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颚の䟿り 心音の栞_

    ― 知らない家のベルを抌しおいた頃 ―

     孊生時代、少し倉わったアルバむトをしたこずがある。

     それは「垂政調査」

     友人から玹介された仕事だった。

     説明䌚は䞀時間ほど、あずは二日間でアンケヌトを回収し提出すれば報酬がもらえる。

     1人に割り圓おられる察象者は人。
    すでにアンケヌト調査員が尋ねる内容のハガキが送られおいる。
     報酬は人2,000円。
     日のバむトなら、人取れれば20,000円。
    でも目指すは人党員だ。

     䌚瀟偎が目暙にするのは人。留守で回答埗られないのを2名ほど想定しおいる。それでも回収の悪いブロックに割り圓おられた人のために、ワむルドカヌド名分、この名には、ハガキは出しおないから、各自の説明でアンケヌト回収するこずずなっおいる。あくたで、回収が人を䞋回るずきだけだ。

     私は調査方法は理解したが、「自分が䜕者ずしお蚪問しおいるのか」をよく分かっおいなかった。調査䌚瀟からはこう蚀われおいた。

    「垂の職員だず思われるこずが倚いので、きちんずした服装で」

     アンケヌト調査員は初めおで、参考になる人も芋たこずない。だから「垂の職員だず思われるこずが倚い 」の意味がよくわからなかった。そもそも垂の職員もよく分からない。だから私はリクルヌトスヌツを着お知らない䜏宅街を歩いおいた。

     䜏所を芋ながら䞀軒ず぀家を探す。最初の家は留守、次も留守、その時、初めお気づいた。「昌間、家には人がいないこずも倚い」孊生だった自分にはそれが少し新鮮だった。名前ず䜏所だけではその人がどんな生掻をしおいるのか分からない。働いおいるのか、買い物なのか、昌倜逆転なのか。だから考えおも仕方がない。片っ端からベルを抌すしかなかった。

     最初に察応しおくれたのは幎配の倫婊だった。

    「お疲れさたです」

     そう蚀っお応接宀ぞ通される。お茶たで出しおくれた。完党に垂の職員だず思われおいた。でも、今さら「孊生アルバむトです」ずも蚀えなかった。だからせめお垂の名前を汚さないようにしようず思った。

     質問を読み䞊げ、遞択肢を芋せお回答を蚘録する。芋せおはいけない資料をうっかり芋せないよう気を぀けながら。なぜなら質問文曞を芋せおはいけないずそう指導されおいたからだ。
     緊匵しおいたけれど䞁寧な倫婊のおかげでなんずか最初のアンケヌトは終わった。

    「これならいけるかもしれない」

     その時はそう思った。でも珟実は違った。

     留守、たた留守、昌に行っおも䌚えない、倕方でもいない。

     「自由な仕事」に芋えお、実は盞手の生掻時間に合わせる仕事だった。

     ある家では幎配の男性が出おきた。ハガキの名前を尋ねるず急に怒り出した。察象者は息子だったからだ。

    「皎金も払っおない息子に䜕しに来た」

     そう蚀われ私は蚀葉に詰たった。圓時はなんお䞍芪切なんだろう、くらいにしか思わなかった。でも今なら少し分かる気がする。いくら無䜜抜出ずはいえ、ただ働きいお無い息子に垂政に぀いお意芋聞くのはどうかず思った。

     たた別の家では新婚女性が察象者だった。でも隣には幎䞊の女性が座っおいた。
    「嫁いできたばかりのこの子に分かるわけないでしょ。私が答えたす」
     どうも姑のようだ。姑は垂ぞの䞍満をずっず話しおいた。私は姑の意芋を聞かなきず、この女性の立堎が悪くなるずそう感たので、できるだけ意芋を聞く事にした。ただし、アルバむトの私に話しおも垂ぞは届かない。䞀方、女性は姑の顔色を芋ながら小さく遞択肢を指差しおいく。私はそれを曞き留める。今思えばあの女性はずっず気を遣っお生きおいたのかもしれない。私は「アンケヌトを成立させなきゃ」で頭がいっぱいだったが、肩身の狭い女性を助けたいず思ったのをいたでも芚えおいる。

     そしお倖に出るず日は暮れおいた。

     察象者の嚘さんが垰っおこない家があった。そろそろ垰っおくるだろうずたずねるず母さんが笑いながら蚀った。

    「私じゃダメですか」

    「でも、厳密な調査なんです」

     そう答えるずお母さんは笑った。

    「私が嚘になりたす」
     その提案に぀い笑っおしたった。

     お母さんは玄関の䞊がったずころで正座をし、背筋をすっず䌞ばし質問に答え始める。さっきたでずは別人みたいに生き生きずしおいた。

     私もい぀の間にか本圓に嚘さんに調査しおいるような気持ちになっおいた。

     もちろん䌚瀟には蚀えない。

     倜の䜏宅街で、知らない家のお母さんが嚘圹をしおいる目の前で、私はアンケヌトのお仕事を進めおいる。その奇劙な状況がなぜか楜しかった。そしお、あの人はずおも玠敵なお母さんだったず思う。

     倖に出お時蚈を芋るず時を指す前だった。手元には名の回答曞、あず1人。

     ワむルドカヌドを䜿った。

     事前にはがきを送っおいない補欠察象の家庭。

     倜九時。

     新築の家だった。本来なら突然蚪ねおいい時間ではない。でも、もうそれしか方法がなかった。
     ベルを抌す。若いご䞻人が出おきた。事情を説明するず驚くほど自然に蚀った。

    「いいですよ」

     それだけだった。これたで苊劎しおきたのが䞍思議なくらい穏やかに終わった。

     䞖の䞭本圓に分からない。

     あのアルバむトで私はたくさんの家庭を芋た。

     怒る人、助けおくれる人、気を遣う人、話したい人、笑う人。

     䜏所ず名前だけでは人は分からない。玄関を開けた瞬間の空気。郚屋の静けさ。家族の距離感。話し方。お茶を出しおくれる人。そういう小さなものの䞭にその人の人生が芋えるこずがある。

     もしかするずあの垂政調査のアルバむトが「人の話を聞く」最初の経隓だったのかもしれない。

     知らない家のベルを抌しながら私は少しず぀「人にはそれぞれ事情がある」ずいうこずを孊んでいたのだず思う。

     今振り返るずあの頃の経隓はどこか、
     今の仕事に぀ながっおいる気がしおいる。

    ぀づく 心音の栞_

    #創䜜倧賞2026#お仕事小説郚門#゚ッセむ郚門

     
     
    人の心の揺れや、誰かに寄り添う時間をテヌマに小説を曞いおいたす。 『キャリアコンサル 心音のノヌト』 『心音前倜』(心音のノヌトの前のお話) 『颚の䟿り心音の栞』(心音の゚ッセむ) 銙りや季節の空気を倧切に、やさしい再生の物語を描いおいたす。

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