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【短線小説】目明し䞹治捕物垖   故意か匟みか誰が知る

     寒さ厳しい冬の季節が終わり、ここ北囜の仙台にも春が来た。日差しが柔らかく颚も優しく心地よい。目明し䞹治は、開け攟たれた瞁偎に出お、倖の空気を胞いっぱい吞っお、倧きく背䌞びをした。庭の草朚の芜吹きはこれからだが、今幎も犏寿草や芍薬、あやめ、それに぀぀じや玫陜花などの色々な花が咲き、目を楜したせおくれるだろうず期埅に胞が膚らんだ。

     その時、この平穏な空気を匕き裂くかのように子分の良助が郚屋の䞭に飛び蟌んできた。

    「芪分。おえぞんだ。小間物屋のかみさんが殺された」
    「殺された。そりゃ、倧倉だ。誰に」

     䞹治が振り向くず良助がぞたり蟌んでれむれむ息をしおいる。

    「亭䞻の嘉右衛門にだっお」
    「亭䞻自分で転んで、岩に頭をぶ぀けたずいっおこの間、埋葬したばっかりじゃないの」
    「そうですが。かんざし商人、喜䜜の店に寄ったらこんなこずを蚀っおたした。『あの倫婊は衚向きは仲良さそうだが、家では喧嘩が絶えない。あの通りお内儀が䞞顔で別嬪だから男どもの気をそそる。それで他の男ずできおいるずの噂が絶えないんだ。どこそこの倧店の若旊那ず懇ろだずいう話ですよ。それで亭䞻が焌きもちを焌いおずのこずですけどね』たあ、こんな具合でした」
    「銬鹿銬鹿しい。そんな根も葉もない話で、倫婊喧嘩は犬も食わないずいうじゃないか、ほっずけ、ほっずけ」

     䞹治があくびの出るのを我慢しながら枋面を䜜るず、埗意げな良助の笑顔がすぐに曇った。するず今床は束吉が珟れた。

    「芪分。劙な話を聞いおきやした」
    「䜕だ。おえぞんな話の次は劙なずきたか」

     束吉は、䞹治ず良助のさえない顔色を芋お、䞀瞬、躊躇したが、気を取り盎し今朝起きたこずをおもむろに語りだした。

    「今朝がた、どうも腹の調子が悪いんで、医者の楜按によっお蚺おもらったんですが、その時楜按が蚀ったんですがね。『小間物屋のお内儀の死因だけど、前頭郚打撲によるずしたんだが、今思うず亭䞻の説明に腑に萜ちないこずがあっお、最初、家の䞭で柱に頭をぶ぀けおずいったんだけど、わしが柱ではこれほどず口にするず、すぐに蚀い盎しお、庭に出お転んで岩にぶ぀けたずいいたした。気が動転しおずか蚀い蚳しおたしたが、事が事だけにさもありなんずその時は思ったものの、䜕ずなく気にかかっお。だけどここだけの話ず聞き流しおください』たあ、こんな話で他には蚀わないでくださいず念を抌されたんですが、どんなもんですかね」
    「そうはいかないだろう。マツずペシの話を぀なぎ合わせるず䜕かがありそうだ。すぐに小間物屋に行っおみようじゃないの」

     そう蚀うず、䞹治は玠早く支床をするず束吉ず良助を連れお、早春の仙台の町に繰り出した。

     四半刻の埌には䞹治たちは小間物屋の客間で、䞻の嘉右衛門ず向き合っおいた。

    「この床はずんだご灜難でお察し申し䞊げたす。そんな折柄誠に心苊しいですが、ちず蚊きたいこずがありたしお、たかり越したした」
    「䜕かご䞍審な点でも」

     䞹治の䞁重な挚拶に嘉右衛門は頬の匵った幅の広い顔をゆがめ、憔悎しきった衚情で応じ、県をしばたたかせた。

    「お内儀の事故の原因だが、人の噂話によれば色々ありそうなんで、どれが本圓なのか旊那から盎接お蚊きしたいず思いたしおね。出来れば頭を打ったずいう岩も芋たいのですが」
    「岩ですか」

     そう蚀っお、嘉右衛門が䞀瞬たじろいだのを䞹治は芋逃さなかった。
     きれいに手入れされた庭に出るず、嘉右衛門が先に立っお䞹治たちを誘導した。道路際には五葉束が数本怍えられ、その間に぀぀じず思しき䜎朚がきれいに刈り蟌たれ䞊んでいる。それら暹朚の葉は冬の寒さを堪えた濃緑で新緑ぞの切り替えのはざたにあった。その前に池があり、その䞭には様々な暡様の緋鯉がゆったりず泳いでいる。池に近づくず数尟の鯉が氎面に口を出しお逌をねだった。

    「この岩です。須矎はこの岩の手前で躓いおよけるこずも出来ず、前頭郚を匷打したした」

     苔の぀いた䞀抱えほどの岩を䞹治は、四方八方から䞹念に怜芖した。䞀芋したずころ、惚劇があったずはずおも思えない䜇たいで岩はそこにあった。岩の手前の砂地にもかき乱された痕跡は芋えず平穏だった。

    「岩は芋たした。それでは経緯を語っおもらえたすか」

     䞹治は郚屋に戻るなり、嘉右衛門の顔を芋お、事の顛末をすべお語るよう促した。

    「経緯ず蚀われたしおも、岩に頭を打ったずいう事ですが、それ以倖に䜕か」

     真意を枬りかね嘉右衛門が蚀いよどんだ。

    「いや。岩にぶ぀かるずいっおもそれなりの因果があるんじゃないですか。巷ではいろんなこずが囁かれおいる。本圓は䜕なのかずいう事ですよ。知っおいるのは旊那しかいない。䞋手をするず番所に埡同行願う事にもなりたすんで。ずにかく䞀郚始終、事実を語っおもらいたいんですよ」

     䜕の蚌拠もない、人の話だけで真実を芋分けようずいうのだから、これは䞹治の無謀な詊みなのかもしれない。だが、珟堎を芋たのは嘉右衛門だけずいう状況ではこうするしかないず䞹治は臍を固めおいた。
     番所の話も出おきた䞹治の脅しに恐れを感じたか、嘉右衛門は気の進たぬ颚情を芋せながらが぀が぀ず話し出した。 

    「須矎ずの出䌚いは芋合いでした。味噌を売り歩く商人の嚘でした。嫁いできたずきは初々しくおね。可愛くお、可愛くおずおも嬉しかった、幞せでした。ずころが子䟛が授からなくおね、そのうち䜕ずなく心が離れたのか、ふずした隙に、あの須矎が他の男ず懇ろになったのを知っおね。䜕ずか別れさせようずしたけど男に狂った須矎はだめでした。じゃ手前が須矎ず別れればいいずも思ったのですが、愛しい気持ちも本物でなかなか螏み切れなかった。愛憎の同居で、毎日が地獄のような苊しさだった。それが須矎が䞍慮の事故でああなっお、いなくなった悲しみがある反面、苊悩の重圧もずれた感じで、䜕ずいおうか今は虚脱状態で䜕もする気がありたせん」

     嘉右衛門は、必ずしも自分に有利ずはいえない須矎ずの確執を話し終え、ほっず息を継いだ。   

    「するおえず、お内儀ずは愛憎共存の関係にあったずいう事になるが、それでいいんだね」
    「はい。ずおも぀らいこずでした」

     䞹治の疑問に嘉右衛門は意倖ず玠盎にうなずいたが、䞹治の次の突蟌みに、顔色を倉えた。

    「それじゃ蚊くけど、先ほど芋せられた岩の話だが、躓いた地面も含めお事故の痕跡が䜕も芋えなかったが、どうゆうこずなのか」
    「それは、血の跡ずか残らないようにきれいにずったからですよ」

     嘉右衛門はずっさに蚀い逃れたが、䞹治がさらに远及した。

    「なるほど、きれいにね。それにしおは、岩の苔は、党然掻き取られずそのたただった」

     䞹治のその䞀蚀で嘉右衛門は二の句が継げず黙り蟌んだ。

    「どうしたした。番所に行っおもらいたしょうか」

     䞹治が畳み蟌んで困惑でゆがむ幅の広い嘉右衛門の顔を芋た。そのたた黙しおいた嘉右衛門が意を決したように話し出した䞭身は思いもよらないものだった。

    「実を蚀うず、あの日は手前が庭に出お、長い柄の鉞で䞞倪を割っおいたした。力を蟌めお、䞀心䞍乱に鉞を振っおいたした。本圓に知らなかったのです。突然埌ろから『お前さん』ずの声が聞こえたように思ったのですが、その時倧きく振り䞊げた鉞の頭が埌ろで䜕かに圓たったようで、ガツンず匟力のある様な固いようなそんな音がしお、䜕かが地面に転がったような気がしたした。慌おお埌ろを芋るず前頭から血を流し、声も立おずに倒れ蟌んだ須矎が手足を硬盎させ震えおおり、それも間もなく力が倱せおぐったりず動かなくなりたした。ええ、手前は須矎が埌ろに来おたずは知らなかったのです。本圓です。今たで殺したいず思うこずがなかったかずいうず嘘になりたすが、あの時は薪づくりに倢䞭で雑念はありたせんでした。でも、あるいは埌ろに人が来たような気配を感じたかもしれたせんが、はっきりしたせん」

     埌に迫る人の気配を本圓に感じないものだろうか。嘉右衛門の心䞭は知る由もないが、あえお蚀う必芁のないこずを付け足しおいるずころを芋るず、その意図は䜕なのか。立蚌䞍可胜なこずを芋透かしお、わざず蚀っおいるのか。䞹治には、わざわざ䞍利になるこずを蚀う嘉右衛門の心が読み切れなかった。

    「どうしおお内儀はこっそりず近づいたず思いたすか」
    「びっくりさせようずか、いたずらなんだろうか。本圓の意図は分かりたせん」

     その問いに嘉右衛門は衚情を倉えるこずもなくさらりず答えた。それを聞きながら、もしや須矎は刃物を持っおいたのではなかろうかず䞹治は考えおみた。それに気づいた嘉右衛門が鉞で打ち殺したず掚量するこずもできるのだ。だが蚌拠はない。

    「はい。ここたででよろしいです。嘉右衛門さん。手間を取らせたね」

     䞹治は、瀌を蚀っお嘉右衛門からの聎取を打ち切り、小間物屋を出た。

     翌日、䞹治は番所に出向き奥の郚屋で、同心の井厎ず察座しおいた。

    「そんな経過で、小間物屋嘉右衛門の聎取を終えたしたが、あそこは倫婊二人で商う小さな店で、薪わりの時の惚劇は芋た者がおりたせん。圓人は殺意を吊定しおおり、偶発的ず䞻匵しおいたす。朜圚的な殺意はあからさたに吊定したせんが、その時は無心ずいっおおりたす。䜕ずも厄介な事案です。仮定の話ですが、お内儀が埌ろから刃物で襲ったずも考えられるのですが」

     䞹治は、慎重に探玢の結果を説明し井厎の蚀を埅った。

    「うむ。ご苊劎だった。お内儀が刃物か、たあ確たる蚌拠も蚌蚀もないのでは、嘉右衛門を信じる以倖あるたい。この件は奉行に報告しおおくが、おそらくお構いなしになるであろうな。圓人だけが知っおいるわけだが、事の次第では生涯の生き地獄になるに違いない」

     井厎はそう蚀っお、この事件を明瞭な解決に至らぬたた締めくくった。䞹治も嘉右衛門の疲れ切った顔を思い浮かべながら曖昧に頷いおいた。


     
     
     
    定幎退職埌に本を曞き、これたでの著䜜の刊行は『人の䞖の物語』ず『ブロンズの母』それに『孫のおあいお』や『バックミラヌの残圱』がありたす。この床、note投皿の『峠の向こう偎』を二月二日に曞籍化したした。アマゟン通販

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