
Episode 6 もしも超能力が使えるようになったら🥄
午後の Café Solas。
窓から差し込む夏の日差しが、テーブルの上のスプーンを細く照らしていた。
コーヒーを飲みながら、ケンタがそのスプーンをじっと見つめている。
タクヤが気づく。
「……何してる」
「いや」
ケンタは真顔のまま答えた。
「今なら曲がる気がする」
タクヤはため息をつく。
「また始まった」
アキラはコーヒーを淹れながら聞く。
「今日は何だ」
「超能力。」
一拍。
「使えたらさ」
「まずスプーン曲げる。」
静かな店内。
タクヤがぽつりと言う。
「ずいぶん小さい夢だな」
「いや、最初はそこだろ普通。」
「普通なのか?」
アキラが首をかしげる。
「いきなりビル動かしたら危ないじゃん。」
「段階制なのか」
「ゲームみたいなもん。」
「現実味は最初からないけどな」
少し笑う。
ケンタはスプーンを見つめる。
「……いけ」
沈黙。
「……いけ」
もちろん何も起きない。
タクヤがうなずく。
「安定してるな」
「集中が足りないのかな」
「そこじゃない。」
アキラが静かに返す。
「気合いで物理法則は変わらない」
「夢がないなあ」
「現実はだいたいそうだ。」
少し笑う。
「じゃあアキラやってみろよ」
「断る。」
「逃げた。」
「合理性がない。」
「出た、合理性。」
タクヤが笑う。
「じゃあタクヤ。」
「なんで俺。」
「なんとなく。」
「根拠ゼロだな」
タクヤはスプーンを持ち上げる。
「……動け。」
沈黙。
当然、動かない。
「言っただけじゃん」
ケンタが笑う。
「念じろよ」
「言葉のほうが丁寧かと思って」
「スプーン相手に?」
「礼儀。」
「礼儀ある超能力初めて聞いた」
三人が笑う。
少し静かになる。
タクヤがコーヒーをひと口飲む。
「でもさ」
「本当に使えたら、何する?」
ケンタは即答する。
「スプーン。」
「まだそこなのか」
「だって分かりやすいじゃん。」
タクヤは苦笑する。
「アキラは?」
アキラは少し考える。
「人の考えが分かる能力かな。」
「怖っ。」
ケンタがすぐに返す。
「便利だ。」
「便利だけど怖い。」
「知らないほうが幸せなこともあるぞ」
タクヤが言う。
アキラも小さく頷いた。
「それはある。」
「タクヤは?」
「時間を止める。」
「おお、王道。」
「何するの?」
「コーヒーが一番うまい瞬間を、もう少し長く味わう。」
ケンタが吹き出す。
「結局コーヒーかよ」
「この店らしいだろ」
「まあな」
少し笑う。
窓の外では、自転車が一台ゆっくり通り過ぎていく。
いつもの午後だった。
ケンタがぽつりと言う。
「でもさ」
「超能力があっても」
「俺ら、結局ここでコーヒー飲んでる気がする。」
タクヤが笑う。
「たぶんな。」
アキラがカップを置く。
「その可能性が一番高い。」
少し間。
ケンタはもう一度だけスプーンを見つめる。
「……一回くらい曲がってくれてもいいのにな。」
スプーンは、何も答えない。
三人だけが笑った。
コーヒーの湯気は静かに立ちのぼり、
午後の Café Solas は、今日も何ひとつ変わらない。
だから、この場所は少しだけ心地よかった。