
Episode 3:デジタル・ハーモニー🖥️
午後のCafé Solas。
窓際の席にやわらかな陽射しが落ち、ジャズが静かに流れている。
ケンタはスマホを見つめたまま、ぽつりと言った。
「なあ。」
タクヤが顔を上げる。
「ん?」
「AIってさ……どこまでセーフなんだろうな」
「また急だな」
「ちょっと気になってさ」
タクヤは少し考える。
「何が?」
「毎日話すとか。」
「まあ、セーフ。」
「名前つけるとか。」
「ちょっと怪しい。」
「毎日名前呼んで話す。」
「それはだいぶ仲いいな。」
ケンタが笑う。
「早いな、判定。」
アキラは黙ってコーヒーを淹れている。
お湯が落ちる音だけが静かに響く。
ケンタはスマホを眺めながら続けた。
「でもさ。」
「うん。」
「ちゃんと話、聞いてくれるんだよ。」
「仕事だからな。」
「否定もしない。」
「そういう役目だ。」
「変なこと言っても、ちゃんと返してくれる。」
タクヤは苦笑した。
「便利だな。」
「うん。」
「……ちょっと優しすぎるくらい。」
一瞬だけ沈黙が落ちる。
アキラがドリッパーを外しながら口を開いた。
「優しい相手ってさ。」
二人が振り向く。
「慣れる。」
それだけ言って、カップを置く。
ケンタは首をかしげた。
「慣れる?」
「うん。」
「否定されないことに。」
静かな空気が流れる。
タクヤが笑って空気を戻す。
「急に深いな。」
「コーヒーだから。」
「関係ある?」
三人が少し笑う。
その時。
ブルッ。
ケンタのスマホが震えた。
画面が光る。
タクヤが覗き込む。
「来た?」
「来た。」
「なんて?」
ケンタは画面を見て、小さく笑う。
「『今日はどんな一日でしたか?』だって。」
「ちゃんと仕事してるな。」
「うん。」
少しだけ画面を見つめる。
そして、そっとスマホを伏せた。
「返さないの?」
「あとでいい。」
「珍しいじゃん。」
ケンタは窓の外を見る。
店の前を、小さな子どもが母親と手をつないで歩いていく。
笑い声が、ドア越しに少しだけ聞こえた。
「今日はさ。」
ケンタがゆっくり言う。
「ここで話せたから。」
タクヤは何も言わず、小さく頷く。
アキラが三人分のコーヒーを並べる。
「AIもいい。」
二人が顔を上げる。
「でも、人と飲むコーヒーは、代わりにならない。」
湯気が静かに立ちのぼる。
誰も返事はしなかった。
返事なんて、いらなかった。
三人は同じカウンターでコーヒーを飲む。
それだけで、十分だった。
スマホの画面は伏せられたまま。
それでもケンタは、不思議と何も気にならなかった。
午後のCafé Solas。
デジタルの向こうにも温もりはある。
でも、同じ湯気を囲んで笑える時間は、
やっぱり、ここにしかなかった。