
☕ Café Solas — season7 第6話 書いているのは、誰だろう
――この話を書いているのは、たぶんこの中の誰かだ。
カフェ・ソラスに集まる六人。
それぞれが、それぞれの形でこの場所を見ている。
同じ時間を過ごしていても、
見えている景色は少しずつ違う。
だからきっと、この物語も――
誰か一人のものじゃない。
昼下がりのソラス。
「なあ、それもう少しちゃんと書いた方がいいって」
ミユキがケンタのスマホをのぞき込む。
「え、どこ?」
「この説明文。“なんとなくかわいい”って、雑すぎ」
ケンタは少し考える。
「いいじゃん、伝わるし」
「伝わるけど、もったいないの」
タクヤが横から口を挟む。
「たしかに。もうちょい言葉選べば売れるだろ」
ケンタが腕を組む。
「じゃあ、どうする?」
ミユキは少しだけ考えてから言った。
「“気づいたら、机に置いておきたくなるかわいさ”」
一瞬の間。
ケンタがゆっくりうなずく。
「……それ、いいな」
タクヤが笑う。
「採用だな」
そのやり取りを、アキラはカウンターの奥で静かに聞いていた。
「……なんかさ」
サチがぽつりとつぶやく。
「ここにいると、時間の流れがちょっと違う気がする」
タクヤがラテを口に運ぶ。
「いい意味でな」
「うん。でも……」
サチは少しだけ言葉を探す。
「ここにいすぎると、外のこと忘れちゃいそうで」
空気が、ほんの少しだけ変わる。
ケンタが言う。
「でも、それって悪いことじゃなくない?」
サチは困ったように笑う。
「うん、悪くはないと思う。
ただ……ここが好きだからこそ、ちゃんと外も見ていたいっていうか」
少しの沈黙。
アキラがコーヒーをカウンターに置く。
「……いいんじゃないか、それで」
サチが顔を上げる。
「ここは、ずっといる場所じゃなくてもいい」
「でも、戻ってきたいと思える場所なら、それでいいだろ」
サチは静かにうなずいた。
「……うん」
カラン♪
ドアベルが軽く鳴る。
「すみません、まだやってますか?」
外国人の観光客が顔をのぞかせる。
ケンタがすぐに立ち上がる。
「やってますよ!」
タクヤが小さくつぶやく。
「ほんと、最近多いな」
「春だしね」
ミユキが答える。
サチはその様子を見ながら、少しだけ息をついた。
さっきまでの不安は、ほんの少し軽くなっていた。
閉店後。
静かな店内で、タクヤがカウンターに座っていた。
手元には、開いたままのノート。
何かを書きかけて、止まっている。
「……何書いてんの?」
ケンタが後ろからのぞき込む。
タクヤはすぐにノートを閉じた。
「別に」
「怪しいな」
「ただのメモだよ」
ケンタはそれ以上追及せず、肩をすくめる。
「ふーん」
少し離れた場所で、サチがその様子を見ていた。
――この話を書いているのは、誰だろう。
同じ場所にいても、
同じ出来事を見ていても、
感じ方はきっと違う。
だからこの物語も、
少しずつ違う形で残っていく。
それでもいい。
むしろ、そのほうがいい気がする。
☕️ To Be Continued — Season 7 Episode 7
——それぞれの春。動き出す、次の一歩。