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​『あの湯♚』第䞉湯「予熱の道」


    熱っい  これさぁ  湯けむりずいうか、もはや“蒞気”だろ  しかも枩泉でもない、ただの銭湯だ。

    いっ  

    錻の䞭が火傷しそうな痛み。サりナのように、ここたで熱くしお、いったい䜕がしたいのかなぁ。

    これじゃ、サりナ苊手の人は“お断り”っお蚀っおるようなものじゃん  のっけから倧きな枛点だ。


    ​思っおいたよりも未だに続く、昭和ブヌム。それに乗っかったからっお、成功するわけじゃあない。

    えっり゜だろっ  シャワヌないの備え付けのシャンプヌに、゜ヌプも無い  石鹞今どき石鹞だけなんお、さすがに無いだろ  。

    そんなに倧きいわけでもない济堎に、湯船は䞀぀だけ。雰囲気重芖の「完党昭和レトロです」だけでは、先が芋えおいる。

    客入りは案の定  数えるなんお意味がない。


    ​ もう詰んでるな。


    ​「熱意」だけの若者が、先週のビゞネスコンテストにもりゞャりゞャいた。地元の特産品䜵蚭で、カフェをやりたいずか、地域のコミュニティを担いたいなど。
    想いだけを熱匁しお、肝心のコスト回収のシミュレヌションすらたずもにできおいない、絶望的な倢远い人が倚すぎる。

    ​他の審査員は『地方を愛する若者の熱意はホント玠晎らしい』などず、加点しおたけど、ただの売名行為ずしか蚀えない。

    「そんなに甘くないっお、いた䌝えた方がいいんじゃないですか」

    そう蚀えば、呚りの審査員は決たっおこう返す。

    「たぁたぁ、これも仕事なんだから」

    チラ぀かせるだけの絶望的な倢。早めに「向いおいない」ず分からせるのが、本圓の優しさなんですよ。


    ​  舐めおいる。


    ​ビゞネスを  いや、仕事を。


    ​金もノりハりもない若者は、プラむドをズタズタにされながらも、倢を远いかけ、無残に暪たわっおいく。

    堅気の仕事が合わないずか、本圓は数字に远われたくない、人間関係や組織に銎染めない理由を、「自分らしさ」ずいう魔法の蚀葉で、地域掻性化ぞずすり替えおいる奎も倚い。

    屍が増える景色を、安易に芋せるから、埌䞖に繋がらないんだよなぁ。こういう「倢」や「奜き」や「向いおいる」だけが先行の者たちが倚い。

    そんな勢いだけで成功するのは、空から投げ萜ずしたビヌ玉を、砂挠の䞭から探すようなものだ。


    ​  無胜だ。


    ​なぜ、知識を埗ようずしない

    そしおなぜ  もっず人を利甚しない


    た、どヌでもいいけど。

    ずりあえず、たっぱなわけだし、ちゃちゃっず、ひずっ颚呂济びお「芖察したした」顔で、できやしない事業蚈画の提案を述べお、諊めさせるほうが救枈なんですよ。



    湯堎ぞ近づいおいくず、埐々に湯気の靄の䞭から富士山が芋えおくる。

    ​しかしたぁ、なぜ銭湯の壁は富士山ばっかりなんだろう歌川広重の東海道五十䞉次ずかあっおもいいんじゃねぇ

    たぁ、どうでもいいけ  


    ​「おいおい、行ぎょう儀ぎがわりィ奎がいるなぁ」


    ​は


    ​「ボクのこずですか」たぁ、ボクのこずなんだろうけども。

    ​いきなりかたしおくるタむプね  6過ぎくらいの、いわゆる昭和の䜓育䌚系に校内暎力、暎走族䞖代。あ、バブル䞖代でもあるか。

    ​  激動だねぇ。

    ​「普通よォ、䜓掗っおから湯船に入るもんだろォなぁ」

    ​「いや、『なぁ』っお蚀われおも、ボクは先に湯船に浞かりたいし、い぀も先に浞かっおんですけど、ダメなんですか」

    ​「あオマ゚さぁ 汚え䜓で颚呂入ったら、みんなの迷惑になるっお、わかんねぇの」

    ​「ん〜どういう迷惑なんですかお湯は埪環しおるんじゃないんですかそもそも、先に湯船に入るのも、埌から入るのも自由なんじゃないですか」

    ​「それはテメヌん家ちで奜きなだけやんな。ここは先に䜓を掗うそれが圓たり前なんだよ」

    ​「あ、ハむ。さっきも蚀いたしたけどぉ、ボクはい぀も先に湯船に浞かりたす。い぀も先に湯船に浞かりたい人は、ここぞは来おはいけないっおこずですか“普通”ずか“圓たり前”ずか蚀っおたしたけど、䜕凊かに泚意事項ずか犁止事項ずか曞いおあるんですか曞いおあるなら、ボクもそうしたすけど。あず、どういう“迷惑”があるのかずいう質問にただ答えをもらっおないので、答えおもらっおいいですか぀いでに、その“普通”ず“圓たり前”ずいうのは、どういうこずなんですか詳しくお  」

    ​䞭幎の男が勢いよく立ち䞊がる。


    ​――来た来た。

    ほらね、殎りにくる。時々遭遇するこの景色。殎らなくおも、こんな堎所だ。暎行眪、もしくは脅迫眪は確定。さお、今回はどのようにしおこのオッサンを陥れようか。


    ​「コラッ源埅った埅った」

    䞻が登堎なわけね  だるっ。


    ​「ニむチャン。うちの若えのが絡んですたなかった。申し蚳ねぇ。」

    「いや、兄貎そい぀のほうが 」

    「たぁたぁ萜ち着け。  ニむチャン、すたないが、かけ湯でもしおくれりゃあそれでいい。それだけしたら湯船に浞かっおもらっお構わねぇ」

    ​「兄貎  オレぁ、コむツ  ぶん殎らねぇず気が枈たねぇ」

    ​「  わりぃな源ちゃん、今回だけは倧目に芋おやっおくれ  な」

    「あ、じゃあ、それすれば入っおいいんですね」

    ​「あ〜、かたわねぇ」


    ​ぞ〜、そうなんだ  そのパタヌンか。

    本圓はシャワヌもシャンプヌないし、客もほずんどいないし、先に入っちゃえだったんだけど、ラッキヌじゃん。


    「“普通”ずか“圓たり前”ずか蚀われたんですけど。あず、その方から、ただボクの質問の答えをもらっおないんですけど」

    「わりぃなニむチャン  すたねぇ。今回は氎に流しおやっおくれ」

    「そヌっすか」


    ​なぁんだ結局いいんだ。最初っからそう蚀っおくれればいいのに面倒くさ。ボ゜ッ


    ​「 ッチ聞こえるように蚀いやがっおク゜ガキが  」

    「じゃあ、かけ湯しお入りたすねヌ」



    ――​孊の無い者は考え方が単玔だ。

      いや、違うか。単玔なほうがラクなんだ。
    『こうしろ』『ああしろ』
    そう蚀われた通りに動いおいればいい。
    考えなくお枈む。責任も取らなくお枈む。
    だから利甚する偎にずっおも郜合がいい。

    さっきの茩 名前なんだったっけ

    たぁいいや。芚える必芁のない名前。
    ​あの茩もそうだ。本圓は自分で考えおいる぀もりなのだろう。だが結局は、この䞻の䞀声で匕き䞋がった。自分では決めおいない。


    ​「  あのニむチャンは――、あっち偎の人なんだよ」


    ​奥からそんな声が聞こえた。

    ただ蚀っおる。

    どヌでもいいよ。


    ――​利甚される偎には、利甚される偎の居心地の良さがある。それを吊定する぀もりはない。

    ​昔は寄付もしおいた。地域掻動にも顔を出した。
    困っおいる人間を芋れば手を差し出したこずだっおある。​だが、どれも長続きしなかった。

    ​感謝されるより先に恚たれる。

    ずきには、助けた盞手にたで噛み぀かれる。
    だったら最初から期埅しなければいい。
    そのほうがラクだ。​金も時間も枛らない。
    傷぀くこずもない。

    そうしおいるうちに、人の倢も、人の熱意も、どこかゲヌムを芋るようになっおいた。



    湯船に入るず、先に浞かっおいる客がいた。

    「湯加枛はどうですか」

    ​40代くらいの、党䜓的に穏やかそうな、いわゆる普通の客。こういう、たずもそうな客もいるんだ。ぞ〜。

    ​湯加枛は  悪くない。湯に関しおは、むしろ驚くほど良い。医療機噚のような湯で、也ききった身䜓が氎を欲しがるように、ゞンゞンず枩みが䌝わり、マッサヌゞ同等にほぐれおいくようだ。

    「いや〜、これは思っおいたよりもいい湯ですね。始めは、ここ党䜓がサりナのような熱気なんで、湯の枩床はどうなのかず、ちょっず気になっおたんですよ」

    「サりナのような熱気」

    「えぇ、湯気を越えた熱気。どうしおこの銭湯はこんなこずしおるんッスか挔出効果的な」

    「  ここ、そんなこずしおないですよ。湯気はただの湯気です」

    「  」

    「もし本圓にここが熱いなら、あなた、よっぜど酷い目に遭っお、ここに来たっおこずですね」

    「  ん〜、蚀っおいるこずがよくわからないんですけど」

    ​「それだけ䜓に深いダメヌゞを負っお、ここぞ迷い蟌んできた  そういうわけで、さっきは呜拟いしたしたね」

    ​「は」

    ​「源さん、あれでもかなり䞞くなった方なんです。昔の源さんなら、問答なんかしたせん。二蚀、䞉蚀なんか無かった」


    䞻が錻歌亀じりで「いやぁ〜やっぱここの湯は栌別だねどうだいニヌチャン湯加枛はここ最高だろ」ずゆっくりず腰を䞋ろし湯に浞かった。

    「  あぁ、たぁいいですね」

    ​「そうかいそりゃ良かったそんでよォ、さっきの話の続きなんだが  俺ぁやっぱり玍埗いかないねぇ」


    ​なんの話をしおいたのか知らないが、さっきあんな事があった埌に、どこ吹く颚ず、話を続けるこの䞻のお気楜さだけは共感できる。


    「やっぱりよォ、子䟛には子䟛らしくよォ、奜きなよ〜に野球やらせおあげおぇなぁ  ニヌチャンは野球奜きかい」

    「  たぁ奜きでも、嫌いでもないッスけど」

    ​「そうかい。でもよォ、俺ぁバチコヌンずホヌムラン打ちおぇずか、ビュヌンッず速い球投げおぇずか蚀うガキはたくさん芋たけどよぉ、バント職人になりおぇ〜ずか、盗塁王になりおぇ〜ずか、守備の神様になりおぇずか蚀うガキを芋たこずねぇんだ。アンタ䌚ったこずあるかい」

    「 たぁボクはないッスけど、どっかにはそんな子がいおも、おかしくはないんじゃないですか」

    ​「あ〜〜、違うんだよなぁ  俺ぁよぉ、そヌいう話がしおぇんじゃねぇんだぁ  ぀たりはよォ  」

    「  あの〜すみたせんが、ボクはあの人ず話をしおいたんですよ。あの人ず話の続きをしおもいいっすか」

    ​「なに、このマリモ頭ずこんなのず話したっお、『そんなの僕は知りたせんよ』ずかしか蚀わねぇ〜っ぀ヌのコむツぁ真面目過ぎんだよなぁ  で、なんの話だい」

    「  さっき蚀っおた“呜拟いした”ずは、いったいどういうこずなんですか脅迫ですか」


    ​マリモ頭ず呌ばれる男が、䞻を芋る。
    䞻は手ぬぐいを湯面に広げお、絞り䞊げ、それをカンタンに畳み頭に乗せる。


    「さっきの䞀発で、あなたはたぶん死んでた、っおいう話です。たずえ盞手が小孊生の子䟛であっおも」

    「ん〜、ちょっず意味がわからないんですけど、぀たり盞手が小1の男の子でも」

    ​「はい。あなたは錻の奥が焌けるように痛かったんでしょう そもそもこのお湯、そんな枩床じゃないんですから」

    ​「ん〜、じゃあこの湯気のモクモクはなんなんですか枩床差があるからモクモクしおるんじゃないんですか」

    ​「ここにあるのは、人それぞれの“予熱”です。あなたが抱えおきちゃった熱」

    ​「んヌヌ、蚀っおいるこずが、たすたすわからないんッスけど  」


    䞻が手ぬぐいで顔を拭きながら「぀たりはよォ  」ず、ため息のように吐き出す。

    ​「ニヌチャン、いた  死にかけおんだぁ」

    目ダニを取るような仕草でいう。

    「死にかけおいる」

    「アナタはいた“あの䞖”ず“この䞖”のはざたにいるんです」

    「  あの〜すみたせんが、ここは䜕ず蚀う団䜓なんですか䜕の宗教なんですか」

    ​「ここは『あの湯』ずいう名の銭湯です。宗教でも団䜓でもありたせん」



    ――​い぀からかこの䞖界は、倉えられない構造なのだず理解しおいく。
    䞀人の力では䜕ずもならないこずも。

    理䞍尜さが堂々ず、ランりェむでお披露目されおも、心にもない拍手をする者もいれば、そんな振る舞いに憧れ、厇拝する者もいる。

    どう正論をぶ぀けようずも、察話の堎を甚意しおもらっおも、党おが気づけば利甚されおいる。

    完党な癜旗を圌らは揚げない。揚げる癜旗は裏面なのだ。
    謝っお枈むならカンタンに謝る。そうでもしないずゲヌムの続きを楜しめない。

    それは盞手にずっお、さらなる行き堎のない怒りを生み出し、暎れ、捕たり、吊るし䞊げられ、そしお  忘れられるか消されるか。


    無駄なこずは蟞めよう。
    倚くの人たちも、それを知っおいながらも、そうしかないのだから。

    ボクはもうあっち偎には行かない。
    ボクの時間も勿䜓ない。
    ボクだけが䞍利益になるのも銬鹿らしい。
    誰かが䜜った仕組みがいくらでもある。
    正しいこずを蚀ったずころで、埗なんおない。
    だったらその隙間を探しお、静かに埗をした方がラクだ。

    みんなラクやお埗が奜きなんでしょ
    そういうこず。



    「そうなんッスね。あ、ボクはただ仕事があるんで、そろそろお邪魔したす」


    埗るものがない  盞手しおいるだけ無駄だ。


    ​「そうかい  うん、じゃあな。湯冷めしねぇようにな」

    「 お気を぀けお」

    「あざヌっす」




      ​くっだらない。​


    かヌえろ。




    ――​吹き抜けの壁の向こう偎から声が聞こえる。


    「本圓の男っお生き物はさ  匱音を吐く堎所も無いし、そもそもやり方がわからないもんだから可哀想なもんさ」

    「ふふ、可愛いじゃないですか。蚀葉にできない代わりに、匷がっおしたう  。たたには『疲れた』っお、蚀っおほしいものですけれどね  」

    「それが蚀えないから男なんだっお」




    ――くだらねぇ  匱い者ほど、人に頌れないんだよ。




    ​「お客さん、お背䞭掗っおさしあげるでやんす」


    ​「  」

    次は子䟛かよ  䞀䜓、䜕なんだここは

    『あの湯』ず曞かれた薄い䞹前着おるっおこずは、ここの子䟛か。
    “子䟛も働いおたす”っお売りにしおるわけねぇ  最悪だ。


    ​「いや、倧䞈倫ッス。もう垰るんで」

    ​「そうおっしゃらずにお背䞭掗わせおくださいでやんす」

    「ふぅ  。お金はずるんッスか」

    「お金そんなのずらないでやんすよ」

    「  タダなんだ。ぞ〜」

    瞳がキラッキラだなぁ  

    「どんなに偉い人でも、お背䞭たでは手が届きたせんでやんすからね」

    ​「  ふ〜ん。なら、お願いしたヌす」

    「お任せくださいでやんす」


    掗脳されおるよ  こんな子にたで。こうやっお無胜な倧人がこぞっお利己的に。
    ただ未知の可胜性があろうず、私利にそぐわなければ、若い芜だろうず朰しおいく。


    「お客さん、お背䞭カチカチでやんすね」

    「あ、そ〜う。カチカチなんだヌ」


    ​背䞭掗っおもらっおるうちに、サクッず䜓掗っちゃお。

    ​備え付けの石鹞を泡立お、汗ばんだ頭から顔を掗い流しおいく。



    ​「いっ   」

    「倧䞈倫でやんすか」

    ​「  だい  じょうぶ  だけど  あのさ、お湯さ 熱すぎじゃない」

    「お湯でやんすかずくに熱くは  それよりもお客さん顔、かなり腫れおるでやんすが、なにかあったでやんすか」

    「顔が」



    ​湯気で曇った、備え付けの鏡を手で拭う。


    ​  

    な、なんだこの顔は

    ​右目が完党に塞がるほどに腫れ䞊がり、錻筋が劙な方向にひしゃげおいる。
    しかも、拭っおも拭っおも、鏡の衚面にべっずりず「赀い絵の具」を流したような筋が広がっおいく。


    なんだこれ――


    ​鏡が湯気でたた曇っおいく。

    もう䞀床、顔を芋ようず湯を鏡にかける。

    ​これは  

    ​曇が䞋ぞ流れるずずもに、目の前の鏡は䞊から䞋ぞず、別の䞖界を映し出しおいく―――





    ​「  ふざけんなわかっおないのはオマ゚のほうだ」

    「アナタが蚀うボクは『䜕がわかっおない』のかを、詳しく教えおもらえたすか」

    ​「オレたちは、ちゃんず50%の利益も枡し続けおきた俺たちがどれだけの思いでこの店を、この町のために圹立お運営しようずしおるかをだここたで来お、たったの䞀回で、“もうやめたしょうか”だず」

    「あの〜ボクの質問に答えおもらえたすかヌ」

    「  もう少しやらせおくれよ頌むよ」

    「もう少しやったら、どう倉わるんッスか」

    「 これたで、どれだけ我慢しおきたのか、 口しか動かしおいないお前に、䜕がわかるんだ䜕がりィン・りィンだ」

    「䜕もしおいない語匊を生むような事を蚀うのは蟞めおもらえたすか ボクには出資した金を、アナタたちが䞀瞬で溶かすかもしれないリスクがあるんですよ。僕は金ず仕組み、䜕より倧事な“経隓”も提䟛した。その代わり契玄期間内は口出しは䞀切しない。その間の利益は50で、結果が出なければ即撀退したすずいう契玄曞を亀わしたしたよねアナタのやりたい倢のこずですよねそれを叶えるための倧事な契玄曞すら、しっかりず読んでないんですかそれずも文字読めないんですかあなたの熱意はその皋床だったんですか」

    「そんな話をしおぇんじゃねぇんだよお前のロゞックなんか知るか」



    ――思い出した。

    そうだ、ボクはあのたたごずのような打ち合わせの垰り際、あの店の若者に呌び止められ、感情のたたにボコボコにされたんだ。

    甘すぎる情熱を錻で笑っお、絶望させた報いか。
    理䞍尜ず思われようず、あの皋床を堪えられないようじゃ、この先は目に芋えおいる。無知が故に論理的な反論すらできず、最埌は暎力に頌るしかない、あの熱いだけの無胜な若者に。

    無駄に熱いんだよな  乗せるベクトルが間違っおいる。




    ​「お客さん  錻も曲がっおるし  倧䞈倫でやんすか」


    ​鏡には顔が  映らない。

    ただあのずきの続きを映し出しおいる。

    そういえば  匂いを感じない  銭湯の響く音も  しない。錻も耳も、やられおいるっおこずなのかでも䌚話は  できおいる  


    ​「  うん、倧䞈倫っす」




    ​あの䞻ず、マリモ頭ず呌ばれる男の䌚話が聎こえる。

    ​「バッカダロヌくっだらねぇ そんな詊合芋おお楜しいわけあるかっおんだ」

    「それでも、勝利のためには必芁な䜜戊の䞀぀なんじゃないんですか」

    ​「えじゃあ、なんだいそい぀はよぉ、バント専門のプロになるために、小せえ頃から頑匵っお来たっおこずかい」

    「そんなの僕は知りたせんよ」


    ​あのオッサン  そんなに野球の話がしたかったんだなぁ  オッサンも熱いなぁ  




    ​――遠い蚘憶。

    地域のスポヌツ少幎野球でのこずが、鏡に浮かび䞊がる。
    ​この頃の運動系なんお、䜓栌差や生たれ幎などが倧きく圱響する。でもチヌムや指導者にはそんなこずは関係ない。

    䜓の现いボクは六幎生になっおもベンチスタヌトだった。この幎の六幎生は党郚で八人。そのうちレギュラヌはたったの䞉人だった。
    残りの6人は5幎生ず4幎生。
    僕らに出番があっおもお情けの䞀打垭。もしくは守備のみでゲヌムセットはお決たりだった。

    確かにこの幎の六幎生はお䞖蟞にも䞊手いずは蚀えなかった。次の幎を芋蟌んだ遞手起甚なのも、子䟛ながらにわかった。

    だったら入団のずきに
    “このチヌムは勝利至䞊ではなく、野球を通じお瀌儀や䜜法を孊び、地域や保護者ずのコミュニケヌションを孊ぶ”
    ずか蚀わないでもらえたすかそれずもアナタは嘘぀きなんですか
    ず、いたのボクなら監督に詰め寄れる。

    ​サッカヌずは違い、お手軜ミニコヌトで少人数でやれるようなスポヌツではない。思いっ切りボヌルを打おる堎所は、そうはない。


    ​野球がやりたいだけなのだ。
    プロになりたいずかなんお、その次の話。詊合に出おも䞀瞬で、そんな機䌚さえ“バント”や“埅お”のサむンが出る。

    “打ちたい”のだ。
    バットを持っお盞手ピッチャヌず勝負がしたいだけなんだ。

    ​たった䞀打垭で結果なんか出るわけがない。プロの䞖界でも2割バッタヌでレギュラヌなんおザラにいる。

    芪も芋に来おいるから、お情け代打ずいうこずも、子䟛ながらに理解できた。

    たった䞀回の゚ラヌで、即亀代も経隓した。他のレギュラヌ陣ぱラヌしおも、なぜ亀代させられないんだ

    六幎生最埌の詊合。
    圓然期埅しおいた。もしかしたらず。

    ​でも、同じだった。
    悔しくお泣きそうだった。でも泣けなかった。

    それは、ボクより先に途䞭出堎しおいた同玚生が、守りの回でラむトの守備に着くやいなや、監督が審刀にラむト亀代を告げた。
    その子はグラりンドを降りる際に、䞀塁線寄りで芋守る父芪のずころに駆け寄り、そのたた父芪の胞で泣いた  この回が終われば、次の攻撃には打順が回っおくるはずだった  

    その子の代わりにラむトに付いたのは  ボクだった。

    理䞍尜ずいう蚀葉をボクはそこで知った。

    ​父芪だけは、䞀生懞呜あの手この手で励たしおくれた。同時にそのような成長栌差のこずも、論理的でわかりやすい説明に「そういうこずなのか」ずも理解できた。

    おかげで、それから様々な理䞍尜的なこずが芋えるようになった。

    怒りや悔しさ そんなこずが積もり積もる。

    い぀か芋返しおやりたい。そんな気持ちで邁進しおいたが、やがお倧人になり、そんな気持ちもやがお銬鹿らしくなっおくる。

    “平和に穏䟿に枈たせる”
    ずいう圢をずり぀぀、本音は

    “いいんじゃん、それ”
    ず、心からそう思っおもいないけど、適圓に早くその堎を枈たせるようになった。

    䜕かに熱くなるのはハむリスクなのだ。
    同じように手を挙げる者はいない。

    即異端児扱いずなる。
    背䞭に受ける芖線。
    ボ゜ボ゜ず飛んでくる蚀葉たち。
    ボクのどこが䞀䜓倉な奎なのだろうか

    䞖の䞭は損埗の理䞍尜で回っおいるから、しだいに他者に無関心ずなる。
    利を生たない無胜な奎らず仲良くするほど無駄な時間はない  




    「お客さん  ごめんなさいでやんす  お背䞭、なかなか綺麗に  ならなかったでやんす  」


    ​「   」


    ​「掗っおも、掗っおもほぐれず  すぐに固く冷えおしたうでやんす  」

    「  ありがずう。これでいいんだ」

    「ぞ  䞋手ク゜ですみたせんでやんす」


    口をぞの字にしお、目に溜たるものを  芋おはいられなかった。


    「謝らなくおいいキミは䞋手じゃないそれでいいんだよ  それに、䞋手でもいいん  」


    ――​遠い遠い蚘憶。

    忘れおいた  いや、埋もれお芋えなくなっおしたった蚘憶が湯気のようにモワッずよみがえる。

    鏡の方には、あのずき監督に詰め寄る父芪が映っおいた――


    ​「小孊生だぞ児童だぞプロでも高校生でもない」

    「䞋手だったら、野球しちゃダメなのかだったらなんで勉匷嫌いの子には、授業やテストは平等に受けさせるんだ」

    「誰がせっかくの打垭で、バントしお喜ぶんだお前たちだけだろ」

    「なんで、守備だけで亀代んだあの子、次の打垭終わっおからでも良かったじゃねヌか」

    「子䟛を䜿っお、倧人が野球盀みたいに遊ぶんじゃねヌよ」

    「子䟛に打たせおやれよ」

    「子䟛に野球させおやれよ」

    「  頌むよ」




    ​――フフッ  これじゃあモンペだよ、芪父  でも  熱いなぁ芪父も  




    「  うん。䞋手だったなぁ  でも、気持ちが良かった  」

    ​「  あれ、少し枩んできたでやんす」

    ​「 そっすかそりゃ良かった」


      じゃあ、そろそろ行くよ。ありがずうず、​子䟛の肩をぜんず叩こうずしたボクの手は、なぜか手応えもなく、ただ癜く濃い湯気をすり抜けたような気がした。
    気のせいか。もう、自分の手の感芚すら、よくわからない。


    ​「ハむでやんす。次はもっず䞊手になっおるでやんす」

    ​「  キミの名前は」

    ​「お枩ぬくでやんす」

    「おぬく  ぬっくんね。芚えおおくよ」

    「ハむでやんす」






    ​――湯けむりが蟺りをけむらせる。







    ​脱衣堎  か。

    そろそろここを出なくおはいけないわけだな。

    ​ここは“生死のはざた”だず、あのマリモさん蚀っおな  

    適圓にロッカヌを開けるず、芋慣れた服が綺麗に畳たれ眮かれおいた。


    県鏡をかけた女番頭が、にこやかにコヌヒヌ牛乳をサヌビスだず差し出しおきた。

    ​「敎いたしたか」

    「  ん〜〜、そうっすね  ようやく少し敎ったのが残念です」

    そうでしたかず、優しくゆっくりず頷いおいた。

    「あず  熱すぎたした」

    「あらた、熱すぎたしたか」


    コヌヒヌ牛乳を䞀気に飲み干し、空の瓶を眮く。番台に“コトっ”ず響いた。


    「ごちそうさたでした。では  」

    「 はい。行っおらっしゃい」








    ​癜い湯けむりが挏れ溢れる暖簟をくぐった。








    ​──ゞヌッツツッ   

    『各局、マル被は、東方向ぞ逃走䞭──』

    ​──ゞヌッ、ザザッ──



    「  ええ、時分頃です。金属が萜ちる倧きな音が聞こえお、芋るず男が銬乗りになっお、顔面を䜕床も、䜕床も  」

    ​「ダバくない、あれ  。おか、あの運ばれおる男っお、テレビやネットずかで芋たこずなくない」


    『──救急、珟着。これより接觊する。  意識混濁、呌吞埮匱。ただちに、心肺蘇生を開始──』




    ​──ピヌポヌピヌポヌ、ピヌポヌピヌポヌ   




    ​『あの湯』
    第䞉湯「予熱の道」​完

    ​




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    あずがき

    第䞉湯「予熱の道」を読んでいただき、ありがずうございたした。

    人はなぜ熱意を手攟しおしたうのか。
    なぜ倢を笑うようになるのか。
    なぜ誰かの挑戊に冷たくなっおしたうのか。

    その理由を蟿っおいくず、必ずしも「性栌が悪いから」ではなく、過去の悔しさや理䞍尜さ、報われなかった経隓に行き着くのではず思いたした。

    この物語の䞻人公もたた、誰かず同じように熱くなったり、悔しがったり、本気になったこずがありたした。ただ、その熱の行き堎を芋倱う。
    冷え固たり、自分でも気づかないうちに心の奥ぞ沈んでしたっただけなのかもしれたせん。

    「予熱」ずいう蚀葉には、本来は䜕かを枩めるための準備ずいう意味がありたす。

    けれど、この銭湯で扱う予熱は少し違いたす。

    怒りも、悔しさも、未緎も、諊めも。
    䞀床は熱を持っおいたものたち。

    それらが消えたのではなく、ただどこかに残っおいるのだずしたら――。

    そんなこずを考えながら曞いた䞀湯でした。


    たた​次の湯でも、たたお埅ちしおおりたす。
    湯冷めなどなさいたせんよう。


    絵本かかし
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    『あの湯♚』
    第二湯「寄り道」↓です。よろしければどうぞ

    『あの湯♚』第四湯「避け道」↓です。よろしければどうぞ


     
     
    ​゚ッセむず随筆  どう違うんだぁ そのほか物語や詩を、案山子のように端っこで、ぶ぀くさ小声で歌い呟く。突劂あらわれる人に驚き 「あっぶねぇ〜芋぀かるずこだった」 ず、ひやひや楜しんでいたす。 140文字ただか  あ、この前垰りにすんごいモノ芋たんですけど、それがなんず、あ 

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