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おひとりさまの老後|介護するとき 介護されるとき|素敵な勘違い

    93歳で大腿骨を骨折し、自宅での生活ができなくなった伯母。
    施設での生活も慣れてきた頃のエピソードたち。


    素敵な勘違い


    酸素濃度が低くなったり、脱肛がでたりする時期もあったけれど、在宅医と訪問看護士、施設のスタッフさんとの連携で、安定して過ごしている。

    彼女は、こんなことを言っていた。

    「お医者さんが2階に住んでいて、すぐに降りてきてくれるから、助かる」 「よく声をかけてくれるの」

    この施設に2階はない。そもそも在宅医はここには住んでいない。

    面会中に、あるスタッフさんが近くを通った。彼女がそっと視線を送る。つられてそちらを見ると、在宅医に似た方が会釈をして通り過ぎた。

    なるほど。このスタッフさんと在宅医を、同一人物だと思っているらしい。

    まぁ、素敵な勘違いってことで。


    温泉が薬


    温泉好きの彼女は、施設併設の温泉のあるデイケアに通っている。
    入浴が一番の楽しみで、「温泉が薬」と豪語している。

    デイサービスのレクリエーションは「子どもだまし」といって参加しない。リハビリも「訓練みたい」といって参加しない。

    「本人のやりたいようにやらせてください」とはいっているが、こんなにも望みをかなえてもらえるなんて、幸せだなと思う。

    都合が悪くなると「もう94歳なのよ」と免罪符にしているようだ。

    周囲の入所者は意思表示が少ない方が多いらしく、おしゃべり好きな彼女には物足りないようで、「自分だけが一方的に挨拶してまわっている」という。

    優等生気質があるので、他の人がルールを守れていないところは気になるらしく、面会時に不満げな言葉を口にする。自分も自由をきかせてもらっていることには、気づいていないんだなと思いながら、話を聞いている。


    男になった


    随分さっぱりした頭で現れた彼女。

    「男になった」

    といいながら、髪をかきあげる。施設に訪問美容師さんが来るタイミングで、切ってもらったらしい。

    マイナンバーカードの更新案内も来ていたので、施設の方に相談して、背景が白いところで写真を撮らせてもらうことにした。すっかり小さくなっているので、椅子に座ったら想定していた高さと違い、背景に映り込みが発生してしまった。

    ネットで申請を完了させたものの、映り込みのこと、片目を失明していて開かないことを追記して連絡し、承諾を受けた。

    それにしても、と思う。寝たきりの方はどうするんだろう。身近に手助けする人がいなかったら、どうなるんだろう。すべての人にやさしいシステムではないな、と感じた場面だった。


    特別感と、ま、いいか。


    骨折する以前は、焼き肉や寿司など、ランチに一緒に出かけていた。普通食を何も気にせず食べていた。

    でも病院や施設では、軟食が提供されるらしい。

    「歯ごたえのあるものが食べたい」と彼女はいつもリクエストしていた。

    「ごはんは、どう?」ときくと、

    「わたしのは、い~っぱいあるよ。果物もたくさんでるようになった」

    と特別感に満足げ。

    うん、その果物、わたしが買ってきてるんだけどね。
    気づいてないね、ま、いいか。

    別の日、またいつものように「果物は、食べたいものある?」と聞くと、

    「バナナがち~さかった」

    え?不服?

    小さい方がいいかなと思ったのに、ダメでしたか。
    それ、わたしが買ってきてるんだけどね…、ま、いいか。

    次からは、大きなものを選ぶとしよう。


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    50代おひとりさま。ポンコツ街道まっしぐら。 小さなおうちで、シンプルな暮らしと庭時間を楽しんでいます。 過去の自分に会いに行くエッセイ「あの日のわたしに会いに行く」、人生の後半戦を綴る「おひとりさまの老後」を中心に、暮らしや心の記録、くすっと笑える短編エッセイを綴っています。

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