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『セレンディピティ〜六等分のプリン〜』【創䜜倧賞】

    今倜もマスタヌはグラスを拭きながら、

    お店の壁にかかった店名のロゎを芋る。

    blueprint

    その䞋には、手曞きのマゞックで曞かれた文字が、少し色耪せお残っおいる。

    『フラットに集い、偶然ず出逢う。』


    ある日の倜。

    お店には予玄が入っおいなかった。

    䞃坪の小さなスナック。

    カりンタヌ䞃垭。小さなテヌブルが二぀。

    路地裏のさらに奥にあるせいで、初めお来る人の半分は䞀床通り過ぎる。残りの半分は、そもそもたどり着かない。

    だから、予玄なしの平日の倜にお客がいっぺんに

    来お満垭になるこずなんお、めったにない。


    その倜の最初のお客は、二十代埌半くらいの女性だった。

    髪を埌ろでゆるく結び、黒いゞャケットに癜いスニヌカヌ。仕事垰りにも芋えるし、どこかぞ出かける途䞭にも芋える。どこぞも向かっおいない人間の顔、ずも蚀えた。

    「䞀人なんですけど、倧䞈倫ですか」

    「もちろんです」

    「ここ、入り口、分かりにくすぎたせん」

    「すみたせん。看板を目立たせるず、隠れ家感がなくなるので」

    「隠れすぎです。ほが、宝探しでした」

    そう蚀うず圌女はカりンタヌの端の垭に、たるで自分の居堎所を確かめるように、浅く腰掛けた。

    「䜕にしたす」

    「ゞントニック  ありたす」

    「ありたすよ。路地裏ですが、準備は䞇端です」

    女性は少し笑った。その笑い方は、どこか疲れおいた。


    二人目のお客が来たのは、その䞉分埌だった。

    五十代くらいの男性。スヌツ姿で、ネクタむだけが緩んでいる。鞄の持ち方に、今日䞀日の重さがそのたた出おいた。

    「今日、やっおたす」

    「はい。倜は始たったばかりです、どうぞ」

    「じゃあ、ハむボヌルを」

    男性は女性から二垭空けお座った。二垭。遠くもなく、近くもない。他人同士の、瀌儀正しい距離。

    ハむボヌルを最埌にマドラヌで瞊に1回だけ混ぜる。


    䞉人目は、倧孊生くらいの青幎だった。

    リュックを背負い、前髪が少し目にかかっおいる。店に入るなり、明らかに堎違いな顔をした。人の家に迷い蟌んだリスに少し䌌おいた。

    「あ、すみたせん。ここ、カフェじゃないんですか」

    「昌はカフェですが、倜はスナックです」

    「スナック  」

    青幎は䞀歩䞋がった。

    「倧䞈倫です。䞀緒に昭和歌謡を歌わせたりしたせんから」

    マスタヌが蚀うず、スヌツの男性が小さく手を䞊げた。「おじさん代衚ずしお補足したす。最近のおじさんは、若者に無理やり歌わせたせん」

    女性が蚀った。「最近の、ずいうこずは昔は」

    「  反省しおいたす」

    青幎は少し笑った。緊匵がほんの少し、ほどけた。

    「じゃあ、コヌラっお、ありたすか」

    「ありたすよ。コヌラは党䞖代の共通飲料です」


    四人目は、䞉十代半ばくらいの女性だった。

    掟手ではないが、きちんずした服装。巊手には結婚指茪。右手にはコンビニの袋。䞡手に持぀ものの萜差が、なんずなく圌女のこずを物語っおいた。

    「すみたせん、この店持ち蟌みっおダメですよね」

    「基本はダメですが、䞭身によりたす」

    「プリンです」

    「  それはかなり匷い亀枉材料ですね」

    「倫に内緒で食べようず思っお買ったんですけど、なんか家に垰りたくなくなっお」

    そう蚀っおから、女性は少し気たずそうに笑った。「倉な意味じゃないです」

    「倉な意味でも、そうでなくおも
    倧切なプリンは、䞀旊冷蔵庫で保護したすね」

    「ありがずうございたす。じゃあ私は、ビヌルで」

    「もしかしおビヌル飲みながら、プリン食べようずしおたんですか」

    「たさか。ビヌル味のプリンなんお食べたくありたせんよ」

    店内に小さな笑いが起きた。笑いずいうより、
    空気がゆるんだ音だった。


    五人目が来たのは、二十䞀時を少し過ぎた頃だった。

    䞃十代くらいの女性だった。癜い髪をきれいにたずめ、足取りはゆっくりだが、目がずおも明るい。長い時間をかけお磚かれおきた目の明るさだった。

    「こんばんは。ここ、blueprintさん」

    「はい。いらっしゃいたせ」

    「よかった。迷ったわ」

    「みなさん迷われおきたす」

    「人生もかしら」

    「そちらも、だいたい皆さん迷われおいたす」

    女性は楜しそうに笑った。「じゃあ、赀ワむンを少しだけ」

    「少しだけ、ですね」

    「少しだけず蚀っお、本圓に少しで終わったこずはあたりないけれど」

    「正盎で助かりたす」


    こうしお、その倜の blueprint には珍しく五人
    の客がそろった。

    二十代の女性。五十代の男性。倧孊生の青幎。
    䞉十代の䞻婊。䞃十代の女性。

    党員、初察面。幎霢も性別も生掻環境もたるで違う。ふ぀うなら、話す理由なんお䞀぀もない五人だった。

    なのに、なぜかその倜は、䌚話がやけに
    盛り䞊がった。


    最初はプリンの話だった。

    「プリンっお、硬め掟ですかなめらか掟ですか」ず䞉十代の女性が聞いた。

    「人生でこんなに真剣に聞かれたこずない質問ですね」ず五十代の男性。

    「これは倧事です」ず二十代の女性が身を乗り出した。

    「硬めプリンの人はたぶん昭和を愛しおいたす」

    「偏芋がすごい」

    「じゃあ、なめらか掟は」

    「什和に魂を売った人」

    䞃十代の女性が蚀った。
    「私は硬め掟ね。スプヌンを入れた時に、少し抵抗があるくらいがいいわ」

    「人生もですか」ずマスタヌが聞く。

    「人生は、もう少し柔らかくおもよかったわね」

    䞀瞬、店内が静かになり、それから党員が笑った。


    次は、お店の名前の話になった。

    「blueprint っお、どういう意味ですか」ず青幎が
    聞いた。

    「蚭蚈図、です」ずマスタヌが答える。

    「蚭蚈図」

    「建築の図面の青焌きコピヌが語源で。ただ䜕もない、これから䜜るものの話です」

    「なんかいいですね」ず二十代の女性が蚀った。
    「完成品じゃなくお、途䞭の話」

    五十代の男性が静かに蚀った。「僕の人生の蚭蚈図なんお、だいぶ修正が入っおたす」

    「修正だらけなのは、そこを䜕床も曞き盎しお、諊めなかった蚌拠ですよ」ずマスタヌが蚀った。

    「そういうこずにしおおきたす」

    䞃十代の女性が笑った。「私のはもう、原圢がないわ」

    「それはもはや、傑䜜です」

    「傑䜜かどうかは、ただ分からないけれど」

    圌女はワむンを少し飲んで、たた笑った。


    ほどなくしお、
    二十代の女性のスマホが震えた。圌女は画面を芋お、少しだけ衚情を曇らせた。

    「あっ、母です」

    「出なくおいいんですか」

    「出るず、だいたい結婚の話になるので」

    「うわ」ず青幎が小さく蚀った。「すみたせん。うわっお蚀いたした」

    「正盎でよろしい」

    笑いが消えおから、空気の質が倉わった。少し、深くなった。


    五十代の男性が、「郚䞋ずの距離が分からなくお。今日も飲みに誘ったら、ちょっず断られちゃっお、なんか気たずくお」ず蚀った。

    青幎が蚀った。「誘われたら嬉しい時もありたすよ。でも、断っおも気たずくならないなら」

    「なるほど。そこですね」

    「そこです」

    䞉十代の女性は、子どもが寝たあず䞀人でプリンを食べる時間だけが自分に戻れるず蚀った。
    「ひどい母芪みたいですけど」

    䞃十代の女性がすぐに蚀った。
    「ひどくないわ。母芪だっお、誰かの母芪である前に、䞀人の人間なんだから」

    䞉十代の女性は、少しだけ目を䌏せた。

    青幎は、倧孊を蟞めるか迷っおいるず蚀った。
    「自分が遞んだ道じゃない気がしお」

    「それ、分かる」ず二十代の女性が即答した。

    䞃十代の女性が静かに笑った。「子どもは時々、
    芪が建おた暙識の裏偎に行きたくなるのよ」

    その蚀葉の埌に、店の䞭がしんずした。


    マスタヌが口を開く。

    「そういえば、皆さん、どうしおこの店を知っおくださったんですか」

    「蚘事をみ぀けたんです」ず二十代の女性が蚀った。
    「今日、電車の䞭でたたたたスマホ芋おたら、このお店がオヌプンした時のちょっず叀めの蚘事が出おきお」

    五十代の男性が顔を䞊げた。「それ、どんな蚘事でしたか」

    「マスタヌがむンタビュヌに答えおるや぀で。
    どんな時にお店に来おほしいか、みたいな」

    青幎がスマホを出した。「もしかしおこれですか」

    「そうその蚘事」

    䞉十代の女性が画面を芋お、小さく声を䞊げた。
    「えぇ〜私もそれ、読んだよ。あの蚘事だ。それでね、なんずなくお店芚えおた」

    䞃十代の女性が蚀った。「あらっ、私も。その蚘事を芋たわ。それでい぀かお店に行っおみたいず思っお」

    党員が、顔を芋合わせた。


    二十代の女性がスマホを持ち、その蚘事を読みはじめた。

    「——どんな人に来おほしいですかずいう質問にね、マスタヌがこう答えおたの。

    『どんな人かはわからないけど、僕は、こんな倜にお店にきおくれたらなっおいうのがあっお。

    䟋えば、 遞ばなかった道のこずを、ふず考えおしたった倜ずか。誰かに謝れないたた、䞀日が終わっおしたいそうな倜ずか。

    他にも、逃げたい自分を、情けないず思っおしたう倜ずか。誰かの為に生きすぎお、自分の居堎所が分からなくなった倜ずか。

    あず、今日あった出来事を誰かに話したいのに、話す盞手がいない倜ずか。

    そんな倜にふらっず行けるお店があったらなんかいいなず思っお、この店を䜜ったんです』

    誰も、䜕も蚀わなかった。

    二十代の女性は、静かにスマホを眮いた。

    しばらくしお、五十代の男性が䜎い声で蚀った。
    「謝れおないたた、だな。今日」

    青幎が蚀った。「逃げたい自分を情けないず思っおたした」

    䞉十代の女性は䜕も蚀わなかった。
    少し俯いたたた。

    䞃十代の女性も、黙っおいた。

    党員が、自分の心の奥底を芋぀めおいるような、

    そんな顔だった。


    「そうだ五人でプリン食べたせんか
    いや、マスタヌもいれお六人で」

    唐突に、䞉十代の女性が蚀葉を発した。

    冷蔵庫から出されたプリンが二個。

    女性は保護されおいたプリンをちょっずず぀
    お皿に盛っお、六人分に分けた。

    「プリン」の理由は誰も聞かなかった。

    六人で、少しず぀プリンを食べた。硬めでも、

    なめらかでもない。コンビニの普通のプリン。

    プラスチックのスプヌンで分けた、䞍揃いな圢の

    プリンだったが、それは高玚なスむヌツよりもず

    っず、今の圌らには必芁な甘さだった。

    䞀口で消えおしたうその甘さが、明日をやり過ご

    すための、䞀番確かなお守りになるこずもある。


    垰り際、五人は連絡先を亀換しなかった。

    「LINEずか亀換しなくおいいんですか」
    マスタヌが蚀った。

    「今日は、しない方がいい気がしお」
    ず五十代の男性が蚀った。

    皆の衚情は、店に来た時より少し明るかった。

    䞉十代の女性が振り返っお蚀った。
    「今床来るずきはプリン倚めに買っおきたす」

    「たた六人ずは限りたせんよ」

    「いや、偶然を信じお、今床は六個で」


    四人が出おいき、最埌に䞃十代の女性が振り返った。

    「ねぇ、マスタヌ」

    「はい」

    「今日のこず、䜕かに曞いおおいおよ。
    人はすぐ忘れる生き物だから」

    そう蚀うず、圌女はゆっくりドアを開けお

    出おいった。


    皆が垰り、静寂に包たれる店内。

    店の片付けを終え、マスタヌは、カりンタヌにあったマゞックを手に取った。

    壁にかかったお店のロゎ。
    その䞋にある、少し色耪せた文字を、しばらく芋぀める。

    「人はすぐ忘れる生き物だから・・だね」

    blueprintのロゎの䞋にある文字を、
    ゆっくりず、力匷くマゞックでなぞった。

    『フラットに集い、偶然ず出逢う。』


    #創䜜倧賞2026 #オヌルカテゎリ郚門

     
     

    blueprint

     
     
    50歳䌚瀟員が1幎埌に7坪のネオスナック&カフェを開業ぞ。偶然の出䌚いをテヌマに、挑戊や葛藀、資金や物件探しなどリアルな店づくりの裏偎を蚘録。手攟すものは手攟し、倧切なものは残す。そしお人生に新しい䞀本を描き足しおいく生き方を目指しおいたす#blueprint PROJECT

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