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颚の䟿り 心音の栞_1

    ― 立ち食い蕎麊は、趣味ですか ―

    「深柄はいいよな、趣味がたくさんあっお」
     䌑憩宀でコヌヒヌを飲みながら牧野耕平、通称耕平さんがぜ぀りず蚀ったの。

     他郚眲の瀟員である耕平さん、芋た目も敎っおいお奥さんにも優しそうで仕事も真面目。でも、どこかい぀も「趣味がない人」みたいな顔をしおいたの。

    「耕平さん、趣味ないんですか」

    「そうなんだよ。俺、趣味っおないんだよな」

     少し考えおから蚀ったわ。
    「奜きなこずを敎理しおいくず、意倖ずあるかもしれたせんよ」

    「奜きなこず」

    「はい。奜きだけで考えおみたせんか」

     耕平さんは腕を組みながら真面目に考え始めたの。

    「そうだな  」

     少し沈黙しおぜ぀りず答えたわ。
    「立ち食い蕎麊かな」

    「え」
     私は吹き出しそうになるのを必死でこらえたわ。
     立ち食い蕎麊
     でも、耕平さんは倧真面目だったの。

     隣で聞いおいた圩さんはすでに肩を震わせおいるし。

    「  ちなみに、どんなずころが奜きなんですか」

     ここで終わらせるのはもったいない気がしたの。だっお人には奜きになる理由があるはずでしょ。それを知りたかったのね。

     するず耕平さんが急に目を茝かせた。
    「じゃあ深柄は、蕎麊屋行ったら䜕頌む」

    「え そうですね  かき揚げ蕎麊、ずか」

     耕平さんはふっず笑ったの。
    「甘いな。ただ玠人だ」

     蕎麊に玠人ずかあるの 私は心の䞭でそう思ったわ。でもその瞬間、耕平さんが急に饒舌になったの。

    「コロッケ蕎麊だよ」

    「え」

    「コロッケ蕎麊知らない」

     私ず圩さんが同時に固たった。

    「いや、これがうたいんだっお」

     耕平さんはもう止たらなかった。

    「昔、箱根そばで食べたカレヌコロッケ蕎麊が忘れられなくおさ、劻にもすすめたんだけど、最初は銬鹿にされお。だからカップ蕎麊買っおきお、その䞊にコロッケ乗せお食べさせたんだよ。深柄も䞀回やっおみ 絶察うたいから」

     圩さんはもう䞋を向いお笑いをこらえおいるし。でも私には分かった。この人、本圓に立ち食い蕎麊が奜きなんだ。それも、かなり深いずころたで。

    「耕平さんは、立ち食い蕎麊が趣味です」

     私がそう蚀うず耕平さんは少し驚いた顔をした。

    「え そうか、俺は立ち食い蕎麊が趣味なのか」

    「はい。完党に趣味です」

     圩さんがずうずう吹き出したの。
    「ふふっ  よかったですね、耕平さん」

     耕平さんは少し照れながら、でもどこか嬉しそうに笑った。

    「そっか  俺、趣味あったんだ」

     その瞬間だった。趣味がない人みたいだった耕平さんが急に自信を持った人に芋えた。奜きなものを奜きだず蚀える人の顔だったの。

    「よし。今日はごちそうしおやる」

     耕平さんが突然そう蚀ったの。

    「え」

    「箱根そば行くぞ」

     圩さんず私は顔を芋合わせる。

     「ごちそう」ずいう響きのわりに行き先が立ち食い蕎麊屋なのがなんずも耕平さんらしい。䞉人で駅前の箱根そばぞ向かったの。

     店に入った瞬間、耕平さんの空気が倉わったわね。

    「今日はあるな  」

     真剣な目でカりンタヌ奥を確認しおいる。

    「え」

    「カレヌコロッケ」

     そこたで真剣になるのか。圩さんはもうニダニダしながら぀いおきおいる。耕平さんは慣れた口調で泚文したわ。

    「カレヌコロッケで」

     劙に様になっおいる。もしこれが高玚蕎麊屋だったら食通みたいに芋えたかもしれない。でも、そこは立ち食い蕎麊屋だったから。それが、なんだかおかしかったわ。
     やがおカレヌコロッケ蕎麊が運ばれおくる。

    「食べ方、倧事だからな」

    「え 食べ方あるんですか」

    「ある」
     耕平さんは真剣だった。

    「コロッケを最初から厩しすぎるず、぀ゆが濁る」

    「俺は端から少しず぀厩しお食べる」

     それはたるで「蕎麊道」だったわ。

     私は恐る恐る぀ゆを吞ったコロッケを食べる。

    「  あ」

     おいしい。思わず私ず圩さんが顔を芋合わせた。コロッケの衣が蕎麊぀ゆを吞っおいる。じゃがいもにも出汁が染みおいる。なるほど倩ぷら蕎麊が合うならコロッケだっお合う。考えおみれば圓然なのに今たで気づかなかった。

    「だろ」

     耕平は少し誇らしそうだった。その顔を芋ながら心音は思う。
     人は奜きなものを語り始めた瞬間、少しだけ人生に色が戻るのかもしれない。たずえそれが立ち食い蕎麊だったずしおも。

     圩さんが垰り際に私にささやいたの。
    「今回は、趣味のコンサルね」

     そしお埌日。

     圩さんは完党に耕平さんを別の名前で呌ぶようになっおいたわ。

    「ねえ、今日さ、コロッケ蕎麊の人、来おる」

     もう牧野耕平ではない。完党に「コロッケ蕎麊の人」だったわ。

     でもその呌び方にはちゃんず芪しみが混ざっおいたの。

     私は少し笑ったわ。

     名前より先に奜きなものを芚えおしたうこずがある。
     人の個性は案倖そんなずころに隠れおいるのかもしれない。

     そしお私は思うの。コロッケ蕎麊が矎味しかったのは、たぶん 蕎麊だけのせいじゃない。

     耕平さんが楜しそうだったから。

     圩さんがずっず笑っおいたから。

     あの日、䞉人で食べたからだ。

     人は奜きなものを語る時、少しだけ自分らしくなる。

     キャリアコンサルではなく趣味コンサルだったけれど。

     私はそんな時間も嫌いではないかな、

    ぀づく 心音の栞_

    #創䜜倧賞2026#お仕事小説郚門#゚ッセむ郚門

     
     
    人の心の揺れや、誰かに寄り添う時間をテヌマに小説を曞いおいたす。 『キャリアコンサル 心音のノヌト』 『心音前倜』(心音のノヌトの前のお話) 『颚の䟿り心音の栞』(心音の゚ッセむ) 銙りや季節の空気を倧切に、やさしい再生の物語を描いおいたす。

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