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Episode 4 もし本当に過去に戻れるとしたら? 過去に戻っても、ろくなことしない説


     午後のCafé Solas。

     窓から差し込む西日が、カウンターをゆっくりと照らしていた。

     タクヤがコーヒーカップを磨きながら、不意に口を開く。

    「もしさ。」

     ケンタが顔を上げる。

    「ん?」

    「本当に過去へ戻れたら、何する?」

     ケンタは考えるより先に答えた。

    「高校。」

    「早いな。」

    「やり直したいこと、いっぱいある。」

    「例えば?」

    「……告白。」

     タクヤは吹き出す。

    「やっぱり。」

    「笑うなよ。」

    「今なら成功すると思う?」

    「思う。」

    「なんで?」

    「大人だから。」

    「でも、中身はそんなに変わってないぞ。」

     ケンタは言葉に詰まる。

    「……あ。」

     二人が笑う。

     アキラは黙ってコーヒーを淹れている。

     お湯が静かに落ちる音だけが店内に響く。

    「アキラは?」

    「戻らない。」

    「即答だな。」

    「面倒だから。」

    「理由それ?」

    「どうせ、同じことで悩む。」

     ケンタは首をかしげる。

    「でも、未来を知ってるんだぞ?」

    「知ってても、自分は自分だ。」

     アキラはカップを置いた。

    「迷う時は、ちゃんと迷う。」

     店内が少し静かになる。

     タクヤがぽつりと言う。

    「見るだけなら?」

    「何を?」

    「昔の自分。」

     ケンタは少し笑った。

    「それ、きついな。」

    「なんで?」

    「頑張ってるの知ってるから。」

     一瞬だけ、誰も話さなかった。

     アキラが静かに言う。

    「話しかけるなよ。」

    「なんで?」

    「余計なこと言う。」

    「例えば?」

    「『その道は失敗する』とか。」

     ケンタは笑う。

    「言うわ。」

    「だから駄目なんだ。」

     アキラはコーヒーを三人の前へ置いた。

    「失敗したから、今ここにいる。」

     湯気がゆっくりと立ち上る。

     ケンタはカップを見つめる。

    「……じゃあ。」

    「ん?」

    「昔の俺に会えたら、何て言えばいい?」

     アキラは少しだけ考えた。

    「何も言わない。」

    「え?」

    「黙って見送る。」

     ケンタが不思議そうな顔をする。

     アキラは小さく笑った。

    「どうせ、言っても聞かない。」

     タクヤが肩を揺らす。

    「確かに。」

     三人が笑う。

     笑いが落ち着いた頃、店の前を高校生たちが楽しそうに歩いていった。

     制服姿がガラス越しに映る。

     ケンタはその背中を眺めながら、小さくつぶやく。

    「……あの頃の俺も、ちゃんと頑張ってたんだよな。」

     アキラは静かに頷く。

    「ああ。」

    「だから今のお前がいる。」

     誰も、それ以上は話さなかった。

     窓の外では、夕暮れが少しずつ街をオレンジ色に染めていく。

     過去は変えられない。

     でも、過去の自分を見る目は、少しだけ変えられる。

     そんな午後が、Café Solasにはよく似合っていた。


     
     

    和人

     
     
    和人 52歳。 放送大学で学びながら、 小説『Café Solas』を執筆中。 就職氷河期世代として、 仕事・学び直し・健康・老後について考えています。 50代のリアルな日常と、 学び直しの記録を発信しています。 小説とエッセイを中心に更新中。

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