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☕ Café Solas — season7 第10話 光の渡し方

    夜のソラス。

    営業を終えた店内には、静かな灯りが残っていた。

    カウンターの上には、洗い終えたカップが整然と並んでいる。

    サチは最後の一枚を拭き終え、そっと息をついた。

    「……今日も終わりだね」

    ケンタが背伸びをする。

    「なんか最近、ちょっと忙しくない?」

    「いいことだろ」

    アキラは淡々と答える。

    タクヤはカウンターの端で、スマホを伏せた。

    カラン♫

    小さな音。

    全員が顔を上げる。

    「……あれ?」

    鍵は閉めたはずだった。

    入口に立っていたのは、ひとりの女性。

    コートを羽織り、少しうつむいている。

    「……すみません」

    かすれた声。

    サチは、迷わず一歩前に出る。

    「どうぞ。まだ大丈夫ですよ」

    その声はやわらかかった。

    アキラは何も言わず、照明を少しだけ上げる。

    女性はカウンターに座る。

    手はわずかに震えている。

    「……あの」

    言葉が続かない。

    サチは、何も聞かなかった。

    ただ静かに、準備を始める。

    豆を挽く音。
    お湯が落ちる音。

    ゆっくりと、丁寧に。

    「……どうぞ」

    差し出された一杯。

    やわらかな湯気が、静かに立ち上る。

    女性はそれを見つめ、そっと手を伸ばす。

    両手で包み込む。

    その瞬間——

    ほんの少しだけ、肩の力が抜けた。

    沈黙。

    でも、それは重くない。

    やがて。

    「……ありがとうございます」

    小さな声。

    それだけだった。

    サチは、静かにうなずく。

    「ごゆっくり」

    少し離れた場所で、ケンタが小声で言う。

    「……聞かなくていいのか?」

    アキラは短く答える。

    「いいんだよ」

    タクヤは、その光景を静かに見ていた。

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    しばらくして、女性は席を立つ。

    「……また来てもいいですか」

    サチは迷わない。

    「はい。いつでも」

    女性は小さく頭を下げ、店を出ていった。

    カラン♫

    静けさが戻る。

    サチは、カップをそっと下げる。

    その手に、わずかな温もりが残っていた。

    「……同じだな」

    タクヤがぽつりと言う。

    「え?」

    サチが振り返る。

    タクヤは少しだけ笑う。

    「いや、なんでもない」

    アキラが静かに言う。

    「サチ」

    「うん?」

    「覚えてるか」

    ほんの短い間。

    サチは、やわらかく笑った。

    「……うん」

    タクヤはスマホを開く。

    画面には、書きかけの文章。

    https://note.com/fine_donkey5326/n/n52ebc08fc6b7

    指が少しだけ動く。

    ——光は、特別なものじゃない。

    ——ただ、渡されていくだけだ。

    そこで止める。

    保存。

    画面を閉じた。

    ケンタがふとつぶやく。

    「なあ……この店ってさ」

    少し考えて、続ける。

    「なんなんだろうな」

    アキラは小さく笑う。

    「さあな」

    サチは、さっきの席を見る。

    もう誰もいない。

    でも——

    確かに、何かが残っている。

    ケンタが、ふっと外を見る。

    「……桜、まだ残ってるな」

    アイが立ち上がる。

    「ほんとだ」

    ミユキも窓の方へ寄る。

    「夜の桜って、いいね」

    「ちょっとだけ見てく?」

    ケンタが言う。

    「いいね、それ」

    タクヤが立ち上がる。

    アキラは小さくため息をつく。

    「片付けてからな」

    「はーい」

    数分後。

    店の灯りが落ちる。

    カラン♫

    夜の外。

    春の空気は、少しだけひんやりしていた。

    6人は並んで歩く。

    特別なことは、何も話さない。

    でも——

    その時間が、どこか心地いい。

    サチが、ふと足を止める。

    見上げた先。

    街灯に照らされた桜が、静かに揺れていた。

    「……きれい」

    小さな声。

    アキラが隣に立つ。

    「春だな」

    それだけ。

    ケンタが笑う。

    「来年も、これ見てんのかな」

    アイが答える。

    「見てるでしょ」

    ミユキも笑う。

    「そのとき、また何か変わってるかもね」

    サチは、少しだけ考えて——

    そして、やわらかく言った。

    「それでも、ここに来るよ」

    誰も否定しない。

    それが、答えだった。

    夜風が、桜を揺らす。

    花びらが、ひとひら落ちる。

    ——春は、また誰かを動かしていく。

    夜のソラスに、灯りがひとつ。

    それは強くはない。

    でも、確かにそこにある光だった。



    ☕ Café Solas — Season 7
    ——“光は、渡されていく。”

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    ☕️次回シーズン8もよろしくお願いします



    ☕️シリーズ作品紹介

     
     

    和人

     
     
    和人 52歳。 放送大学で学びながら、 小説『Café Solas』を執筆中。 就職氷河期世代として、 仕事・学び直し・健康・老後について考えています。 50代のリアルな日常と、 学び直しの記録を発信しています。 小説とエッセイを中心に更新中。

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