
Episode 2 「充電、減るの早くない?」
午後のCafé Solas。
店内にはコーヒーの香りと、小さなジャズが流れていた。
カウンターでスマホを見つめていたアキラが、小さく眉をひそめる。
「……もう三〇%か」
ケンタが顔を上げる。
「まだ昼だぞ」
「ほとんど触ってないんだけどな」
タクヤがコーヒーカップを拭きながら言う。
「触ってないって言う人ほど、裏で何か動いてます」
「俺もそう思う」
ケンタがうなずく。
「何が動いてるんだよ」
「知らん」
「知らんのか」
三人が少し笑う。
アキラは店の隅に置かれた充電器へ手を伸ばした。
一本だけある共有の充電器。
その瞬間だった。
「あ。」
ケンタの声。
「……なに」
「今、使うかもしれない」
「使ってないだろ」
「予定」
「予定で止めるな」
タクヤが小さく笑う。
「それ、席取りと一緒ですね」
「違う」
「似てる」
アキラは充電器を持ったままケンタを見る。
「使う?」
「……いや」
「どっち」
「まだ大丈夫」
「なら貸せ」
「でも、あとで使う」
「予定じゃねぇか」
また笑いが広がる。
その時。
カラン——。
一人の女性客が入ってきた。
「すみません。スマホの充電、お借りしてもいいですか?」
三人とも、同時に充電器を見る。
一拍。
アキラは何も言わず、その充電器を手渡した。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
女性は嬉しそうに笑い、窓際の席へ向かった。
店内がまた静かになる。
ケンタは少しだけ寂しそうな顔をした。
「……なんか」
「ん?」
「取られた気がする」
タクヤは首をかしげる。
「充電器ですよ?」
「分かってる」
少し黙る。
アキラがコーヒーを淹れながら言った。
「充電器って、不思議だよな。」
二人が顔を向ける。
「誰かに貸してても、ちゃんと戻ってくる。」
少し間が空く。
「信じて待てるからな。」
ケンタは窓際を見る。
女性客はスマホを充電しながら、嬉しそうにコーヒーを飲んでいた。
「……そうか。」
タクヤがぽつりと言う。
「人も、そうだったらいいですね。」
誰も返事はしなかった。
でも、その沈黙は否定ではなかった。
夕陽が店内へゆっくり差し込む。
しばらくして女性客が席を立ち、充電器を丁寧に返してくれた。
「ありがとうございました。」
「こちらこそ。」
ドアベルが静かに鳴る。
カラン——。
ケンタは返ってきた充電器を見つめ、小さく笑った。
「……ちゃんと戻ってきたな。」
アキラも笑う。
「言っただろ。」
タクヤは静かに付け加える。
「充電も、人との縁も、少し余裕があるほうが長持ちします。」
ケンタは苦笑した。
「それ、今日一番いいこと言ったな。」
深夜ではなく、まだ午後のCafé Solas。
スマホの充電は減っていたけれど、
三人の心は、少しだけ満たされていた。