メインコンテンツへスキップ

【小説】『🌌光を喰らう白の庭』第14話─光の芽と現実の呼び声


    視界を覆っていた「名もない色」が、ゆっくりと輪郭を持ち始める。
    それは、まだ形を決めきれない光の粒子のようだった。
    無数の欠片が空間に漂い、カインの呼吸に合わせて脈動する。

    足元に揺れる光の芽は、触れるたびにかすかに震え、別の色に変わった。
    白でも黒でもない。
    記憶のどこにもないはずなのに、どこか懐かしい温度を宿していた。

    「……生むことは、まだ怖い。」
    声にすると、胸の奥の震えが増した。
    創造は、ただの救いではない。
    選ぶこと、責任を負うこと、そして何より、自分が決めることを他者に見られる恐ろしさを孕んでいた。

    それでも、もう手を離すことはできなかった。

    指先でそっと光を撫でる。
    脈動は強くなり、やがて微かな呼吸音のような振動が世界を満たした。

    ──どこかで、現実の風が吹いた気がした。

    振り向くと、境界の遠くに、ひび割れた光が見えた。
    心の街の残響でも、過去の記憶でもない。
    それは、たぶん、現実のどこかにまだ繋がる糸。

    「ここにいる。」
    言葉にしなくても、光は応えるように脈を打った。

    そして、その光の奥に「人影」が立っていた。
    かつて観測者と呼んだ存在。
    もう仮面も均質な声も残っていない。
    ただ、崩れかけた輪郭が、そこに在った。

    『……記録。……定義不能の現象、継続中。』

    その声は、かすかに揺れていた。
    問いかけるでもなく、押しつけるでもなく。
    どこか、許しを請うようにさえ感じられた。

    カインは目を逸らさなかった。
    光の芽に手を添えたまま、言葉を探す。

    「……これが何かは、まだわからない。」
    声が震える。
    「でも、壊さない。名前を与えない。定義しない。ただ……一緒に在る。」

    観測者は応えなかった。
    けれど、輪郭の奥に、わずかな明滅が走った。

    その時、世界の底から風が吹いた。
    境界を越え、現実の匂いを運んでくる。

    遠くのどこかで、まだ覚めきらない意識が揺れている気がした。
    それは、自分かもしれない。
    あるいは、かつて失った誰かかもしれない。

    「……呼んでいるのか。」

    呟くと、掌の光が少しだけ熱を帯びた。
    それは返事のようで、まだ何も約束しない余白のようでもあった。

    何もかもが未完成で、不確かで、怖かった。
    けれど、その恐れこそが、ここにいる証だった。

    境界が軋む音がする。
    この世界は、きっと変わり始めている。

    ──名もない光が、彼の手の中で呼吸を続けていた。

    ⸻

    東雲ふわり🫧

     
     
     
    色々なことに興味があるただの大学生。 好きなことを好きなだけ綴る。 🫧ふわふわり、ふわふわる🫧

    あなたへのおすすめ