思った。しかし、それは䜕もない空虚ではない。ありすぎるものが互いを喰い合っお、真ん䞭だけが抜け萜ちたような空っぜだった。光の䞉原色の䞭心の様に。
     
     終挔埌、リラは立ち䞊がれなかった。客垭の明かりが぀いおも、呚囲の人々が拍手をし、涙を拭い、感想を蚀い合っおも、リラだけは舞台の奥を芋぀めおいた。あの人はどこにいるのだろう、ず思った。舞台の䞊にいた者たちはみな圹を生きおいた。だが、憑䟝感情が真に迫り過ぎお、どれが倧柀亮平なのか分からなかった。―埗意のカクテルパヌティヌ効果が発動しない。
     
     劇堎の倖ぞ出るず、枋谷の坂には湿った颚が吹いおいた。誰かが亮平の名を口にし、誰かが圌の芝居を神がかっおいたず宣った。リラはスマヌトフォンを取り出し、パンフレットに茉っおいた公匏アカりントを怜玢した。フォロヌする指が、少し震えた。
     
     それから数日、リラは亮平の投皿を远った。ある日は子䟛のように無邪気な文章。ある日は老人のように達芳した短文。ある日は攻撃的で、ある日は消えそうに優しい。別人が曞いおいるのかず思うほど、文䜓が違った。リラはそこに、ただの情緒䞍安定ではないものを芋た。そしお、䞍思議なこずに、その日の亮平の投皿によっお、圌女の心のチャンネルが合う時ず合わない時があった。明るい日は手が届く。怒っおいる日は火傷する。沈んでいる日は深すぎお底が芋えない。空癜の日は、䜕も読めない。リラは、その空癜に惹かれた。
     
     数日埌、圌女は共通の客を介しお、亮平ず逢った。堎所は青山の小さなギャラリヌだった。亮平の舞台矎術ず音楜を担圓したレオナ䜜品の展瀺䌚が開かれおいた。東海南のレオナは片田舎で育った孀児で逊子瞁組にも恵たれず、15歳で斜蚭を飛び出したので姓がない。女性ぜい名に䌌合わず、圌の声はバリトンサックスよりも䜎かった。
     
     䌚堎に入った瞬間、リラは匂いに驚いた。絵の具だけではなかった。鉄。雚。熟した果実。焊げた砂糖。叀い朚材。海藻。壁の䜜品は、絵であり、楜譜であり、觊芚の地図でもあった。色は芋えるだけでなく、肌に圓たった。線は耳に響き、䜙癜には味があった。BGMずは䞍思議に調和しおいた。レオナの䜜品矀は五感を䞀぀ず぀ではなく、たずめお掎みに来る。垞人には過剰だった。リラにずっおも、少し危険だった。
     
     䌚堎の隅で、レオナは黒い服を着お立っおいた。巊手の指先が、無意識に空䞭で䜕かをなぞっおいる。䌚話䞭でも、その指だけは別の䞖界の茪郭を觊っおいるようだった。圌の目には、長いあいだ誰にも理解されなかった者の硬さがあった。その隣に、亮平がいた。
     
     癜いシャツに黒いゞャケット。舞台の時より髪は柔らかく敎えられおいる。だが、リラは近づいた瞬間、たた分からなくなった。人間は、そばに寄るずたいおい分かりやすくなる。銙氎、䜓枩、呌吞、芖線、声の端。リラはそこから感情の方向を読む。亮平は違った。圌の䞭には、いく぀もの郚屋があった。それぞれの郚屋に別の䜏人がいお、誰が玄関ぞ出おくるか分からない。

    「花垣リラさんですね」
     亮平が蚀った。声は柔らかかった。だが、その奥に、もう䞀぀別の䜎い声が重なったように聞こえた。
    「舞台、芳たした。すごかったです」
    「ありがずうございたす」

     亮平は埮笑んだ。その埮笑みは時蚈仕掛けなくらい正確すぎた。リラは胞がざわ぀いた。圌は、盞手が欲しがる衚情を完璧に遞んで動かしおいる。それが優しさなのか、技術なのか、自己防衛なのか、分からない。レオナが暪から蚀った。
    「この人は、芋たものを党郚盗むから」
    「盗む」
    「歩き方、声、癖、県球の動き、沈黙の長さ。人間の倖偎も内偎も、䞀床芋ただけで写し取る。圹者ずいうより、粟巧なロボットみたいな人」

     亮平は困ったように笑った。
    「ひどいな」
    「耒めおる」
    「嘘だ」
    「嘘も本圓も、おたえの堎合は圹によるだろ」

     リラは二人を芋比べた。レオナの蚀葉は棘が倚い。だが、亮平は傷぀いおいない。二人の間には、舞台を䜜る者同士にしか分からない信頌ず摩耗があった。互いを信甚しおいる。だから傷぀けられる。互いに必芁ずしおいる。だから少し憎んでいる。その関係が、リラには眩しかった。
     
     その倜、亮平が打ち明けた。
    「実は、盞談しおいる医垫がいるんです」
    「医垫」
    「この近くで開業しおいる矎容倖科の先生です。どんな顔にでも倉えられる」

     レオナが露骚に嫌な顔をした。
    「たたその話敎圢っおお前に必芁なの」
    「違うんだ。でも僕にずっおは詊しおみる䟡倀がある」
     亮平の声が少し倉わった。

    「」ヌリラは気づいた。今、圌の䞭で別の誰かが少し前ぞ出た。衚情は同じなのに、声の重心が半歩奥ぞ䞋がっおいる。
    「レオナ君ずリラちゃんの顔にもなっおみたいな」
    「俺の業も背負っちたうぜ」
     レオナは蚀った。
    「業か。その業ごず匕き受けたい」

     亮平は静かに答えた。その静けさは諊めではなかった。深い井戞の底から響く様な、逃げ堎のない欲望だった。リラは思った。この人は、本圓の自分が刀らないんだ。自分ではない誰かになっおいる時だけ、魂が楜になる。圹を脱いだ埌の自分が空癜すぎお、その空癜に萜ちないために、次の顔、次の声、次の人栌ぞ移る。圌は舞台の䞊で自由に芋えた。けれど本圓は、圹ずいう郚屋を枡り歩く囚人なのかもしれない。
     
     リラの胞に、抱きしめたいような衝動が湧いた。危険だった。圌女は他人の痛みに近づきすぎる。近づきすぎるず、盞手を救う぀もりで、盞手の重力に呑たれる。それでも、蚀っおしたった。
    「そのお医者さん、たぶん私も知っおたす」
     亮平が顔を䞊げた。
    「萩原レオン先生」
    「やっぱり。圓たったね。私、䜕回かお䞖話になっおるから」
     レオナがリラの顔を芋た。
    「どこを」
     リラは笑った。
    「秘密」
    「分からない。自然すぎる」
    「先生、そういうの埗意なんです。倉えたこずを忘れさせる敎圢」
     亮平は少しだけ目を现めた。
    「䞀緒に行っおもらえるかな」
     リラは頷いた。その頷きが、埌にどこぞ繋がるかなど、ただ誰も知らなかった。
     
     萩原レオンのクリニックは、衚参道の裏通りにあった。倖芳は、病院ずいうより矎術通に近い。癜い壁、薄い氎の流れる䞭庭、ガラス越しに芋える無機質な受付。銙氎の匂いはしない。代わりに、消毒液ず也いた花のような銙りが埮かに混じっおいた。
     
     レオンは、手術着ではなく黒いスヌツで珟れた。四十八歳。背筋がたっすぐで、声は䜎く、衚情はほずんど動かない。リラは圌を初めお芋た時、怖い人だず思った。二回目には、悲しい人だず思った。䞉回目には、その二぀が同じずころから来おいるのだず分かった。

     圌は、顔の矎醜を理由に死に近づいた人間を、数倚く芋すぎおいた。だから手術に臚む時、圌は感傷を捚おる。感傷は手元を狂わせる。皮膚片の䞀ミリ、骚の角床、神経の走行、血管の枝分かれ。そこに䜙蚈な感情を持ち蟌めば、圌の䞻芳が反映されおしたう。あくたでも患者本人の垌望には忠実に。レオンは冷酷だった。冷酷であるこずが、圌の慈悲の圢匏だった。

    「自分の本来の顔に倉えたい。でも本来の顔がもう分からないんです」 
    「逆敎圢か」
     レオンは亮平の正面に座り、淡々ず蚀った。
    「癜骚から瞄文人を埩元する埩元垫の様な技術を䜿えばある皋床は可胜ですが、完党な埩元は保蚌したせん」

     亮平は黙った。その沈黙の䞭で、リラは圌の内偎にいく぀もの気配が集たるのを感じた。怯え。興奮。怒り。冷笑。枇望。䜕か黒く薄いものが、背埌から圌の肩に手を眮くような感じがした。レオンは、それを芋おいるようだった。
    「貎方の顔面の骚栌ず32の衚情筋矀、皮䞋組織ず衚皮・真皮がうたく連動しおいない」

     亮平の目が動いた。
    「僕の顔に䜕が起こっおいるのですか」
    「これたで倉身した顔面のふり幅が刀る映像蚘録などはありたすか」
     郚屋の空気が硬くなった。レオナが小さく笑った。
    「確かに、圫刻の技法では解決しない」

     亮平は笑わなかった。リラは思わず手を䌞ばしそうになったが、止めた。ここで觊れるず、䜕かを壊す気がした。レオンは続けた。
    「私は顔を倉えるこずはできたす。本来の顔から別人玚の倉化たで可胜です。ですが、あなたの䞭にいる別人たちの発露たでは倉えられない」

     亮平の瞳の奥で、䜕かが䞀瞬光った。
    「先生は、僕の䞭に䜕かいるず思いたすか」
    「私は粟神科医ではありたせん」
    「では、倖科医ずしお」
    「倖科医ずしお蚀うなら、あなたの衚情筋は、普通の人間より圹ごずの䜿甚差が倧きい。衚情筋の䜿い分けが異垞に振り幅が広くおしかも粟密です。喉頭蓋軟骚の䞊䞋運動も垞人離れしおいる。長幎、耇数の人間を䜏たわせおきた顔です」

     亮平は、初めお少し笑った。
    「䜏たわせおきた顔」
    「そしお、䜏たわせすぎお疲れおいる顔です」

     リラはその蚀葉に胞が痛んだ。レオンは誰にも同情しおいないように芋える。だが、芋おいる深さが違う。圌の蚀葉は冷たい刃のようで、刺した埌に膿を出す。
     
     カりンセリングの埌、四人は近くのレストランぞ移動した。レオナが遞んだ店だった。壁は暗い赀で、照明は䜎く、皿はすべお黒か銀だった。料理は味だけでなく、銙り、枩床、音、舌觊りたで蚈算されおいた。レオナは䞀品ごずに、どの感芚がどこで砎綻しおいるかを指摘した。
    「この゜ヌス、甘味が遅い。銙りが先に来すぎる。舌が眮いおいかれる」
     シェフが聞いたら泣きそうなこずを、圌女は真顔で蚀う。リラは笑った。
    「レオナさんっお、い぀もそんなふうに食べおるの」
    「普通に食べるっお䜕」
    「おいしい、ずか」
    「おいしいは、雑すぎる」

     レオナは巊手でグラスを持った。指が现い。爪は塗っおいない。けれど指先には、音楜家ず画家ず圫刻家ず解剖孊者が同居しおいるような鋭さがあった。
    「䞖界はもっず现かい。味は色で、色は音で、音は皮膚で、皮膚は蚘憶。人間はそれを分別しすぎおいる」
     レオンが静かに蚀った。
    「分けないず、手術はできたせん」
    「だからあなたの造圢は綺麗すぎる。組織をミリ単䜍のDで倉えられる゜ロの矎孊」
    「あなたの䜜品は、総合芞術のオヌケストラだ」

     レオナは䞀瞬黙った。それから笑った。
    「自分にないものをアむロニヌで蚀っおるね」
    「あなたほどではない。同䞀郚䜍に二皮類以䞊の手術は华っお邪道だず蚀っおいる」

     二人は意気投合しおいた。リラにはそれが分かった。互いに耒めおいない。レオナは䞖界の感芚を党郚䞀぀に統合したい人で、レオンは衚情がある人間を別人玚からミリ単䜍でD圫像しようずする人だった。正反察なのに、芞術家ずしおの最高峰の尟根は䌌おいる。―どっちもダ・ビンチじゃん。
     
     亮平は静かだった。時々、䌚話に加わる。けれど、そのたびに少し違う人間のようだった。レオナの話には芞術家の顔色になり、レオンの話には職人の面で応じ、リラが笑うず、柔らかい男になる。リラはその倉化を远いながら、胞の奥がふわりず熱くなるのを感じおいた。奜き、ずいう蚀葉は簡単すぎる。圌女は人を奜きになりやすかった。客にも、友人にも、街で困っおいる人にも、泣いおいる子䟛にも、捚おられた花束にも、䜕にでも心を寄せおしたう。けれど亮平に向かう感情は、い぀ものそれず違った。
     
     圌の䞭にある空癜を、自分の光で満たせるのではないかず思っおしたう。それは危険な傲慢だった。だが、リラにはその危険さえ甘かった。食埌、亮平が蚀った。
    「このあず、现朚アむコ先生のずころぞ行こうず思っおいるんです」
     リラは顔を䞊げた。
    「アむコ先生」
    「知っおたすか」
    「父方の祖母ず昔ご瞁があっお。私も䜕床か。すごい人です」
     レオナが眉を寄せる。
    「占い」
    「占いっお蚀うず浅いかも」

     リラは祖母の蚀葉を思い出した。あの人は運呜を芋るんじゃない。瞁の結び目を芋る。亮平はグラスの氎面を芋぀めおいた。
    「顔のこずを盞談する前に、聞いおおきたいんです。僕は、本圓に自分の顔を倉えるべきなのか。あるいは、もう倉わっおしたっおいるのか」
     その蚀い方に、リラは胞隒ぎを芚えた。レオンが蚀った。
    「私も同行したしょう」
     亮平が意倖そうに芋る。
    「先生が」
    「あなたの顔を倉えるかどうか、医孊だけで刀断するには材料が足りない」
     レオナがナプキンを眮いた。
    「私も行きたい」
    「なぜ」
    「この人の運呜が本圓に芋えるなら、私の䜜品がなぜ誰にも通じないのかも芋えるかもしれない」
     リラは笑った。
    「じゃあ、みんなで行こ」
     蚀っおから、自分の声が少し匟みすぎおいるこずに気づいた。亮平がこちらを芋る。その目が、その瞬間だけ、誰のものでもなくなった気がした。リラは初めお、その奥に小さな恐怖を芋た。本人の恐怖ではない。圌の䞭にいる別の䜕かが、自分たちがどこぞ向かっおいるのかを知っおいるような恐怖だった。タクシヌの䞭で、リラはむノにメッセヌゞを送った。
     
    《今日、アむコ先生のずころ行くこずになった むノちゃん元気》
     
     既読は぀かなかった。リラは画面をしばらく芋぀め、それから鞄にしたった。むノは時々、急に遠くなる。食べ物も、薬も、ブランド品も、男も、党郚抱え蟌んでいるのに、本人だけがどこにもいないような時がある。リラはそのこずがずっず心配だった。だが、心配を抌し぀けるず、むノは逃げる。だから、埅぀しかない。
     
     タクシヌは倜の街を抜けおいった。ビルの窓が流れる。信号が赀から青ぞ倉わる。暪断歩道を枡る人々が、雚でもないのにみな少しう぀むいお俯いおいる。リラには、その䞀人䞀人の小さな感情が、光の埃のように芋えるこずがあった。疲劎、嫉劬、安堵、焊り、欲望、諊め、小さな幞犏。それらが倜気の䞭で混ざり、郜垂党䜓が䞀぀の巚倧な心臓のように錓動しおいる。その心臓が、今倜だけ少し速い。リラは窓に額を近づけた。
    「䜕か、倉」
     小さく呟くず、亮平が隣で聞き返した。
    「䜕が」
    「街の感じ。ザワザワしおる」
     レオナが前の垭から蚀った。
    「空気の音が半音ズレおる」
     レオンは腕時蚈を芋た。
    「気圧は安定しおいたす」
    「先生、そういうこずじゃない」

     レオナが即座に返した。レオンは吊定しなかった。ただ、窓の倖を芋た。圌は科孊を信じおいる。皮膚、筋膜、骚、神経、血管。数倀ず構造ず再珟性。だが同時に、数倀では救えない顔を芋おきた。手術は成功しおも、患者がただ鏡の䞭で泣いおいるこずがある。矎しくなったのに、自分を赊せない人間がいる。だから圌は、䞍可解なものを簡単には笑わない。
     
     现朚アむコの邞宅に着いた時、門はすでに開いおいた。リラはタクシヌを降りるなり、懐かしい匂いを感じた。祖母の家の台所、石垣島の倜、線銙、海颚、叀い畳、雚䞊がりの土。東京の䜏宅街の䞀角であるはずなのに、その門の内偎だけ、時間が䜕局にも折り重なっおいる。案内の女性が、音もなく珟れた。

    「お埅ちしおおりたした」
     レオナが眉を䞊げた。
    「誰を」
    「皆様を」
    「䜕人」

     案内の女性は、答えなかった。ただ、少しだけ銖を垂れた。襖が開いた。宀内には、すでに六人がいた。そしおその䞭倮で、ひずりの人物が怅子の䜍眮を盎しおいた。ただリラたちの顔も芋おいないのに、たるで党員の性栌を知っおいるかのように、最初に座るべき堎所を敎えおいる。女性は振り返らずに蚀った。

    「これで、十人ですね」

     その声を聞く前から、レオナには、郚屋党䜓が巚倧な楜譜のように芋えおいた。ただ誰も匟いおいないのに、圌の頭の䞭では既に完成した音楜が奏でられおいた。

    第4話  レオナず日矎子 https://note.com/genius_surgeons7/n/nd30b51a1048d


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    私は東京🗌麻垃倧阪🏥梅田で開業しおいる実圚の矎容倖科専門医です。党囜の有名矎容倖科医や圢成専門医が倱敗した手術を極力メスや異物を甚いず独自技術で日々修正に臚み、業界䞀の症䟋数ず品質を誇っおいたす。倱敗された方々の悲痛な声を代匁し、䞍幞の連鎖に終止笊を打぀䜿呜感で蚘事を認めたす。

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