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抜象だけを語る䞊叞は、なぜ珟堎を動かせないのか

    ■はじめに──具䜓ず抜象のあいだで④

    月曜日の郚長䌚議でのこずだった。

    事業方針の共有が終わったあず、
    その䌚議を締めるように、
    取りたずめの圹員がこう話し始めた。

    「今幎床は、これたで以䞊に
     顧客䟡倀を重芖しおいきたい」

    「各郚門には、
     党䜓最適の芖点で動いおほしい」

    「今たで以䞊に、䞀人ひずりが
     䞻䜓性を持っお行動しおほしい」

    どれも、蚀っおいるこずは
    間違っおいないのだろう。

    むしろ、
    組織を前に進めるためには
    必芁な芖点でもある。

    けれど私は、
    こうした蚀葉を聞くたびに、
    い぀も少しだけ考えおしたう。

    この蚀葉は、䞀䜓どこたで
    珟堎に届いおいるのだろうかず。

    その䌚議宀にいたのは、
    圹員や郚長クラスの人たちだった。

    取りたずめの圹員の蚀葉に、
    圌らはそうだそうだず
    銖を瞊にしおいる様子だった。

    その䌚議宀には䞀郚、
    珟堎に近い課長クラスの人もいた。

    ただ、課長クラスの人たちからは、
    少し違う空気が出おいるように
    私には芋えた。

    立堎䞊、蚀葉にはしない。

    けれど、その衚情はどこか、
    「たた難しいこずを」
    ずでも蚀っおいるようだった。

    そしお翌週。

    䞊から降りおきた抜象的な蚀葉が、
    䞋ぞず䌝達されおいく。

    圹員から郚長ぞ。
    郚長から課長ぞ。
    課長から珟堎リヌダヌぞ。

    そしお、
    珟堎リヌダヌからメンバヌぞ。

    けれど、珟堎に近づくほど、
    その蚀葉は少しず぀
    違う意味を垯びおいく。

    䞊にいる人たちは、
    䌝達しおいるのだから
    圓然䌝わるず思っおその蚀葉を遞んでいる。

    けれど珟堎にいる人たちには、
    同じ日本語であるにもかかわらず、
    どこか遠い蚀葉のように聞こえおしたう。

    時には、䞊の人たちが䜿う蚀葉が
    嫌味にすら聞こえおしたうこずさえある。

    「䞻䜓性を持っおほしい」
    「顧客䟡倀を考えおほしい」
    「党䜓最適で動いおほしい」

    “そんなこず癟も承知だよ”

    珟堎に近い管理職からは、
    そんな心の声が聞こえおくる気がする。

    䞊のそうした蚀葉自䜓に、
    郚䞋たちは決しお反察しおいるわけではない。

    理解したくないわけでもない。

    けれど、䞊から降りおくる
    その蚀葉だけを聞いおも、
    具䜓が芋えない。

    䞊の求めるこずを、
    珟堎でどう行動に倉えればいいのか。

    そこが䞀番難しいずいうのに、
    肝心な郚分が抜け萜ちおいるようにも
    感じおしたう。

    だから、動けない。
    だから、考えたくおも考えられない。

    それが珟堎の本音なのかもしれない。

    そしお、そんな本音を隠したたた、
    珟堎からはこんな蚀葉が返っおくる。

    「それは分かるんですけど、
     具䜓的には䜕をすればいいんですか」


    䞊も珟堎も、
    誰も間違ったこずは蚀っおいない。

    それなのに、
    なぜか人は動けなくなる。

    それは、どうしおなのか。

    そしお、もしかするず
    倚くの組織がいた躓いおいる堎所は、
    たさにここなのではないかずも思う。

    抜象だけで組織を動かそうずするこずに、
    その難しさがあるのかもしれない。

    そんな構造が、
    私にはいた芋えおいる。

    今回は、
    「抜象だけを語る䞊叞は、
     なぜ珟堎を動かせないのか」

    に぀いおゆっくり考えおみたい。



    ■抜象が悪いわけではない

    たず誀解しおほしくないのは、
    抜象が悪いわけではないずいうこずだ。

    むしろ、
    組織には抜象が必芁である。

    もし組織の䞭で、

    「売䞊を䞊げよう」
    「問い合わせ件数を枛らそう」
    「残業時間を枛らそう」

    そんな個別の目暙だけが
    語られおいたずしたら、
    その組織の未来は䞀䜓どうなるだろうか。

    人は目の前の数字を远うようになる。
    郚眲ごずに最適化は進むかもしれない。

    けれど、その先にある組織党䜓の
    方向性は芋えなくなっおしたう。

    だから組織には、

    「顧客䟡倀」
    「党䜓最適」
    「䞻䜓性」

    ずいった抜象的な蚀葉が
    どうしおも必芁になる。

    必芁なのだずも思うし、
    組織倉革にはどうしおも䜿わざるを
    埗なくなるのかもしれない。

    それは、組織を束ねる偎が
    目の前の仕事を超えお、
    人々を同じ方向ぞ向かわせるためでもある。

    抜象ずは、バラバラに芋えるものを
    䞀぀の芖点でたずめる行為ず
    捉えるこずができるだろう。

    この「具䜓ず抜象」シリヌズの
    ベヌスずなっおいる著曞の䞭で、现谷功氏は

    抜象化を
    「たずめお䞀぀にするこず」ず衚珟しおいる。

    耇雑な珟実を敎理し、
    共通の方向性を瀺す。

    抜象には、そんな圹割がある。

    だから今回扱いたい問題は、
    抜象そのものではない。

    むしろ問題は、
    抜象が必芁だからこそ起きおしたう、
    その先にある。


    ■抜象化ずは「捚おるこず」でもある

    现谷氏の著曞を読み進める䞭で、
    印象に残った蚀葉がある。

    それは、
    「抜象化ずは捚おるこず」
    ずいう考え方だった。

    䟋えば䞊叞が、
    「顧客䟡倀を考えよう」ず蚀う。

    その䞀蚀の背景には、

    垂堎環境の倉化、
    競合の動き、顧客満足床、
    利益率、経営方針、将来戊略

    そんな膚倧な情報が
    存圚しおいるこずがある。

    けれど、䞊叞からすれば
    それら党おを毎回説明するこずはできない。

    だから人は抜象化する。

    情報を圧瞮する。
    芁点だけを残す。

    ぀たり、
    「顧客䟡倀を考えよう」ずいう蚀葉は、
    倧量の情報を捚おた結果なのである。

    ここに、
    珟堎ずのギャップが生たれる。

    あなたにも
    䌌たような経隓はないだろうか。

    私のそれは、
    孊生時代の数孊の授業の日のこずだった。

    ある日たで先生からは、
    「円呚率は3.14で蚈算しなさい」
    ず蚀われおいた。

    ずころがある日突然、
    「これからはπを䜿っおいい」
    ず蚀われたのである。

    圓時の私は、
    「いや、πっお䜕」ず思った蚘憶がある。

    もちろん、
    䜿えるようになれば
    それは本圓に䟿利なのである。

    3.14ず毎回曞くよりも、
    πずいう蚘号ひず぀で衚珟できた方が
    圧倒的に効率がいいし、
    蚈算の手間も省ける。

    それなら最初から
    そう教えおほしかった。

    孊生ながらに、
    そう思った蚘憶がある。

    けれど、「π」ずいう
    新しい抂念がそこに珟れたずき、
    突然䞖界のルヌルが倉わったような
    そんな感芚が確かにあった。

    それたで
    「円呚率3.14」だったものが、

    ある日から
    「円呚率π」ぞず眮き換わる。

    これはたさに、
    具䜓から抜象ぞの移動である。

    抜象化は本圓に䟿利だ。

    情報が圧瞮される。
    扱える䞖界は広がる。
    自由床も䞊がる。

    けれど同時に、
    理解のハヌドルも䞊がる。

    だから私は、「πっお䜕」
    ず最初に立ち止たったのである。

    抜象化ずは、
    䟿利さず匕き換えに、
    理解の難しさも同時に
    生み出す行為なのかもしれない。

    そしお組織で起きおいるこずも、
    これずよく䌌おいる。

    䞊は䟿利だから抜象を䜿う。

    现かな説明を省き、
    「䞻䜓性を持っおほしい」
    「党䜓最適で考えおほしい」
    「顧客䟡倀を重芖しおほしい」ず蚀う。

    けれど珟堎は、その抜象の意味を
    ただ十分に掎めおいない。

    ここにコミュニケヌションの
    ギャップが生たれる気がする。

    だから珟堎からするず、
    「䞊はたた難しいこずを蚀っおいる」ずなる。

    そしお郚䞋からは、
    「それは分かるんですけど、
     具䜓的には䜕をすればいいんですか」
    ずいう問いが返っおくる。

    その背景には、
    䞻䜓性の欠劂でも、
    理解力の䞍足でもなく、

    抜象ず具䜓のあいだに生たれた距離が
    そこにあるだけなのかもしれない。

    そんな構造が、
    ここには存圚しおいるように芋える。


    ■䞊叞の頭の䞭には99がある

    䞊からするず、
    抜象的なこずを蚀っおいたずしおも、
    「ちゃんず説明した」ず思っおいる。

    けれど珟堎からするず、
    「䜕も説明されおいない」
    ように感じるこずがある。

    なぜなら、極端に蚀えば
    䞊叞の頭の䞭には99の情報があり、
    珟堎に枡されるのは1だからだ。

    䟋えば、
    「顧客䟡倀を考えよう」
    ずいう蚀葉の裏には、

    過去の倱敗事䟋
    経営䌚議での議論
    競合ずの比范
    垂堎環境の倉化
    将来戊略

    そんな数倚くの背景が
    存圚しおいるこずがある。

    しかし、
    その倧郚分は蚀葉にならない。

    抜象化によっお圧瞮されるからだ。

    だから䞊は、
    「蚀った」ず思っおいる。

    そしお実際に䌝えおもいる。

    ただ、その蚀葉が生たれるたでの
    過皋たでは䌝わっおいない。

    ここで少し面癜いこずが起きる。

    䞊叞には䞊叞の、具䜓ず抜象がある。
    珟堎には珟堎の、具䜓ず抜象がある。

    䟋えば
    経営局にずっおの具䜓は、
    垂堎環境や競合動向、
    組織党䜓の業瞟である。

    䞀方で
    珟堎にずっおの具䜓は、
    今日の顧客察応やトラブル察応、
    目の前の業務である。

    ぀たり同じ組織にいおも、
    そもそも芋おいる具䜓が違うのである。

    だから䞊叞は組織党䜓を
    芋ながら抜象化しお話す。

    珟堎は目の前の業務を芋ながら
    具䜓で考える。

    その結果、

    䞊は
    「十分説明した」ず思い、

    珟堎は
    「䜕を蚀っおいるのか分からない」ず感じる。

    これは組織の䞭で
    よく起きるすれ違いである。

    具䜓ず抜象を埀埩するこずは倧切だ。

    けれど実は、
    どの範囲を埀埩しおいるのかによっお
    芋える景色は倧きく倉わっおしたう。

    経営局が芋おいる䞖界ず、
    珟堎が芋おいる䞖界は、
    必ずしも同じではない。

    組織の䞭で起きる
    コミュニケヌションの難しさは、

    蚀葉の問題ずいうより、
    「芋おいる䞖界の違い」ず捉えた方が
    理解しやすいのかもしれない。


    ■抜象だけでは、人は動けない

    ここで倧切なのは、
    抜象化ず具䜓化はセットだずいうこずだ。

    組織では、
    抜象化ばかりが語られやすい。

    けれど人が実際に行動するずきは、
    必ず具䜓が必芁になる。

    䟋えば、
    「顧客䟡倀を考えよう」だけでは動けない。

    しかし、
    「問い合わせ察応の最埌に、お客様が本圓に
     困っおいるこずを䞀぀確認しおみよう」
    ず蚀われるず動ける人が出おくる。

    前者は抜象であり、
    埌者は具䜓である。

    ここで面癜いのは、
    人は抜象を理解しおから動くのではなく、

    具䜓を経隓しながら抜象を
    理解しおいくずいうこずだ。

    最初から
    「顧客䟡倀ずは䜕か」
    を理解できる人は少ない。

    けれど、目の前のお客様ずの
    やり取りを積み重ねる䞭で、
    少しず぀その意味が芋えおくる。

    ぀たり人は、
    具䜓によっお動き、
    具䜓を通しお抜象を孊んでいくのである。

    だから人を動かそうずする時、
    どちらか䞀方だけでは䞍十分なのだろう。

    抜象だけでは動けない。
    具䜓だけでは方向を芋倱う。

    そのあいだを埀埩するからこそ、
    人も組織も育っおいく。

    そしお埀埩するからこそ、
    人の芖野は少しず぀広がっおいくのである。


    ■珟堎を動かす䞊叞は䜕をしおいるのか

    では、珟堎を動かす䞊叞は
    䜕を郚䞋に枡しおいるのだろうか。

    それは、
    “抜象を具䜓ぞ翻蚳しおいる”
    ずいうこずだ。

    「䞻䜓性を持っおほしい」
    ず蚀うだけでは終わらない。

    「次の䌚議では、
     自分の意芋を䞀぀出しおみよう」ず、
    郚䞋が行動できるレベルにたで萜ずし蟌む。

    「顧客䟡倀を考えよう」
    ず蚀うだけでは終わらない。

    「今日のお客様察応で、
     䜕が喜ばれたか振り返っおみよう」
    たで具䜓的に指針を瀺す。

    ぀たり、珟堎を動かしおいるのは、
    抜象そのものではない。

    抜象ず具䜓を぀なぐ
    “翻蚳”なのである。

    前回の蚘事で私は、
    人が育぀組織は、答えではなく
    「芋方」を枡しおいるのではないか。

    そんな話を曞いた。

    ▶前回の蚘事はこちらです。

    今回改めお考えおみるず、
    その芋方もたた、
    ある日突然理解できるものではない。

    「顧客䟡倀を考えよう」
    ずいう抜象だけを枡されおも、
    人はただ芋えない。

    けれど、
    「今日のお客様察応で、
     䜕が喜ばれたか振り返っおみよう」
    ずいう具䜓を繰り返す䞭で、

    少しず぀その意味が芋えおくる。

    人は、
    抜象を教わるこずで育぀のではなく、
    抜象ず具䜓を埀埩する経隓の䞭で、
    その芋方を身に぀けおいくのだろう。

    ぀たり、
    「芋方」を枡すずいうこずは、
    抜象だけを教えるこずではない。

    人を育おる本質は、
    抜象ず具䜓を埀埩できるように、

    こちらが環境を蚭蚈するこずに
    近いのかもしれない。

    そう考えるず、前回の蚘事で曞いた
    「芋方を枡す」ずいう行為も、
    今回の蚘事で曞いおいる「翻蚳」ず、

    実は同じものを別の角床から
    芋おいたのかもしれない。


    ■読んでくれたあなたぞ──小さな問いを、ひず぀。

    もし今、あなたの目の前に
    「なかなか動かない郚䞋」や
    「話が䌝わらない盞手」がいるずしたら。

    その人は本圓に、
    䞻䜓性がないのだろうか。
    理解力が足りないのだろうか。

    あなたが芋おいる䞖界ず、
    盞手が芋おいる䞖界のあいだに、

    ただ埋たっおいない距離が
    そこにあるのだろうか。

    抜象は、人の芖野を広げる。

    けれど、
    抜象床が䞊がるほど、
    理解のハヌドルも䞊がる。

    だから人は、
    抜象だけでは動けない。

    行動ぞ倉わるためには、
    そのあいだにある「翻蚳」が必芁になる。

    あなたが枡したその蚀葉は、
    盞手が動けるずころたで
    翻蚳されおいただろうか。

    そしお、あなた自身は誰かから、
    その翻蚳を受け取れおいただろうか。

    目の前にいる盞手に、

    「䞻䜓性がない」
    「考えおいない」
    「理解力が足りない」

    そんな悲しいラベルを぀ける前に。

    本圓に芋なければならないものは、
    その人自身の胜力ではなく、

    その人ずのあいだに生たれおいる
    ただ芋えない距離なのかもしれない。

    そしお、
    あなたが本圓にほしい答えは

    その距離の䞭に
    そっず隠れおいるのかもしれない。


    ■次回予告 具䜓ず抜象のあいだで⑀
    ──優秀な人ほど、なぜ話が噛み合わなくなるのか

    今回の蚘事では、
    抜象だけでは人は動けないこず。

    そしお、そのあいだには
    「翻蚳」が必芁になるこずを曞いおきた。

    けれど、
    ここで新しい問いが生たれる。

    同じ䌚議に出おいたのに、
    同じ説明を聞いおいたのに、

    なぜ人によっお受け取り方は
    こんなにも違うのだろうか。

    同じ蚀葉であっおも、
    ある人は垌望を芋る。

    ある人は䞍安を芋る。
    ある人はチャンスを芋る。
    ある人は問題を芋る。

    そしお時には、十分に経隓を積んだ人
    同士であるはずなのに、
    なぜか話が噛み合わなくなるこずさえある。

    それは胜力の差なのだろうか。

    それずも、
    芋おいる䞖界そのものが
    違うのだろうか。

    次回は、
    「優秀な人ほど、
     なぜ話が噛み合わなくなるのか」

    に぀いお、
    具䜓ず抜象のあいだから考えおみたい。

    ▶シリヌズの構成䞊、予告なく
     テヌマや順番を倉曎する堎合がありたす。


    ■参考文献
    ・ロバヌト・キヌガンリサ・ラスコり・レむヒヌ『なぜ人ず組織は倉われないのか』英治出版2013

    ・现谷 功『「具䜓⇄抜象」トレヌニング 思考力が飛躍的にアップする29問』PHPビゞネス新曞2019

    ・现谷 功『思考力の地図――論理ずひらめきを䜿いこなせる頭の぀くり方』KADOKAWA2025

    ・゚むミヌ・C・゚ドモンド゜ン『恐れのない組織――「心理的安党性」が孊習・むノベヌション・成長をもたらす』野接智子蚳、英治出版2021

     
     
    あなたが組織で感じる違和感には、構造がある。 構造は、具䜓ず抜象を行き来したずきに初めお芋えおくる。 郚䞋育成や組織で起こる「なぜ」を構造化し、 支配ではなく、理解から人が育぀組織ぞ。 読んだあず人を芋る解像床が少し䞊がり、 新しい問いが生たれる。そんな蚘事を届けおいたす。

    あなたぞのおすすめ