メインコンテンツへスキップ
見出し画像
Photo bymasakazu

『金と筋——令和の毘沙門天 外伝』第十七話 分かる人

    第1話から読みたい方はこちらから。

    六本木の夜だった。

    黒い男は再びその男と会っていた。

    二人だけだった。


    前回から二週間。


    なぜか気になっていた。


    気付けば。


    AIの記事を読んでいた。


    会社を調べていた。


    業界を調べていた。


    昔の和牛会社と同じだった。


    いや。


    少し違った。


    今回は。


    もっと理屈があった。


    技術があった。


    市場があった。


    未来があった。


    そう思えた。


    男はコーヒーを飲みながら話している。


    AI。


    海外。


    データ。


    クラウド。


    黒い男にも分かる話だった。


    むしろ。


    役員として何年も見てきた世界だった。


    男が言う。


    「日本企業は遅いんです」


    黒い男は頷く。


    その通りだった。


    男が続ける。


    「だから今なら勝てる」


    また頷く。


    それも分かる。


    男は笑う。


    「やっぱり前田さんは話が早い」


    黒い男も笑った。


    その時だった。


    男がふと真顔になる。


    「実は」


    少し声が低くなる。


    「最近よく思うんです」


    黒い男は黙って聞いていた。


    「世の中」


    「分かる人が少ない」


    男は苦笑した。


    「投資家もそうです」


    「銀行もそうです」


    「みんな短期しか見ない」


    黒い男は頷いた。


    分かる。


    その感覚は分かる。


    男は続ける。


    「でも」


    「前田さんは違う」


    黒い男は顔を上げる。


    男は真っ直ぐ見ていた。


    「前田さんなら分かると思った」


    静かな言葉だった。


    大げさではない。


    お世辞でもない。


    だから効いた。


    黒い男は何も言えなかった。


    役員になってから。


    教授になってから。


    沢山褒められた。


    凄いですね。


    成功者ですね。


    尊敬しています。


    そんな言葉は沢山聞いた。


    だが。


    分かる人。


    と言われたことはなかった。


    男は続ける。


    「だから相談したいんです」


    黒い男の胸が少し熱くなる。


    相談。


    評価ではない。


    講演依頼でもない。


    肩書でもない。


    自分自身を見られている気がした。


    男が資料を出す。


    資金調達資料だった。


    数字を見る。


    市場を見る。


    事業計画を見る。


    内容は魅力的だった。


    そして。


    必要資金も大きかった。


    男は言う。


    「もちろん断ってください」


    「でも」


    少し笑う。


    「私は勝てると思っています」


    その言葉を聞いた瞬間。


    和牛王を思い出した。


    危険信号が鳴る。


    まただ。


    また同じだ。


    心のどこかで思う。


    だが。


    別の声が聞こえる。


    今回は違う。


    今回は本物だ。


    今回は取り返せる。


    黒い男は窓の外を見る。


    六本木の夜景。


    光。


    高層ビル。


    未来。


    可能性。


    全部がそこにある気がした。


    帰宅する。


    妻は起きていた。


    顔を見るなり言う。


    「また会ったの?」


    黒い男は驚く。


    「何で分かるの」


    妻は笑う。


    「顔」


    それだけだった。


    黒い男は苦笑する。


    妻は少しだけ黙る。


    そして言った。


    「その人」


    「あなたを見てる?」


    黒い男は頷く。


    「見てると思う」


    妻は首を傾げた。


    「そうじゃなくて」


    少し考える。


    言葉を探している。


    そして言った。


    「あなた自身を見てる?」


    黒い男は答えられなかった。


    その夜。


    眠れなかった。


    男の言葉を思い出す。


    分かる人。


    あなたなら分かる。


    その言葉が。


    頭の中で何度も響いていた。


    人は時々。


    お金を失ったから騙されるのではない。


    失った自尊心を取り戻したくて騙される。


    次へ進む ↓



    金と筋の本編はこちら。


     
     
    大学教授。ビジネスアスリートOS創始者。投資アスリート育成寺子屋塾の塾長。 外資系IT企業にて、戦略コンサル・データサイエンスに25年以上従事。 問いの設定・構造化・伝達によって、人と組織が成果を出し続ける思考OSを体系化。 連絡先:info@finfhi.com

    あなたへのおすすめ