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Episode 8:アキラと、まだ見ぬ「声」

    夏の午後。

    Café Solasには、
    いつものように柔らかな時間が流れていた。

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    窓から差し込む光。

    カップの触れる音。

    小さな笑い声。

    アキラはカウンターの中で、
    一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れている。

    「アキラさ」

    ケンタがスマホから顔を上げる。

    「たまにはさ」

    「誰かに話を聞いてもらいたいとか思わないの?」

    アキラの手が一瞬だけ止まる。

    「……どうして?」

    「いや」

    ケンタは少し考える。

    「だってさ」

    「毎日、誰かの話聞いてるじゃん」

    「仕事の悩みとか」

    「家族のこととか」

    「昔のこととか」

    「みんなアキラに話すと少し楽になるって言うけどさ」

    ケンタはカウンターを見る。

    「アキラ自身は大丈夫なのかなって」

    少し沈黙。

    アキラは豆を挽きながら答える。

    「俺は聞く方が向いてるんだよ」

    「話すより」

    ケンタは苦笑する。

    「それ、便利だけど危ないやつだぞ」

    アキラは少し笑う。

    でも、
    否定はしなかった。

    その時。

    奥の席で作業していたタクヤが声をかける。

    「アキラ」

    「これ、見てくれない?」

    タブレットの画面。

    そこには、
    タロットカードのようなデザインのデジタルアートが並んでいた。

    「新しい作品?」

    アキラが聞く。

    「うん」

    タクヤは画面をスクロールする。

    「でも普通の占いじゃなくて」

    「見る人によって意味が変わるようなもの」

    一枚のカード。

    中央には太陽のような光。

    でも、その光には少しだけ影があった。

    アキラは、
    そのカードをじっと見る。

    その瞬間。

    ――。

    何かが聞こえた気がした。

    声。

    誰かの声。

    でも、それは言葉ではない。

    「助けて」

    でもなく。

    「教えて」

    でもない。

    ただ、

    “誰かに気づいてほしい”

    そんな感覚。

    アキラは目を伏せる。

    「……面白いな」

    タクヤが見る。

    「何が?」

    アキラは少し迷ってから言う。

    「この絵」

    「答えを言ってない」

    「ただ、考える場所を作ってる」

    タクヤは笑う。

    「そこが狙い」

    「答えなんて、人によって違うから」

    その夜。

    閉店後のCafé Solas。

    誰もいない店内。

    アキラは一人、
    ノートを開いていた。

    今日聞いた言葉。

    客が残した悩み。

    笑顔の奥に隠れていた迷い。

    一つずつ書いていく。

    そして、その横に。

    「優しく聴く」

    と書いた。

    アキラはペンを止める。

    今まで、
    自分は人の声を聞いてきた。

    でも。

    聞こえていなかった声がある。

    店に来られない人。

    言葉にできない人。

    誰にも相談できない人。

    遠くにいる誰かの声。

    「……届く方法があれば」

    小さく呟く。

    カウンターの上には、
    タクヤのカードデザイン。

    その隣には、
    アキラのノート。

    まだ形にならないもの。

    でも、
    何かが始まろうとしていた。

    翌日。

    「アキラ」

    ケンタが声をかける。

    「なんか顔違うな」

    「寝てないだろ」

    「少し考え事をしていただけ」

    アキラは笑う。

    そして二人にノートを見せる。

    「これを作りたい」

    ケンタが見る。

    「カード?」

    「占い?」

    アキラは首を振る。

    「違う」

    「誰かが、自分の中にある声に気づくためのもの」

    タクヤがノートを見る。

    そこには、

    カードの絵。

    問いかけ。

    そして、小さな言葉。

    “あなたが本当に聞きたかった声は何ですか”

    という一文。

    タクヤが笑う。

    「相変わらず難しいこと考えるね」

    「でも」

    少し間。

    「面白いと思う」

    ケンタも頷く。

    「つまりさ」

    「アキラが今まで店でやってたことを」

    「もっと遠くまで届けるってこと?」

    アキラは静かに頷く。

    「そう」

    「まだ見ぬ誰かの声に」

    「届くように」

    窓の外。

    夏の光が揺れる。

    Café Solasの灯りは、
    店の中だけを照らすものではない。

    まだ誰も知らない場所へ。

    まだ聞こえない声へ。

    小さな光が、
    静かに伸び始めていた。

    ――Café Solas
    Season5 Episode8
    「アキラと、まだ見ぬ声」



    次回予告 多忙ならアキラの身に何かが起こる



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    和人

     
     
    和人 52歳。 放送大学で学びながら、 小説『Café Solas』を執筆中。 就職氷河期世代として、 仕事・学び直し・健康・老後について考えています。 50代のリアルな日常と、 学び直しの記録を発信しています。 小説とエッセイを中心に更新中。

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