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【小説】『🌌光を喰らう白の庭』第17話─還る声と白の輪郭


    白い光は、ずっと遠くにあると思っていた。
    触れようとすれば消えてしまう幻のように、ただ手を伸ばすことだけが許されるものだと。

    でも今、その白は、カインの視界の奥に滲んでいた。
    それはもう、遠いものではなかった。

    肺が、少し苦しいくらいに空気を吸い込む。
    喉が乾いて、胸が軋む。
    この痛みも、重さも、何もかもが現実だった。
    それがひどく怖くて、でも同時に、泣きたいほど愛おしかった。

    ゆっくりと瞼を開く。
    視界はまだぼやけていたが、やがて形が重なり合っていく。
    白い天井。
    薄いカーテンの影。
    点滴の滴が落ちる音。

    ――帰ってきた。

    その言葉が胸に落ちた瞬間、何かがほどけるように息が漏れた。
    戻ることは終わりではなく、始まりだと知っていた。
    でも、今だけはこの安堵に身を委ねたかった。

    「……おかえり。」

    声がした。

    言葉というより、温度だった。
    胸の奥に、やわらかく降り積もる気配。

    視線を横に移すと、椅子に座る人影があった。
    白い輪郭が、ゆっくりと焦点を結ぶ。

    その姿は、どこか懐かしかった。
    輪郭が滲んで、はっきりと顔は見えない。
    けれど、その沈黙と、ただそこに在る気配が、言葉以上に語りかけてくる。

    「……ずっと……」

    声を出すと、喉がかすれて痛んだ。
    それでも、確かに伝えたかった。

    「待って……いてくれたんだな。」

    人影は何も言わずに、ただ小さく頷いた。
    その仕草は、遠い昔に自分が描いた理想の残響に似ていた。
    それだけで、胸が熱くなった。

    ふと視線を落とす。
    自分の掌に、まだ名もない光があった。

    それは微かに震え、息をしているようだった。
    現実の空気の中で、それが確かに生きていることが、少し怖かった。

    けれど、その怖ささえも愛おしいと思えた。

    「分からないままでいい……。」

    言葉が零れる。

    「名前はいらない。ただ……一緒に……。」

    声が震えた。
    でも、それでよかった。

    白い輪郭の人影は、ゆっくりと立ち上がると、ベッドのそばに歩み寄った。
    何かを伝えようとする気配があった。
    でも、すぐに言葉にはならなかった。

    その沈黙は、恐怖ではなく、赦しに似ていた。

    ――きっとこれが、再生のはじまりだ。

    名もない光が、掌で小さく脈動する。
    その震えは、遠い世界で始まった旅の証だった。

    そして、戻ってきたこの場所が、また新しい旅の出発点であることを、
    どこかで確かに知っていた。

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    東雲ふわり🫧

     
     
    色々なことに興味があるただの大学生。 好きなことを好きなだけ綴る。 🫧ふわふわり、ふわふわる🫧

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