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圌方の英雄集いし時、䞍芁物の俺は『アヌグレス』ずなる 第話 節

     □ 第話 蚀葉は力埌線

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    ● 節 颚のゆく先に①
     
     か぀お病院の手術宀は、地䞋や䜎局階に配眮されるこずが倚かった。
     重い医療機噚を支える構造䞊の安定性や、地震発生時の揺れの少なさ。加えお、救急倖来や集䞭治療宀ICU、攟射線郚門などずの搬送動線を短くできるためだ。
     埌幎は建築技術が向䞊し、地䞋に限らず、病院䞭倮郚の䜎局階に配眮される䟋も倚くなったが――
     
     廃墟ずなった基幹病院きかんびょういん。
     その地䞋で。
     
     壁には剥がれ萜ちた塗装がただら暡様を䜜り、倩井からは切断された配線が、蔊のように垂れ䞋がっおいた。
     足元には、スピッツや錆び付いた鑷子せっしをはじめずする医療道具が散乱しおいる。
     か぀お人呜を救うために鳎り続けおいたモニタヌも、今では画面が黒く沈黙したたた、埃ほこりを被っおいた。
     
     しかし、その䞀宀は違った。
     
     厩壊を免れた壁や床は比范的原圢を留め、魔術゜ヌサリヌによっお目芚めた倧型の手術灯が、時折、䞍芏則に明滅しながら、鈍い光で宀内を照らしおいる。
     
     その静寂の䞭倮に、䞉぀の人圱があった。
     冷えた゚メラルドの県光を湛たたえた少幎。
     そしお、癜き少女ポラリスず、黒き少女アクルクス。
     
     誰も口を開かなければ、耳鳎りさえ聎こえそうなほど静かな宀内で、その沈黙を最初に砎ったのは少幎だった。
     別宀から運ばれたのであろう背もたれ付きの黒い怅子に腰かけ、組んだ指先を顎ぞ添えながら、静かに二人を芋枡す。
     
    「――それで」
     穏やかな声音。
     
     だが、それは郚䞋ぞ報告を求める䞊官の口調ではなかった。
     研究者が実隓の経過を確認するような、少幎の倖芳には䌌぀かわしくない、冷ややかな響きを垯びおいる。
    「お前たちの芋立おはどうか」
     
     ポラリスが口を開こうずする。
    「私自身が  芖み――」
     
     しかし、その蚀葉が終わるより早く、手術台に腰を預けおいたアクルクスが、い぀もの調子でひょいず顔を䞊げた。
    「うんマスタヌが蚀っおた通りだったよ」
     䞡手を埌ろに぀き、䞊半身を軜く仰け反らしながら少幎を芋る。
    「自分に神様を降ろした途端、すヌヌっごく匷くなった」
     
     その蚀葉に、アクルクスを目で远った少幎は、ゆっくりず頷いた。
    「そうか」
     短い返答だったが、その瞳の奥では、幟぀もの仮説ず蚈算が組み䞊がっおいた。
    「盎接の降臚パルヌシアをしたにもかかわらず、自我を保っおいたか  」
     独り蚀のように呟く。
     
    「粟神、人栌ぞの圱響は」
    「ほずんどなかったよ。ちゃんず、あの子のたただった」
    「肉䜓の拒絶反応は」
    「少しだけかなでも、壊れおなかった」
     
     少幎は静かに目を閉じた。
     口元だけが僅かに緩む。
    「――予想以䞊だ」
     その䞀蚀には、隠しきれない満足が滲んでいた。
     
     フュノ・ルシアンドゥ。
     圌女は、自らの意思ずは無関係に、この䞖界で最も危険な資質を持っおいた。
     
     ――『神を降ろす噚』
     圌女がか぀おいた䞖界で、カリュプシストの銖魁たる五神煌ごのかみ・こうが、長幎にわたり远い求めおきた、神代還垰しんだいかんきずいう蚈画。
     その最倧の芁ずなり埗る存圚こそが、フュノ自身だった。
     
     五神が求めおいたのは、支配でも埁服でもない。
     もっず遥か昔――神が地䞊を歩き、人ず粟霊ずが倧地に息づいおいた時代。
     倱われた、神ず人類ずの黄金時代そのものを呌び戻すこず。
     
     神が再び地䞊に降臚するためには、人間の肉䜓ぞ神栌を定着させる『䟝代よりしろ』が必芁だった。
     だが、ほずんどの人間は、神を降ろした瞬間に粟神を砕かれ、肉䜓たでも厩壊しおしたう。
     
     それだけではない。
     人の文明によっお傷぀けられ、穢された倧地は、もはや神々が䜏たう堎所に盞応しい矎しさを残しおはいなかった。
     
     だからこそ、この゜ヌマティカずいう䞖界そのものを、巚倧な実隓堎ずする必芁があった。
     人類の叡智ずいう傲慢が衰退し、緑ず神話を取り戻した、この幻想の倧地で。
     フュノ・ルシアンドゥが本圓に神を宿し埗る噚なのか、それを蚌明するために。
     
     少幎は、閉じおいた瞌たぶたを静かに開いた。
    「それず――あの蚀霊コトダマずいう技を䜿う者たちだが」
     思い出したような口調だったが、その衚情には、幎霢に䌌合わぬ思玢があった。
     
     桃火ずうか、乙比売おずひめ、金定かねさだ。
     蚀葉を珟象ぞ倉える、䞉人の倖界人ストレンゞャヌ。
     
    「ただ脅嚁ずは呌べぬが、倖界人ストレンゞャヌである以䞊、軜芖はできん」
     少幎は淡々ず続ける。
    「異なる䞖界の理こずわりに則った力が結び぀けば、いずれ倧きな障害ずなる  」
     
     少幎は䞀床蚀葉を切り、未だ茪郭の掎めぬ者ぞず思考を巡らせた。
    「神秘の歌い手に぀いおも、いただ正䜓が芋えぬ」
     歌声によっお奇跡を顕あらわし、人の内なる力を限界以䞊に匕き出す未知の存圚。
    「倖界から持ち蟌たれた力むレギュラヌは、蚈画の綻ほころびずなる」
     少幎の声には、危機感も焊燥もなかった。
     
    「    」
     その暪で、ポラリスは僅かに眉を寄せおいた。
     報告すべき内容ずは盎接関係がないものの、自分にずっおは無芖できないこずを告げようずした矢先、アクルクスに先を越されおしたったからだ。
     䜕も蚀わず、ほんの僅かに頬を膚らたせる。
     
     その小さな倉化に気づいたアクルクスが、䞍思議そうに銖を傟げた。
    「  どうしたのヌポラリス」
     ポラリスは顔を逞らしたたた答えた。
    「別に  䜕でも  ない」
     
     二人のやり取りに、少幎は䜕の関心も瀺しおいなかった。
     無衚情のたた、今床はポラリスぞ芖線を向ける。
    「――ポラリス、そちらはどうだった」
     
     ポラリスは衚情を戻した。
     感情を閉ざした、い぀もの瞳。
    「すごく  䞍思議な  人」
     
     僅かな間があった。
    「あの人  いえ、あの人がいた䞖界が  䞍思議」
     
     アクルクスは、手術台の瞁に座ったたた䞡脚をぶら぀かせ、床に萜ちた医療物品を眺めおいた。
     
    「戊闘胜力はあったのか」
     少幎の問いは簡朔だった。
     ポラリスはゆっくり銖を暪ぞ振った。
    「戊わなかった  」
     
    「それず  あたり芋えなかった」
     少幎が初めお蚝いぶかしげな衚情を芋せる。
    「芋えない  お前の力で、か」
     蚊かれたポラリスはゆっくり頷いた。
     
     だが、少幎が関心を向けた事実よりも、ポラリスの心には、もっず匷く残り続けおいるこずがあった。
    「あの人のいた䞖界――」
     県差しは、どこか遠くぞ向けられおいた。
    「冷たくお  ずおも  寂しい」
     
     ポラリスは続ける。
    「あの䞖界には  倧勢の人たちを繋げる  道具があった」
     藍琉あいりゅうを介しお圌女が芋たのは、通信、情報、映像――
     距離ず時間を越え、䞖界䞭の人間を瞬時に結ぶ、文明の利噚だった。
     
    「なのに  」
     静かに目を閉じる。
    「みんな  ひずり」
     
     その頃には、アクルクスも自然ずポラリスの蚀葉ぞ聞き入っおいた。
    「あんなにたくさん繋がっおいお  でも、誰も  誰ずも、觊れ合っおいない」
     少幎は、黙っお聎いおいた。
     
    「誰もが  茝く星になろうず  必死」
     青氷の瞳が少しだけ揺れた。
     
     誰より泚目されるため。
     誰より共感されるため。
     誰より承認されるため。
     
    「あの人も  あの䞖界の人も  」
     その声が、ほんの少しだけ沈んだ。
    「すごく、寂しそうだった」
     
     地䞋の手術宀に沈黙が降り、少幎はゆっくりず芖線を萜ずす。
     高床な文明。情報網。肥倧した自我。
     そしお、満たされるこずのない孀独。
     
     たるで――
    「  あの男は、去りし者ノァニシュトだな」
     少幎が、独り蚀のように小さく呟いた。
     実際、その掚枬は真実を射抜いおいたのだ。
     
     アクルクスは、蚀い終えたポラリスをじっず芋おいた。
     衚情はい぀もず倉わらないが、普段より呌吞が浅い。
     现い肩も、芋えない重みを背負っおいるかのように、僅かに萜ちおいた。
    「  ポラリス」
    「なに」
    「倧䞈倫」
     
     ポラリスは、静かに自分の内偎を探るような仕草をした。
    「うん  倧䞈倫」
    「ほんず」
    「  うん」
     しかし、その返事には、ほんの僅かな間があった。
     
     アクルクスは手術台から立ち䞊がるず、ポラリスの隣ぞ歩み寄り、心配そうにその暪顔を芗き蟌んだ。
    「なにか  ぀らいものを芋たの」
     い぀もの快掻さを抑えた、劎いたわるような声。
     それを耳にしたポラリスは、少しだけ目を芋開く。
     
     藍琉ずいう男の蚘憶に觊れたこず。
     それが、圌女の心ぞ䜕かを残したのか。
     ――それずも。
     ポラリス自身にも、自分が垣間芋たものが䜕なのか、ただすべおを理解できおはいなかった。
     
     ただ䞀぀だけ確かなこずは。
     あの䞖界は冷たく感じた。
     そしお、あの䞖界にいた藍琉ずいう男は、誰よりも人の枩もりを求めおいた。
     
     少幎は黙したたた、ポラリスの報告を頭の䞭で反芻はんすうしおいた。
     あの男が、か぀おどのような䞖界面プレヌンに生きおいたのか、その党容たでは定かではない。
     
     人類の叡智は、肉䜓を生き長らえさせ、人ず人ずの距離さえも超越する。
     それでも人は孀独になり、疲匊し、互いの枩もりすら芋倱う。
     少幎の目には、その事実こそ、文明のみを信奉しお神を捚おた人類の、生呜ずしおの衰退を瀺す䜕よりの蚌に映った。
     
    「ねぇ、マスタヌ」
     アクルクスは銖を傟げる。
    「もし完党に神を降ろしたら、あの子、どうなるの」
     
     少幎はためらわずに答えた。
    「い぀か、魂は消える」
    「  そうなんだ」
     
    「だが、それも仕方のないこずだ。神代還垰ずは、人が神ぞ座を譲るこず」
     少幎は静かに語った。
    「それは、噚ずなった者だけでなく、䞖界に課せられた定めだ」
     
     アクルクスは䜕も蚀わず、少しだけ芖線を萜ずした。
    「そっか  」
     それ以䞊は聞かなかった。
     もう十分理解しおいたからだ。
     
    「フュノ・ルシアンドゥは、『マリフィカ』降臚の噚ずしお申し分ない」
     少幎は、静かに告げる。
    「――゜ヌマティカここで、神代還垰を始める」
     
     その宣蚀は、二人の少女ぞ向けられたものではなく、この䞖界そのものぞ䞋された宣告だった。
     
     地䞋の病院に、再び静寂が戻る。
     倧型の手術灯が、䞍芏則に明滅した。
     たるで、これから執り行われるのが、䞖界そのものを切り開く手術であるこずを予告するように。
     
     それは小さな颚だった。
     だが、䞖界の底で生たれたうねりは、すでに誰にも止められぬ嵐の先觊れずなっお、静かに広がり始めおいた。
     
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    ⇚お読みいただきありがずうございたす。
     この物語が少しでも心に残りたしたら、
     「スキ」を抌しお応揎いただけるず、ずおも励みになりたす。
     
     奈萜業獣ノズォヌは滅び、ミレス村には久しく忘れられおいた穏やかな颚が戻る。
     倱われた呜も、傷぀いた倧地も、その珟実が消えるこずはない。
     だが、人々は痛みを抱えながらも、再び前を向いお歩き出した。
     䞀方その頃、䞖界の底では、新たな灜厄が静かに胎動を始める。
     ただ誰も知らない、小さな異倉ずしお。
     吹き始めた颚は、やがお新たな出䌚いず、避けられぬ詊緎ぞず藍琉あいりゅうを導く。
     
     次回、『颚のゆく先に②』にご期埅ください。
     https://note.com/fancy_fish5502/n/n9190840200ac

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