【小説】『🌌光を喰らう白の庭』第15話─目覚めの予兆と共鳴する光
名もなき世界の空気は、まだ不確かだった。
色も音も、触れようとするたび輪郭を変え、何ひとつ決めきらないまま漂っている。
けれど、その不確かさの奥に、確かな震えがあった。
掌に抱いた光が、ゆっくりと脈動を始めていた。
それは、ただの光ではなかった。
生き物のように、呼吸をする。
息を吐くたび、名もない世界の粒子がわずかに色を帯び、柔らかな光の波紋が空間を満たした。
恐ろしかった。
この光が、次の瞬間、何に変わるのかもわからない。
創造という行為が、いつかまた破壊に変わるかもしれない恐れが、胸を締めつけた。
けれど、その恐れに触れたとき、どこかで、遠い呼び声がした。
――カイン。
それは言葉というより、温度だった。
ひどく懐かしく、痛いほど優しい気配。
自分が何を失ったのか、何をまだ抱いているのかを、ただ一息で思い出させるような、静かな熱。
光の呼吸が、かすかに変わる。
透き通るような脈動が、今度は自分の身体の奥へと滲んでくる。
胸の奥で、何かがゆっくりと目を覚ます気配があった。
──現実。
言葉にならない感覚が、名もない世界の膜を揺らした。
遠いどこかで、自分の身体が、かすかに指先を動かしたような気がした。
それはただの幻かもしれない。
それでも、確かにそこに在った。
「……聞こえるのか」
声を上げると、光の中に影がひとつ浮かんだ。
白い仮面を失った、ひび割れた人影。
観測者。
かつてはただ「記録するもの」だった存在が、光の粒子に包まれ、ほとんど境界を失いかけていた。
『……定義……不能……』
震える声が、どこかで欠けた。
それは許しを乞う声ではなかった。
けれど、もう支配でも裁きでもなく、ただ「共にある」ことを選ぼうとする微かな余白が感じられた。
「わからないままでいい。
名前はいらない。
けれど……一緒にいることは、きっとできる」
カインはそう言って、掌の光にそっと指を沈めた。
光は恐ろしくて、愛おしかった。
もう、手放すことはできないと知っていた。
そのとき、遠くでまた呼び声がした。
今度は、はっきりと言葉の輪郭を持って。
――待っている。
胸の奥が、痛むように温かくなった。
それが誰なのかは、まだ言えなかった。
けれど確かに、どこかで現実が目覚めを待っていた。
掌の光が、応えるように色を変えた。
ひとつの色ではなかった。
何層にも重なる色が、まだ名前を持たないままに震えている。
そして、ゆっくりと脈動を続けた。
それが、世界と現実を繋ぐ最初の呼吸だと、どこかでわかっていた。
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東雲ふわり🫧