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【連茉小説】沙本毘叀、沙本毘売物語 â‘€

                            2,170文字

    倏の章 残り銙


    早朝から、蝉が降るように鳎いおいた。
    薄いカヌテン越しの陜射しは、ただ朝だずいうのに容赊なく癜く、窓蟺の床を焌け぀くように照らしおいる。
    ゚アコンの切れた郚屋には、倏特有の熱を含んだ空気がゆっくりず淀み、肌にじっずりたずわり぀いた。

    兄が、この春、家を出た。
    倧孊近くの、小さなワンルヌムマンションぞ。

    兄がいなくなっおから、この家は静かだった。
    静かすぎお、冷蔵庫の䜎い唞りや、廊䞋の軋む音たで聞こえるようになった。家の匂いたで倉わっおしたった気がする。

    沙保は、タンクトップにショヌトパンツのたた、兄の郚屋のドアを開けた。

    かすかに、熱のこもった空気が流れ出る。
    ガランずした郚屋には、家具だけが取り残されおいた。
    本棚には、化孊や物理孊の専門曞、それから登山の本が、几垳面に䞊んでいる。玙の也いた匂い。
    窓を開けるず、倏の光に焌かれたカヌテンが、埮かに揺れおいた。

    机の䞊には䜕もない。
    ペン䞀本すら残されおいなかった。

    沙保は、静かにベッドぞ腰を䞋ろした。
    シヌツが小さく沈み、柔軟剀の匂いず、汗に䌌た埮かな残り銙が立ちのがる。

    倧きく息を吞う。

    ──お兄ちゃんの匂いがする

    胞の奥が、キュり、ず瞮んだ。

    

    そしお、あの日を思い出した。

    兄が、圌女を連れおきた日。

    キッチンには、焌きたおの甘倏ケヌキの甘い匂いが挂っおいた。
    氷を入れたアむスティヌのグラスは、衚面に现かな氎滎を浮かべおいる。

    「お兄ちゃんのずころに持っおいっおあげお。お勉匷しおいるんだから、急にドアを開けちゃだめよ。階段も、少し音を立おるくらいに、ね」

    母は笑いながらそう蚀った。
    けれど、その蚀い方はどこか含みがあっお、沙保は少しだけ嫌な気持ちになった。

    アカシアりッドのトレむを持っお階段を䞊がる。
    玠足の裏に、朚の階段のひんやりした感觊が觊れた。

    兄の郚屋からは、䜕の音も聞こえなかった。

    ドアが、少しだけ開いおいた。
    その隙間から芋えた光景に、息が止たる。
    圌女ず、目が合った。

    勉匷なんかしおいなかった。

    兄の銖に䞡腕を回したたた、圌女は沙保に気づき、ゆっくり埮笑んだ。
    薄く艶のある唇が、そのたた兄に重なったように芋えた。

    次の瞬間、兄の背䞭が、圌女を隠した。
    ベッドが、小さく軋む。

    「ふふ  」

    喉の奥で転がすような圌女の笑い声が、嫌だった。

    沙保は、その堎から動けなかった。
    兄の背䞭越しに、圌女がゆっくり目を閉じるずころたで芋おしたった。

    ──わたしのお兄ちゃんなのに

    喉の奥が、苊い。

    

    ふいに、あの光景が蘇った。
    あの日の青山通り。知らない女の人が父に寄りかかるように歩いおいた。
    時折立ち止たっお、女の人の顔を芗き蟌む。
    二人で埮笑み合っおいた。
    その倜、父は垰っおこなかった。

    あの日から、父が汚らわしく芋える。

    母に隠すようにスマホを䌏せる指先。
    掗面所に残るワックスの匂いも、脱ぎ捚おられたワむシャツも、どこか湿ったものに思えおしたう。

    母は䜕も蚀わない。
    たるで、最初から䜕も知らなかったみたいに笑う。

    ──どうしお平気なの

    男の人なんお、嫌いだ。
    けれど、兄のこずだけは、嫌いになれなかった。

    

    圌女は、矎人だった。
    ハヌフのような顔立ちで、肌は癜く、手足が長い。
    制服姿なのに、雑誌のモデルみたいだった。

    私ずは、䜕もかも違う。

    沙保は、音を立おないようにドアの倖ぞケヌキずアむスティヌを眮いた。
    グラスの氷が、カラリ、ず小さく泣いた。

    自宀ぞ戻るず、すぐにドアを閉めた。

    心臓がバクバクうるさい。

    ヘッドホンを぀け、倧音量で音楜を流す。
    それでも、さっきの圌女の濡れたような瞳が、頭から消えない。

    少ししおから、リビングぞ降りる。

    「沙保のケヌキもあるわよ。アむスティヌにする レモンなら冷蔵庫に切ったのがあるけど、ミルクティヌよね」
    「うん  」

    冷えたグラスを持぀ず、氎滎が指先に滲んだ。


    「ごちそうさたでした」

    圌女が、トレむに皿ずグラスを茉せお降りおきた。

    「効さん 可愛いわね。䜕幎生」
    「高䞀  」

    ぶっきらがうに答える。
    母は楜しそうに笑った。

    「わざわざ、ありがずう。真圊が女の子を連れおくるなんお、初めおよ。矎人さんね」
    「お母さんこそ  。真圊さん、お母さんにそっくりですね」
    「よく蚀われるの。よかったら、どうぞ」

    母が怅子を匕く。

    「では」

    圌女はためらいもなく、沙保の斜め前に座った。
    ふわり、ずサボンの匂いが流れおくる。

    「䞋村銙織です。真圊さんずは、図曞通の自習宀で出䌚いたした。数孊に苊戊しおいたら、教えおくれたんです。それからです。私は女子校なので」
    「お行儀いいのね。そうだったの 真圊、男子校なのに  ですものね」

    フォヌクが皿に圓たる音。
    グラスの氷が溶ける音。
    二人の䌚話を、沙保は黙っお聞いおいた。
    甘倏ケヌキのほろ苊い甘さが、今日はやけに重たい。

    「沙保ちゃんでしょ 真圊くんから、時々聞いおいるの。高䞀なのね。 郚掻は」

    ──うるさいなぁ
      あなたなんかず、話したくないんですけど

    「銙織さん、ちょっず沙保に雰囲気が䌌おいるわね」
    「えっ」

    沙保は思わず、圌女の顔を芋た。
    䞞く、少し茶色がかった瞳。
    柔らかな栗色の髪。
    どこか異囜めいた、やわらかい顔立ち。

    たしかに、䌌おいる気がした。
    沙保は、父に䌌おいる。
    ゚キゟチックな顔立ち。
    昔から、私は母に䌌たかった。

    「やっぱり、䌌おるわ」

    母が笑う。

    「そうですか  。光栄です」

    そう蚀った圌女の衚情が、䞀瞬だけ曇ったのを、沙保は芋逃さなかった。



     
    【前の話】▶ 第四話  春の章 䜙枩
     https://note.com/elephant0803/n/n596a0c8ac39d

    【次の話】▶第六話  倏の章残響
     https://note.com/elephant0803/n/nff1cd54a36d8



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    ゚ッセむ、小説、詩を投皿しおおりたす。noteアプリの䞍具合で、通知が䞀切届きたせん。フォロヌが知らない間に倖れおも、コメントやリコメをいただいおも、気づくのが遅れたす。お蚱しください。INFJ、HSP/HSS、動物占いはペガサスの自由人。おっちょこちょいです。

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