焼き芋|ショートショート|風まかせ文芸部
四月に入った新人は、まだイモみたいな奴だった。
見た目はいまどきの若者だったが、仕事も遅い。
返事も小さい。何をするにも、おどおどしているが、急に乾いた反応もする。
瑞々しいというか、まだ何事にも堅くて使いものにはならなかった。
昔なら、先輩からヤキのひとつでも入れられていたところだ。
けれど、時代は変わった。
今はそんなことをすれば、こちらが焼かれる。
いや、炎上する世の中だ。
そして秋。
焼酎の製造会社に勤める私は、新入社員と地域の秋祭りに出店していた。
担当は焼き芋。
私が新人の頃から続く行事の一つだった。
原料の芋を地域の方に振る舞っている。
焼き方一つで先輩から指導を受けていたものだ。
「もう焼けたんじゃないですか?」
「まだだろ」
新人と火を囲んでいると、ひとりの爺さんが近づいてきた。
振る舞い酒のせいか、紅芋のように赤ら顔で、酒臭い。
「なんだ。まだ、お前、会社にいたんか?」
私の目をジロリと見て、新人の手元にある芋を舐めるように見ていた。
「あんだけ熱心に教えてやったのに、こんな仕事もまともに出来んのか。若いのもパッとしないし、諸先輩方からの焼きが足りないんじゃないか?」
見ると、〇〇さんだった。
昔、この会社にいた人だ。
随分と“お世話”になった方だ。
いま思い返しても、胸が焼けるほどの熱い教育が、心の中に焦げついている。
「いえ。時代は変わったんですよ、〇〇さん」
私は一本の芋を取り出した。
表面は、真っ黒になるまで焼けている。
「私が特別に焼かせていただいた芋です。どうぞ」
〇〇さんに手渡す。
「〇〇さんの時代に合わせたら、焼き加減はこんなになりました」
爺さんは、黒い芋をじっと見つめた。
顔の色が、紫芋みたいになっていた。
新人は慌てて、上手に焼けた芋を数本、〇〇さんに渡した。
「タイパ悪いですよ。
適当に残ったやつ渡しときました」
引いてる。絶対引いてる。
タイパかぁ……。
私は秋空を見上げた。
焼き芋の煙が、目に染みるなぁ。
新人が教育係になる頃には、
スイートポテトになってるかもな。
iさんの企画に参加させていただきました。
落ち葉で焼いた焼き芋というものは、小説や漫画でしか会うことができない風景ですよね。石焼き芋のトラックすら、見ることも少なくなっている気がします。
いつか、焼き芋を焼く描写も、時代とともに変わっていくのかもしれませんね。
ちなみに、私は落ち葉で焼いた焼き芋を食べたことがありません。
