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#1『呪から解かれて、青煙と空は満月に戻りゆく』

ストーリー第一話+登場人物紹介。

暗転も好転も、それは君と僕の心次第。


#1『呪から解かれて、青煙と空は満月に戻りゆく』



女神のしもべに近しいものが、ミスをした。

名に刻んである誓約の呪が燃えている。

叫んでいるのは、子どもと青年。

女神のしもべの名を持った子ども『女神の子』より、剥がれ落ちる青年『空と鋼の申し子』。


弾き出される青年を見て、青煙(せいえん)は笑う。

『お前の身体を取り戻しに行こう』

青い煙は、青年を包み込む。

青い煙は、苦しみ叫ぶ異世界の者たちに用はない。





青煙の眼下に広がる女神の凍結湖。

その最深部に求めるものはある。

侵入排除の神罰の光を、一閃で、切り消す。

凍り続ける湖に眠る、再生を止めた人の身体。

侵入路のない女神の氷。

『青い煙』は、自分とつながる青年の身体を取り戻しにいく。


女神の神罰の光は一斉に襲いかかるも、滅することができず、鋭き鋼のごとき一閃を、逆に受ける。

鋼のごとき一閃も、また神罰。


【青煙】は、笑う。

手応えがない、と。


主人のおらぬ自動排除など、敵にあらず。

雑兵なだけ。

だが、鬱陶しい。


氷の中を走り降りながら、青い煙を広げた。

まるで、空に広がる雨雲のように。

ひとつを目指して、まっすぐに。

氷の中を、進む。

『……動け。我の潜みし身体の子。お前を連れて、ここから出る』

青い煙に湿潤された氷は、悲鳴をあげる間もなく、砕け散る。


巨大な氷結の空間の中で、形を残していたものは、取り返すべき青年の身体、ただひとつ。


『この我が潜む心臓を持った身体。異界の神に蒐集(コレクション)されるなど、反吐が出る』

その青年の名は、『翔馬』。

玉鋼の刀神【青煙】の下に再び戻り、【青煙】と共に、『翔馬』はその場から姿を消した。





信乃(しの)は、今夜も火を絶やさない。

自分の息子が、姿を消した日から、ずっと祈りを続ける。

『あの子が無事でありますように』

祭壇の中央に、座するは、神格高き刀、乱菊(らんぎく)。

信乃は、その刀を手に取る。


あの子が、この世界に残した守り刀。

巫女の舞を捧げる。

剣舞。

守り刀の乱菊を用い、舞う。

夜風は鎮まりかえり、子を思う母の願いが、刀の波紋に姿を写す。


赤い炎の灯火は、この空間の神気を守る。


夜の暗闇を、灯火は制した。

今夜は、満月。

乱菊の礎となった刀神【青煙様】のお好きだった夜。

『お答えください、刀に宿る神々よ』

赤い炎の灯火が、火を消した。

突然に。

真っ暗な暗闇の中、月の光だけになる。


祭壇に、何かがあった。


満月の光を浴びて、輪郭があらわになる。

人の形。

それは、人の形をしていた。

信乃は、走り寄る。

涙のあふれる顔のまま、そばへ。


手を触れる。

信乃の手は、すり抜けず、人の形に手を置けた。

『……ありがとうございます。わたしの望みは、果たされました』

呼吸に合わせて、胸が上下する。

信乃のものではない。

もう一つの身体が、確かに息をしている。

『お帰りなさい。待っていたわ、……翔馬』





登場人物紹介

二矢翔馬(ふたや しょうま) 

母の胎内に命を宿したときから、同時に二つの異なる世界に愛されていた青年。

年齢二十三歳。

空に憧れ、鋼の炎から離れられないのは、彼が『空と鋼の申し子』であるため。

翔馬には、記憶の欠けた一年間がある。




記憶の欠けた一年の間、回復不能となった彼の身体は、女神クレアのもとで氷の中に封印されていた。

一方、身体から離れた翔馬の魂は、マドス・ユ・ウェイルの“組み替え前の身体”を器として過ごしていた。


やがて、マドス・ユ・ウェイルの名に紐づけられていた女神クレアの呪が、人為的に壊される。

器から弾き出された翔馬の魂が求めたのは、氷漬けとなった自らの身体だった。

女神クレアのもとから、その身体を奪還したのは、
古き現代日本の刀神【青煙】(せいえん)。

だが、【青煙】の奪還は正攻法によるものではなく、
そのため翔馬には、
マドスたちと共に過ごしていた一年間の記憶が欠けている。





マドス・ユ・ウェイル

女神クレアの星に【女神の子の器】として生きることを受諾した貴族。

年齢は、十三歳。

かつて毒を喰らい、黄泉へ落ちかけたところを翔馬に救われている。

その後、翔馬の魂を受け入れたことで【女神の子】として名を知られることとなるが、その名を人為的に悪用されてしまう。

名が汚れたことで浄化が必要となり、現在は名前と顔を伏せている。


大地の女神サファーランの加護を受けていた一族の末裔。

『空と鋼の申し子』である翔馬と、対となる資格を持っている。

翔馬が心を支えてくれていたにも関わらず、結果としてその魂を器から弾き出すことになってしまったことを後悔し、今もその思いを心の奥から拭い去ることができずにいる。




──『一度、手に入れたはずの空は、異世界から姿を消した。

均衡は崩れた。

異世界は再び、空を取り戻そうと、
人の心に作用しはじめる。

──誰の断りも、いらないだけ。』



二つの世界の「空と鋼」に同時に愛された子どもは、たったひとつしかない身をどうすればいいのですか?







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