
伊香具神社の名前からアイヌへ
先日、滋賀県長浜市にある伊香具神社を訪れたことはすでに投稿している。うちの氏神です。
現在は長浜市ですが、かつては伊香郡と呼ばれる湖北の地域でした。延喜式神名帳に名神大社として載る古社で、御祭神は伊香津臣命。
この伊香具神社の名称の由来ですが、もともとこの地にカグツチを祀る小社があったのではないかと言われています。
いまも伊香具神社の裏手の山腹に迦久土神を祀る式内社であるといわれる意太〔おふと〕神社があり、この「おふと」が現在の集落名でもある大音の由来ともいわれている。
これらの説だと「いかぐ」の「い」がどこから来たのかよく分からないなぁと思っていたらとある書籍を見つけた。
志賀剛著『神名の語源辞典』(1989)。
これによると
◯ 伊香具神社(近江・伊香)イカグはイカガの訛である。ガーグは三母音時代の交代である。
と記されている。
(近江・伊香)とは延喜式神名帳の「近江国伊香郡」のことで、以下に載せる神社もすべて式内社である。要するに昨今造られ名付けられた神社ではないというもの。
この説明の三母音時代は置いといて、「いかぐ」は「いかが」が訛ったものとして紹介している。
ではその「いかが」とは何だだろうか。同書によると
◯ 伊賀賀原〔いかがはら〕神社(尾張・丹波)前項のイカガシのシが落ちて、原の付いた語である。
と記されている。
それではその「前項のイカガシ」を見てみると
◯ 伊加賀志神社(阿波・麻殖)イカナシ→イカガシとなる。ナとガは鼻音と濁音の交代である。当社の旧址は伊加賀志という地にあった(『阿波志』)。
と記されている。
さらにその「イカナシ」とは何かとみると、
◯ 伊加奈志神社(伊予・越智)今治市五十嵐村の見晴のきく丘にある。イカラシ→イカナシとなる。ラ→ナとなるのはraの流音とnaの鼻音が交代するからである。
と記されている。
ではではその「イカラシ」とは何か見てみると、
◯ 伊加良志神社(越後・蒲原)アイヌ語のインカラウシュのインカルは「物を見る」「見物する」「監視する」等の意味で、ウシュは「場所」である。このインカラウシュはイカラシとなる(ン・ウは脱落し、シュ→シとなる)。この伊加良志神社の丘は見物するによい所、すなわち見晴しのきく丘である。アイヌ語には清濁の別はないからイカラシ→イガラシ(五十嵐)となる。大体次のようになる。インカラウシュ→イガラシ(五十嵐)→イカナシ→イカマシ→イコマ→イクマ。以下の数社の語源はみなイカナシ・イガラシの転訛である。
と記している。この「以下の数社」の中に伊香具神社も含まれているわけです。
ちなみに同書による「以下の数社」は先にあげた神社のほかに、
◯ 伊加麻志神社(伊豆・田方)
◯ 伊加麻神社(駿河・有度)
◯ 伊賀留我神社(伊勢・朝明)
◯ 伊我多気神社(出雲・仁多)
◯ 伊賀牟比売神社(伊豆・賀茂)
◯ 往馬坐伊古麻都比古神社(大和・平群)
◯ 伊古奈比咩命神社(伊豆・賀茂)
◯ 伊去波夜和気命神社(陸奥・牡鹿)
などを載せる。
つまりアイヌ語を語源とする社名というもの。
これは地名がアイヌ語の名残を残しているだけではなく、神さまそのものもアイヌの神を受け継いでいる可能性もあるのだろうか。