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Photo bynishimoto_aika

☕ Café Solas ― Season 6 Episode 8 お正月編 その参:お雑煮も甘酒も福袋も、だいたいズレている

    「ねえ」

    ミユキが、カウンターを指で叩いた。

    「やっぱり納得いかない」

    「何が」

    タクヤが、嫌な予感を隠さず聞く。

    「正月なのに、
    この店にお雑煮も甘酒もないこと」

    「カフェだから」

    「便利な言葉だね、それ」


    ミユキは腕を組み、宣言した。

    「よし。
    即席・正月っぽいことやろう」

    「嫌な企画名だな」

    「まず、お雑煮」

    ケンタが首を傾げる。

    「材料、ある?」

    「あるよ」

    ミユキは冷蔵庫を開ける。

    「……ないよ」

    「でしょ」

    「でも!」

    勢いで押し切る。

    「餅の代わりに、
    このベーグル使えばよくない?」

    「よくない」

    アキラが即答した。

    「それは、
    越えてはいけない線」

    「線あるんだ」


    「じゃあ甘酒!」

    ミユキは次のカードを切る。

    「砂糖と牛乳あるし、
    それっぽくなるでしょ」

    タクヤが冷静に言う。

    「それ、
    ホットミルクです」

    「細かいこと言わない」

    「致命的に違う」

    結局、
    **“甘酒風ホットミルク”**が完成した。

    アイが一口飲んで言う。

    「……悪くはないですね」

    「褒めてる?」

    「慰めてます」


    「最後!」

    ミユキは満を持して言った。

    「Café Solas 福袋!」

    「出た」

    「中身は?」

    「今から決める」

    「それ福袋って言う?」


    即席で作られた福袋の中身。

    • ドリップバッグ(1杯分)

    • 期限ギリギリのクッキー

    • 謎に余っていたマグカップ

    • 手書きメモ
      『今年も無理しすぎないで』

    「……当たりかハズレか、判断に困る」

    タクヤが言う。

    「気持ち袋だね」

    「それを言ったら全部OKになる」


    サチが、そっと言った。

    「でも……
    こういうの、嫌いじゃないです」

    アイも頷く。

    「ちゃんと“ここらしい”」

    ケンタは笑う。

    「正月感は、
    ほぼミユキの勢いだけどね」

    ミユキは胸を張る。

    「正月は勢いです」


    アキラは、
    一連の騒ぎを静かに見てから言った。

    「……じゃあ」

    全員が見る。

    「来年は、
    雑煮用の餅だけは用意しよう」

    「本当!?」

    「たぶん」

    「その“たぶん”が信用ならない」


    店内には、
    笑い声と、少しズレた正月感。

    でも、不思議と居心地はいい。

    「正月っぽくなくても、
    正月は来るんだね」

    ケンタが言う。

    ミユキはカップを掲げた。

    「はいはい、
    今年もCafé Solasは通常運転!」

    誰かが笑い、
    誰かが頷く。

    Café Solasは、
    今年も特別な店にはならない。

    でも――
    ちょっとズレた笑いは、
    ちゃんとここにあった。

    お正月編・了


     
     

    和人

     
     
    和人 52歳。 放送大学で学びながら、 小説『Café Solas』を執筆中。 就職氷河期世代として、 仕事・学び直し・健康・老後について考えています。 50代のリアルな日常と、 学び直しの記録を発信しています。 小説とエッセイを中心に更新中。

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