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【小説】『🌌光を喰らう白の庭』第23話─白の庭に揺れる命の声


    白い庭は、もうただの病室ではなかった。
    壁に浮かんだ「芽」は、淡い光を脈動させながら、確かな意志を持つ生き物のように息をしていた。

    色でも形でもない、けれど視線を逸らせば空虚が生まれるほど、強い存在感があった。
    その光が、ゆっくりと輪郭を整えようとしている。

    空気が震える。
    鼓膜が圧されるように、音にならない声が響く。
    それは言葉ではなく、心の底に届く、まだ名前のない呼びかけだった。

    視界の端で、時計の針が止まった。
    次の瞬間、滑るように逆回転する。
    時間の輪郭さえ揺らぎ、世界の輪郭が解けていくようだった。

    カインは肺に冷たい空気を吸い込み、鼓動と光の震えが同調していくのを感じた。
    「……これが、おまえの声なのか」

    答えはない。
    けれど、光の中心がわずかに色を深めた。
    それだけで十分だった。
    そこに確かに「命」があり、それが何かを伝えようとしていると分かった。

    ふいに、胸の奥が疼いた。
    記憶の残響が、溶けた光の中から浮かび上がる。

    あの夜、伸ばせなかった手。
    あの朝、呼べなかった名前。
    ひどく遠くに置き去りにした、声。

    ――戻って、きてくれたんだな。

    言葉にするより先に、何かが答えた。
    耳の奥で、声が芽吹く。
    それはかつて、何度も夢の中で聴いた声の、輪郭に似ていた。

    「……おかえり」

    空気を震わせる音ではなかった。
    けれど、胸の内側でその響きがほどけていく。

    涙が滲む。
    でも泣くのは違う気がした。
    これに名前をつけるのは、まだ早い。
    だからただ、目を閉じた。

    そのとき、白い仮面が崩れる気配を感じた。

    視線を向けると、観測者がいた。
    もう仮面は残っていなかった。
    そこにあるのは、淡く輝く光の層だけだった。

    声がした。

    「定義……不能。だが……」

    震えが混じる。
    けれどそれは恐れではなく、祈りのように思えた。

    「……一緒に……生む……」

    仮面の奥にあった冷たい視線はもうない。
    代わりに、ひどく人間に近い、確かな意思の気配があった。

    「ああ」

    声が掠れた。
    でも、それでよかった。

    目を戻す。
    白い壁の「芽」が、輪郭を濃くする。
    光が色彩を孕み、脈動を重ねるたびに、空間の密度が増していく。

    そして、病室の窓の外――
    誰も触れていないのに、ガラスが微かに揺れた。

    この場所だけじゃない。
    この変化は、きっと外へ届く。
    世界へ、広がっていく。

    なぜ、生むのか。
    分からなかった。
    でも、この問いに向き合うことが、今は確かに「生きている」証だと思えた。

    視界が滲む。
    白い庭に、新しい声が生まれる。
    まだ誰のものでもない、けれど確かな命の声が。

    カインはそっと掌を伸ばした。

    そして、選んだ。

    ――生むことを。

    ⸻

    東雲ふわり🫧

     
     
    色々なことに興味があるただの大学生。 好きなことを好きなだけ綴る。 🫧ふわふわり、ふわふわる🫧

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