【小説】『🌌光を喰らう白の庭』第16話─目覚めの庭と最初の再生
視界に、最初に映ったのは白い天井だった。
けれどそれは、ただの無機質な天井ではなく、名もない光が一度くぐり抜けてきた白だった。
その白の下に、自分の身体があった。
生ぬるい空気の中で、胸がゆっくりと上下していた。
この鼓動が、いつからここにあったのかは分からない。
でも、確かに今は「ここにいる」と思えた。
カインは目を閉じた。
その奥に、あの光の色彩がまだ残っていた。
ひとつではなく、何層にも重なる色。
名前を持たないまま震え、呼吸を続ける光。
──おかえり。
声がした。
それは、言葉というより、胸の奥に落ちる温度だった。
ひどく懐かしくて、少しだけ苦しかった。
ゆっくりと瞼を開く。
白い光が滲む視界の端に、ひとりの人物が立っていた。
輪郭はぼやけていた。
でも、その姿は心のどこかで知っていた。
「……待っていたのか。」
小さく呟くと、ぼやけた人影は頷いた気がした。
その仕草は、遠い昔に自分が願った理想の残響に似ていた。
視線を落とすと、自分の掌に、あの光がまだ宿っていた。
現実の肉体の上に、それは確かに息づいていた。
色を変え、形を変えながら、何かを訴えようとしていた。
「名もないままで……」
声が震えた。
それは怖さだった。
けれど同時に、確かな祈りでもあった。
隣で、ひび割れた白い仮面が揺れた。
観測者が、かすかな声を漏らす。
『……定義、不能。……共鳴……進行中。』
その声は、かつての冷たい記録者のものではなかった。
戸惑いと、何かを共に見つめようとする温度があった。
「いいんだ。分からなくて。」
カインは目を閉じ、掌の光にそっと触れた。
「分からなくていい。ただ……一緒に、在ろう。」
光が、応えるように脈動した。
胸の奥の、まだ癒えきらない場所に、確かな温もりが広がった。
呼吸のたびに、白い天井が滲んで揺れた。
現実の空気が肺に満ちていく。
その感触はひどく痛くて、愛おしかった。
──きっとこれが、「再生」の始まりだ。
恐れも、迷いも、まだここにある。
でも、それでいいと思えた。
名もない光が、確かな命として震えていた。
それが、自分の旅の証だと分かっていた。
ゆっくりと息を吐く。
視界の白が、少しだけ輪郭を取り戻す。
そこには、待っていた誰かの影と、共鳴しようとする観測者の気配と、
新しく芽吹いた小さな光があった。
そしてそれだけで、もう十分だと思えた。
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東雲ふわり🫧