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🔮 Episode 6:アキラ、占いにハマる


    夏の日差しが少しだけ傾き始めた午後。

    氷の入ったグラスにアイスコーヒーが注がれるたび、小さく澄んだ音が店内へ響く。

    アキラはいつもと変わらない手つきでドリップを続けていた。

    ……はずだった。

    「アキラ。」

    厨房からケンタが声をかける。

    「ん?」

    「今日、三回目。」

    「何が?」

    「お湯、入れすぎ。」

    アキラはサーバーを見下ろし、苦笑した。

    「……ほんとだ。」

    「珍しいじゃん。」

    「ちょっと考え事。」

    奥の席ではタクヤがノートパソコンから顔を上げる。

    「また?」

    「またって何だよ。」

    「最近ずっとじゃん。」

    アキラは少しだけ黙ると、照れくさそうに笑った。

    「……占いって、信じるか?」

    店内の空気が一瞬だけ止まる。

    ケンタは吹き出した。

    「それ、急に来る話?」

    「いや、ちょっと聞きたくて。」

    「当たったの?」

    タクヤが身を乗り出す。

    「当たったというか……。」

    アキラはカウンターの下から、一枚の小さなカードを取り出した。

    夜の繁華街で声をかけられた占い師にもらったものだった。

    そこには短く書かれている。

    『近くにある幸せほど、人は見落とす。』

    「それだけ?」

    「いや、他にも言われた。」

    アキラは照れながら笑う。

    「『真面目すぎる』とか。」

    「それは誰でも言える。」

    タクヤが即座につっこむ。

    「『恋愛は過去を手放したら動く』とも。」

    「そっちは?」

    「……妙に引っかかった。」

    店内が少し静かになる。

    そのとき。

    カラン。

    ドアベルが鳴った。

    「こんにちは。」

    サチだった。

    紙袋を抱え、小さく手を振る。

    「近くのお店で焼き菓子買ったから、おすそ分け。」

    「助かる。」

    ケンタが嬉しそうに受け取る。

    「何の話してたの?」

    「アキラが占いにハマった。」

    「ハマってない。」

    「ハマってる。」

    三人のやり取りを聞いて、サチは笑った。

    「占いって、不思議だよね。」

    アキラが顔を上げる。

    「信じる?」

    「当たるかどうかは分からない。」

    少しだけ考えてから続けた。

    「でも、自分の気持ちを見つめ直すきっかけにはなると思う。」

    その一言だけだった。

    けれど、アキラは返事ができなかった。

    占い師にも、同じようなことを言われた気がしたからだ。

    夕方になり、サチは帰っていった。

    いつものように。

    「またね。」

    その一言を残して。

    閉店後。

    カップを磨きながら、アキラは窓の外を眺めていた。

    「まだ考えてるの?」

    タクヤが笑う。

    「……占いじゃない。」

    「じゃあ?」

    少し間が空く。

    「誰かの言葉ってさ。」

    アキラは磨き終えたカップを棚へ戻した。

    「自分でも気づいてなかったことを教えてくれる時があるんだな。」

    その夜。

    帰り際、ポケットから占いのカードを取り出した。

    少し眺めてから、財布の奥へしまう。

    もう答えは、カードには書いていない気がした。

    店を出る前にスマートフォンが震える。

    サチからだった。

    『今日のアイスコーヒー、おいしかった。また来るね。』

    短いメッセージ。

    アキラは小さく笑う。

    夜風が店の前を通り抜け、青い扉を静かに揺らした。

    ――今日の「記憶のレシピ」。

    『答えは、誰かの言葉ではなく、自分の心が知っている。』


    ☆彡アキラの占いです



    次回予告
    Episode 7:『アイ、音楽をやめるってよ』
    ――沈黙の奥にある、本当の声とは?

     
     

    和人

     
     
    和人 52歳。 放送大学で学びながら、 小説『Café Solas』を執筆中。 就職氷河期世代として、 仕事・学び直し・健康・老後について考えています。 50代のリアルな日常と、 学び直しの記録を発信しています。 小説とエッセイを中心に更新中。

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