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#2「空の申し子が欲しいのです。」|小説『暗転も好転も、それは君と僕の心次第。』


#2「空の申し子が欲しいのです。」


マドス・ユ・ウェイル──女神クレアの寵愛を受けた子を、己の器の身から追放した器、本体。

陰で囁く声は、妬みと嘲りと。

尚、まだ女神クレアに愛される資格を
女神が与えている特別。

夜な夜な、マドスは、夢を見る。

成し得なかった夢。
届かなかった夢。
陥れられたことに失望し、涙を流す夢。

だが、この夜は、違った。

清涼な神気が満ち、招かれてここに居る。何も拒絶をしていない空間。

太陽が天にあり、空はどこまでも澄み渡っていた。
青い空。

どこまでも続く青い空。

マドス・ユ・ウェイルの方に、足跡が近づく。

サク、サク。と柔らかな草を踏み締めて、ゆっくりと。

「どうしたんだ。ぼんやりして?」

マドスのことを気にかける声に、心がゆれた。

一切のわけ隔たりのない自分の隣。
声の主は、自分の隣に居た。

「……翔馬」

マドス・ユ・ウェイルでなく、
マドスという少年にかけられた声に、涙がこぼれる。




懐かしさで、胸が苦しい。
申し訳なさで、喉が閉まるかのようで。

マドスの、かすれた声でも
翔馬は、うなづく。

マドスが一言話しては、翔馬は、一言返す。
その順番は変わらずに、ひとつひとつ話す。

マドス自身に迷いがあることには、翔馬は「本当に、それでいい?」
と返す。
また、もう一度考えて、言葉に出す。

自分でも良いと思った言葉は、青い空に吸い込まれるように消えた。

マドス・ユ・ウェイルの中に、白い炎を小さく灯した。

「ああ、僕は、……」

夢が終わるマドスの最後の言葉に、翔馬は笑った。


「君の名前は、マドス・ユ・ウェイルになっても、僕の方は変わらない」

肯定か、否定か、それすら分からない。
翔馬の姿は、夢が覚めるのと同時に消えた。

目覚めた時。

残っていたのは、翔馬の──笑顔。




「……すまない。翔馬」

「僕は、『マドス・ユ・ウェイル』としての決断をしたい」

祈りの装束に着替え、
マドス・ユ・ウェイルは、一人で向かう。

誰にも、知られないまま。

──今を。
遮られないように。




「空の申し子が欲しい。」

女神クレアは、化身の女神像に声を写した。

その白い像が、マドスの言葉に即座に返す。

「お前の予知夢は、人為的でなければ起こらない」

女神クレアの声は、ただ事実を告げていた。

「翔馬。あの子は特別でした。

空と鋼に愛され、その力は増していく。

鋼に守護されているために、おいそれと手は出せない。

鋼に切られる覚悟がいる」


クレアの作る雪は、冷たさとともに、
マドスの胸へ沈んでいく。

簒奪。

鋼に切られる覚悟。

女神クレアは止めている。

お前は命を長引かせなさいと。


「わたくしは、まだ、翔馬を愛しています」

「……翔馬は、『空』ですもの。
あの子の青色が好き。

氷と空の女神であるわたくしも、
自分を律しています」


クレアは、はっきりと言っている。

神の位になるものは、
手を出そうとしないのだと。


マドスは顔を上げた。

「わたしは、神のしもべであり、
神の座に近づく気はありません」

「わたしは、人の身でありたい」


心の動く人の身のままを望む。

拒絶。

女神の忠告を断る。

愚かすぎる言葉。


「彼の生まれた世界に嫌われようと、
構わない」


翔馬を待つ者がいても。

返せと叫ぶ者がいても。

彼らから奪う側になる。


マドスの心は動かなかった。

翔馬がいてくれるなら、
片腕のない未来も受け入れよう。


「認めます」


マドスは、静かに答えた。

「翔馬という空を手元に奪えるのなら。
わたしは簒奪者でいい」


──マドスは、翔馬のことを、
空と鋼の申し子と呼ばなかった。


空の申し子とだけ述べた。

鋼──「戦い」の象徴に
翔馬を置き続けない覚悟。


「……お前は、
わたくしの言葉を受け入れない。」

そういいつつ、女神クレアは像から姿を消す。

──少しだけ険しい声を和らげて。



『暗転も好転も、それは君と僕の心次第。』スタート第一話↓↓




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